不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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いや〜、アルトリは強敵でしたね(白目)



不死の英雄伝 77

第七十七話 鷹の目

 

迫る深淵を跳ね除けた後、エスト瓶を飲んで傷を癒したが、削り尽くされた左腕は再生しなかった。

 

いくらエスト瓶と言えど肉体を再構成するチカラは無いらしく、篝火で治すしか無さそうだ。

 

ソウルに流れ込んできた深淵歩きの大剣、その存在感は、朽ちてなお健在だった。

 

以前手に入れた竜狩りの槍を取り出し、比べて見る。

 

 

どちらも神族が振るった物、神聖さや内包する神秘は相当な物だ。 それが、例え深淵に蝕まれ、全体が朽ち果てようともだ。

 

 

深淵の性質を宿しながらも、曇る事の無い神聖。

 

 

きっとそれは、深淵に汚染された者に対して有効となるだろう。

 

 

深淵歩きの大剣を、月明かりの大剣と交差させるように背中に背負い、市街に足を踏み入れる。

 

 

ウーラシール市街、此処の地下から湧き出た深淵に影響され、異形と化した市民達がたむろしている場所。

 

 

そして、俺をこの時代に引きずり込んだ張本人が居座る場所。

 

 

だが、単眼の黒竜、彼が市街上空から炎を吐いている、このまま足を踏み入れるのは自殺行為だろうな。

 

 

やり過ごそうにも、俺の匂いを嗅ぎ付けたのか、一向に離れる気配は無い。

 

 

回り道を探して、側にあった階段を上り、全体を見渡す事にしたが、やはり道はこの場所しか無さそうだ。

 

 

それに、今俺は隻腕の状態だ。篝火まで戻る事が出来るなら兎も角、この闘技場の上を飛び回る黒竜に見つからないようにするのは無理だろう。

 

 

木を削る音に気が付いたのは、それから少ししてからの事だった。

 

音源を辿って行くと、一人の巨人が木を削っていた。

 

側には巨大な弓が転がっている、恐らく彼が…。

 

 

指輪の効果で俺から発せられる音が消えているためか、彼は俺に気付いて居ないみたいだった。

 

 

作業の邪魔をするのも悪いかと思ったが、此方も急いで居るために仕方なく彼に話しかけようとした時だった。

 

 

ー黒い竜に難儀しているようだなー

 

ーアレの名はカラミット、嘗てのアノール・ロンドですら見逃した、恐ろしい竜だー

 

ーそれに人の身で挑むとは…計り知れる物では無いが…ー

 

ーだが貴公、諦めるつもりは無いのだろう?ー

 

 

気配を読まれたのだろう、此方から話しかける前に向こうから俺に話しかけて来た。

 

 

その問いに、無言で頷く。

 

退けただけでは、あの竜は俺を追うことを辞めないだろう。

 

何が琴線に触れたのかは分からないが、邪魔をするなら斬って捨てるだけだ。

 

いくら、あの黒竜が最強だと言えど、先ほどの深淵歩き程ではあるまい。

 

あれに勝るものがそう容易く現れてたまるか。

 

 

引くつもりは無い事が伝わったのか、彼は大声で笑い出した。

 

ー…ふははっー

 

ーよい、よい。無謀だが、確かにそれを勇と言うのだろうー

ー気に入ったー

 

ーアルトリウスの礼もある。貴公に、ゴーの竜狩りを見せてやろうー

 

 

やはり、彼は鷹の目のゴーであったか。

 

 

側に置かれている弓、それはアノール・ロンドの銀騎士の握っていた弓のような形状なため、もしやとは思っていたが…………、本人とはな。

 

 

盲目なのだろうか? 彼は探るような手つきで己の周囲を触っている。

 

 

指が自身の弓に当たり、位置を割り出した所で彼は立ち上がる。

 

 

弓を引き、矢を番え、上空に狙いを定める。

 

 

光を失った彼に、果たして全盛期程の腕があるのだろうか? 如何してもそう思わずには居られなかった。

 

 

しかし、鷹の目と渾名された彼の実力は直ぐに健在であると証明される。

 

 

カラミットが風を切る音、羽ばたく音、呼吸や鳴き声、更には己の経験、己の実力、彼はその全てを正確に把握している。

 

 

放たれたゴーの矢は、寸分違わず天を舞う黒竜に突き刺さり、その身体を大地に叩き落とす。

 

 

その光景は俺の目に焼きつき、思わず感嘆の声を洩らしてしまった。

 

 

ーふはっ、見たか、見事命中だー

 

ーいかにアレとて、暫くは飛べぬだろうー

 

ー後は貴公の武勇次第。良い知らせを待っておるぞー

 

ー竜に挑むは、騎士の誉れよな…ー

 

四騎士とは、歴戦の古強者。

 

正気を失おうとも、光を失おうとも、彼らの腕は衰えを知らないと言うことか。

 

 

アノール・ロンドで戦った竜狩りのオーンスタイン。彼の槍には誇りと使命が込められ、その騎士道精神が伝わってきた。

 

深淵に飲まれたアルトリウス。正気を失った彼の剣には彼自身の戦いの経験が投影されていて、その強靭な精神を体現していた。

 

鷹の目のゴー。光を失い、半ば軟禁のような隠居生活を送りながらもその精密な狙撃は狂わず、在りし日の彼の姿を幻視させた。

 

 

 

剣に、槍に、弓に、己の姿が投影されるほどの自我、自己、濁ることの無い気高き精神。

 

彼らの強さは、各々の色を持っているからかも知れ無いな。

 

 

彼に頭を下げ、先ずは市街にある篝火に触れる。

 

 

左腕を再構築して、装備を修繕し、改めて黒竜の落下点に向った。

 




休む暇なく連戦となる主人公、まだまだ彼のデスカウントは止まりませんね。


ゴーさんのムービー見たときは震えたなぁ。

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