Beyond the Northern Sea   作:魂魄妖霧

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いつもお読みいただきありがとうございます。

正体不明の反応は姿を消しました。しかし、ヴェール海の異変はまだ始まったばかりです。

それでは、第六話をお楽しみください。


第六話 失われた声

正体不明の反応が消失してから、およそ三十分。

 

第二空母打撃群は警戒を維持したまま、ヴェール海をゆっくりと航行していた。

 

艦橋では、張り詰めた空気が流れている。

 

誰もが計器を注視し、次の異変に備えていた。

 

その時、通信士がヘッドセットを押さえながら振り返る。

 

「艦長。」

 

「どうしたの?」

 

アンナは落ち着いた声で応じる。

 

「超短波通信に、不明な電波を受信しています。」

 

「内容は分かるかしら?」

 

「……解析中です。」

 

艦橋は静まり返る。

 

雑音だけが通信室に響く。

 

『――――……ザー……』

 

『……タス……ケ……』

 

通信士の表情が変わる。

 

「艦長!」

 

「音声信号です!」

 

「スピーカーへ。」

 

アンナの指示で、受信音声が艦橋全体に流される。

 

『……ザー……』

 

『……た……す……け……』

 

『……こ……ち……ら……』

 

ノイズ混じりの声。

 

男とも女とも分からない。

 

しかし確かに、人の声だった。

 

副長が息をのむ。

 

「まさか……。」

 

通信士が解析結果を確認する。

 

「艦長。」

 

「送信元は前方海域。」

 

「距離、およそ二十五海里。」

 

「識別信号は?」

 

「ありません。」

 

「軍用でも民間でもない、不明な通信です。」

 

アンナは少し考え、穏やかに命じた。

 

「返信してみましょう。」

 

「はい。」

 

通信士は送信ボタンを押す。

 

「こちら北洋海軍航空母艦『ほうしょう』。」

 

「応答をお願いします。」

 

艦橋は静まり返る。

 

数秒。

 

十秒。

 

返答はない。

 

そして再び。

 

『……ザー……』

 

『……ニ……ゲ……ロ……』

 

その一言だけが、艦橋に響いた。

 

「逃げろ……?」

 

誰かが小さくつぶやく。

 

直後。

 

艦内警報が鳴り響く。

 

「艦長!」

 

レーダー員が叫ぶ。

 

「艦隊周辺に複数の反応を探知!」

 

「数は!」

 

「八……いや、十二!」

 

「増えています!」

 

戦術画面に、赤い光点が次々と表示される。

 

艦隊を取り囲むように現れる未知の反応。

 

しかし、そのどれもが数秒ごとに現れては消えていた。

 

「識別不能!」

 

「速度も進路も計算できません!」

 

副長がアンナを見る。

 

「艦長。」

 

アンナは深く息を吸い、静かに命じた。

 

「総員、第一種戦闘配置を維持。」

 

「各艦へ通達。」

 

「隊形を崩さず、互いの支援距離を保って。」

 

「了解!」

 

命令は直ちに第二空母打撃群全艦へ伝えられる。

 

誰も発砲はしない。

 

誰も敵の姿を見ていない。

 

それでも、確実に何かが艦隊を見つめていた。

 

白い霧の向こうで。

 

静かに。

 

そして、不気味なほど確実に。

 

誰もその視線の正体を知らない。

 

それでも第二空母打撃群は、人類の未来を背負い、未知なる海のさらに奥へと静かに進み続けていた。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ついにヴェール海から謎の通信と複数の反応が現れました。次回は第二空母打撃群に、さらに大きな異変が訪れます。

更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。

また次のお話でお会いしましょう。
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