Beyond the Northern Sea   作:魂魄妖霧

31 / 32
いつもお読みいただきありがとうございます。

第三章もいよいよ最終話です。

ヴェール海の中心部へ向かう特別調査任務群。第一観測基地や貨物船で起きたすべての出来事が、一つの海域へとつながっていきます。

それでは、第十話をお楽しみください。


第十話 門の海

09:00

 

ヴェール海特別調査任務群は、濃い霧に包まれた海域をゆっくりと航行していた。

 

旗艦「ほうしょう」を先頭に、護衛艦隊、海洋観測艦、補給艦、潜水艦が一定の隊形を保ちながら進む。

 

艦橋では静かな緊張が続いていた。

 

「艦長。」

 

電子戦担当士官が報告する。

 

「中心海域まで残り約十五海里。」

 

「各艦との通信は正常です。」

 

アンナは穏やかに頷いた。

 

「ありがとうございます。」

 

「引き続き安全を最優先に進みましょう。」

 

「了解しました。」

 

その時、研究員リディアが大型モニターを見つめたまま声を上げる。

 

「エネルギー反応が急上昇しています!」

 

スクリーンに映る数値が一斉に跳ね上がる。

 

海底から放射状に広がる青白い反応。

 

その中心は、第一観測基地が残した海図の赤い円と完全に一致していた。

 

「ついに来ましたね……。」

 

副長が小さくつぶやく。

 

アンナは静かに命じる。

 

「全艦。」

 

「現在位置を維持してください。」

 

「決して無断で前進しないように。」

 

「了解!」

 

命令が各艦へ伝達される。

 

その直後だった。

 

霧が左右へ割れるように動き始めた。

 

誰も息をのむ。

 

前方の海面に、巨大な円形の模様がゆっくりと浮かび上がっていた。

 

青白く発光する幾何学模様。

 

直径は数百メートルはある。

 

海面そのものが光っているようだった。

 

「これが……門。」

 

リディアが震える声でつぶやく。

 

観測機器は一斉に記録を開始する。

 

映像。

 

音響。

 

電磁波。

 

すべてのデータが収集されていく。

 

その時、海面中央から一本の光の柱が天へ向かって伸びた。

 

誰も見たことのない光景だった。

 

「エネルギー反応、過去最大!」

 

解析員が叫ぶ。

 

「まだ上昇しています!」

 

アンナは落ち着いた声で指示を出す。

 

「全艦、現状維持。」

 

「刺激する行動は禁止です。」

 

「観測を続けてください。」

 

その瞬間だった。

 

艦橋の通信機から雑音が流れる。

 

ザーッ……。

 

ザーッ……。

 

やがて一人の女性のような、穏やかな声が聞こえた。

 

『ようこそ。』

 

艦橋の全員が凍りつく。

 

『永い眠りが終わる。』

 

『門は開かれた。』

 

『歓迎する。』

 

声はそこで途切れた。

 

同時に、光の柱はゆっくりと消えていく。

 

海面の円形模様も少しずつ薄れ、やがて霧だけが残った。

 

静寂が戻る。

 

誰一人、すぐには言葉を発することができなかった。

 

やがてアンナが静かに口を開く。

 

「……今の声も、すべて記録してください。」

 

通信士は頷く。

 

「はい。」

 

研究員リディアは震える手で記録端末を握りしめる。

 

「人工構造物ではありません。」

 

「誰かが……向こう側にいます。」

 

アンナは霧の先を見つめた。

 

そこには何も見えない。

 

しかし確かに、何者かが自分たちを認識し、語りかけてきた。

 

ヴェール海は未知の海ではなかった。

 

そこには誰かが存在し、人類を待ち続けていた。

 

任務群は慎重に観測を続けながら、一度本部への帰投を決定する。

 

この事実は、北洋連邦共和国だけでは抱えきれない。

 

世界そのものを変える発見になるかもしれない。

 

アンナは静かに敬礼した。

 

「必ず戻ります。」

 

「そして、あなたたちの真実を確かめます。」

 

その誓いとともに、ヴェール海特別調査任務群はゆっくりと針路を反転させた。

 

霧の奥では、誰にも気付かれることなく、一人の白い衣をまとった少女が微笑みながら艦隊を見送っていた。




最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

これで第三章「広がる波紋」は完結です。

第一観測基地、漂流する貨物船、そしてヴェール海中心部に現れた「門」。数々の謎はついに一つへつながり、人類が未知の存在と初めて明確に接触する瞬間が描かれました。

第四章では、この歴史的発見を受けて世界各国が動き始めます。そしてヴェール海の向こう側に広がる新たな世界へ、物語は大きく進んでいきます。

次回の更新はいつになるか分かりませんが、これからも温かく見守っていただけると嬉しいです。

それでは、第四章でまたお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。