曇らせ魔女の復活記録   作:アスタロット

3 / 5
case3 転生者タツキ

 

俺の名はタツキ。

かつては普通の日本人だったが、ひょんな事からこっちの世界に来て強力な力を手に入れた。

チート能力と言われるほどじゃないけど、十分に強い。

ただ、実戦経験が足りなくて、よくヘマをするのが玉にキズって感じかな。

 

昨今は政府の魔法使い弾圧政策が激化し、魔族がそれに乗じて動き出そうとしている不穏な世情。

 

そんな中で、俺は信頼できる冒険者のパートナーを探していた。

前世で孤独だった俺は、誰かと本気で組みたいと思っていた。

奴隷市場に足を運んだのは、そんな理由からだった。

奴隷なら裏切る事も無いだろうし。

 

そうやって市場を見て回る事しばらく、一番奥で一人の女性を見つけた。

長い黒髪を乱れさせ、首輪を付けられた美しい女性。

さっそく鑑定スキルを発動させる。

 

【名前:???】

【職業:???】

【スキル:???】

 

……ほとんど読めない。

でもかなり珍しい。

彼女の潜在能力の高さや数値は、ぼんやりと伝わってきた。

この人となら、強くなれるかもしれない。

俺は思わず声を掛けた。

 

「君……大丈夫か?」

 

彼女は静かに微笑んだ。

 

「無理するな、坊や。ここでは身の丈にあった買い物をするもんだぞ?」

 

その笑顔に、胸が締め付けられた。

俺は決めた。

絶対にこの人を買う。

しかし、値段はたしかに俺の想像を絶する高額だった。

そこで俺は必死にクエストをこなし、金策に走った。

他の客に先を越されそうになりながら、前金を払いながら何とか資金をかき集めた。

 

そして、再び奴隷市場へ。

結果、他の客に先を越されず、俺は何とか彼女を購入することができた。

 

「名前は……?」

 

俺が尋ねると、彼女は静かに首を振った。

 

「名前がないから、名付けてくれ」

 

俺は前世で飼っていた黒猫の名前を思い出した。

 

「……クロ。クロでいいか?」

 

彼女は少し驚いた顔をした後、優しく微笑んだ。

 

「クロ……悪くない名前だね。よろしく、タツキ」

 

クロを買ったその足で教会へ向かう。

高額な免罪寄付をして、クロが魔女では無い証明を受ける。

もちろん、その資金も予め確保しておいたものだ。

そうやってクロは魔術を、始めて行使できるようになった。

 

その日から、俺たちの冒険者生活が始まった。

奴隷という身分ではあったが、俺はクロを対等なパートナーとして扱った。

前衛の俺と、補助・後衛担当のクロ。

お互いの能力を補完し合い、任務をこなしていく。

クロは経験豊富で、俺の未熟な判断を優しくフォローしてくれた。

 

「タツキ、焦らないで。君はもっと強くなれるよ」

 

ある夜、キャンプで焚き火を囲みながら、俺は前世のことを打ち明けた。

 

「俺は……異世界から来た。前世の記憶があるんだ」

 

クロは静かに聞き、優しく微笑んだ。

 

「そうか。信じるよ。私も……似たようなものだから」

 

その言葉で、俺たちの絆はさらに深まった。

ある任務の後、俺は勇気を出して告白した。

 

「クロさん……実は、俺は君に一目惚れだった。奴隷市場で初めて見たときから……」

 

顔が熱くなる。

童貞の俺は、こんなこと言うだけで心臓が爆発しそうだった。

クロは少し驚いた顔をした後、柔らかく笑った。

 

「ふふ、タツキは正直だね……いいよ。君が望むなら」

 

その夜、俺たちは一つになった。

初めての夜だった。

 

俺はぎこちなく、震える手でクロを抱いた。

クロは優しく俺を受け入れてくれた。

 

「タツキ、いい子だね」

 

そう囁いてくれた。

 

「クロさん……俺、初めてで……すごく緊張してる……」

 

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

 

互いの体温が溶け合うような、静かで熱い時間。

俺はクロにすべてを捧げた。

クロはそれを、優しく受け入れてくれた。

それ以来、俺たちは恋人同士になった。

 

「クロさん……俺、身を固めたいんだ。家を買って、落ち着いた生活もしたい」

 

俺がそう言うと、クロは優しく微笑んだ。

 

「タツキがそうしたいなら、いいよ」

 

 

資金が必要になった。

俺は多少危険な依頼も受けることにした。

今回の任務は、反乱勢力の鎮圧参加。

 

しかしその実態は、冒険者は軍の尖兵扱い。

参加してみれば、単なる使い捨ての駒だった。

 

状況が不利になったとき、クロが撤退を進言した。

 

「タツキ、離脱しよう。このままじゃ危ない」

 

しかし俺は頑なに拒否した。

 

「ダメだ!途中離脱は違約金がある!俺がなんとかする!」

 

能力を過信して油断した俺は、敵の罠に嵌まった。

ピンチに陥り、死にかけた瞬間だ。

クロが俺の前に飛び出した。

 

「タツキ、逃げて!」

 

クロは自らの魔力で盾を張り、俺を押し出した。

 

しかし、敵の増援が現れた。

大柄な魔族だった。

体躯は大人二人分を超え、筋肉と角に覆われた怪物。

魔族はクロを一目見て、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほう……女か。いい玩具だ」

 

クロは魔族の攻撃を何とか凌ごうとしたが、俺を守るために魔力を消耗しすぎていた。

魔族の巨大な腕がクロを捕らえ、地面に叩きつけた。

 

