私はリリア・アロガンツ。
伯爵家アロガンツ家の次女だ。
私は十歳になるまで、ほとんど外の世界を知らなかった。
病弱で、家族からも”役立たず”と蔑まれる日々。
異母兄たちは家督争いに明け暮れていた。
当主であるお父様は、冷たい視線を向けるだけ。
私はいつも一人で、窓辺で本を読むだけの毎日を送っていた。
そんな私の前に、ある日一人の女性が現れた。
“異国の医学教師”として雇われたカーミラ先生だった。
長い黒髪を優雅に下ろし、穏やかな微笑みを浮かべた美しいひと。
表向きは魔術を使わない学者。
でも実際には家の依頼により、魔力で私の病を和らげるためにやって来た人。
彼女が静かに私の側に居ついた。
初めの治療の日、私はベッドで震えていた。
先生の指が優しく私の手に重なり、温かさが体を巡った。
「痛いところは?大丈夫、ゆっくり息をして」
その声は柔らかく、手は温かかった。
私は初めて”誰かに大切にされている”と感じ、涙を浮かべた。
「先生……ありがとうございます」
それから毎夜のように、治療と勉強の時間が設けられた。
先生は私の病弱な体を優しく撫で、魔力を流し、時には額や頰に軽くキスをして”頑張ってるね”と褒めてくれた。
それから私は、先生の横顔を見るようになった。
美しくて、優しくて、強いひと。
先生は私の憧れだ。
憧れは、徐々に甘いものにいった。
ある雨の夜、発作で苦しむ私を先生が抱きしめた。
体温が私を温かく包み込む。
私は先生の胸に顔を埋め、震える声で呟いた。
「先生……離れないで」
先生は優しく髪を撫でてくれた。
「大丈夫。ずっとここにいるよ」
その夜、私たち二人はベッドで寄り添った。
先生の指が私の背中を優しくなぞり、唇が額や頰に触れる。
私の体が熱くなり、初めての甘い疼きを感じた。
「先生……気持ちいい……」
先生は小さく笑い、私の唇に軽くキスをした。
私の心は大きく揺れた。
先生の唇とっても温かくて、柔らかい。
それから私達の時間は、ますます親密になっていった。
勉強の合間に抱き合ったり、治療の名目で体を重ねたり。
私は先生の豊かな胸に顔を埋め、甘えるようになった。
先生も”リリアは可愛いね、赤ちゃんみたい”と、ゆるく受け止めていた。
しかし、私の心の奥では、いつも小さな声が囁いていた。
これは、おかしい。
同性にこんな気持ちを抱く。
なんて背徳だ。
でも、先生の匂い、先生の温もり、先生の声。
離れられない。
私は何とかその想いに蓋をした。
でも、好意を自覚した瞬間は、突然訪れた。
ある夜、私は先生の膝枕で本を読んでいた。
先生の指が髪を梳く。
その感触が気持ちよく、私はうっとりと目を細めた。
「先生……私、先生がいないと生きていけないかも」
先生は優しく笑い、唇を重ねてくれた。
「そんなに甘えん坊なんだ」
舌を絡める先生のキスは、かつてない程に情熱的だった。
その瞬間、私の中で何かがはっきりした。
“私は、先生を、好き”
恋だった。
同性への恋。
背徳感が胸を締め付ける。
でも、私はもう先生への依存をやめられなかった。
先生の指が肌に触れるたび、唇が近づくたび、背徳感と快楽が同時に私を蝕んでいった。
その夜、私達はより複雑に絡み合った。
先生の指が私の肌を優しく愛撫し、私は初めての快感に震えた。
「先生……もっと……」
先生は”いい子だね”と囁きながら、私を優しく導いた。
処女を奪うような激しいものではなかったが、私達の絆は確実に深まった。
それから私は毎晩のように、先生の部屋を訪れるようになった。
背徳感を抱きながらも、先生の温もりにすがる。
これは……おかしい……
そう思いながらも、先生の指が動くたびに体が熱くなり、声が漏れた。
「先生……私、先生のことしか考えられない……」
先生は優しく微笑み、私を抱きしめた。
「大丈夫、好きなものは好きでいいんだから」
家督争いが激化する中、私はときどき冷静な判断を下さざるを得なかった。
使用人が先生の正体を疑いかけた。
先生が魔術を使う事は、屋敷でもごく一部の人間しか知らない。
気取られれば、彼女は粛清されるから。
私は秘密裏にその使用人を処分させた。
“必要なら、手段を選ばない”
そんな思考が、病弱な私の心の奥に静かに根を張っていた。
そして、ある日。
すべてが崩れた。
異母兄の動きにより、先生は”魔女”として告発された。
そこで当主であるお父様は、私に最終試練を課した。
「リリア。騎士連中が来る前に、あの魔女をお前の手で始末せよ。当家の潔白を証明するのだ」
地下の隠し礼拝堂。
先生は縄で拘束され、私の前に立たされた。
先生は静かに私を見つめていた。
毒が塗られた短剣。
それを握った手の震えが止まらない。
父と側近数名が壁際に立って黙って見守っている。
「先生……」
声が掠れる。
先生は穏やかに微笑んだ。
「リリア、来てくれたの」
「先生……私は……」
「いいのよ。あなたの道を選んで。私は……あなたを、愛している」
