Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
プロローグに続き、アンナ・アンダーソン率いる第二空母打撃群の航海が描かれます。
ゆっくりと広がっていく北洋連邦共和国の世界を、ぜひお楽しみください。
第一話 外洋
ノーザンクトハーバーを出港した北洋海軍第二空母打撃群は、穏やかな海を進んでいた。
青く澄み渡る空。
どこまでも続く水平線。
追い風を受けた艦隊は整然とした陣形を維持しながら、目指すはヴェール海を目指す。
艦隊の先頭を進むのは、航空母艦「ほうしょう」。
その周囲を巡洋艦、駆逐艦、補給艦、そして水面下では潜水艦隊が護衛している。
巨大な艦体が海を切り裂き、白い航跡を長く残していく。
艦橋では、乗組員たちが各持ち場で任務を続けていた。
「針路
航海長の報告に、アンナは静かにうなずく。
「ありがとう。このままお願いね」
「はい、艦長。」
落ち着いた声が艦橋に響く。
慌ただしさはない。
しかし誰も気を抜いてはいなかった。
今回の任務は、通常の
ヴェール海第一観測基地との通信が途絶えて以来、海軍総司令部は事態を国家危機と判断していた。
艦橋前方の大型スクリーンには、艦隊全体の戦術図が映し出されている。
青い光点が味方艦艇。
その先に表示される灰色の海域。
そこが、人類未踏の海――ヴェール海だった。
「現在位置、予定どおりです。」
「ヴェール海境界まで約三百海里。」
通信士の報告に、副長が腕を組む。
「順調すぎるな……。」
その言葉に、艦橋の空気が少しだけ重くなる。
ヴェール海へ向かった艦艇の中には、帰還しなかったものも少なくない。
霧の中へ消えた艦。
原因不明の遭難。
記録だけを残して消息を絶った調査船。
数え切れないほどの謎が、ヴェール海には眠っていた。
アンナは静かに海を見つめる。
穏やかな波。
風速も視界も問題ない。
それでも胸の奥に、小さな違和感が残っていた。
「……静かすぎる。」
誰に言うでもなく漏れた一言。
副長はその言葉に小さくうなずいた。
「嵐の前ほど、海は静かですからね。」
その時だった。
「艦長。」
レーダー員が声を上げる。
「どうしたの?」
「長距離レーダー正常。」
「ソナー正常。」
「航空哨戒部隊との通信も良好です。」
「……ですが。」
艦橋の全員がレーダー員を見る。
「海面温度が、予測値より三度低下しています。」
副長が眉をひそめた。
「三度?」
「はい。原因は不明です。」
アンナは少し考え、静かに命じる。
「記録を続けてください。」
「何か変化があったら、すぐ知らせてね。」
「了解。」
命令を受けた乗組員たちは再び持ち場へ戻る。
だが、誰もが心のどこかで感じていた。
この航海は、いつもの任務とは違う。
艦隊は白い航跡を残しながら、未知なる海へ向けて進み続ける。
ヴェール海まで、あと三百海里。
まだ誰も、その海で待ち受ける運命を知らなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第二空母打撃群はいよいよヴェール海へと近づいていきます。次回の更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。