上手く行けば今月中にリリカル編にたどり着けるかも知れませんね。
上手く行けばですが(震え声)
第六十話 公爵の書庫
書庫に向かう前にローガンから新たに魔術を教わろうと思ったのだが、そこにはグリックスしか居なかった。
彼が言うには、ローガンは己の探究心に従い公爵の書庫に向かったらしい。
グリックスも後に付いて行きたいらしいのだが、俺の事も気にかかるらしく、師から受け継いだ魔術を俺に全て託してから後を追うつもりだったらしい。
気が急いてしまって居るせいか、一気にまくし立てていたので要領を得なかったが概ねこんなところだった。
いそいそと俺に魔術書と三つの指輪を渡し、彼は急ぎ足でローガンの後を追って行った。
静かに眠る竜印の指輪。
吠える竜印の指輪。
佇む竜印の指輪。
一気に三つの指輪を手渡されてしまったのだが、指輪に込められた魔力は互いに反発し合うらしく、片手に一つしか装備できず、無理に装備すれば効力を無くしてしまうようだった。
今、俺の指には小さな生命の指輪が一つ装備されて居る。
暫く考えた後に手のひらの上の指輪の中から静かに眠る竜印の指輪を装備して、残りはソウルにしまう。
新たに装備した指輪のお陰で俺の身体から発せられる全ての音が消える。
足音は勿論、鎧の衣擦れの音、呼吸の音、抜刀の音、あらゆる音が完全に消滅している。
目視によって索敵を行っている敵には無力だろうが、これで余計な敵に気付かれずに済むようになった。
篝火に触れ、新たに手に入れたソウルの槍とソウルの塊の魔術書を暗記して行く。
魔術は魔道書一冊に付き一つ記憶出来る。 言い換えれば複数の同じ魔術書を所有していれば、その数だけ使用できる回数を重複させる事が出来るのだ。 もっとも、その分だけ自分の記憶の容量を圧迫してしまう欠点があるが。
新たにソウルの槍と塊を記憶し使用回数を倍にする。
記憶力を鍛える為に幾らかソウルを使用したが、王の試練を越えた際に手に入れたソウルはまだまだ残っていた。
それらのソウルを持久力、技量、理力と振って行く。
幾分か動きが軽くなったので寵愛の指輪を小さな生命の指輪と取り替える。
ロートレクの遺品、この指輪は装備してしまえば二度と外す事は出来ないが、生命力、持久力、装備重量の限界を引き上げる。
これで、あの放浪者とまでは行かないが随分と軽い動きが出来るようになった。
準備は終わり、覚悟も完了した。
篝火に触れアノール・ロンドへと自分を転送する。
公爵の書庫。 それが俺が最初の目標とした白竜シースの住処だ。
ウロコの無い竜として嘗ての古竜達に虐げられていた彼は、決戦の際に彼らを裏切り、大王グヴィンの元に着く。
その白い身体を古竜達の血で染め、その屍の山の上で高らかに勝利の咆哮を上げた彼は後に大王の盟友となり、公爵の位を賜る。
その後の安息の日々は彼の心を癒したのだが、ある日世界に不死の呪いが現れ、穢れが充満する。
大王グウィンが没し、始まりの火が消えかけているために世界に降りかかった災い。
彼は恐れた、不完全な己の死を。
嘗ての古竜達は硬いウロコに守られ、強靭な生命力を持っていた。
彼らは正しく最強種、この程度の災いなどものともしないだろう。
しかし、自分は? ウロコの無い不完全な存在である己はその呪いに飲まれてしまうのでは?
そんな不安を抱えていた最中にソレは見つかった。
不死の結晶。
それに込められた魔力は影響下にある全ての生命を不死身にした。
亡者に落ちず、生身を保ち、心臓を破壊されようとも、頭を潰されようとも、全身を灰になるまで燃やされようとも。
この結晶はその庇護下に居る全てに終わる事を許さない。
彼はこの結晶に魅了された。
これさえあれば己は完成すると、そう信じ込みそれに縋った。
その思いは、やがて狂気に変わり蛮行を繰り返すようになる。
結晶生物の生成、聖女の誘拐と改造実験。
不死の結晶は何人たりとも汚させない。
彼は、遂に外界に対する強い懐疑心を持つようになり、やがて嘗ての盟友の兵すら敵とみなし、あらゆる侵入者を排除するようになる。
狂気に墜ちた大王の盟友シース、彼が討たれなかったのには理由がある。
彼が狂気に墜ちる前に、ウーラシールが突如現れた深淵に呑まれる。
その際に、四騎士の一人深淵歩きのアルトリウス、同じく王の刃キアラン、最後に鷹の眼のゴー。
四騎士の内の三人が深淵の底に沈み、竜狩りのオーンスタインだけが残る。
彼は王女の守護の為に神の居城を離れる事ができなかった。
故に彼は住処もろとも封印される。
その後、1000年の間彼は日の目を見ることは無かった。
しかし、その封印は今解かれた。
王の器を置くと共に発せられた光は彼の封印を解くものだったのだろう。
封印を解いた責任を果たさないとな。
決意と共に、薪の後継者は白竜の根城に足を踏み入れるのだった。
お ま け 不死の英雄外伝 〜闇の落とし子〜
第1戦 牛頭のデーモン
霧を越えた先には長い通路が見えているが、なんかきなくせぇな。
上を見ると亡者兵士が二体居るんだが、この感じは彼奴らとはちげぇな。
ともかく、先ずは何が起きても良いように上の二匹を始末するかねぇ。
二本の矢を番え、同時に眉間を射抜く。
所詮は亡者だな、モタモタした動きじゃあそいつは避けられねぇよ。
血の匂いに釣られたのか、目の前に牛頭のデーモンが現れる。
ーハッ、やっぱりかよー
ーしっかし、テメェじゃあ役者不足だぜ?ー
腰からショートボウを取り出し、火矢で両目を撃ち抜く。
顔を抑え暴れ回る牛頭の隙を突き、炭松脂をシミターに塗る。
燃え上がったシミターで奴の両脚の腱を切る。
動きが止まり、前のめりに倒れる牛頭の首を斬り落として決着。
それまでの一連の動作をこなすのに十秒とかからなかった。
ーくっだらねぇー
ー俺の渇きを癒す奴は居ねぇのかねぇー
彼のその願いは近い内に成就する事になる。