Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
ヴェール海で観測された大規模な異常反応。その原因を探るため、海軍総司令部は緊急の分析を開始します。
それでは、第四話をお楽しみください。
ヴェール海で発生した大規模なエネルギー反応は、北洋連邦共和国の観測網全体を揺るがしていた。
海軍総司令部情報解析センターでは、観測ブイや偵察衛星、沿岸レーダー基地から送られてくる膨大なデータが次々と大型スクリーンへ映し出されている。
「反応、さらに拡大しています。」
解析員が緊張した声で報告した。
「中心海域から半径百海里まで影響を確認。」
「電磁波の強度も上昇を続けています。」
主任研究員リディア・ノルマンは画面を見つめたまま、小さく息をのんだ。
「こんな現象……記録にはありません。」
アンナも資料へ目を落とす。
第一観測基地が残した記録。
海底人工構造物。
そして「門は再び開かれる」という謎の通信。
すべてが頭の中で結び付いていく。
その時、通信士が解析室へ駆け込んできた。
「アンナ大佐!」
「ヴェール海沿岸の第二観測基地から緊急報告です!」
室内の視線が一斉に集まる。
「読み上げてください。」
アンナが静かに指示した。
「はい。」
通信士は端末を確認する。
「『中心海域方向の濃霧が急速に拡大。通常海域へ流出する兆候あり。現在、観測機器の一部が使用不能。原因不明の通信を断続的に受信中』とのことです。」
副長が険しい表情を浮かべる。
「ヴェール海の外へ影響が出始めている……。」
研究員たちも動揺を隠せない。
もし霧が外洋へ広がれば、航路や沿岸都市にも影響が及ぶ可能性があった。
海軍総司令長官は静かに立ち上がる。
「これ以上、状況を見過ごすことはできない。」
「ヴェール海特別調査任務群の出航準備を前倒しする。」
その一言で室内の空気が引き締まる。
アンナは長官へ敬礼した。
「了解しました。」
「直ちに準備へ移ります。」
会議終了後、アンナは「ほうしょう」へ戻った。
飛行甲板では整備員たちが艦載機の最終点検を続け、補給班は食料や燃料、医療物資を積み込んでいる。
格納庫では研究班が新型の海底探査機や観測装置の動作確認を行っていた。
誰もが忙しく動いている。
しかし、その表情には緊張が見え隠れしていた。
アンナは乗組員たちの前に立つ。
「皆さん。」
「急な準備になってしまいましたが、本当にありがとうございます。」
乗組員たちは静かに耳を傾ける。
「次の任務は、今まで以上に危険になるかもしれません。」
「でも、焦る必要はありません。」
「いつもどおり、お互いを信じて、一歩ずつ進んでいきましょう。」
その言葉に、乗組員たちは力強く頷いた。
「了解!」
その夜。
ノーザンクトハーバーの沖合では、静かな海面に月明かりが映っていた。
だが、その遥か沖――ヴェール海の方向では、夜空を淡く照らす青白い光がゆっくりと脈動を繰り返していた。
それはまるで、誰かを呼び寄せる灯火のように。
そして新たな航海の時は、刻一刻と近づいていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴェール海の異変はついに外洋へ影響を及ぼし始めました。次回はいよいよ特別調査任務群が出航へ向けて動き出します。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第五話でまたお会いしましょう。