第七話 多勢に無勢
盾を構え広場に足を踏み入れる。
あれから少し考えた結果あえて相手の土俵で戦う事にした。
理由としては先程の竜の一件も有るが、常に自分に有利な状況が続きはしないだろうという考えだった。
だから退路がある今の内に経験して置くのも悪くないと思ったのだ。
さっきの二対一とは違う、四対一の戦い。
今回敵には高い位置からの援護射撃がある。
右側一体、左奥の角に一体、ボウガン兵へ向う階段に一体、そして階段の上のボウガン兵。
分散しているおかげか俺に反応して襲いかかって来たのは左右の亡者、階段の亡者はボウガン兵を護衛する役目なのか此方に来ることは無かった。
しかし安心は出来ない、ボウガン兵による支援射撃が始まったからだ。
先ず右の亡者へ向かう。
彼は折れた剣を両手で握りながら思いっきり振り下ろして来た。
それを盾で受けつつ袈裟切りで返す、ボウガンを構える音がする。
横目で確認すると此方に狙いを定めているようだ。
左手に倒れこむように転がって放たれた矢を避ける。
しかし避けた先にはもう一体の亡者が居て俺の腹に剣を叩き付けてきた。
鎧のおかげでどうにか耐えられたが、回避行動に合わせてカウンター気味に食らった所為かいつも以上に効いた。
胃の中の物を全て吐き出したくなるほど痛かったがそんな暇は無い。
急いで俺が起き上がるのとボウガンの第二射が放たれるのは同時だった。
幸い頭部への直撃は避けられたが代わりに左肩に矢を受けてしまった。
先程斬りつけた亡者も体制を立て直している。
肩を抑え先ほどカウンターを貰った亡者の腹を蹴り返す。
そうして盾を構えながら全体が見える位置まで移動する。
先のカウンターと矢傷により疲労と痛みが全身を襲う。
落ち着け。
圧倒的不利は承知の上での戦いだ。追い詰められた状況でも諦めるな。自分で無謀な戦いに挑んだのだ、得るものが何も有りませんでしたでは洒落にならない。
少しでも弱気になれば死が待っている。
死んでも篝火に戻るだけなのだが、気分の良いものでは無い。
勝つ為には、生き残る為には、無理矢理にでも明るく前向きに考えろ。
盾の隙間を狙いボウガンの矢が俺に迫る。
その瞬間俺は着ていた兜、鎧、手甲をソウルに仕舞って前転で回避する。
身体が重くて回避仕切れないのなら、軽くすればいい。もう後が無いから使える手段だ。
それと、ただ単に避けるだけでは先ほどの二の舞だ。
避けた次に何をするのか。それが重要なのだ。
矢を避けた先は始めに斬りつけた亡者の前だった。
彼はそこを迎え打とうと大振りの一撃を構えていたがそう二度も同じ手は食わない。
回避行動を終えた瞬間に右手に握った剣を逆袈裟に切り上げる。
始めの一撃で有る程度弱っていたのか振り上げた剣は俺に振るわれる事は無かった。
ようやく、一体か。
一息つく暇は無い。
まだもう一体此方に向かって来ている奴がいる。
防具は脱いでしまったから折れた剣でも致命傷になり得るのだ。
ボウガンの矢を警戒しながら呼吸を整えて気持ちを切り替え眼前に迫る亡者を迎撃するために剣を構える。
彼は脚に力を込め弾丸の様な速度で此方に飛び込んでくる。
間合いを詰め、鋭い一撃を俺に見舞うのだろう。
しかし、その動きは以前に見た。
反応出来るとは言わないが、相手の手を潰すだけならば簡単な事だ。
奴が目の前に来る、剣を振り上げる。
間合いを詰められる事を止められないならば、その剣が降り降ろされる前に蹴りを入れ相手の体制を崩す。
このまま追撃と行きたかったが、ボウガンのリロードが終わったのかまたもや俺の頭部に狙いを付けている。
矢が放たれた瞬間右に飛び退く。
遠距離武器による支援射撃が有るだけでここまで厄介なのか。
体制を立て直した亡者と二度目の対峙をしながら考える。
絶好の隙を突こうにもそれをカバーするように矢が飛んで来る、逆に此方が隙を見せれば急所を狙い撃たれる。
バックスタブや蹴りによる体制崩しは此方の隙が出来てしまう。
隙を作らない鋭い一撃で斬り捨てるしかないか。
それにだ、いつまでも後手のままと言うのも癪に触る。
そう考え終わったと同時に奴へと走り出し先程やられた事をやり返す。
但し足を止めると矢による妨害が入り仕切り直される。
だから目の前の亡者の横をすり抜ける、そしてその一瞬の内に脇腹を一閃する。
少々雑だったからか仕留め損ねたが問題は無い、脇腹を抑え前かがみになり、無防備になった背中に振り向きの回転を加えた一撃を叩きこむ。
鈍い感覚が剣越しに伝わる、渾身の一撃を受けた亡者は普通では曲がらない方向に背骨が曲がり地面を転がって行く
これで、二体目。
前衛の二人が倒されたからか階段に居た亡者が慌てて向かってくるが、わざわざ相手にしてやる必要は無い。
俺は向かって来た亡者の横を駆け抜け上のボウガン兵に迫る。
ボウガン兵は突破されるとは思っていなかったのか、反応が遅れていた。
腰の剣を抜かれる前に後ろに回り込みその背にバックスタブを入れる。
護衛をしていた亡者が急いで俺の後を追って来たが最早残る亡者は奴一人、しかし此方に戦う体力はもう残されていない。
せめてもの気概として貴様らに負けてたまるかと睨みつける。
その勢いに押されたのか彼は後ろに後ずさり逃げようとしていたがその後ろは崖。
奴は思わず足元を確認しているようだ。
そのまま奴に残る体力を振り絞って近づき崖から蹴り落とす。
なんとか勝てたな。
立って居るのもやっとだったんだ。あのまま襲われなくてよかったよ。
腰に付けてあったエスト瓶を飲みながら座り込み休憩する。
エスト瓶による回復は身体の傷を治せても疲労に関しては回復しないようだった。
先ほどのボウガン兵の死体を退けながら地面に座り込む。
目の前の篝火に触れるのも億劫だった。
しかしこの戦いのおかげで無策に突撃することの恐ろしさと、多対一での立ち回りかたがなんとなく分かった様な気がするな。
遠距離攻撃手段も探さないとな。
大の字に転がり空を見る。
お天道様と言う言葉があるけどさ。
不死人になってから何と無くその意味が分かった様な気がするな。
不死人だろうが亡者だろうが人間だろうがお構い無しに照らしてんだもんな。
少し、元気が出たよ。
信じられるか?ここゲームだとなんでも無い場所なんだぜ?