前回の後書きで、強靭無限の三倍速カンストアルトリが相手だと言ったな、悪いがアレは嘘だ。
正確にはそれに加え、毒ミダ並のオートヒールとHS無効、月光以外の攻撃を完全に無効化。
更に超反応ホーミングもオマケで付いてきます。
………………つ人面「助けてくれ」
第七十四話 深淵の力
篝火で肉体が再生された後、深淵歩きの元まで走る。
アレの相手をするなら、生身に戻るだけ無駄だ。一度や二度の戦いで何ともならんだろう。
道中の庭師を無視して、ショートカットを使って霧まで辿り着く。
第二戦目、その始まりは咆哮と共に振り下ろされる兜割りだった。
闘技場の中心から一回転しながら跳躍したアルトリウスの兜割りは、遠心力と落下速度が合わさり破壊力は抜群となっている。
振り下ろされた刃を横っ跳びで回避し、ハルバードの刺突を浴びせるが、刃は深淵に遮られ、傷を与える事は出来なかった。
そして、深淵歩きは突きの体勢のままの俺に、叩きつけるように連続して兜割りを叩きつける。
超人的な速さの三段攻撃に、なす術もなく叩き潰される。
第三戦はもっと悲惨だった。
竜狩り程の速さでは無かったが、それでも気が付いた時には腹を串刺しにされ絶命する。
霧を越えた瞬間の不意打ち、それに反応出来なかった事と予想して居なかった事が悔やまれる。
第四戦、霧を越えた際の不意打ちを左側に回避し、折れている左腕に向かって月明かりの大剣を振るう。
その傷口は深淵の侵食を退け、聖剣の力によって焼け爛れている。
彼を討つには月明かりの大剣を振る以外に方法は無いのか。
しかも、持久戦に持ち込めばそれだけ俺が不利になる。
俺の目に映るのは先ほど聖剣で傷付けた場所、非常にゆっくりだが再生し始めてきているのだ。
ナイフを取り出し、彼の眉間を打ち抜き怯みを狙ったのだが、突き刺さるナイフを物ともせず、大剣によって俺を上空に弾きあげる。
深淵歩きは、全身の骨が粉砕され身動きが取れない俺に飛び掛かり、地面と俺の身体を縫い付ける。
次の戦いは突進からの兜割りによる叩きつけで。
その次は彼の回転斬りで。
その次の次は何だったかな。
数えるのも面倒になってきた。
幾度目かの再戦。緑化草を口に放り込み、月明かりの大剣にエンチャントを施す。
交戦中にエンチャントなんてのは唯の自殺行為となる為、初めから結晶魔法の武器を発動しておく。
結晶に包まれた月明かりの大剣を引っさげ霧を越える。
初手の突進を左手に避けて背中に回り、魔力を有りっ丈込めた光波をその背中に叩き込む。
至近距離の爆発で、俺にも被害が出るが問題は無い。
今俺が放てる、至高の一撃だ、かの深淵歩きも無傷で済む筈が無い。
手応えはあったはず、だが爆風をかき分けるように放たれた斬撃は、無情にも俺の首を刎ね飛ばす。
無傷。
深淵は吹き飛ばされはしたが、その下の鎧に傷一つ付けることが出来なかった。
光波では傷は与えられないか……。
渾身の一撃を放ち、無傷で終わった事が俺の闘争心に亀裂を入れる。
更に次の戦い、ヒビの入った闘争心で如何にかなる相手では無く、鏖殺される。
次も、次の次も、その又次も。
何度篝火送りにされたかも分からない程に殺害され続けた所為で精神が不安定になり始める。
暫く茫然としていたが、いきなり笑いが溢れ始めた。
ーフッフフッ、アッハッハッハッ‼︎ー
ーなんだアレは、なんて強さだよー
ーなんと言うズルだ、まるで化け物じゃ無いかー
ー羨ましい強さだ、妬ましい強さだー
ー本当に、本当に、羨ましいー
ー何て力だ、素晴らしいよー
ーまるで俺自身がゴミクズみたいだー
ー畜生め、本当に……ズルじゃないか……ー
狂ったように笑いが込み上げ、一人で涙を流しながら腹を抱えていた。
流されるように戦い続け、泣く暇もなく叫ぶ暇もなく、唯剣を握っていた今までの反動が波となって押し寄せる。
折れてしまいたかった、亡者になってしまいたかった。
今まで俺が背負って来た物を全て捨ててしまいたかった。
だが、それは認められない。
涙を拭って立ち上がる。
俺は認めない、狂ったように振り回した剣が、深淵に犯されただけの力が、そんな物が俺の今までの旅路で培った物よりも上だと認められるか。
いくら歴戦の勇士だろうが、四騎士の一人だろうが、深淵に飲まれ、正気を失った貴様ごときに遅れをとったままで居られるか。
何より、あの放浪者との決着が付いていない。
あの男との因縁を断ち、新たに新世界を創造する為には、此処で躓いている場合ではない。
闘争心に再び火を灯し、立ち上がる。
負けるか、屈するか、今までの死で、更に亡者化が進んだだろうな。
構わないさそんな事、あの男を叩きのめしたら楽になるに決まってる。
必ず、必ず勝利してやる。
主人公「この、ゴミッ‼︎」
主人公「ふざけんなよ、このゴミトリウスが‼︎」
みたいな心境ですね(白目)