今回、とある事情でもう一話だけ放浪者サイドの話になります。
主人公回を期待して下さった方、申し訳ありません。
第五十九話 未来人
陰の太陽を沈めた後、俺は霊廟の外に何かが居るのを発見した。
見たことの無い防具、アレから発せられるソウルの残滓のような物を読み取る。 どうやら奴は遠い時代から流れてきた不死らしい。
兜に隠れていてツラは見えねぇがこのソウルの感じは以前に古城で見たあの男の仲間だった。
距離が離れているからか、奴は両手に握ったクロスボウを俺に向ける。
螺旋階段の上から放たれる三連射、イヤ、両手に持ってんだから六連射か。
ともかくそれを回避し、柱の裏に隠れる。
最近、ああいう代わり映えしない連中ばかりで俺は最高にイラついているんだよ。
あの男の仲間ならちったぁ骨があるかと思ったが、とんだ期待はずれもいいとこだ。
大した腕もねぇくせに、一丁前に最強気取りかよ。
テメェらの戦法はどいつもこいつも同んなじもんの塊じゃねぇか。
下らねぇ連中だ、虫唾が走る、テメェらが強いんじゃねぇよ、その装備の強さだろうが。
そんな量産型の最強でなァ、俺に勝てると思ってんじゃァねぇぞ‼︎
先ずは大火球であの粘土細工で出来たような不細工な鎧の目を潰す。
次にソウルからウイップを取り出して奴の目の前にある手摺に引っ掛け、強引に上に登る。
爆風で俺を見失った目の前の粘土細工は辺りを見渡して居るようだが、その鎧の狭まった視線じゃあ俺は見つからねぇよ。
左手を粘土細工に向けて大発火を放ち、それでお終いになるはずだった。
だがこの鎧は炎に耐性が有るらしく、完全に無傷だった。
咄嗟にこいつの頭を踏み台にし、昇降機のある石橋の上まで飛び上がる。
自慢の一撃を無傷で済まされた事への怒りに触発され、最近の戦いに対する欲求不満がここにきて一気に爆発した。
ー調子に乗るんじゃねぇぞ‼︎ー
ー今すぐ膾切りにしてやる‼︎ー
ー師匠直伝の一撃をコケにしやがって…‼︎ー
ーテメェだけは楽に死なせねぇからなァ‼︎ー
先ずは奴に対しては全くの無力となった魔剣をソウルにしまう。
代わりに取り出すのはゴーレムアクス。
古城のゴーレムが振り回してやがった物だ。
階段を上がってくる粘土細工の握るクロスボウを狙って、不可視の斬撃を弾幕を張るように放って行く。
眼下にいる粘土細工は機敏な動きでそれらを回避してゆく。
ーちょこまかちょこまかとッー
ー逃げるだけしか脳がねぇのか‼︎ー
そのまま、一気に間合いを詰められ、この粘土細工に俺は殴り飛ばされた。
後ろに飛び退き衝撃を殺したものの、今の一撃で完全にキレた。
ー何処までも舐め腐りやがってー
ー良いぜ、テメェがその気ならこっちにも考えがあるー
ー嬲り殺しにしてやるからなァ‼︎ー
怒りのまま奴に接近し、毒霧を吐きつける。その際にトラップ用に持っていた鈴を奴の腰に付け、位置を割り出せるようにする。
そして、右手のリカールの刺剣をシミターと交換し、奴の右腕を斬りつける。
鎧に阻まれ、刃が通る事は無かったがそれは予想通りだ。
魔剣を手に入れてからは碌にこいつを使っては居なかったが、捨てずにおいて正解だったな。
相手はセスタス、そして軽装のように軽やかな動きだ。
奴の拳も、まともに喰らえば岩だろうが鉄だろうが一撃の代物だろうよ。
だがしかし、たったのその程度、当たらなければ問題はねぇ。
奴の拳に目を慣らす、そのためには先ずは打たせる事だ。
足で一定のリズムを刻み、目の前の粘土細工に接近する。
迎撃の一撃が紙一重で躱した俺のフードを引きちぎる。
ークソが、こいつは一張羅なんだぞー
ーどうしてくれるんだよー
軽口を叩きながら、先ほど斬りつけた場所を寸分違わず再び斬りつける。
再び俺に迫る迎撃の拳を回避する為に大きく飛び退く。
後はコレの繰り返しだ、一定のリズムで攻勢にでる事で相手にその呼吸を覚えこませ攻撃してくるタイミングをパターン化させる。
何度目だったかの交差で、奴の右腕を斬り飛ばした。
後は簡単だ、毒霧を撒き散らし、触りたくもねぇ糞団子を奴の傷口に投げつけるだけだ。
二つの毒に身を蝕まれ始めた粘土細工は遂に膝をつき、動きを止める。
俺はその顎を蹴り上げ、力尽くで奴を浮かす。
ー勝手にへばってんじゃねぇぞ?ー
ーテメェにそんな気が有ろうが無かろうが俺を舐めてる事には代わりねぇんだからよー
ー言ったはずだぜ? 楽には死なせねぇってよー
ソウルからリカールの刺剣を取り出し、奴の鎧に先ほどと同じ要領で穴を開けてゆく。 但し、その肉体には傷一つ付けねぇ。
残り一発となった大火球をこの粘土細工にぶつけ、死なない程度に身体に火傷を負わす。
後は、ジワジワと大発火で鎧の温度を上げて行き、奴を蒸し焼きにするだけだ。
陰の太陽とか言ったあのオカマ野郎との戦いで呪術も消費していた為、中々蒸し焼きに出来なかったが、途中から蜘蛛女の魔剣を振り回し熱を与えてゆく。
完全に沈黙した粘土細工を処刑人のハンマーで原型が無くなるほど叩き付け、挽肉となったこいつに唾を吐きつけ橋から投げ捨てる。
やるだけやった後は、次の問題に向け頭を働かせる。
ーあーあ、どぉすんだよこのフードー
ーぜってぇ師匠が直してやるとか言ってくるぞ…ー
ー裁縫どころか家事全般出来ねぇくせに師匠風吹かせやがるから始末におえねぇんだよなぁー
ー不死街辺りで適当に裁縫道具でも見繕うかねー
結局、裁縫道具は見つからず、彼の師匠が不器用な手つきで彼のフードを修繕する事になるのはまた別のお話。
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皆様に不快な思いを抱かせた事を深くお詫び致します。
誠に申し訳ありませんでした。