この異世界に名探偵を! 作:匿名
読者の想像力にゆだねるのか、自分で情報を増やすべきなのか、
バランスが難しい。
「......俺は異世界から魔王を倒すために来た工藤新一だ。」
『......』
『なぜ魔王を狙う。』
「俺の願いのためだ。」
ドラゴンは赤々とした目で俺を見つめる。
『......なるほど。』
『娘が連れてきた男がどんな奴かと思えば。』
『威勢だけはいいホラ吹き小僧だとはね。』
全身を締め付けていた威圧感が、ふっと和らいだ。
気づけば喉が焼けるように乾いていた。
『ティコ、そいつは食べていいよ。』
「え。」
「......シンイチを食べるの?」
『お前が捕らえたエモノだ。お前が最初の一口を食え。』
「わ、私はシンイチを、食べたくない。肉はおいしくないもん!」
食べることを拒むティコをドラゴンは睨む。
『いつまでも食わず嫌いをするな。お前もドラゴンならば肉を食らえ、野を焼け、天を焼け。』
『その体躯に似合わない臆病さは誰に似たのだろうな......』
グルルルル
ドラゴンは大きく喉を鳴らす。
俺はキック力増強シューズのスイッチを入れる。
『お前が食べないのなら、私が食べよう。』
『安心しろ哀れな小僧、痛みは一瞬だ。』
ドラゴンが口を開け、俺に迫る。食べられることは確定らしい。
「食われてたまるかよ!」
俺はすかさずポケットから拾った石を取り出し、蹴り飛ばす。
石は弾丸のごとく一直線にドラゴンの喉奥に飛び込み、
「ゴギッ」
と乾いた音が洞窟内に響き渡った。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
急所に当たったのだろうか、ドラゴンが激しく首を振り、苦しみ始めた。
「おかあさん!?」
「ごめんなティコ!まだ死ぬわけにはいかねーんだ。じゃあな!」
俺は明かりとは反対方向に逃げ出す。
『ニガスカアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
ドラゴンは完全にブチ切れていた。
ドラゴンはすぐに起き上がり、口を大きく開ける。
喉の奥で光が渦を巻く。
(ヤバい。何だか分からねーけど、あれはヤバい!)
俺は洞窟内の岩陰に滑り込んだ。
「ダメーーーーッ!」
『ガァ!』
ティコがドラゴンの顎を下から殴りつけ、無理やり口を閉じさせる。
ドラゴンはまたもやひっくり返る。
『ジャマヲスルナアアアアアアアア!』
ドラゴンは半身を捻り、ティコを長い尾で弾き飛ばす。
(ティコ!あのドラゴン、理性が飛んでやがる。)
攻撃を止める気配はない。
集中がティコに向いている隙を狙い、ベルトからサッカーボールを射出し、
ドラゴンの顔を狙い蹴る。
ドラゴンの狙いがティコからボールに移る。
次の瞬間。ドラゴンの喉奥から青白い光線が放たれた。
青白い閃光がボールを飲み込み、一瞬で蒸発させた。
洞窟の壁面は光線の熱により赤く溶け落ちる。
(なんだ、その威力!?)
ドラゴンの口から噴き上がる業火がその顔を赤黒く照らす。
修羅のごとき形相がこちらを向く。
およそこの世のものではない光景に背筋が凍り付き、
ドラゴンから離れたここからでも肌が焼けるほどの熱を感じる。
炎に照らされた赤黒い巨体が岩石粉塵を蹴散らし、地響きとともに迫りくる。
走ろうとするも膝が震えて足が動かない。瞬間、俺の前に影が飛び出す。
「シンイチを食べないで!おかあさん!」
ティコが俺の前に立つ。その向こうでドラゴンが炎をまとって迫る。
燃え盛る炎をがティコを黒い影へと変え、その小さな背中が俺を庇うように立ちはだかる。
その姿を見た瞬間、俺の体が動き出した。
「ティコ!しゃがめ!」
もう一球、ベルトから射出する。
「いい加減、目を覚ませ!」
ボールをドラゴンへ蹴り飛ばす。
ドラゴンはボールをものともせず一直線に俺たちに迫りくる。
ボールとドラゴンが目前に迫った瞬間、ボールが爆ぜた。
博士の傑作、花火ボールが洞窟内を極彩色に照らし出す。
『グゥ!?』
予想外だったのだろう、衝撃にドラゴンが怯む。
視界をそがれ方向感覚を失った巨体は狙いを大きく外し、そのまま洞窟壁面に激突した。
ズドオオオオオオン!
洞窟全体が激しく揺れる。
大きな音ともに壁面は崩れ、ドラゴンの体は瓦礫に埋もれた。
「おかあさん!」
ティコは瓦礫に駆け寄り母親の安否を心配する。
瓦礫が崩れ、ドラゴンがゆっくりと顔を上げた。
修羅のごとき形相は収まり、ドラゴンはそのまましばらく周りの惨状を観察していた。
『......そうか。私は、やってしまったようだな。』
『よくやった蛮勇の小僧。我を失うほどに痛かったぞ。
私にここまでの痛手を負わせたのはお前が初めてだ。』
正気を取り戻したのか、ドラゴンは元の落ち着いた口調に戻っていた。
『ティコ、こっちに来い。』
ティコはいつの間に俺の背に隠れていた。
ドラゴンは深く息を吐きながら忌々しそうに俺を睨む。
ドラゴンはしばらく目を閉じていた。
やがて、ゆっくりとティコに頭を下げた。
「すまなかったティコ。我を失っていたとはいえお前を傷つけてしまった。」
ティコは涙を浮かべながらドラゴンの首に抱き着く。
「わたしも、おかあさんをひどいことしちゃった、ごめんなさい。」
二人は互いに謝罪し、ひとまずこの騒動は一旦の終結を見せた。
「シンイチもごめんなさいしなきゃだよ?」
「俺は謝んねーぞ。」
「おかあさんを泣かせちゃったんだから、ごめんなさいしなきゃダメ!」
『おい、我は泣いてないぞ。』
「食われそうになったから反撃しただけだ。これは正当ぼうへぃー、ひゃめろ。」
ティコに頬をぐいっと引っ張られる。
「むずかしいことを言ってもダメだよ。」
ティコに連れられて、俺はドラゴンの前に立たされる。
『......』
「......」
俺たちは互いに睨みあう。
ドラゴンは赤い瞳で俺を見る。
「ほらっ!なかなおり!」
「......無理。」
『当然だな。』
「えー」
『......借りはできた。』
「あぁ、これは貸しだ。」
(これ以上戦う必要もない。ここが落としどころだろう。)
「じゃあぎゅーして!」
『「は?」』
「ぎゅーしたらなかなおり!」
「絶対しねぇ。」
『断る。』
「なんでええええ!」
ドゴォォォン!!
その時、洞窟全体が揺れた。
「その人から離れなさい!」
壁面が内側へ吹き飛び、白い羽が舞う。
粉塵の向こうから、純白の翼を広げた天使がゆっくりと姿を現した。