Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
ヴェール海へ進入した第二空母打撃群。静寂に包まれた海で、ついに説明のつかない現象が艦隊を襲います。
それでは、第5五話をお楽しみください。
第二空母打撃群は、濃霧に包まれたヴェール海を慎重に航行していた。
海は驚くほど静かだった。
波は穏やかで、風もほとんど吹いていない。
それにもかかわらず、艦橋にいる誰もが胸の奥に言いようのない圧迫感を覚えていた。
「艦長。」
航海長が現在位置を報告する。
「予定航路を維持しています。」
「各艦との距離も問題ありません。」
アンナは穏やかに頷く。
「ありがとう。」
「このまま慎重に進みましょう。」
「了解しました。」
その時だった。
「艦長!」
ソナー員が声を上げる。
「ソナーに反応!」
艦橋の空気が一変する。
「内容は?」
アンナは落ち着いた声で尋ねた。
「不明です。」
「潜水艦ではありません。」
「海洋生物とも一致しません。」
画面には一つの光点が表示されていた。
その光点は艦隊の前方、およそ十五海里。
静止しているように見えた。
副長が戦術画面を見つめる。
「正体不明か……。」
「距離は変わりません。」
ソナー員が首を横に振る。
「いえ……。」
「ゆっくりこちらへ接近しています。」
艦橋に緊張が走る。
アンナは冷静さを崩さない。
「各部署、監視を続けてください。」
「まだ慌てる必要はありません。」
「正体を確認しましょう。」
「了解!」
その直後、レーダー員が立ち上がる。
「レーダーにも反応を確認!」
「ソナー反応と同一位置です!」
しかし奇妙なことに、画面へ映る光点は点滅を繰り返していた。
現れては消え、また現れる。
まるで存在そのものが不安定であるかのようだった。
「映像は?」
アンナが尋ねる。
「前方監視カメラに映像を出します。」
大型モニターへ映し出されたのは、白い霧だけだった。
何も見えない。
しかし数秒後。
霧の奥で、一瞬だけ青白い光が揺らめいた。
「今のは……。」
誰かが息をのむ。
次の瞬間には、もう何もなかった。
副長が低い声で言う。
「自然現象……ではなさそうですね。」
アンナは静かに考え込む。
観測基地との通信途絶。
原因不明の霧。
そして、この正体不明の反応。
すべてが一本の線でつながっているように思えた。
「各艦へ。」
アンナはゆっくりと命じる。
「警戒レベルを一段階引き上げます。」
「ただし、発砲は禁止。」
「相手の正体が分かるまでは、こちらからは何もしません。」
「了解。」
その命令は第二空母打撃群全艦へ伝達された。
艦隊は速度を維持したまま、ゆっくりと前進を続ける。
すると突然、ソナー員が叫んだ。
「反応……消失しました!」
「消えた?」
「はい! 完全に消失です!」
艦橋は静まり返る。
誰もがモニターを見つめる。
そこには、もう何も映っていなかった。
しかし、ヴェール海の静寂だけは変わらず艦隊を包み込んでいた。
アンナは窓の外へ目を向け、小さく呟く。
「あなたは……いったい何なの……。」
その問いに答える者は、誰もいなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第1章も終盤に入り、ヴェール海の異常現象が少しずつ姿を現し始めました。次回の更新はいつになるか分かりませんが、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。