Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
漂流する貨物船へ救助隊が向かいます。しかし、船内に足を踏み入れた隊員たちは、第一観測基地とよく似た異様な光景を目にすることになります。
それでは、 第七話をお楽しみください。
救助艇は波を切りながら、静かに漂流する貨物船へ近づいていく。
「こちら救助隊。」
「まもなく接舷します。」
通信は良好だった。
「ほうしょう」の艦橋では、アンナが大型モニターに映し出される映像を見守っている。
「ありがとう。」
「焦らなくて大丈夫です。」
「周囲を十分に確認しながら進んでください。」
『了解しました。』
救助艇は貨物船の左舷へ接舷し、隊員たちは慎重に乗り移った。
甲板は静まり返っている。
風が吹くたびに、ロープが軋む音だけが響いた。
「船内へ入ります。」
隊長の合図で数名の隊員が船橋へ向かう。
扉は施錠されておらず、ゆっくりと開いた。
船橋の機器は通電したままだった。
レーダーも航海装置も稼働している。
だが、操舵室には誰一人いない。
「艦長。」
「船橋を確認しました。」
「乗員の姿はありません。」
アンナは静かに答えた。
「引き続き調査をお願いします。」
「決して無理はしないでください。」
『了解。』
救助隊は居住区へ向かう。
食堂には温められたままの食事。
休憩室には読みかけの本。
通路には脱ぎ捨てられた作業手袋。
第一観測基地と同じように、人だけが忽然と姿を消していた。
「不自然ですね……。」
若い隊員が小さくつぶやく。
隊長も頷く。
「争った形跡はない。」
「まるで全員が一瞬で消えたようだ。」
その時だった。
「ピッ……」
船内放送設備が突然起動する。
ザーッという雑音の後、かすかな声が流れた。
『……た……す……け……』
通信ではない。
船内放送だった。
救助隊全員が足を止める。
「誰かいるのか!」
隊長が呼びかける。
しかし返事はない。
再び雑音だけが響く。
『ザー……』
やがて放送は途切れた。
「艦長。」
隊長が無線を開く。
「船内放送設備が勝手に作動しました。」
「音声を記録しています。」
「ありがとう。」
アンナは穏やかに答える。
「そのまま調査を続けてください。」
「ただし、危険を感じたら直ちに戻ってください。」
『了解しました。』
救助隊は機関室へ向かう。
巨大な機関は停止しているが、大きな故障は見当たらない。
「漂流の原因も分かりません。」
機関担当の隊員が報告する。
その時、研究員が貨物室の扉を見つけた。
「こちらを確認します。」
扉を開ける。
そこには整然と積まれたコンテナが並んでいた。
しかし、その中央だけが不自然に空いている。
床には青白く光る細かな結晶が散らばっていた。
「これは……。」
研究員がしゃがみ込み、慎重に採取容器へ入れる。
「第一観測基地の地下区画で採取した物質と似ています。」
その報告を聞いたリディアは驚きを隠せなかった。
「同じ物質……。」
「なぜ貨物船に……。」
その瞬間。
船全体がゆっくりと揺れた。
ギィィ……。
船体が軋む音が響く。
「揺れ?」
隊員たちが顔を見合わせる。
海は穏やかなはずだった。
それなのに貨物船だけが揺れている。
「艦長!」
見張り員が「ほうしょう」の艦橋で叫んだ。
「貨物船の周囲で海面が波立っています!」
アンナは双眼鏡を手に取り、その方向を見る。
白い霧の下で海面がゆっくりと盛り上がり、大きな円を描くように波紋が広がっていた。
まるで海の底から、何か巨大なものが近づいてくるように。
アンナは静かにマイクを握る。
「救助隊。」
「直ちに調査を中断してください。」
「全員、安全を確保しながら帰還してください。」
『了解!』
隊員たちはすぐに撤収を開始する。
しかし、その時。
貨物船の船橋の窓に、一瞬だけ白い人影が立っているのを、最後尾の隊員が目撃した。
振り返った次の瞬間、その姿は跡形もなく消えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
貨物船でも第一観測基地と同じような異変が確認されました。そして海の底では、何か巨大な存在が動き始めています。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第八話でまたお会いしましょう。