曇らせ魔女の復活記録   作:アスタロット

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case3 転生者タツキ

 

俺の名はタツキ。

かつては普通の日本人だったが、ひょんな事からこっちの世界に来て強力な力を手に入れた。

チート能力と言われるほどじゃないけど、十分に強い。

ただ、実戦経験が足りなくて、よくヘマをするのが玉にキズって感じかな。

 

昨今は政府の魔法使い弾圧政策が激化し、魔族がそれに乗じて動き出そうとしている不穏な世情。

 

そんな中で、俺は信頼できる冒険者のパートナーを探していた。

前世で孤独だった俺は、誰かと本気で組みたいと思っていた。

奴隷市場に足を運んだのは、そんな理由からだった。

奴隷なら裏切る事も無いだろうし。

 

そうやって市場を見て回る事しばらく、一番奥で一人の女性を見つけた。

長い黒髪を乱れさせ、首輪を付けられた美しい女性。

さっそく鑑定スキルを発動させる。

 

【名前:???】

【職業:???】

【スキル:???】

 

……ほとんど読めない。

でもかなり珍しい。

彼女の潜在能力の高さや数値は、ぼんやりと伝わってきた。

この人となら、強くなれるかもしれない。

俺は思わず声を掛けた。

 

「君……大丈夫か?」

 

彼女は静かに微笑んだ。

 

「無理するな、坊や。ここでは身の丈にあった買い物をするもんだぞ?」

 

その笑顔に、胸が締め付けられた。

俺は決めた。

絶対にこの人を買う。

しかし、値段はたしかに俺の想像を絶する高額だった。

そこで俺は必死にクエストをこなし、金策に走った。

他の客に先を越されそうになりながら、前金を払いながら何とか資金をかき集めた。

 

そして、再び奴隷市場へ。

結果、他の客に先を越されず、俺は何とか彼女を購入することができた。

 

「名前は……?」

 

俺が尋ねると、彼女は静かに首を振った。

 

「名前がないから、名付けてくれ」

 

俺は前世で飼っていた黒猫の名前を思い出した。

 

「……クロ。クロでいいか?」

 

彼女は少し驚いた顔をした後、優しく微笑んだ。

 

「クロ……悪くない名前だね。よろしく、タツキ」

 

クロを買ったその足で教会へ向かう。

高額な免罪寄付をして、クロが魔女では無い証明を受ける。

もちろん、その資金も予め確保しておいたものだ。

そうやってクロは魔術を、始めて行使できるようになった。

 

その日から、俺たちの冒険者生活が始まった。

奴隷という身分ではあったが、俺はクロを対等なパートナーとして扱った。

前衛の俺と、補助・後衛担当のクロ。

お互いの能力を補完し合い、任務をこなしていく。

クロは経験豊富で、俺の未熟な判断を優しくフォローしてくれた。

 

「タツキ、焦らないで。君はもっと強くなれるよ」

 

ある夜、キャンプで焚き火を囲みながら、俺は前世のことを打ち明けた。

 

「俺は……異世界から来た。前世の記憶があるんだ」

 

クロは静かに聞き、優しく微笑んだ。

 

「そうか。信じるよ。私も……似たようなものだから」

 

その言葉で、俺たちの絆はさらに深まった。

ある任務の後、俺は勇気を出して告白した。

 

「クロさん……実は、俺は君に一目惚れだった。奴隷市場で初めて見たときから……」

 

顔が熱くなる。

童貞の俺は、こんなこと言うだけで心臓が爆発しそうだった。

クロは少し驚いた顔をした後、柔らかく笑った。

 

「ふふ、タツキは正直だね……いいよ。君が望むなら」

 

その夜、俺たちは一つになった。

初めての夜だった。

 

俺はぎこちなく、震える手でクロを抱いた。

クロは優しく俺を受け入れてくれた。

 

「タツキ、いい子だね」

 

そう囁いてくれた。

 

「クロさん……俺、初めてで……すごく緊張してる……」

 

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

 

互いの体温が溶け合うような、静かで熱い時間。

俺はクロにすべてを捧げた。

クロはそれを、優しく受け入れてくれた。

それ以来、俺たちは恋人同士になった。

 

「クロさん……俺、身を固めたいんだ。家を買って、落ち着いた生活もしたい」

 

俺がそう言うと、クロは優しく微笑んだ。

 

「タツキがそうしたいなら、いいよ」

 

 

資金が必要になった。

俺は多少危険な依頼も受けることにした。

今回の任務は、反乱勢力の鎮圧参加。

 

しかしその実態は、冒険者は軍の尖兵扱い。

参加してみれば、単なる使い捨ての駒だった。

 

状況が不利になったとき、クロが撤退を進言した。

 

「タツキ、離脱しよう。このままじゃ危ない」

 

しかし俺は頑なに拒否した。

 

「ダメだ!途中離脱は違約金がある!俺がなんとかする!」

 

能力を過信して油断した俺は、敵の罠に嵌まった。

ピンチに陥り、死にかけた瞬間だ。

クロが俺の前に飛び出した。

 

「タツキ、逃げて!」

 

クロは自らの魔力で盾を張り、俺を押し出した。

 

しかし、敵の増援が現れた。

大柄な魔族だった。

体躯は大人二人分を超え、筋肉と角に覆われた怪物。

魔族はクロを一目見て、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほう……女か。いい玩具だ」

 

クロは魔族の攻撃を何とか凌ごうとしたが、俺を守るために魔力を消耗しすぎていた。

魔族の巨大な腕がクロを捕らえ、地面に叩きつけた。

 

