カラミット戦があっさりと……マヌスではアルトリ以上に死んで貰いましょう。
第七十九話 竜殺し
カラミットの位置を確認しながら、たった一度きりのタイミングを伺う。
低空飛行をする黒竜が炎を吐き出し始めた瞬間に盾にしていた聖剣を引き抜き、盾を黒竜の顎の下に向かって回転させながら投げる。
黒竜の顎の手前に盾が到達する瞬間に光波をそこに叩き込む。
直接黒竜に光波を叩き込まないのには理由が有る。
彼のウロコは魔力に対して耐性があるため、エンチャントも施していない光波では動きを止めるには至らないだろう。
だからこの光波は目眩ましの一撃、一瞬だけでも彼のブレスを止める事を目的にしている。
俺が投げた盾もそうだ。
アレは特殊な紋章によって魔法に耐性を持っていて、盾を貫通する魔力を大幅にカットする物。
盾自体が魔力に強いため、光波の着弾点として使うには十分過ぎる。
魔力の爆風で、彼の炎が一瞬だけ止まる。
その一瞬を逃さず、ハルバードの柄を蹴って黒竜の頭の上に跳び上がる。
落下の勢いを利用して、ソウルから竜王の大斧を取り出して、頭部に振り降ろす。
渾身の力を込めた両手持ちの振り下ろし、それは竜王の大斧の中に秘められた力を開放する。
刃の接地点を中心に、黒竜の頭部へその力が集中し、低空を飛行していた彼は三たび地面に顔をぶつける事になった。
本来なら、接地点を中心にして周囲に衝撃波が伝わる筈だったのだが、今回振り下ろされた場所は狭い額の上。
拡散するはずの衝撃波は収束し、一点に集中して叩き込まれたため、さしもの黒竜もそれには耐えられなかったようだ。
叩き落とした黒竜の上に着地し、血塗れの頭に深淵歩きの大剣を振り下ろす。
深淵の性質を受け継いでいるこの大剣は、神聖な生物にも有効らしく、額を割られても声ひとつ上げず、尚も立ち上がろうとしている彼に悲鳴を上げさせる。
渓谷に響き渡る絶叫、それは黒竜の命があと僅かで尽きると言う合図だった。
深淵歩きの大剣を構え直し、今度は根元まで頭部を貫く。
決着が着いたかに思えたが、黒竜は立ち上がり、その単眼を怪しく光らせる。
その光に吸い寄せられ、彼の瞳に睨まれる。
心臓を鷲掴みにされたような感覚と共に、全身を虚脱感が襲う。
宙に浮いた俺を前足で殴り落とし、再びブレスを溜め始めた黒竜。
殴られた際のダメージが今までの倍の威力だった。
全身を地面に叩きつけられ、骨が砕け、内蔵に突き刺さって居る。
流し込むようにエスト瓶を使用して傷を癒し、迫り来る炎の中に真っ向から突っ込む。
聖剣による回復量を大きく上回る熱傷、一撃で蒸発しない事を利用し、その口の中に聖剣の刃を捩込む。
炎の勢いが弱まった隙に、左手で彼の単眼を抉り取る。
コレで、あの呪いのような物は使えまい。
もう、この聖剣に光波を放つほどの力は残って居ないだろうが、まだ万物を透過する力が残っている。
その力を利用して彼の頭に刺さっている大剣を抜いた後、口の中で刃を硬化させて炎を吐かせないようにする。
それと同時に目玉を抉られた痛みから仰け反りそうになった頭を強引に押さえつける。
深淵歩きの大剣を再び握り、今度こそ止めの一撃を振り下ろす。
全身の力を込めた一撃は、砕けていた黒竜の頭を粉砕し、今度こそ絶命させる。
何とか倒せたが……、いつも以上に酷い有様だな。
鎧は溶け、あちこち煤けている。
思い出したかのように押し寄せる全身の痛み、光波の爆風を利用した無茶苦茶な移動方法の弊害だろう。
戦っている際には気にも留めなかった事が次々と俺を襲い始めた。
月明かりの大剣もくすんでいる、鷹の目に報告する前に一旦篝火に寄らなければならないな。
そして、黒竜カラミット、アレの強さは恐らくこの瞳だろう。
抉り取った単眼、その赤い瞳は本体から切り離されたにも関わらず、怪しい光を放ち続けていた。
先ほどの呪い、アレは此方を大幅に弱体化する物だろう。
力が一気に抜けて行く感覚は未だに抜けない、アノール・ロンドが見逃がす訳だ。
今回の勝利は鷹の目による狙撃で、手負いとなっていた為に勝つことが出来た訳だ、つくづく四騎士の力は恐ろしいな。
そう言えば、彼の尻尾を刎ね飛ばした際に何か見えたな、戦っている時はそこまで気が回らなかったが。
重い身体を引きずりながらそこまで向かう。
尻尾の中から漆黒の大剣が顔を覗かせていた。
黒竜カラミットの大剣、その刃を両手で握り、地面に突き刺す。
彼の力が宿った大剣は、刀身から漆黒の炎を吹き出し、周囲を焼き払う。
ゴーに見せる戦利品には丁度良い、礼をしにもう一度会いに行くか。
三本目の竜武器、ウロコマラソンが捗りますね(白目)