「ぐぅっ……!」

 

クロの苦痛の声が響く。

魔族はクロの体を玩具のように弄び始めた。

巨大な手で腕を捻り、爪で肌を裂き、角で突き刺す。

クロの悲鳴が戦場に木霊する。

 

「あああっ……!」

 

俺は脚の傷で動けず、ただそれを見ているしかなかった。

 

「クロさん……!?やめろ……やめろぉぉォォォォォォッ!!」

 

魔族は楽しげに笑いながら、クロの体を弄び続けた。

血が飛び散り、骨の折れる音が聞こえる。

クロは苦痛に顔を歪めながらも、最後に俺を見て微笑んだ。

 

「タツキ……逃げて…………」

 

その言葉を最後に、魔族の巨大な拳がクロの胸を貫いた。

クロの体がびくりと跳ね、血を吐きながら力なく崩れ落ちた。

魔族は満足げに笑い、今度は俺に向かってきた。

 

「次はお前だ」

 

巨大な足が俺の頭を踏み潰そうと振り下ろされる。

俺は動けず、ただ死を覚悟した。

その瞬間。

 

本軍の増援が到着した。

 

「魔族だ!囲め!」

 

多数の騎士と僧兵が魔族に殺到する。

数の力で圧倒され、魔族は怒りの咆哮を上げながらも、次第に追い詰められていった。

やがて魔族の首が落ち、巨体が地面に崩れ落ちる音が響いた。

 

俺は這うようにクロの遺体に近づき、抱きしめた。

温かかった体は急速に冷たくなり、血の匂いが鼻を突く。

 

「クロさん……クロさん……!」

 

俺は嗚咽した。

目の前で、無惨に嬲り殺されるクロの姿が、永遠に脳裏に焼き付いた。

 

「俺が……俺がもう少し強ければ……増援が来るまで耐えられたのに……クロさんを守れたのに……」

 

その瞬間、俺の中で何かが決定的に変わった。

 

“未熟さや弱さは罪だ”

 

俺は甘さを捨てた。

クロの死を糧に、一流の冒険者になるために精進を重ねた。

 

 

クロの死からしばらく後。

俺は若くして一流の冒険者となった。

剣の腕は誰にも引けを取らず、魔術の知識も深め、戦略的な判断力も身につけた。

多くの仲間が俺を”英雄”と呼ぶようになった。

しかし、心は癒えなかった。

 

夜の逢瀬で美しい女性の仲間を抱きながらも、

俺はいつもクロのことを思い出してしまう。

 

「クロさん……俺は君を殺したようなものだ。ダメだ、まだ君を忘れられない……」

 

俺は今も、クロの温もり、声、微笑みを忘れられない。

一流の冒険者になった今でもだ。

 

クロを守れなかった

 

あの日の無力感が、俺を苛み続けている。 

 

クロ……

 

俺は君のおかげで強くなれた。

 

でも、君がいない世界は、永遠に虚しい。

 

 

♢

 

 

…ふう。

意識がフワッと浮上する感覚。

降下するジェットコースターみたいで、いまだに慣れない。

 

それはそうとして、体が……なんか小さい?

今回は……なんか違和感がすごい。

 

「……え?」

 

体を起こしてみて、ようやく気づいた。

手が小さい。

足が短い。

鏡代わりの水溜まりに映った自分の姿は——

幼女だった。

背の小さい、黒髪の可愛い女の子。

 

「…………あー、ミスった」

 

私は頭を抱えた。

複製体のラベルを間違えた。

大人用と子供用のスペアを入れ替えてしまっていたらしい。

 

まぁいいか。

今回はこれでいくか。

 

体を動かしてみる。

小さい体は軽いけど、魔力の制御が少し難しい。

まあ、慣れればどうにかなるだろう。

私は洞窟の壁に寄りかかり、ぼんやりと思い返した。

 

タツキとの日々……悪くなかったな。

 

不用心にそこら辺で寝ていたら、奴隷として売り飛ばされていたから驚いたもんだ。

そして奴隷市場でタツキと出会って、彼に買われたところから始まった。

 

最初はただの便利なパートナーだったのに、

あの熱血でシャイな少年は、すぐに私に夢中になった。

 

前世の話を聞いて、互いの絆が深まって……

そして、あの夜。

タツキが震える手で私を抱き、初めての夜を過ごした。

 

「クロさん……俺、初めてで……」

 

って、真っ赤になって言ってたっけ。

可愛かったな。

初めてがこんなクズで残念だったね。

 

ひとまず真名を隠蔽していた私は、彼に「クロ」という名前をもらって、恋人になった。

一緒に任務をこなし、笑い合い、夜を重ねた。

タツキは一生懸命で、善意にあふれていて……

でも、それが仇になった。

 

あの任務で、タツキが油断してピンチに陥った。

私は身を挺して彼を守った。

大柄な魔族に嬲られている最中も、タツキが動けず見ているだけの姿が、とても痛かった。

 

「タツキ……逃げて……」

 

最期にそう言って、微笑んだ。

彼が成長してくれるように。

 

「ふふ……タツキ、頑張ったね。立派な英雄になったかな?でも、心の傷はなかなか癒えないだろうね……まぁいいか。そこから先は彼の人生だ」

 

私は立ち上がり、小さな体で洞窟の出口に向かった。

幼女の姿で新しい人生を始めるなんて、久しぶりだなあ。

 

「次は……この姿で何をしようかな」

 

私は軽く笑って、歩き出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。