Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
沈黙を続ける第一観測基地。その内部を調べるため、第二空母打撃群は調査隊を派遣する決断を下します。
それでは、第三話をお楽しみください。
第一観測基地を前に、第二空母打撃群は警戒態勢を維持したまま停泊していた。
濃い霧は基地全体を包み込み、静寂だけが海に広がっている。
「艦長。」
副長が戦術画面を見つめながら報告した。
「基地周辺の未確認反応に変化はありません。」
「六つの反応は依然として同じ位置に留まっています。」
アンナは静かに頷く。
「ありがとう。」
「こちらから刺激しない限り、動く様子はなさそうね。」
「はい。」
その時、通信士が声を上げた。
「艦長。」
「基地からの救難信号は現在も継続しています。」
「内容に変化はありません。」
アンナは基地の方向へ視線を向ける。
「このまま待つだけでは、何も分からないわ。」
「調査隊を派遣しましょう。」
艦橋の空気が引き締まる。
副長が確認する。
「調査隊は海兵隊を中心に編成しますか?」
「ええ。」
「医療班と通信班、それに技術班も同行してください。」
「基地に生存者がいた場合は、救助を最優先に。」
「了解しました。」
命令は直ちに各部署へ伝達された。
飛行甲板では、調査隊が装備の最終確認を行っている。
防弾装備に身を包んだ海兵隊員。
医療器材を携えた衛生員。
観測機器を準備する技術班。
誰もが無言で任務に集中していた。
アンナも飛行甲板へ姿を見せる。
調査隊長が敬礼した。
「艦長、調査隊二十四名、出動準備完了しました。」
アンナは一人ひとりの顔を見渡した。
「ありがとう。」
「危険を感じたら、無理をしないで戻ってきてください。」
「皆さんが無事に帰ることが、何より大切です。」
調査隊員たちは力強く敬礼した。
「了解!」
やがて、小型輸送艇が海面へ降ろされる。
エンジン音だけが静かな海に響いた。
輸送艇はゆっくりと第一観測基地の桟橋へ向かう。
「調査隊、間もなく接岸します。」
通信士の報告が艦橋へ届く。
大型モニターには、輸送艇から送られる映像が映し出されていた。
朽ちてはいない桟橋。
係留されたまま動かない作業艇。
そして、人影のない基地。
「接岸。」
調査隊長の声が無線から聞こえる。
『こちら調査隊。第一観測基地へ上陸します。』
隊員たちは慎重に周囲を警戒しながら桟橋を進んでいく。
風の音だけが聞こえる。
鳥の姿もない。
波の音さえ小さい。
異様な静けさだった。
「艦長。」
通信士が不安そうな表情を浮かべる。
「調査隊との通信は良好です。」
「ですが……。」
「どうしたの?」
「基地の内部から、微弱な電波を複数受信しています。」
「発信源は特定できません。」
アンナは静かに息をついた。
「調査隊へ伝えて。」
「決して単独行動はしないように。」
「はい。」
その直後、調査隊から新たな報告が入る。
『こちら調査隊。』
『基地正面入口に到着。』
『これより施設内部へ進入します。』
通信が終わると、艦橋には再び静かな緊張が広がった。
アンナはモニターに映る閉ざされた扉を見つめる。
その扉の向こうに何が待っているのか。
それを知る者は、まだ誰もいなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに調査隊が第一観測基地へ上陸しました。次回はいよいよ基地内部の調査が始まり、ヴェール海の謎へ一歩踏み込んでいきます。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。