Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
今回は「ほうしょう」の艦内と、第二空母打撃群の様子が中心のお話です。戦闘前の静かな時間をお楽しみください。
穏やかな波を切り裂きながら、航空母艦「ほうしょう」は第二空母打撃群の旗艦として航行を続けていた。
艦橋では、各部署からの報告が絶え間なく届いている。
「艦長、機関出力良好。航行に異常ありません。」
機関長の報告に、アンナ・アンダーソンは穏やかに微笑んだ。
「ありがとう。このままお願いね。」
「了解しました。」
その一言だけで、艦橋の空気はどこか和らぐ。
厳しい任務の最中でも、アンナは乗組員への気遣いを忘れない艦長だった。
「艦長。」
副長が戦術画面を見つめながら口を開く。
「第二空母打撃群、全艦予定航路を維持しています。」
「そう。みんな順調なのね。」
「はい。」
戦術画面には、「ほうしょう」を中心とした艦隊の配置が映し出されていた。
護衛艦隊は一定の距離を保ちながら周囲を警戒し、水面下では潜水艦が先行して索敵を続けている。
さらに上空では、早期警戒機が広大な海域を監視していた。
「艦載機の準備はどうかしら?」
アンナが尋ねると、航空隊長が敬礼した。
「発艦準備は完了しております。命令があれば、いつでも発艦可能です。」
「ありがとう。でも焦る必要はないわ。」
「今は乗組員のみんなにも、しっかり休める時に休んでもらって。」
「了解しました。」
その言葉に、航空隊長は安心したように頷いた。
アンナは再び窓の外へ目を向ける。
どこまでも続く青い海。
白い雲。
穏やかな風。
戦いの気配など、どこにも感じられない。
しかし、彼女の胸の奥には拭いきれない違和感が残っていた。
「……ヴェール海。」
小さくつぶやく。
誰にも聞こえないほど静かな声だった。
観測基地との通信が途絶えてから、まだ新たな情報は届いていない。
それが、かえって不気味だった。
突然、通信士が声を上げる。
「艦長。」
「どうしたの?」
「前方を哨戒中の早期警戒機から定時報告です。」
「周辺海域に異常なし。飛行空域も安全とのことです。」
アンナは優しく頷く。
「そう、ありがとう。」
「引き続き警戒をお願いして。」
「了解。」
通信が終わると、副長が静かに言った。
「このまま何も起きなければいいのですが……。」
アンナは微笑みながら答える。
「そうね。でも、油断だけはしないようにしましょう。」
「みんなが無事に帰ることが、一番大切だから。」
その言葉に、艦橋の乗組員たちは力強く返事をした。
「はい、艦長!」
第二空母打撃群は隊形を崩すことなく、ヴェール海への航路を進み続ける。
そして、その遥か前方では。
水平線の向こうに、わずかに白い霧が立ち始めていた。
まだ誰も、それがヴェール海の入り口であることに気付いてはいなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回はいよいよヴェール海へ近づき、艦隊にも少しずつ異変が現れ始めます。更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。