Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
調査隊が持ち帰った記録媒体の解析が始まります。そこには、第一観測基地が隠し続けてきた驚くべき事実が残されていました。
それでは、第八話をお楽しみください。
調査隊を乗せた小型輸送艇は、「ほうしょう」の舷側へと接舷した。
隊員たちは疲労の色を見せながらも、全員が無事に帰還する。
飛行甲板ではアンナが調査隊を迎えていた。
「皆さん、おかえりなさい。」
「本当にご苦労さまでした。」
隊長は敬礼し、回収した記録媒体を差し出す。
「地下区画で回収したものです。」
「司令室の端末記録と、研究資料と思われるデータが保存されています。」
アンナは丁寧に受け取り、小さく頷いた。
「ありがとう。」
「まずは休息を取ってください。」
「解析は私たちに任せます。」
隊長たちは敬礼すると、医療班の案内で艦内へ向かった。
その後、戦闘指揮所では技術班による解析が始まる。
「艦長。」
「暗号化データの復元に成功しました。」
技術班長が報告する。
大型モニターには、一枚の電子文書が表示された。
文書の表題には、こう記されている。
『ヴェール海深部特別調査計画』
副長が思わず息をのむ。
「特別調査計画……。」
技術班長は解析を続ける。
「この計画は第一観測基地だけではなく、本部直属の極秘計画だったようです。」
「目的は、海底人工構造物の調査と未知のエネルギー反応の観測。」
「さらに……。」
技術班長の表情が曇る。
「調査中に複数の隊員が『視線を感じる』『誰かに見られている』と報告しています。」
艦橋は静まり返った。
アンナは冷静な表情を崩さない。
「続けて。」
「はい。」
次の記録には、海底探査艇の映像が保存されていた。
暗い海底。
ライトが海底を照らす。
やがて巨大な建造物が姿を現した。
石造りとも金属とも判別できない壁。
規則正しく並ぶ巨大な柱。
そして中央には、円形の広場のような空間。
「これは……。」
誰も言葉を失う。
その時だった。
映像の奥を、何か黒い影が横切る。
一瞬だった。
探査艇のカメラが追尾する前に、その影は闇へ消えていた。
直後に映像は激しく乱れ、そこで記録は終わる。
技術班長が静かに口を開く。
「この映像の直後から、第一観測基地との通信が不安定になっています。」
「そして数時間後、基地は消息を絶ちました。」
アンナは腕を組み、しばらく考え込む。
「つまり……。」
「基地で起きた異変は、この海底構造物の調査が始まりなのね。」
「その可能性は高いと思われます。」
副長が答えた。
その時、通信士が慌ただしく席を立つ。
「艦長!」
「基地から発信されていた救難信号が停止しました!」
全員が戦術画面へ目を向ける。
数日間、途切れることなく流れていた信号。
それが今、完全に消えた。
「確認して。」
アンナが指示する。
通信士は何度も受信を試みる。
しかし応答はない。
「……受信できません。」
「完全に停止しています。」
艦橋に重苦しい沈黙が流れる。
アンナは静かに前を見据えた。
「ヴェール海は、私たちに何かを伝えようとしているのかもしれない。」
「でも、恐れるだけでは前へ進めないわ。」
「私たちは、この海の真実を見つけます。」
その言葉に、艦橋の乗組員たちは静かに頷いた。
しかし誰も気付いていなかった。
遠く霧の向こうで、海面に青白い光がゆっくりと浮かび上がり、「ほうしょう」を見つめていたことを。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第一観測基地の記録から、ヴェール海の異変が海底人工構造物と関係している可能性が見えてきました。物語はここからさらに核心へと近づいていきます。
次回の更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。