Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
地下区画で不可解な現象を目撃した調査隊は撤収を開始します。しかし、ヴェール海は彼らを簡単には帰そうとはしません。
それでは、第七話をお楽しみください。
地下区画を離れた調査隊は、隊形を維持したまま地上階へ向かっていた。
誰も口を開かない。
静かな通路には隊員たちの足音だけが響いている。
『こちら調査隊。』
『地下区画から離脱しました。』
『現在、正面入口へ向かっています。』
その報告を受け、アンナは安堵したように小さく息をついた。
「ありがとう。」
「そのまま慎重に戻ってきてくださいね。」
『了解しました。』
しかし、その直後だった。
調査隊最後尾の隊員が立ち止まる。
「どうした?」
隊長が振り返る。
最後尾の隊員は通路の奥を見つめたまま、小さく答えた。
『……今、誰かがいました。』
全員が一斉にライトを向ける。
薄暗い通路には誰もいない。
扉も閉じられたまま。
物音一つ聞こえない。
「見間違いじゃないのか?」
『いいえ。』
『白い服のようなものが、一瞬だけ見えました。』
隊員たちの間に緊張が走る。
隊長は静かに命じた。
『周囲を警戒。』
『単独行動は禁止。』
『了解。』
再び歩き始めた、その時。
パッ。
基地内の照明が一斉に消えた。
『停電!』
非常灯だけが赤く点灯し、通路は薄暗い赤色に染まる。
「落ち着いて。」
アンナの声が無線から響く。
「慌てなくて大丈夫です。」
「ゆっくり出口へ向かってください。」
『了解。』
隊員たちはライトを頼りに進み続ける。
すると通信機から激しい雑音が流れ始めた。
『ザー……』
『……ザー……』
『こちら……』
『聞こえ……ます……か……』
通信士が驚いた声を上げる。
「艦長!」
「調査隊とは別の音声を受信しています!」
「発信源は?」
「基地内部です!」
アンナは静かに指示を出す。
「録音してください。」
「通信は切らないで。」
「了解。」
その時、調査隊の隊員が足を止めた。
『隊長。』
『正面入口です。』
重い扉は半分ほど開いている。
外からは白い霧がゆっくりと流れ込んできていた。
『ようやく戻れますね。』
隊員が安心したように言う。
しかし隊長は首を横に振った。
『まだ油断するな。』
『艦へ戻るまでが任務だ。』
全員が頷き、慎重に外へ出る。
その瞬間、最後尾の隊員が再び振り返った。
地下へ続く暗い通路。
その奥で、二つの青白い光が静かに揺れていた。
目のようにも見える。
だが次の瞬間には消えていた。
『……今のは。』
誰も答えない。
調査隊は急いで桟橋へ向かい、小型輸送艇へ乗り込む。
エンジンが始動し、ゆっくりと第一観測基地を離れていく。
「艦長。」
見張り員が双眼鏡をのぞきながら報告した。
「基地屋上に人影らしきものを確認。」
アンナは双眼鏡を受け取り、その方向を見る。
霧の中に、一人の人影が立っている。
調査隊ではない。
細身のシルエットは微動だにせず、ただ艦隊の方を見つめていた。
アンナが瞬きをした、その一瞬。
人影は霧の中へ溶けるように姿を消した。
「……見間違い、ではないわよね。」
副長は静かに答えた。
「私にも見えました。」
誰もいないはずの第一観測基地。
それでも、確かに何者かが艦隊を見送っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
調査隊は無事に帰還しましたが、第一観測基地には依然として多くの謎が残されています。
次回は回収した記録の解析が始まり、新たな事実が明らかになります。更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。