猪の兜なんて二つもいらねぇよ。(ボソッ
追記
前々回の前書き、後書きを活動報告へ移す事に致しました。
冷静に考えればあの場で発言する内容では無かった物ですので不快にさせてしまった皆様に深くお詫びを申し上げます。
誠に申し訳有りませんでした。
第六十一話 積年の狂気
玄関に足を踏み入れると鎧を着込んだ猪が俺を出迎えてくれた。
鼻息を荒くしながら突進してくる猪の頭を左手の盾でパリィをし、通路の壁に激突させる。
直線的な動きだったから試しにパリィをしてみたのだが、まさか成功するとは……。
壁に埋まり、身動きが取れない猪を乗り越えて先に進む。
奥にはもう一匹居て、同じように壁に埋めてやる。
誤算があったとしたら、奴らの身体で通路が塞がってしまった事だ。
彼らの鎧は並みの刃物では刃が通らない為、一息に混沌の刃を使って両断。
極力刃を見ないようにする為に居合い斬りを選択する。
抜刀と同時に鋼の鎧ごと胴体を輪切りにする。
混沌の刃の斬れ味は鉄であろうと鉛であろうとバターのように斬り捨てる
抜刀して分かったのだが、居合い刀の頃より剣速が劣っていた。
あの刀は居合いに特化した物だったから鞘走りも早く抜きやすかった。
血払いを済ませた後、猪の死体の切り口を調べる。
混沌の刃によって両断された切り口は、一見何も問題は無さそうだったが、よく目を凝らすと所々肉が潰れている。
抜刀の際に僅かに剣筋がぶれた為だろう、やはり居合い抜きは難しいな。
猪の先には篝火と昇降機があった。
篝火に触れ、中継地点として自分の情報を記憶させる。
昇降機を上った先には亡者が何匹か居たのだが、その姿は今までの亡者達とはその様相がかわっていた。
今までの垢まみれの身体では無く、全身に結晶がこびりつき、手に握るのは粗末な武器でなく、結晶で出来た武器だった。
白竜シースの狂気が産んだ被験体、或いは犠牲者か。
もう一つ俺の目を引いたのはゴーレムのような結晶の塊、アレも白竜シースの作品のひとつだろう。
更に、奥には三つ叉槍を持った魔術師が立っている。
彼は強化魔術で周囲の亡者達を強化し、己の傀儡として操り始めた。
普通の亡者達は考える機能が壊れているだけなので、ある程度は感情が残っている。
しかし、結晶に塗れた彼らに表情は無い、人形のようにただ命令に従うだけだった。
侵入者の排除、それが彼らに与えられたたった一つの任務。
そして、魔術によって強化され、支配された彼らは俺に向かって雄叫びを上げながら向かってきた。
混沌の刃を左手に握り、向かってくる亡者の腹部を鞘で打ち付ける。
身体をくの字に曲げた結晶亡者の頭を刀の柄で殴り付け転倒させ、頭を踏み潰す。
結晶に包まれた彼らの身体は硬く、踏み潰すには想像よりかなりの力が必要となった。
それと同時に、死角から現れた亡者を抜刀の一撃で両断する。
斬った手ごたえが鈍く、刃物では彼らに対して有効打にはならない。
炎のハルバードをソウルから取り出し、背中の大剣と取り替える。
炎のハルバードはその刃によって傷付けられた箇所を問答無用で燃やし尽くす代物、今回のような敵に対しても有効だろう。
ハルバードを両手で握り、魔術師に向かって走り出す。
彼は周囲の亡者と結晶のゴーレムを壁にして俺を迎え撃つ。
周囲の亡者を薙ぎ払い、纏めて焼き払う。
何で出来ているのか分からないが、彼らの結晶は炎に弱いようだな。
亡者達は人形のように棒立ちのまま燃え尽きて灰になる
。
亡者達は燃え尽きたが、結晶のゴーレムが残っている。
全体重を乗せ、ハルバードの切っ先を根元までゴーレムにねじ込む。
深々と突き刺さったハルバードの刃から炎が溢れ、ゴーレムの身体を中心部から燃やし尽くす。
身体の内側から燃えているため炎の逃げ場が無く、外に溢れようとする力が、徐々にゴーレムの身体にヒビを入れて行く。
全身にヒビが回った所で再度ハルバードを押し込み、ゴーレムを爆破する。
ゴーレムの内部で燻っていた炎は爆炎となり魔術師の視界を遮る。
今までの経験から、奴らが次に取る行動は転移の魔術による逃走だろうとあたりを付け、ハルバードを槍のように投擲する。
爆炎の晴れた先では、胸に突き刺さったハルバードに全身を焦がされた魔術師の姿が見えた。
ソウルからスナイパークロスを取り出し、奥に居る亡者達を射殺して行く。
辺りの制圧が終わり、じっくりと周囲を見渡す。
所狭しと並べられた本棚。
試しにその中から一冊取り出して読んでみる。
どうやら研究日誌のようだ。
本の内容を読み込み、記憶して行く。
彼の狂気に満ちた実験の数々、日に日に狂ってゆく白竜シースの様子。
中には実験の犠牲者になってしまった者の日記もあった。
狂った公爵によって実験台とされ、減ってゆく仲間達の安否を願い、自分の番となる事を恐れた聖女の日記。
不死の結晶を求め、白竜に立ち向かった男の後悔と絶望の日記。
静寂に包まれた書庫に頁を捲る音だけが静かに木霊する。
以前なら、八つ当たりとして周囲の本をすべて焼き尽くして居ただろう。
だが、今の俺にはそんな怒りは微塵も湧かなかった。
自分の変化に戸惑いながら、ひたすら情報収集に勤めて行った。
お ま け 不死の英雄外伝 〜闇の落とし子〜
第2戦 山羊頭のデーモン
あーあ、なーにが悲しくてこんなスラム街みてぇな何処に来なきゃなんねぇんだよ、鬱陶しい。
目の前に見える霧、下の扉を開くカギがあるとすれば残りは此処だけだ。
まっ、こんな寂れた場所の主なんてのはたかが知れてんだがな。
霧を越え周囲を確認する。
山羊頭のデーモンが一体、後は犬が二匹。
勢いよく飛びかかる二匹の犬を正中線をなぞるように、シミターで両断する。
山羊頭は飼い犬を両断された怒りに任せ、やたらめったらに両手の鉈を振り回し始める。
力任せに振っているだけの鉈の刃の上を飛び移りながら、山羊頭がへばるのを待つ。
一通り暴れ回り、遂に両手を上げる事すら出来なくなった山羊頭の肩に乗り頭を叩き割る。
ーやっぱ此奴が鍵を持ってたかー
鍵を手のひらで弄びながら最下層に向かおうとした時だった。
ーそういやァまだひび割れたオーブは残ってたっけなー
ー行き掛けの駄賃代わりに誰か殺しとくかー