Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
第二空母打撃群は、ついにヴェール海の境界へ到達します。静寂に包まれた海で、艦隊を待ち受けるものとは――。
それでは、第四話をお楽しみください。
白い霧は、まるで巨大な壁のように海の向こうへ広がっていた。
第二空母打撃群は速度を落とし、隊形を維持したまま慎重に前進する。
航空母艦「ほうしょう」の艦橋では、全員が前方を注視していた。
「艦長。」
航海長が静かに報告する。
「まもなくヴェール海境界へ到達します。」
アンナは頷いた。
「ありがとう。」
「各艦との通信はどうかしら?」
通信士がすぐに答える。
「全艦との通信は維持されています。」
「ですが、雑音が徐々に増えています。」
「映像通信は断続的に途切れています。」
「そう……。」
アンナは窓の外へ目を向けた。
目の前には、どこまでも続く白い霧。
風は吹いている。
波も穏やかだ。
それなのに霧だけが、その場に留まり続けている。
まるで何者かの意思で作られたようだった。
副長が双眼鏡を下ろす。
「これほど濃い霧は見たことがありません。」
「視界、およそ一海里以下です。」
その時、艦橋に報告が入る。
「艦長。」
「先行している哨戒機より入電。」
アンナが振り向く。
「内容は?」
「『霧の内部に進入。視界不良。異常なし。引き続き偵察を継続する』とのことです。」
アンナは静かに頷く。
「無理はさせないで。」
「危険と判断したら、すぐ帰投するよう伝えて。」
「了解しました。」
通信士は直ちに指示を送信した。
艦隊はさらに前進する。
やがて、「ほうしょう」の艦首が白い霧へ触れた。
その瞬間だった。
艦橋の照明が一瞬だけ明滅する。
「!」
「艦長!」
レーダー員が叫ぶ。
「全レーダー、一時的に反応消失!」
「復旧急げ!」
副長の指示が飛ぶ。
数秒後、画面が再び点灯した。
「レーダー復旧!」
「各艦の位置を再確認!」
「全艦確認しました!」
艦隊に損害はない。
しかし、艦橋には重苦しい空気が流れていた。
アンナは落ち着いた声で言う。
「みんな、慌てなくて大丈夫。」
「落ち着いて、いつもどおり任務を続けましょう。」
その優しい声に、乗組員たちは少しだけ表情を和らげた。
しかし安心したのも束の間だった。
「艦長!」
通信士が再び声を上げる。
「各艦との通信感度が急激に低下しています!」
「レーダーにも断続的なノイズ!」
「GPS測位誤差拡大!」
次々と異常が報告される。
アンナは戦術画面を見つめた。
味方艦を示す光点はまだ表示されている。
だが、その周囲には黒い空白が広がっていた。
まるでレーダーが、その先を見ることを拒んでいるかのようだった。
アンナは静かに命じる。
「全艦へ伝達。」
「予定隊形を維持。」
「各艦との距離を保ち、決して単独行動はしないで。」
「了解!」
命令は各艦へ送られる。
第二空母打撃群は互いの姿を確認しながら、ゆっくりとヴェール海の深部へ進んでいく。
その頃――。
艦隊の誰も知らない海底深くで、一つの青白い光が静かに灯った。
まるで侵入者を歓迎するかのように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第二空母打撃群はついにヴェール海へ足を踏み入れました。次回から、いよいよヴェール海の異常現象が本格的に動き始めます。
更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。