Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
第四章が始まります。
ヴェール海での歴史的な出来事は、北洋連邦共和国だけでなく世界中へ大きな衝撃を与えました。そして、新たな調査計画が静かに動き始めます。
それでは、第一話をお楽しみください。
第一話世界への報告
ヴェール海特別調査任務群は、観測任務を終え、ノーザンクトハーバーへ帰投した。
港には海軍司令部だけでなく、政府関係者や科学技術研究機構の職員が待機している。
「ほうしょう」がゆっくりと接岸すると、回収した観測データや記録装置は厳重な警備のもと搬出された。
飛行甲板へ降り立ったアンナ・アンダーソン大佐は、迎えに来ていた海軍総司令長官へ敬礼する。
「ただいま帰投しました。」
長官は敬礼を返し、小さく頷いた。
「ご苦労だった。」
「君たちのおかげで、人類の歴史が変わる瞬間を目撃することができた。」
アンナは静かに答える。
「まだ分からないことばかりです。」
「ですが、あの海には確かに何者かが存在しています。」
「ええ。」
長官は真剣な表情で続ける。
「だからこそ、この情報は慎重に扱わなければならない。」
その日の午後、北洋連邦共和国政府と海軍総司令部による合同会議が開かれた。
会議室には政府高官、軍幹部、科学者が集まり、ヴェール海で得られた映像や通信記録が大型スクリーンに映し出される。
海底人工構造物。
青白い光。
そして、「門」の出現。
最後に記録された謎の声。
映像が終わると、会議室は静まり返った。
一人の政府高官が口を開く。
「これらの映像は、本物と判断してよいのですね。」
研究員リディア・ノルマンが立ち上がる。
「はい。」
「複数の観測機器で同時に記録されており、改ざんの痕跡もありません。」
別の高官が静かに言う。
「つまり……。」
「人類は未知の知的存在と接触した可能性がある。」
その言葉に、誰も反論できなかった。
海軍総司令長官はゆっくりと立ち上がる。
「政府としては、この事実を友好国へ限定的に共有する。」
「ただし、一般への公表は当面見送る。」
「社会への影響が大きすぎるためだ。」
出席者たちは静かに頷いた。
その時、通信士が慌ただしく会議室へ入ってくる。
「失礼します!」
「緊急報告です!」
室内の空気が張り詰める。
「ヴェール海周辺の自動観測ブイが、一斉に同じ信号を受信しました!」
大型スクリーンへ波形が映し出される。
それは前回までの通信とは違っていた。
一定の間隔で、規則正しく繰り返される信号。
研究員たちは解析を始める。
数分後、一人の解析員が驚いた表情で顔を上げた。
「これは……。」
「数学です。」
「数学?」
アンナが尋ねる。
解析員は頷く。
「素数の並びです。」
「二、三、五、七、十一……。」
「人工的な知性が、自らの存在を示すために使う可能性がある信号です。」
会議室は再び静まり返る。
未知の存在は偶然ではなく、明確な意図を持って通信を送ってきている。
その事実が、誰の目にも明らかになった。
アンナは静かに窓の外を見つめる。
ヴェール海。
その向こうには、まだ見ぬ世界が広がっている。
そして人類は今、その扉の前に立っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第四章では、ヴェール海で得られた情報が世界規模の問題へと発展していきます。そして未知の存在との「対話」が、本格的に始まろうとしています。
次回の更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、第二話でまたお会いしましょう。