Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
第二章もいよいよ最終話です。第一観測基地で回収した記録、そしてヴェール海で起きた数々の異変。そのすべてが、一つの決断へとつながります。
それでは、第十話をお楽しみください。
第一観測基地を離れてから半日。
第二空母打撃群は警戒態勢を維持したまま、ヴェール海の外縁部を航行していた。
「ほうしょう」の戦闘指揮所では、回収した記録媒体の最終解析が続けられている。
「艦長。」
技術班長がモニターへ新たな映像を映し出した。
「暗号化されていた最後の記録を復元しました。」
艦橋の空気が静まり返る。
「再生してください。」
アンナの指示で映像が始まる。
画面には、第一観測基地司令官エリック・ハーグリーブス大佐が映っていた。
その表情は、第5話で見た映像よりもさらに疲弊している。
『この記録を見ているということは……我々はもう基地にはいないだろう。』
司令官はゆっくりと言葉を続けた。
『ヴェール海の異変は、自然現象ではない。』
『海底人工構造物は、遥か昔からこの海に存在していた。』
『我々は調査の過程で、その構造物を起動させてしまった可能性が高い。』
艦橋では誰も言葉を発しない。
『あれは兵器なのか。』
『施設なのか。』
『それとも、まったく別の何かなのか。』
『今の我々には判断できない。』
司令官は一枚の海図を広げる。
そこにはヴェール海の中心部へ向かう一本の航路と、赤い円で囲まれた海域が記されていた。
『この海域には近づくな。』
『調査隊を送るな。』
『艦隊を進ませるな。』
『この警告だけは、必ず守ってほしい。』
そこで司令官は小さく息を吐く。
『だが、もし人類がいつかヴェール海の真実を知る日が来るなら……。』
『その時は十分な準備を整え、決して油断することなく、この海へ臨んでほしい。』
映像はそこで終わった。
戦闘指揮所には重苦しい沈黙が流れる。
副長が静かに口を開いた。
「中心海域への接近を禁じる警告……。」
「これまでの異常現象とも一致します。」
技術班長も頷いた。
「海底人工構造物の位置も、この赤い海域の中です。」
アンナは海図を見つめたまま考え込む。
ヴェール海。
第一観測基地。
消息を絶った調査隊。
海底人工構造物。
そして残された最後の警告。
すべてが一つの場所を指し示していた。
しばらくの沈黙の後、アンナは静かに顔を上げる。
「今回の任務で得られた成果は十分です。」
「これ以上の無理な調査は行いません。」
「一度本部へ帰投し、記録と資料を提出しましょう。」
副長は力強く敬礼した。
「了解しました。」
命令は第二空母打撃群全艦へ伝達される。
艦隊はゆっくりと反転し、ヴェール海の出口へ向けて進み始めた。
その時だった。
見張り員が前方を指さす。
「艦長!」
「霧が晴れています!」
全員が前方を見る。
ヴェール海を覆っていた濃霧が、まるで道を開くように左右へ流れていく。
その先には、穏やかな青い海と澄み切った空が広がっていた。
アンナは静かに微笑む。
「帰りましょう。」
「みんな、本当にありがとう。」
乗組員たちの表情にも、ようやく安堵の色が浮かぶ。
しかし、誰も気付かなかった。
艦隊の後方、再び霧に包まれたヴェール海の中心部で、海面の下から巨大な青白い光がゆっくりと浮かび上がっていたことを。
それはまるで、人類との再会を静かに待ち続けているかのようだった。
第二空母打撃群は帰還する。
だがヴェール海の謎は、何一つ終わってはいない。
それは、これから始まるさらに大きな物語への序章に過ぎなかった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
これで第二章「沈黙の観測基地」は完結です。
第一観測基地での調査によって、ヴェール海の異変が海底人工構造物と深く関係していること、そして中心海域には決して近づいてはならないという警告が残されていたことが明らかになりました。しかし、その警告の真意や青白い光の正体など、多くの謎はまだ解き明かされていません。
次章では、本部へ帰投した第二空母打撃群が回収した資料の分析を進める一方、新たな任務とヴェール海を巡る国家規模の動きが描かれていきます。
次回の更新はいつになるか分かりませんが、これからも温かく見守っていただければ嬉しいです。
それでは、第3章でまたお会いしましょう。