Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
出航準備は最終段階へ入り、ヴェール海特別調査任務群はいよいよ任務開始の時を迎えます。しかし、その直前に思いもよらない報せが届きます。
それでは、第五話をお楽しみください。
ノーザンクトハーバー海軍基地では、ヴェール海特別調査任務群の最終準備が進められていた。
「ほうしょう」を旗艦とし、護衛艦隊、潜水艦隊、補給艦隊、海洋観測艦、科学調査船が順次集結する。
埠頭には補給車両が行き交い、整備員たちは最後の点検に追われていた。
飛行甲板では艦載機の燃料補給が行われ、格納庫では探査用無人機の整備が進められている。
アンナは飛行甲板を歩きながら、その光景を見つめていた。
「艦長。」
副長が新しい資料を持って近づく。
「参加部隊の集結が完了しました。」
「全艦、出航命令を待機しています。」
アンナは資料に目を通し、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう。」
「皆さんのおかげで、予定より早く準備が整いましたね。」
「はい。」
「士気も高く、各艦とも異常はありません。」
その時、艦内放送が静かに流れた。
「アンナ・アンダーソン大佐。」
「海軍総司令部よりご連絡です。」
アンナは司令部との通信室へ向かう。
大型モニターには海軍総司令長官が映し出されていた。
「アンナ大佐。」
「任務開始前に、新たな情報が入った。」
長官の表情はこれまで以上に険しい。
「本日未明、ヴェール海西方海域で民間貨物船一隻との通信が途絶した。」
会議室の空気が張り詰める。
「遭難信号は?」
アンナが静かに尋ねる。
「確認されていない。」
「ただし、通信が途絶える直前に短い音声記録が残されていた。」
長官は音声データを再生する。
『……霧が……近づいて……。』
『船じゃ……ない……。』
『誰か……いる……。』
激しい雑音。
そして通信は途絶えた。
アンナは静かに目を閉じる。
第一観測基地。
幻の艦影。
青白い光。
すべてが頭をよぎる。
「貨物船の位置は?」
「ヴェール海西方海域。」
「本来なら霧の影響を受けないはずの場所だ。」
研究員リディアが資料を見ながら言う。
「異変が拡大している可能性があります。」
長官は静かに頷いた。
「特別調査任務群には任務を変更してもらう。」
「第一目標は、消息を絶った貨物船の捜索と乗員の救助。」
「その後、安全を確認したうえでヴェール海へ向かってもらう。」
アンナは姿勢を正した。
「了解しました。」
「可能な限り生存者の救助を優先します。」
通信が終了すると、副長が小さく息を吐く。
「また新たな事件ですね。」
アンナは穏やかに答える。
「困っている人がいるなら、私たちは助けに行きます。」
「それが海軍ですから。」
副長は力強く敬礼した。
「はい、艦長。」
その日の夕方。
港では各艦が出航に備えて係留索を確認し、艦内では最後の物資搬入が終わろうとしていた。
静かな軍港。
しかし、その穏やかな空気とは裏腹に、ヴェール海の沖合では青白い光が再び海面を照らしていた。
そして誰にも気付かれることなく、その光は前回よりも確かに強くなっていた。
新たな任務。
新たな謎。
ヴェール海は、再び彼らを呼んでいた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回はいよいよヴェール海特別調査任務群が出航します。しかし、その前に待ち受けるのは、消息を絶った貨物船の捜索という新たな任務です。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第六話でまたお会いしましょう。