不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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まさか不死院を出るのに四話も使うとは


不死の英雄伝 5

第五話 巡礼の旅

 

ひとしきり泣いた後俺は外に出てこれからどうするかを考えていた。

 

周辺は断崖絶壁、まさに陸の孤島と呼ぶに相応しい場所だった。此処は不死人や亡者を隔離しているだけあって簡単には逃げ出せない様になっていた。

 

 

崖を降りるか?しかし命綱も無しに岸壁を下るなんて事は出来ればしたく無い。そもそも俺達はどうやって此処に連れて来られたんだ?

 

 

そう考えていると目の前に巨大な鴉が現れた。唖然としていると鴉は俺を脚で掴み何処かへと飛んで行く。

 

 

眼下に見える絶景を見ながら、落ちたら痛そうだな。と悟りを開いた様な目をしながら考えていた。

 

 

そうしている内に鴉が目的地に到着したのか俺を地面に捨てて行きやがった。目の前には篝火と腰に剣を差した男がいた。

 

 

男に話しかけたかったが、先の戦いの疲れが残っているのか少々身体がふらつき立っているのも辛かったので篝火に触れることにする。

 

 

篝火に触れながら鎧を着直し不死院での出来事を整理する

 

 

牢屋から外に出て、デカ物に殺されて、剣と盾を手に入れて、不死の使命を託されて、デカ物を倒した。

 

 

文字にするとたったコレだけの出来事、だけどもそれだけで俺は変わった。

 

 

世の中が自分に優しく無いと駄々を捏ね、自己中心的だった俺の有り様を徹底的に叩き潰された。

 

 

自分は特別だと思っていた。

 

俺は平凡だった。

 

神様に選ばれたかった。

 

 

選ばれた結果がこれだった。

 

 

この世界に転生した時は絶望しかなく。

 

なんでこんな目に会うんだと憤っていたが、不死院に居たあのデーモンと三度の戦いで俺は前を向けた

 

 

一度目は戦いにすらならなかった。

 

二度目は逃げるだけだった。

 

三度目は立ち向かって打ち倒せた。

 

 

立ち向かう勇気と必死で考える事が俺を変えた。

 

 

俺はもう昔の俺じゃ無い。そう思うと自信が湧いて来た。

さあ不死の使命とやらの旅に出るとしようか。

 

 

そうと決まれば先ずは情報だな。

 

 

篝火によって疲れを取った俺は鎖で出来た鎧を来た男に話しかけた。

 

 

彼は俺より先にロードランに着いていたようで不死の使命の事を有る程度教えてくれた。

 

 

曰く不死の使命にある目覚ましの鐘は二つ。

 

一つは今俺がいるこの場所から上へと登った先に有る不死教会の鐘楼。

 

もう一つはここの遙か下に有る病み村の底の遺跡だという。

 

この二つを鳴らした時、何かが起こるらしい。

 

彼はそう言うと力無く笑っていた。どうやら心が折れてしまっているようだった。

 

 

それともう一つ人間性についてと二つの鐘への道のりを教えてくれた。

 

 

人間性とは人のみにあるモノでありソレを使用する事で俺たち不死は生身へと戻るらしい。

 

自分の身体の中を確認して見た結果人間性とソウルが増えていた。

 

 

恐らくは先のデカ物との戦いの時に手に入れたものなのだろう、試しに一つ使ってみた。

 

自分の身体の中に大切な何かが帰ってきた。

 

 

そんな気分だった。そうして自分の中にある人間性を篝火に捧げると、確かに肉体が蘇った。

 

成る程亡者になった不死が誰彼かわまず襲いかかるのはこれが原因か。生身が帰ってくるから生きている人間が持っているそれを奪う為に襲う。だから不死は迫害されるのか。

 

 

そうして周辺を散策しているとペトルスという男と出会った。

 

彼は聖職者らしく、奇跡を売ってくれるとの事だがどれも高く俺には手が出せなかった。

 

 

ペトルスは不死の使命をお教えしましょうと此方に提案して来たが代わりにソウルを要求して来た。

 

仕方なく要求されたソウルを渡し話を聞いたが余り身になる話は聞けなかった。

 

彼の話を要約すると彼等聖職者達は注ぎ火の秘儀という物を探すのが目的だそうだ。

 

それが有れば篝火の力を限界以上に引き出せるらしいが、俺は聖職者ではないのでこの情報は必要無いものだった。

 

 

下に降りて行くと檻に閉じ込められた女性が居た。

 

彼女はどうやら声が出せない様だった。

 

心が折れた彼の話によると、彼女は火防女と呼ばれる存在で、彼女達火防女がいるから篝火の火が消える事はなく、不死達はその恩恵を一身に受けられるのだという。

 

だとすると篝火の恩恵を受けている俺達不死にとって彼女は恩人なのかもしれないな。

 

 

火防女の前を後にして俺は不死教会を目指す事にした。

 

不死教会へ向かうには篝火の上にある水路から不死街を経由しないと行けないらしい。

 

水路へと向かう道には亡者化した兵士達が居た。

 

 

此方を確認した亡者が折れた直剣を構えて近づいてきた。

 

 

不死院に居た亡者と違って軽い身のこなしで俺に襲いかかる。

 

かなり離れていたにも関わらず超人的な脚力で俺との距離を一気に詰めてその折れた直剣を俺に振り下ろす。

 

所詮亡者だと甘く見ていた俺は相手の動きに着いていけずきっちり攻撃を貰ってしまった。

 

 

出会い頭の一撃を受けながらも鎧のおかげか仰け反る事は無く、頭を落ち着かせ強引に亡者の背後に周りこむ。

 

 

そこから目の前の亡者の背後から心臓を狙う様に手に持ってる剣を突き刺し息の根を止める、その後刺さった剣を脚を使って引っこ抜く。

 

この動作はバックスタブと呼ばれる技術で最小の攻撃で最大の結果を出す技である。

 

 

他にもパリィなどの技術もあるが今の俺にはまだまだ難しくてこうして鎧の強靭任せのバックスタブをするのが精一杯だ。

 

 

慢心だった。奴らは所詮亡者で、そんな奴らにデーモンを倒せた俺が遅れを取るはずが無いと心の何処かで思っていた。

 

 

不死院の亡者達よりこいつらは強い。

 

当たり前か、ボロボロながら鎧や盾を持っているんだ、少なくとも彼処で終わってしまった奴らよりは強い筈だ。こいつらも不死の使命を目指していたのだろうか?

 

 

だとしたら他人事じゃ無い。

 

俺も強くならないといけないな。力だけじゃ駄目だ。一騎当千の勇者も全知全能の賢者も皆心が弱ければ亡者と成り果てる。それが俺達不死人なのだ。

 

 

不屈の心、どんな状況であろうと、如何なる結果になろうとも絶対に折れない心。油断も慢心もせず相手に対して全力で立ち向かう精神。それが不死人にとっての最大の強さなのだろう。

 

 

足元に転がっている亡者の亡骸を見ながら俺は覚悟を改めて、水路へ向かった。

 

 

この先は鬼が出るか蛇がでるか

 

 

なんでも出てこい。全身全霊で相手をしてやる。

 

 

もう慢心も油断も無しだ。

 

 


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