Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
救助隊が貨物船からの撤収を開始したその時、ヴェール海でこれまでにない異変が発生します。第二空母打撃群以来となる、未知との遭遇が迫ります。
それでは、第八話をお楽しみください。
救助隊は貨物船から離れ、救助艇で「ほうしょう」へ向かっていた。
「こちら救助隊。」
「全員乗艇を確認。」
「負傷者はいません。」
隊長の報告に、アンナは安堵の表情を浮かべる。
「ありがとう。」
「そのまま帰投してください。」
「了解。」
その時だった。
電子戦担当士官が戦術画面を見つめたまま声を上げる。
「艦長!」
「貨物船直下で強い反応を探知!」
戦術画面に巨大な赤い光点が表示される。
反応は貨物船の真下。
しかも急速に浮上していた。
「全艦へ。」
アンナは即座に命じる。
「警戒態勢。」
「救助隊を最優先で収容してください。」
「了解!」
護衛艦隊も一斉に戦闘配置へ移行する。
艦載ヘリコプターが離艦し、上空から貨物船周辺を監視し始めた。
しかし、海面には何も見えない。
その数秒後。
ゴォォォン――。
低く響く音が海全体を震わせた。
貨物船の周囲で海面が大きく盛り上がる。
白い霧が渦を巻きながら空へ舞い上がり、その中心から巨大な黒い影がゆっくりと姿を現した。
「目標確認!」
見張り員が叫ぶ。
誰もが双眼鏡を向ける。
それは艦艇ではなかった。
巨大な柱のような構造物が海面へ突き出し、その表面には青白い光がゆっくりと流れている。
人工物にも、生物にも見える奇妙な姿だった。
「識別不能……。」
副長が息をのむ。
研究員リディアは震える声でつぶやく。
「海底人工構造物の一部……?」
柱は数十秒間だけ海上へ姿を現すと、再びゆっくりと海中へ沈んでいく。
その直後、貨物船全体が青白い光に包まれた。
「艦長!」
「貨物船が発光しています!」
アンナは静かに命じる。
「記録を続けてください。」
「攻撃は行いません。」
「相手の正体が分かるまでは、刺激しないように。」
「了解。」
救助艇は全速力で「ほうしょう」へ向かう。
やがて全員が無事に収容される。
その瞬間、貨物船の発光は止み、海は何事もなかったかのような静けさを取り戻した。
「反応、消失。」
電子戦担当士官が報告する。
「巨大反応も確認できません。」
艦橋には重苦しい沈黙が流れる。
リディアが静かに資料を見つめる。
「第一観測基地の記録……。」
「海底人工構造物は一つではないのかもしれません。」
アンナは窓の外の霧を見つめる。
「もしそうなら……。」
「ヴェール海の謎は、私たちが思っているより、ずっと大きいのでしょうね。」
その時、通信士が驚いた声を上げた。
「艦長!」
「貨物船から新たな通信です!」
「内容は?」
通信士は震える指で記録を再生する。
『……門は……開いた……。』
それだけを残し、通信は途絶えた。
貨物船は静かに漂流を続けている。
しかし、第二空母打撃群の誰もが理解していた。
ヴェール海は、再び新たな段階へ進もうとしていることを。
そして、その中心には、まだ誰も見たことのない真実が待っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに海底人工構造物の一端が姿を現しました。しかし、その正体も目的も、まだ謎のままです。
次回は、この現象を受けた海軍の決断と、貨物船内部で発見されたさらなる手掛かりが描かれます。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第九話でまたお会いしましょう。