Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
ヴェール海特別調査任務群は、消息を絶った貨物船の捜索任務を開始します。しかし、その海域ではすでに異変が始まっていました。
それでは、第六話をお楽しみください。
海洋暦21XX年
07:00
ノーザンクトハーバー海軍基地では、ヴェール海特別調査任務群が静かに出航の時を迎えていた。
「総員、出航配置。」
艦内放送が響き、乗組員たちは持ち場へ着く。
係留索が順番に解かれ、「ほうしょう」はゆっくりと岸壁を離れた。
続いて護衛艦、補給艦、海洋観測艦、潜水艦が次々と港外へ向かう。
港には見送りの人々が並び、任務群を静かに見送っていた。
アンナは艦橋からノーザンクトハーバーの街並みを見つめ、小さく一礼する。
「行ってきます。」
その一言には、必ず全員で帰るという決意が込められていた。
艦隊は一路、消息を絶った貨物船の最終確認海域へ向けて進路を取る。
数時間後。
海面には濃い霧が立ち込め始めていた。
「艦長。」
見張り員が双眼鏡を下ろす。
「前方海域、視界が急激に悪化しています。」
副長も戦術画面を確認する。
「通常の気象データとは一致しません。」
「ヴェール海の霧に似ています。」
アンナは静かに命じる。
「全艦へ。」
「警戒態勢を維持してください。」
「各艦との通信を密に。」
「了解。」
艦隊は速度を落とし、慎重に霧の中を進む。
レーダーには異常はない。
しかし目視では、白い霧がゆっくりと艦隊を包み込んでいく。
その時だった。
「艦長!」
通信士が声を上げる。
「救難信号を受信!」
艦橋の空気が一変する。
「内容は?」
「自動送信です!」
「発信源は、消息を絶った貨物船!」
アンナは即座に命じる。
「発信位置を表示してください。」
大型スクリーンに赤い光点が映る。
艦隊から約五海里。
「近いですね。」
副長がつぶやく。
アンナは穏やかに頷いた。
「救助部隊を準備。」
「航空隊にも待機を命じてください。」
「了解。」
やがて霧の向こうに黒い影が見え始める。
「前方に船影!」
見張り員が叫ぶ。
双眼鏡の先には、一隻の大型貨物船が静かに漂流していた。
船体に大きな損傷はない。
煙も出ていない。
だが、甲板には人影がまったく見えなかった。
「通信を。」
アンナが指示する。
「こちら北洋連邦共和国海軍、ヴェール海特別調査任務群旗艦『ほうしょう』。」
「応答をお願いします。」
返事はない。
通信士が再度呼びかける。
しかし、応答はなかった。
静かな海。
漂流する貨物船。
そして、不自然な沈黙。
その時、電子戦担当士官が画面を見つめたまま報告する。
「艦長。」
「貨物船内部から微弱な電波を検知しました。」
「通信ではありません。」
「何ですか?」
「一定の間隔で繰り返される信号です。」
研究員リディアが解析装置を確認する。
「これは……第一観測基地で受信したものと酷似しています。」
艦橋の空気が再び張り詰める。
アンナは静かに貨物船を見つめた。
「まずは乗員の安否を確認しましょう。」
「救助が最優先です。」
「ただし、慎重に。」
「決して無理はしないでください。」
「了解!」
救助艇がゆっくりと海面へ降ろされる。
隊員たちは救命装備を確認しながら、漂流する貨物船へ向かっていく。
その様子を、アンナは静かに見守っていた。
しかし誰も知らなかった。
霧のさらに奥。
貨物船の背後で、巨大な青白い影がゆっくりと海中を移動していたことを。
その正体は、まだ誰の目にも映ってはいなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに消息を絶った貨物船を発見しました。しかし、そこには第一観測基地と同じ異変の気配が漂っています。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第七話でまたお会いしましょう。