Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
姿を消した早期警戒機。その不可解な現象を受け、第二空母打撃群は警戒をさらに強化します。
それでは、第九話をお楽しみください。
早期警戒機が霧の中で消失してから、一時間。
第二空母打撃群は速度を落とし、警戒態勢を維持しながら航行を続けていた。
艦橋には重い沈黙が流れている。
誰もが先ほどの出来事を忘れられずにいた。
「艦長。」
副長が静かに口を開く。
「各艦からの報告です。」
「艦隊に損害なし。」
「航行、機関、兵装ともに異常ありません。」
アンナは穏やかに頷いた。
「ありがとう。」
「引き続き、安全を最優先に進みましょう。」
「了解しました。」
その時、電子戦担当士官が振り返る。
「艦長。」
「また新しい電波を受信しています。」
「今度はどんなものかしら?」
「……分かりません。」
「発信源が一定しません。」
「艦隊の周囲を移動しているようです。」
大型モニターには、複数の波形が表示されていた。
どれも既知の軍用通信には一致しない。
人工的にも、自然現象にも見えない。
「解析結果は?」
「現在照合中です。」
「既存データとの一致率、ゼロです。」
副長が息を吐く。
「まるで、こちらを観察しているようですね。」
アンナは静かに戦術画面を見つめた。
「そうかもしれないわ。」
「でも、こちらから決めつけるのはやめましょう。」
「まずは事実を集めることが大切よ。」
その言葉に、艦橋の緊張が少しだけ和らぐ。
「艦長!」
見張り員が突然声を上げた。
「左舷方向に発光現象!」
全員が左舷を向く。
霧の向こうで、青白い光がゆっくりと浮かび上がっていた。
一つ。
二つ。
三つ。
まるで海面を滑るように、光が艦隊と並走している。
「速度は艦隊とほぼ同じです!」
「距離、およそ二海里!」
アンナは双眼鏡を手に取り、光を見つめる。
しかし、その正体は分からない。
光だけが、霧の中を静かに漂っていた。
やがて、その光は一斉に停止する。
そして――。
ふっと、すべてが消えた。
「消失……。」
誰かが小さくつぶやく。
電子戦担当士官が驚いた表情で報告する。
「発光現象の消失と同時に、不明電波も消えました!」
艦橋は再び静まり返る。
偶然とは思えなかった。
アンナはゆっくりと制帽のつばに手を添える。
「記録は忘れずに。」
「どんな小さなことでも、後で大切な手掛かりになるかもしれないわ。」
「了解!」
その直後、通信士が海軍総司令部との回線を開く。
「こちら『ほうしょう』。」
「ヴェール海において複数の異常現象を確認。」
「現在も調査を継続します。」
報告を終えた通信士は、アンナへ敬礼した。
アンナは静かに頷き、再び霧の海へ視線を向ける。
ヴェール海は、まだ何一つ答えを見せてはくれなかった。
だが、その海のどこかで、艦隊を見つめる"何か"が確かに存在していた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第1章もいよいよ終盤です。ヴェール海の謎はさらに深まり、第二空母打撃群は未知の存在へ少しずつ近づいていきます。
次回の更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。