Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
調査隊は第一観測基地の司令室で重要な記録を発見します。その中には、基地で何が起きたのかを示す手掛かりが残されていました。
それでは、第五話をお楽しみください。
司令室で発見された端末から、調査隊は記録データの回収を続けていた。
基地内は依然として静まり返っている。
物音一つなく、聞こえるのは端末の動作音と隊員たちの足音だけだった。
『こちら調査隊。』
『記録装置への接続に成功しました。』
通信が「ほうしょう」の艦橋へ届く。
アンナは穏やかに答えた。
「ありがとう。」
「焦らず、安全を確認しながら進めてください。」
『了解しました。』
技術班の隊員が端末を操作すると、一つの映像ファイルが表示された。
ファイル名は、
「最終報告記録」
隊長が映像を再生する。
画面が暗転し、一人の男性が映し出された。
基地司令官だった。
制服は乱れ、疲労の色が濃く浮かんでいる。
『こちら第一観測基地司令、エリック・ハーグリーブス大佐。』
『これが最後の報告になるかもしれない。』
調査隊の誰もが息をのむ。
司令官は震える手で資料を机に置いた。
『ヴェール海の調査は失敗した。』
『我々は、決して触れてはならないものに近づいてしまった。』
その言葉に、艦橋の空気も張り詰める。
アンナは黙って映像を見つめていた。
司令官は続ける。
『海底で確認した人工構造物の調査以降、基地周辺で原因不明の現象が続いている。』
『姿の見えない艦影。』
『正体不明の電波。』
『そして――』
映像が突然乱れる。
激しいノイズが画面を埋め尽くした。
『ザーッ……』
数秒後、映像は回復する。
しかし、司令官の表情はさらに険しくなっていた。
『奴らは、こちらを見ている。』
『どこにいても……見られている。』
『もし、この記録を誰かが見ているなら――』
そこで司令官は言葉を止めた。
ゆっくりと部屋の入口へ視線を向ける。
まるで、誰かがそこに立っているように。
『……来た。』
その一言の直後。
照明が消え、映像は完全に途切れた。
司令室は静まり返る。
隊員の一人が小さくつぶやく。
『これで終わり……なのか。』
技術班が端末を確認する。
『いいえ。』
『まだ暗号化されたデータがあります。』
『ただ、通常の権限では開けません。』
隊長はその内容を艦橋へ報告した。
アンナは少し考え、静かに命じる。
「無理に解析しなくて大丈夫です。」
「まずはデータを回収しましょう。」
「艦へ持ち帰れば、本部でも解析できます。」
『了解しました。』
その時だった。
基地全体がわずかに揺れる。
ゴォン……。
低く響く振動が、床を伝わって隊員たちの足元を震わせた。
『地震でしょうか?』
隊員が周囲を見回す。
しかし、天井の照明は揺れていない。
壁にも亀裂はない。
振動だけが、一瞬で消えていた。
「艦長。」
通信士が慌てた様子で報告する。
「基地周辺の未確認反応が動き始めました!」
戦術画面では、六つの赤い光点がゆっくりと基地へ接近していた。
アンナは冷静に命じる。
「調査隊へ連絡。」
「記録を確保したら、速やかに撤収してください。」
「決して無理はしないで。」
『了解!』
調査隊は記録媒体を回収し、司令室を後にする。
しかし、その背後の暗い通路では、誰にも気付かれることなく、青白い二つの光が静かに揺れていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
基地司令官が残した最後の記録は、新たな謎を残したまま途切れました。そして、基地の外では再び未確認反応が動き始めています。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。