「ぐぅっ……!」

 

クロの苦痛の声が響く。

魔族はクロの体を玩具のように弄び始めた。

巨大な手で腕を捻り、爪で肌を裂き、角で突き刺す。

クロの悲鳴が戦場に木霊する。

 

「あああっ……!」

 

俺は脚の傷で動けず、ただそれを見ているしかなかった。

 

「クロさん……!?やめろ……やめろぉぉォォォォォォッ!!」

 

魔族は楽しげに笑いながら、クロの体を弄び続けた。

血が飛び散り、骨の折れる音が聞こえる。

クロは苦痛に顔を歪めながらも、最後に俺を見て微笑んだ。

 

「タツキ……逃げて…………」

 

その言葉を最後に、魔族の巨大な拳がクロの胸を貫いた。

クロの体がびくりと跳ね、血を吐きながら力なく崩れ落ちた。

魔族は満足げに笑い、今度は俺に向かってきた。

 

「次はお前だ」

 

巨大な足が俺の頭を踏み潰そうと振り下ろされる。

俺は動けず、ただ死を覚悟した。

その瞬間。

 

本軍の増援が到着した。

 

「魔族だ!囲め!」

 

多数の騎士と僧兵が魔族に殺到する。

数の力で圧倒され、魔族は怒りの咆哮を上げながらも、次第に追い詰められていった。

やがて魔族の首が落ち、巨体が地面に崩れ落ちる音が響いた。

 

俺は這うようにクロの遺体に近づき、抱きしめた。

温かかった体は急速に冷たくなり、血の匂いが鼻を突く。

 

「クロさん……クロさん……!」

 

俺は嗚咽した。

目の前で、無惨に嬲り殺されるクロの姿が、永遠に脳裏に焼き付いた。

 

「俺が……俺がもう少し強ければ……増援が来るまで耐えられたのに……クロさんを守れたのに……」

 

その瞬間、俺の中で何かが決定的に変わった。

 

“未熟さや弱さは罪だ”

 

俺は甘さを捨てた。

クロの死を糧に、一流の冒険者になるために精進を重ねた。

 

 

クロの死からしばらく後。

俺は若くして一流の冒険者となった。

剣の腕は誰にも引けを取らず、魔術の知識も深め、戦略的な判断力も身につけた。

多くの仲間が俺を”英雄”と呼ぶようになった。

しかし、心は癒えなかった。

 

夜の逢瀬で美しい女性の仲間を抱きながらも、

俺はいつもクロのことを思い出してしまう。

 

「クロさん……俺は君を殺したようなものだ。ダメだ、まだ君を忘れられない……」

 

俺は今も、クロの温もり、声、微笑みを忘れられない。

一流の冒険者になった今でもだ。

 

クロを守れなかった

 

あの日の無力感が、俺を苛み続けている。 

 

クロ……

 

俺は君のおかげで強くなれた。

 

でも、君がいない世界は、永遠に虚しい。

 

 

 

 

…ふう。

意識がフワッと浮上する感覚。

降下するジェットコースターみたいで、いまだに慣れない。

 

それはそうとして、体が……なんか小さい?

今回は……なんか違和感がすごい。

 

「……え?」

 

体を起こしてみて、ようやく気づいた。

手が小さい。

足が短い。

鏡代わりの水溜まりに映った自分の姿は——

幼女だった。

背の小さい、黒髪の可愛い女の子。

 

「…………あー、ミスった」

 

私は頭を抱えた。

複製体のラベルを間違えた。

大人用と子供用のスペアを入れ替えてしまっていたらしい。

 

まぁいいか。

今回はこれでいくか。

 

体を動かしてみる。

小さい体は軽いけど、魔力の制御が少し難しい。

まあ、慣れればどうにかなるだろう。

私は洞窟の壁に寄りかかり、ぼんやりと思い返した。

 

タツキとの日々……悪くなかったな。

 

不用心にそこら辺で寝ていたら、奴隷として売り飛ばされていたから驚いたもんだ。

そして奴隷市場でタツキと出会って、彼に買われたところから始まった。

 

最初はただの便利なパートナーだったのに、

あの熱血でシャイな少年は、すぐに私に夢中になった。

 

前世の話を聞いて、互いの絆が深まって……

そして、あの夜。

タツキが震える手で私を抱き、初めての夜を過ごした。

 

「クロさん……俺、初めてで……」

 

って、真っ赤になって言ってたっけ。

可愛かったな。

初めてがこんなクズで残念だったね。

 

ひとまず真名を隠蔽していた私は、彼に「クロ」という名前をもらって、恋人になった。

一緒に任務をこなし、笑い合い、夜を重ねた。

タツキは一生懸命で、善意にあふれていて……

でも、それが仇になった。

 

あの任務で、タツキが油断してピンチに陥った。

私は身を挺して彼を守った。

大柄な魔族に嬲られている最中も、タツキが動けず見ているだけの姿が、とても痛かった。

 

「タツキ……逃げて……」

 

最期にそう言って、微笑んだ。

彼が成長してくれるように。

 

「ふふ……タツキ、頑張ったね。立派な英雄になったかな?でも、心の傷はなかなか癒えないだろうね……まぁいいか。そこから先は彼の人生だ」

 

私は立ち上がり、小さな体で洞窟の出口に向かった。

幼女の姿で新しい人生を始めるなんて、久しぶりだなあ。

 

「次は……この姿で何をしようかな」

 

私は軽く笑って、歩き出した。

 

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