Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
第三章もいよいよ最終話です。
ヴェール海の中心部へ向かう特別調査任務群。第一観測基地や貨物船で起きたすべての出来事が、一つの海域へとつながっていきます。
それでは、第十話をお楽しみください。
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ヴェール海特別調査任務群は、濃い霧に包まれた海域をゆっくりと航行していた。
旗艦「ほうしょう」を先頭に、護衛艦隊、海洋観測艦、補給艦、潜水艦が一定の隊形を保ちながら進む。
艦橋では静かな緊張が続いていた。
「艦長。」
電子戦担当士官が報告する。
「中心海域まで残り約十五海里。」
「各艦との通信は正常です。」
アンナは穏やかに頷いた。
「ありがとうございます。」
「引き続き安全を最優先に進みましょう。」
「了解しました。」
その時、研究員リディアが大型モニターを見つめたまま声を上げる。
「エネルギー反応が急上昇しています!」
スクリーンに映る数値が一斉に跳ね上がる。
海底から放射状に広がる青白い反応。
その中心は、第一観測基地が残した海図の赤い円と完全に一致していた。
「ついに来ましたね……。」
副長が小さくつぶやく。
アンナは静かに命じる。
「全艦。」
「現在位置を維持してください。」
「決して無断で前進しないように。」
「了解!」
命令が各艦へ伝達される。
その直後だった。
霧が左右へ割れるように動き始めた。
誰も息をのむ。
前方の海面に、巨大な円形の模様がゆっくりと浮かび上がっていた。
青白く発光する幾何学模様。
直径は数百メートルはある。
海面そのものが光っているようだった。
「これが……門。」
リディアが震える声でつぶやく。
観測機器は一斉に記録を開始する。
映像。
音響。
電磁波。
すべてのデータが収集されていく。
その時、海面中央から一本の光の柱が天へ向かって伸びた。
誰も見たことのない光景だった。
「エネルギー反応、過去最大!」
解析員が叫ぶ。
「まだ上昇しています!」
アンナは落ち着いた声で指示を出す。
「全艦、現状維持。」
「刺激する行動は禁止です。」
「観測を続けてください。」
その瞬間だった。
艦橋の通信機から雑音が流れる。
ザーッ……。
ザーッ……。
やがて一人の女性のような、穏やかな声が聞こえた。
『ようこそ。』
艦橋の全員が凍りつく。
『永い眠りが終わる。』
『門は開かれた。』
『歓迎する。』
声はそこで途切れた。
同時に、光の柱はゆっくりと消えていく。
海面の円形模様も少しずつ薄れ、やがて霧だけが残った。
静寂が戻る。
誰一人、すぐには言葉を発することができなかった。
やがてアンナが静かに口を開く。
「……今の声も、すべて記録してください。」
通信士は頷く。
「はい。」
研究員リディアは震える手で記録端末を握りしめる。
「人工構造物ではありません。」
「誰かが……向こう側にいます。」
アンナは霧の先を見つめた。
そこには何も見えない。
しかし確かに、何者かが自分たちを認識し、語りかけてきた。
ヴェール海は未知の海ではなかった。
そこには誰かが存在し、人類を待ち続けていた。
任務群は慎重に観測を続けながら、一度本部への帰投を決定する。
この事実は、北洋連邦共和国だけでは抱えきれない。
世界そのものを変える発見になるかもしれない。
アンナは静かに敬礼した。
「必ず戻ります。」
「そして、あなたたちの真実を確かめます。」
その誓いとともに、ヴェール海特別調査任務群はゆっくりと針路を反転させた。
霧の奥では、誰にも気付かれることなく、一人の白い衣をまとった少女が微笑みながら艦隊を見送っていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
これで第三章「広がる波紋」は完結です。
第一観測基地、漂流する貨物船、そしてヴェール海中心部に現れた「門」。数々の謎はついに一つへつながり、人類が未知の存在と初めて明確に接触する瞬間が描かれました。
第四章では、この歴史的発見を受けて世界各国が動き始めます。そしてヴェール海の向こう側に広がる新たな世界へ、物語は大きく進んでいきます。
次回の更新はいつになるか分かりませんが、これからも温かく見守っていただけると嬉しいです。
それでは、第四章でまたお会いしましょう。