Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
海底から姿を現した巨大な構造物。そして貨物船が残した「門は開いた」という謎の通信。特別調査任務群は、新たな手掛かりを求めて貨物船の再調査を決断します。
それでは、第九話をお楽しみください。
貨物船を包んでいた青白い光が消えた後も、ヴェール海特別調査任務群は一定の距離を保ちながら監視を続けていた。
「艦長。」
電子戦担当士官が報告する。
「先ほどの巨大反応は完全に消失しました。」
「現在、海面に異常はありません。」
アンナは静かに頷いた。
「ありがとうございます。」
「救助隊の皆さんの体調はどうですか?」
医療班長が答える。
「全員異常ありません。」
「念のため経過観察を続けています。」
「よろしくお願いします。」
アンナは穏やかに微笑んだ。
その時、研究員リディアが新たな提案を口にした。
「艦長。」
「今なら貨物船内部をもう一度調査できるかもしれません。」
副長が慎重な表情を見せる。
「危険ではありませんか?」
リディアは静かに答えた。
「確かに危険です。」
「ですが、先ほどの現象の後なら、新しい痕跡が残っている可能性があります。」
アンナは数秒考えた後、答えた。
「分かりました。」
「ただし短時間だけです。」
「危険を感じたら、すぐに撤収してください。」
「はい。」
再び調査隊が貨物船へ向かう。
今度の目的は生存者捜索ではなく、現象の原因を探ることだった。
船橋へ入ると、前回にはなかった変化が見つかる。
航海机の上に、一冊の航海日誌が置かれていた。
「前はありませんでしたよね。」
若い隊員が首をかしげる。
「確認していない。」
隊長も驚きを隠せない。
日誌は新しく、海水にも濡れていなかった。
まるで誰かが、つい先ほど置いたかのようだった。
隊員は慎重にページを開く。
最初の数ページは通常の航海記録。
天候。
針路。
機関の状態。
すべて異常なし。
しかし途中から筆跡が乱れ始める。
『霧が進路を変えてくる。』
『船の周りを誰かが歩いている。』
『乗組員が一人、また一人と姿を消した。』
さらに最後のページには、大きく一文だけ書かれていた。
『門を開けてはならない。』
その文字は、まるで急いで書き殴ったように震えていた。
「門……。」
隊員たちは顔を見合わせる。
その時、研究員が船橋の窓を見つめた。
「隊長。」
「外を見てください。」
全員が振り向く。
霧の中。
貨物船から少し離れた海面に、一人の人影が立っていた。
海の上に。
白い長衣をまとった人物は、静かに貨物船を見つめている。
「あり得ない……。」
誰かが小さくつぶやく。
隊長は双眼鏡を向ける。
だが次の瞬間、人影は霧とともに消えた。
「艦長!」
隊長が無線を開く。
「海上で正体不明の人物を確認!」
「現在は消失!」
アンナは落ち着いた声で答える。
「分かりました。」
「それ以上の調査は行わず、直ちに帰還してください。」
「了解!」
調査隊は航海日誌を回収し、急いで救助艇へ戻る。
救助艇が離れた直後だった。
無人の貨物船の汽笛が、ひとりでに鳴り響く。
ボォォォ――。
重く長い音が霧の海へ響き渡る。
誰も操船していないはずなのに。
その音はまるで、何かとの別れを告げるように響いていた。
アンナは静かに貨物船を見つめ、小さくつぶやく。
「必ず……この海の真実を見つけます。」
その決意を乗せた任務群は、ゆっくりとヴェール海の中心部へ向けて針路を変えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
貨物船に残されていた航海日誌は、「門」に関する新たな警告を示していました。そして特別調査任務群は、ついにヴェール海の中心部へ向かいます。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第十話でまたお会いしましょう。