不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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不死の英雄伝 6

第六話 不死の溜り場

 

城下不死街。城下不死教区へ続く街で今では住人は亡者だけになってしまった街である。

 

行く手を塞ぐ亡者達を倒し、水路を進んだ先で俺は盾を構えながら二体の亡者と対峙していた。

 

手前に居る亡者は折れた直剣を、奥に居る亡者はバトルアックスを握っていた。

 

水路に入る手前にも斧を持った亡者や火炎壺を投げて来る亡者が居たが、高低差の有る場所だったので蹴り落としたり、下に逃げたりと色々出来たが、今いる場所は段差もなく遮蔽物も無い場所だった。

 

当たり前の事だが、二対一の戦いは常に両方の敵に注意を向けなければならず、片方だけに気をやっていると手痛い一撃を貰ってしまう。だからこそ戦いの経験がまともに無い俺には厳しい状況だった。

 

相手がそれぞれ違う武器を持っている事も問題だった。

 

折れた直剣とバトルアックス、どちらをより警戒するかと言われたら誰でもバトルアックスと答えるだろう。

 

片やボロボロな武器とは呼べぬ代物、片や優秀な武器。それにより生まれる警戒心の優劣。

 

 

あっちは多少貰っても耐えられる。だけどこっちはダメだ絶対に貰ってはいけない。

 

 

そうなると自然に片方へと警戒が偏りがちになり隙が生まれる。

 

幾ら粗末な武器でも二度三度と重ねて攻撃を受ければ身体がもつ訳が無い。

 

そこで漸くもう片方にも警戒がいくようになるがこうなってはもう遅いのだ。

 

 

今の俺はまさにその状況だった。

 

頭では分かっていてもやはりバトルアックスの方へと警戒心が移りつつあった。

 

 

マズイな、このままだと嬲り殺しにされる。

 

 

水路の手前に居た奴らの時とは違ってここは平坦だ。隠れる場所も逃げ込めそうな場所も無い。

 

 

水路から階段で上がって来ているので多少の高さは有るが、蹴り落とした所でたかがしれている。それに下に逃げる事もしたく無い。

 

逃げ場が無く索敵も不十分なのが主な理由だ。

 

 

ならば一度水路まで引いてみるのはどうだろうか?彼処なら左右の幅が狭まる上に待ち伏せも可能だ。問題は乱戦になった場合逃げ場が無い点だが、一体づつ丁寧に処理して行けばいけるかもしれないな。

 

 

盾を構えつつジリジリと後退し始めた俺を奴らは怖気付いたと勘違いしているのだろうか?わざわざゆっくりと俺に近寄って来た。

 

 

そう思うならそうしていてくれ。お前達の数の優位が無くなった時が見ものだな。

 

 

水路の出入り口で奴らが来るのを息を殺して待ちながら剣を握る手に力を込める。

 

 

かつん。かつん。と階段を降りてくる音が聞こえ壁に奴らの影が現れる。

 

心臓の音が煩わしく思えるほど目の前の影や音に集中する。

 

一歩また一歩と此方に近寄ってくる。はやる気持ちを抑え両手で剣を握る。

 

 

多少警戒して居るのか、水路の中を剣を持った方の亡者が覗きこんできた。

 

 

その瞬間に、両手で握った剣を真上から斬り下ろす。

 

出会い頭の一撃に奴は怯み、後ろに下がろうとするがそこにはもう一体の亡者が居て道を塞いでいた。

 

だからと言って手加減をする気は無い、振り下ろしたままの剣を逆袈裟斬りの要領で切り上げる。

 

手前の亡者が生命感なく崩れ落ちる。

 

ここで奥の亡者は分が悪いと感じたのか背を向けて逃げ出した。ここで逃がすと厄介なので手を伸ばし肩を掴む。そうして動きを止めてからバックスタブを叩きこみ心臓を貫く。

 

 

華々しい戦いとは無縁だな。

 

 

剣に付いた血を払いながらそう自嘲する。

 

 

質が数を圧するなんていうのは漫画やアニメの世界だけで現実ではこういった待ち伏せや奇襲などの搦め手が有効なのだと思い知らされる。

 

 

確かに聖剣を振り回したり、特殊な力を行使したりして並み居る敵達を薙ぎ倒して行く。

 

 

そんな姿に憧れはするが今の自分にはこれしか出来ない。

 

 

いや、むしろどんな手を使っても生き残る事が重要なのだから、これで良いのかも知れない。

 

俺は調子に乗りやすいんだからそんな力を手に入れたとしても手に余る。だから俺はこれで良い。

 

 

自分のやれる事を再確認した俺は先へと進む。

 

途中火炎壺を投げる亡者が居て、そいつと戦っていた際に左側に立っている家の中から亡者が飛び込んで来て焦ったが先ほどと同じ手段を使い撃破する。

 

芸が無いと言われようが構わない。堅実に進むのが大事なのだから。

 

そうしている内に目の前に広場が現れた。

 

其処へ続く道は一本道だった先に進む前に出来るだけ広場の様子を伺う。

 

残念な事にバリケードの様な物があり詳しい状況が分からなかったが広場の階段を上った先からボウガンを構えた兵士が一体居るのが分かった。

 

 

角度を考えると下手をすれば一撃で頭を撃ち抜かれそうだな。

 

 

慎重に慎重に広場へ向かう。あのバリケードは何かしら有ると考えて奇襲などにも対応出来るようにゆっくりと進む。

 

 

突然大きな影が現れた。

 

 

前回のデーモン戦の事を思い出し急いで後ろに飛びのいた。その事が功を奏したのかソレに潰されずに済んだ。

 

 

それは紅かった、巨大な翼、長大な尻尾、鋭い牙と爪、口から漏れる炎。

 

 

伝説の勇者や英雄の話がコイツを倒すモノばかりな理由が理解出来た。

 

コイツは、人智を超えた存在だ。

 

コイツの前では如何なる小細工も通用しない。

 

そう思わずには居られなかった。そして、そんな小細工が無ければ戦えない自分がちっぽけな存在に思えた。

 

 

圧倒的な威圧感を振りまきながら、ソレは天高く飛び去って行った。

 

時間にしてものの数秒なのだろうが、その圧力を間近で受けた俺は情けない事に呼吸を荒くしながらへたりこんでしまった。

 

 

アレが竜と呼ばれる存在か。

 

 

生態系の頂点というのも納得の話だな。

 

 

バタバタと翼を羽ばたかせてくれたおかげでバリケードが壊れて隠れて居た亡者達が姿を現す。

 

 

数は三体、更に上にはボウガンを構えた兵が居るから正面からまともに戦っていると支援射撃も飛んでくると来た。

 

 

全く…前途多難な冒険だよほんと。

 

 

あの竜のような存在と対峙した場合小手先だけでは駄目だろう。

 

対峙するだけの実力が必要なのだ。

 

 

何を卑屈になって居たのだろうか?

 

確かに俺が勇者や英雄に成れるとは思わないが、だからと言って強くなるのを諦めた様な事を言っていて満足なのか?

 

 

膝に力を入れて立ち上がる。

 

 

両手で頬を叩いて気合を入れる。

 

 

卑屈な考えはもう俺の中には無い。あの竜が全て吹き飛ばしてくれたのだから。

 

 

あるのは唯一つ。

 

 

この困難をどう乗り越えてやろうかという思いだ。

 

 

三体一、いや四体一か。

 

 

さて、どう立ち回るかな。

 

 

 

 

 

 

 


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