不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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今回、放浪者回。

この人のターンは基本無双回になります。




不死の英雄伝 56

第五十六話 暗月の剣達

 

昇降機を下り、謁見の間から外に出る。

 

暗月のダニ共がどうやら俺を探し回ってるみてえだな、そこら中から殺気が漏れてやがる。

 

 

目の前にはバーニスとバルデルの騎士が立っている。

 

 

ーお出迎え、ご苦労さまー

 

ーで? テメェらが俺の相手をするのかよー

 

ー辞めとけ辞めとけ、テメェらじゃ無理だー

 

ー俺にゃ女子供を甚振る趣味はねぇからよー

 

ー今なら、見逃してやるぜ?ー

 

 

しかし、彼女達は引かない。

 

己の主のため、己の信念のため、目の前の罪人を断罪するために彼女達は彼の前に立ちはだかり、刃を向ける。

 

 

その二人の間を堂々と歩いてゆく放浪者。

 

彼の目には、この二人は敵とすら見られていないようで、まるで存在しない物扱いだった。

 

 

彼女達はその事に腹を立てず、彼の前を遮るように互いの剣を交差させる。

 

彼はその刃を指で弾きながら、面白そうに彼女達に話かける。

 

 

ー俺はよォ、女子供を甚振る趣味はねぇがー

 

ー敵に関しては、そいつが何だろうと容赦はしねぇ主義なんだー

 

ーコレはそう言う事で良いんだな? 死にたがり共ー

 

 

そう言うが早いか左手の魔剣を一閃、二人の剣を弾く。

 

 

二人の騎士は互いに距離を離し、目の前の放浪者を観察する。

 

この男は欠伸をしながら魔剣の峰で肩を叩き、足で一定のリズムを刻んで居る。そして、その姿勢には構えも何もあった物では無く、全身隙だらけだった。

 

完全に舐めているとしか思えない行為、敵を敵と見ていないような立ち居振る舞い。

 

 

その態度は、騎士である彼女達の怒りに触れ二人同時に飛びかかってくる。

 

バーニス騎士によるグレートソードの振り下ろし、バルデル騎士による刺突直剣の突き。

 

それらは目の前の不敬者を容易く断罪し、それぞれの任務を終え、再びアノール・ロンドは平和になるはずだった。

 

 

彼は迫る凶刃をそれぞれ片手で受け止める。

 

バーニスの振り下ろしは左手の魔剣で、バルデルの突きは右手の刺剣で。

 

それは、隙を晒して攻撃を誘うなどといった物では無かった、ただ単純に隙を突かれても対処できるから、それを晒していても平気だったと言うだけのこと。

 

 

ー信じらんねぇって顔してんなー

 

ー安心しな、テメェらが弱いんじぁねぇー

 

ー俺が強いんだー

 

その言葉と同時に二人の剣を巻き上げるように弾き飛ばし、比較的軽装だったバルデル騎士を魔剣で焼き尽くす放浪者。

 

 

バーニス騎士はタワーシールドを構えながら、弾かれた剣まで後退する。

 

 

放浪者は、背中からルッツェルンを取り出しゆっくりと彼女に迫る。

 

 

わざわざ、剣を取り直すまで待たれた彼女は盾を構えたまま、放浪者へと向かう。

 

 

全身を盾で覆っている彼女をあざ笑うがの如く、ルッツェルンの先端で盾を捲り上げる放浪者。

 

 

盾を強引に捲られた彼女が最期に目にした物は、処刑人のハンマーだった。

 

 

ーおお、すげぇなコレー

 

ー重てぇし、使いづらいし、良いとこ無しだったが、こんな重装備を一撃でミンチに出来るたぁ大したもんだー

 

ー使い所によっちゃあ活躍するみてぇだなー

 

 

彼は上機嫌で正門を超える。

 

そんな彼の目の前に現れたのは、暗月の鷹 ユイ。

 

ー此処で朽ち果てるが良い、汚らわしい罪人めー

 

ーハッ、神の尖兵風情が偉そうな口を叩くじゃねぇかー

 

ーテメェには借りがあったな、利子付けてキッチリ返してやるよー

 

 

ー減らず口を……ー

 

 

放浪者は魔剣を構え、大弓を引くユイに向かって走り出す。

 

 

間合いを詰められて居るにも関わらず、彼は冷静に放浪者を射抜きにかかる。

 

 

放たれる竜狩りの矢を焼き払い、腰からナイフを二つユイに投げつける。

 

一つは大弓を握る右手に、そしてもう一つは……。

 

 

魔剣を振るった際に現れる炎の中から飛来するナイフをユイは回避出来そうになかった。

 

 

やむ負えず、腰のブロードソードで右手に迫るナイフを切り払ったのだが、それが間違いだった。

 

 

狙われていたのは始めから大弓の方だったらしく、弓の弦を見事に射抜かれてしまった。

 

 

使い物にならなくなった大弓を捨て、放浪者に向けて近接戦闘を挑むユイ。

 

本来は弓兵であった筈の彼だが、その剣筋は素人では無く、目の前の放浪者と互角に打ち合っていた。

 

ーへぇ、チマチマ弓を引くしか脳がねぇ臆病もんかと思ってたが、中々どうして? 思い切りが良いじゃねえかー

 

 

ーぬかせ‼︎ー

 

ー私は暗月の剣なのだ‼︎ー

 

ー貴様らごときに膝を付くものか‼︎ー

 

 

ー模範的な回答だな、もうちょっと遊ぶ事も考えたらどうだ?ー

 

 

ー安心しろ、今こうして貴様とチャンバラごっこに興じて居るー

 

 

ー言うじゃねぇかー

 

 

だが、この拮抗状態も長くは続かず、遂にユイのもつブロードソードが破壊される。

 

 

盾だけでも殴りかかって来たユイの身体を右手の刺剣で貫く放浪者。

 

 

それだけで戦いは終わり、暗月の鷹は敗北する。

 

ー神よ……どうして……?ー

 

ー正義はそれなのに……ー

 

最後に彼はそう言い残し、物言わぬ骸となる。

 

ーテメェが俺に負けた理由は簡単な話だー

 

ー顔の差だー

 

ーテメェも中々だが、俺の方がイケメンだー

 

ーだから、勝利の女神を寝取られちまったんだろうぜ?ー

 





もうね、お前誰だよとしか言いようがありません。

流石裏主人公。

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