Beyond the Northern Sea 作:魂魄妖霧
艦隊を取り囲む正体不明の反応。姿は見えないまま、ヴェール海は第二空母打撃群へさらなる異変をもたらします。
それでは、第七話をお楽しみください。
艦橋の戦術画面には、赤い光点が表示され続けていた。
しかし、その反応は一定ではない。
現れては消え、また別の場所に現れる。
まるで艦隊を試すように。
「艦長。」
レーダー員が報告する。
「反応数、十五。」
「依然として識別できません。」
アンナは静かに頷いた。
「ありがとう。」
「監視を続けてね。」
「はい。」
その時、見張り員が双眼鏡を構えたまま声を上げた。
「右舷前方!」
「霧の中に艦影を確認!」
艦橋の全員が右舷前方へ目を向ける。
濃い霧の奥。
確かに巨大な黒い影が見えた。
艦首なのか。
艦橋なのか。
その輪郭は霧に溶け込み、はっきりとは見えない。
副長が双眼鏡をのぞく。
「識別できますか?」
「……できません。」
「北洋海軍の艦ではありません。」
アンナは落ち着いた口調で命じる。
「艦載カメラを最大倍率に。」
「映像を艦橋へ。」
「了解。」
前方監視カメラの映像が大型モニターへ映し出される。
しかし、そこに映るのは白い霧だけ。
さっきまで見えていた黒い影は消えていた。
「消えました……。」
見張り員が信じられないという表情を浮かべる。
その直後。
「艦長!」
ソナー員が叫ぶ。
「艦底直下に反応!」
「距離!」
「約四百メートル!」
「高速で移動しています!」
艦橋に緊張が走る。
「進路は?」
「艦の真下を横切りました!」
数秒後。
「反応、消失!」
誰も言葉を発しない。
静かな海。
静かな霧。
しかし、この海には確かに何かが存在していた。
副長が低い声で言う。
「こちらの動きを観察しているようですね。」
アンナはゆっくりと頷いた。
「ええ……。」
「こちらから刺激するのはやめましょう。」
「警戒を続けながら航行します。」
「了解。」
その時、通信士が新たな報告を伝えた。
「各護衛艦から報告。」
「複数の艦で同じ艦影を確認しています。」
「ですが、写真にも映像にも記録されていません。」
艦橋に再び沈黙が訪れる。
目で見えているものが、機械には映らない。
そんな現象は、これまで一度も記録されたことがなかった。
アンナは窓の外を見つめ、小さくつぶやく。
「……みんな、落ち着いて。」
「どんなことが起きても、一人で判断しないで。」
「必ず報告してね。」
「了解!」
乗組員たちは力強く返事をした。
その瞬間だった。
霧の奥で、青白い光が一筋、静かに揺らめく。
誰もその正体を知る者はいない。
だがヴェール海は、確実に第二空母打撃群を迎え入れ始めていた。アンナは静かに前方を見つめた。「みんな、必ず無事に帰りましょう。」その言葉に、艦橋の乗組員たちは力強く頷いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
姿は見えるのに記録には残らない艦影。ヴェール海の謎は、さらに深まっていきます。
次回の更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。