シュジンコウデス。
第七十八話 単眼の黒竜
彼の墜落点である渓谷に到着する。
態々倒しに行ったのには理由が有る。
いくら鷹の目の狙撃を受けたとは言え、アレは竜、その生命力は底知れない。
最下層の古竜、そして白竜シース。
アレらの事を踏まえると長い時間足止めを出来そうに無い。
故に、手負いとなり地に墜ちた奴を討つのは当然の事。
黒竜の姿が見えてきたが、その翼を使って再び天に向かって羽ばたき始めている。
それを見た俺の判断は素早かった。
魔力を込めながら、同時に刃へ結晶魔法の武器を施しながら剣を振り抜く。
結晶の光波が黒竜の背に叩き込まれ、その衝撃で再び大地に伏せる。
彼のウロコは魔力に耐性が有るのか、2.3枚吹き飛ばしただけに終わるが、背中に刺さる大矢の傷を広げ、飛び去ろうとするのを防ぐ事が出来た。
崖から飛び降り、岸壁に刃を突き立てながら降りてゆく、隣に梯子も有ったのだが、悠長に降りている時間が勿体無い。
彼の口から黒い炎が溢れ出し始めた、俺の事に気が付いたのだろうな。
彼の顔が此方に向く前に岸壁を蹴り宙に跳ぶ、その口が開く前に光波を顔面に叩き込む。
その衝撃に怯んだ隙に一気に駆け寄る。
その際に、先のアルトリウス戦をヒントに思い付いた事を実行する。
盾を背中に貼り付け、踏み込みの加速が最大限に生かせる場所で、光波を背後に向けて逆手で放つ。
光波の爆風は俺の背中を押し、踏み込みにさらなる加速を与える。
一瞬、辺りの景色が置き去りにされ、背中に強烈な衝撃が襲い、全身がバラバラになったような錯覚を覚えるが、それに耐えながら黒竜の顎を硬化させた月明かりの大剣で弾き上げる。
完全にブレスを叩き潰し、単眼故の視界の狭さを突き、身体の下に潜り込み、混沌の刃による居合い斬りで黒竜の尻尾を根元から切断する。
流石の斬れ味だ、ウロコごと両断できるとはね。
尻尾が切断された所為でバランスを崩した黒竜は、思わず動きを止めて、身体の下を口から吐き出される黒炎でやきはらう。
その炎に包まれた俺は、消し炭にされる前に、光波の爆風を使って無理矢理その中から脱出する。
鎧が煤だらけになったが、何とか無事だった。
翼をはためかせ、再び空を舞い始めた黒竜カラミット。
幸いな事に、ダメージが抜けきらないのか、この谷底から飛び去る事が出来ないようだ。
だが、ホバリング飛行は可能なようだ。
黒竜は低空を飛行しながら谷底の全てを焼き尽くそうとする。
月明かりの大剣の刃を硬化させ、地面に突き刺して、遮蔽物代わりにしながら彼の炎を防ぐ。
聖剣の魔力による庇護は俺を護るが、このままでは立ち往生だ。
こんな事なら、ソウルの槍か結晶槍を記憶しておくんだった。
アルトリウスとの一戦から俺の記憶している魔術に変化は無い、左腕に気を取られてしまい、その事が頭から抜け落ちていた。
しかし、何時までもこうしては居られない。
いくら聖剣と言えども、疲労が重なればいずれ破壊されてしまう。
盾代わりにしている上、炎の熱を防ぐために常に魔力を流している状況だ、あまり長い事は持たないだろうな。
低空飛行している黒竜へ無理矢理剣を当てる事は可能だろう。
その代償はきっと大きい、今の聖剣の疲労度から察するに修理不可能なまでに折れてしまうだろう。
混沌の刃によるカウンターにしてもそうだ、刀とは鋭く斬り裂くように振るう物、力任せに斬りつける西洋剣とは物が違い、その様な使い方をすれば斬れる所か此方が折れてしまう。
それの対策は、アレの上に乗るか、若しくはその頭に硬化させた刃の鉄槌を叩きつける事。
ソウルからハルバードを取り出し、地面に突き立てる。
足場代わりにハルバードを蹴れば、あの黒竜の高度に容易く達するだろう。
次の問題は、吐き出される炎だ。
谷底をホバリングしながら周囲を焦土にしているそれに耐えながらハルバードを蹴るのは難しいだろう。
あの火力ならば、鎧ごと蒸発する事は無いだろうが、その炎で吹き飛ばされ、ボイル焼きにされてしまう。
その行動を阻害する為に、背中に貼り付けていた盾を取り出し、ナイフを外しながらタイミングを測る。
聖剣の方も、そろそろ限界が近い。
光波は後一回使えるかどうかと言った所か。
後、数回往復しながら炎を吐かれでもすればそれすら出来そうに無い。
チャンスは一回か……。
カラミットって、こんなに弱かったっけ?
いや、アルトリが強過ぎたんだ(白目)
まあ、そもそもカラミットは、尻尾無視したらそんなに強く無いからね。