その言葉が、私の心を深く抉った。
先生は静かに私を見つめ、甘く囁いた。
「リリア……最後に、キスして。貴女の唇で……」
私の体がびくりと震えた。
愛する人を殺すこと。
それでも、私は先生の顔に近づいていった。
二人の唇が、重なる。
熱い。
柔らかい。
かつてなく熱いもの。
先生は目を細め、私の唇を優しく吸うように受け入れた。
私の手が震えながら短剣を握りしめる。
先生の唇が離れず、甘く囁く。
「もっと……深く……」
私は目を閉じ、短剣を握った手を先生の胸に押し当てた。
刃先が肌に触れる。
そして、ゆっくりと挿入するように、愛する人を抱くように、短剣を押し込んだ。
「んむぅっ……!」
先生の体が、びくりと跳ねた。
でも、唇は離れなかった。
むしろ、私の唇をより深く求め、舌を絡めてくる。
血が噴き出し、私の手に温かく滴り落ちる。
それでも私達のキスは続いた。
短剣が深く沈むたび、先生の体が痙攣する。
でも、先生の目は優しく細められたまま、私を見つめていた。
「リリア……好き……」
最期の言葉を、私の唇に残して。
先生の体から力が抜けた。
私は短剣を握ったまま、唇を離せなかった。
血まみれの手が震え、温かい血が床に滴る。
先生の死体を抱きしめるように、短剣を胸に深く刺したまま、動かない先生の口内を味わっていた。
父は黙ってそれを見届けた。
表情一つ変えずに。
その夜、私は自室で完全に崩れ落ちた。
「先生……先生……!」
幻覚が現れる。
先生が優しく私を抱きしめてくる。
「リリア、大丈夫?」
次の瞬間、その抱擁は冷たいものに変わる。
「痛いよ……リリア……どうして私を殺したの?」
私は壁に頭を打ちつけ、叫んだ。
背徳の恋を自覚しながらも依存していた自分への自己嫌悪が、頭の中でグチャグチャになる。
純粋で病弱だった私は、その夜に死んだ。
数週間後、私は変わった。
先生の治療により、病弱で内気だった面影は消えた。
その代わりに、計算高く冷徹な意思を獲得した。
まず、先生の事を異母兄に密告した使用人。
それを念入りに拷問した末に処分した。
次に異母兄に屈服するフリをして、毒を盛り葬った。
政敵も容赦なく陥れた。
“弱者は利用される。利用できないものは捨てる”
そんな考えが、私の頭を支配するようになった。
それでも夜になると、幻の先生が現れる。
私はそれを、冷たく抱きしめる。
「先生……私は、もう弱くないわ。あなたを殺したこの手で、すべてを手に入れる」
やがて私はアロガンツ家の当主として君臨した。
異例の女性当主。
理由は単純、私を除く後継者が全て不慮の事故で死亡したからだ。
私の地位は盤石だった。
しかし、夜な夜な先生の幻に苛まれ続けた。
私は時折、先生に似た黒髪の美しい女性を屋敷に招いた。
肉体関係を持ち、甘い言葉を囁かせた。
でも終わった後は、いつも同じ虚無感に襲われた。
「ダメ……やっぱり先生と違う」
そして、その女性を静かに始末した。
“先生と違う”
その失望が、私をさらなる悪へと駆り立てた。
私は今も、先生の幻を抱きしめながら、涙を流している。
「先生……私を、許して……」
♢
「んん…あぁ…今回は刺激的な最期だったなぁ…」
私は体を起こしながら、ぼんやりと思い出す。
アロガンツ家の屋敷での暮らし。
病弱な令嬢リリアの家庭教師として雇われたあの日から、すべてが始まった。
表向きは異国の医学教師。
実際は魔力でリリアの体を癒し、勉強を教え、夜は二人きりでエッチした。
リリアは最初、おどおどした可愛い子だった。
私が治療で抱きしめると、震えながら「先生……」と甘えてくるのがサイコーだった。
流れで自然にキスを重ね、指を絡め、肌を重ねるたび、あの子は背徳感に震えながらも、私に夢中になっていったなぁ。
「先生……私、先生がいないと生きていけないかも」
あの言葉を聞いたとき、胸が熱くなったね。
同性への恋。
貴族の令嬢が魔女に落ちるなんて、なかなか面白い体験だった。
屋敷での食客生活は快適だった。
豪華な食事、柔らかいベッド、そして夜な夜なリリアの甘い吐息。
まあ…でも、結局はこうなる運命だったんだろうね。
最後の夜、地下の礼拝堂でリリアに短剣を突き立てられたとき。
最後だと思って、とりあえずリリアにキスを要求した。
彼女は壊れた笑みを浮かべて応じてくれた。
唇を重ね、舌を絡め、短剣が胸に沈む感触はこの上ない苦痛だった。
血が噴き出す激痛の中でも、キスを離さなかったリリアの震える唇は妙に愛おしかった。
「リリア……好き……だよ……」
力を振り絞って、最期にそう言ってあげた。
あの子が一生引きずってくれるように。
「家庭教師も悪くなかったし、リリアとの百合も新鮮だったわ。あの子、きっと立派な悪女になるだろうね。さぁて…次こそは、もうちょっと気楽にいこうっと」
私は背伸びをして、歩き出した。
あ、今度はちゃんと服を着てから外に出るよ!