ストライクウィッチーズ World End Sky   作:Xn-i

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Prologue
『Persona non Grata(歓迎されざるもの)』


 この物語は決して、綺麗な物語ではないかも知れない。

 時に世界各地で華々しく空を駆けるエースの物語であり。

 時に歴史の闇に葬られそうな問題児達の物語であり。

 時に凍えそうな灰色の空に散り行く魔女達の物語である。

 

 それでも彼女達は、それぞれが守りたい場所の為に、それぞれが守りたい夢の為に。

 空へと舞い、空へと還っていく。

 

 生きることは戦いである。

 戦う勇気の無いものから空から落ちていく。

 勇気もなく意志も無く、ただ怯えるだけしか出来ないものは。

 

 戦場から去るといい。

 

 さぁ、始めよう。

 

 

 1945年。

 人類とネウロイの戦争は、佳境を迎えようとしていた。

 40年代の初めに、カールスラント、オストマルク、ガリアの国土を失い、海峡を挟んだブリタニアにまで追い込まれていた人類は44年半ばから反抗に入る。

 ガリア解放を皮切りに、東部戦線もオラーシャ、カールスラント、オストマルク戦線での進撃。

 45年初めに、一度はヴェネツィアを失陥するも、各自戦線の奮戦により、欧州におけるネウロイの支配地域は徐々に狭まりつつあった。

 

 そしてこの物語の始まりは…ブリタニア連邦の首都ロンドンにある連合軍西部方面軍司令部にて始まる。

 

「報告いたします! ネウロイの大群はルーヴェンに向けて侵攻中。陸戦、航空、共に大きな数です!」

「オペレーション・マルスの準備で、こちら側は手を抜いてるとでも思っているのか」

 兵士の報告に、将軍たちはそれぞれ唇を噛む。西部戦線は決して手を抜いている訳ではないが、それでもヴェネツィア解放に向けてロマーニャに多くの将兵を送ったのも事実だ。

 このままでは一度は取り戻したベルギカを失ってしまう。そうなればガリアの再失陥にも繋がる。

「ベルギカを失う訳には行かないのだ。今現状ある戦力で対処する他はあるまい」

「了解であります、閣下。ただいま、戦力を結集し、そちらへ向かわせております」

「ウィッチ達で手の空いているものがいるのかね?」

「はい。ただいま、我が海兵隊第4海兵航空団がすぐ近くにおり、直ちに向かっております。彼女達ならば、大丈夫かと」

 そしてロンドンから遠く離れたベルギカ王国の町、ルーヴェンに迫るネウロイ達へ向けて、幾らかの部隊はベルギカ国内を進んでいた。

 

 

 真っ先に先陣に切り込むことから殴りこみ部隊とも言われ、その勇猛さを知られるリベリオン海兵隊。

 彼らは独自の航空部隊や戦車も持ち、短期間であればそれ単体で戦闘部隊として活用する事が可能である。

 即ち、ウィッチ達もいる。

 

 リベリオン海兵隊のマークをつけた、何機もの輸送機が横並びに編隊を組み、ちょうどルーヴェンの方向へと飛んでいた。

 兵員輸送用の輸送機ではない、せいぜい物資を運ぶぐらいの小型の輸送機だが、その分、小回りは利く。ネウロイに遭遇しても頑張れば逃げ切れるぐらいの。

 

 故に、輸送機が本来近づかない筈の最前線へと飛んでいく。何故なら、彼らの今回の仕事は積荷を最前線まで送り届けることにある。

 

 輸送機の貨物室で、一人のウィッチがキャンディを舐めながらラジオを耳を傾けていた。

 今回の荷物は彼女達。ウィッチ1個小隊4人。

 ノイズだらけでろくに聞き取れもしないが、かすかに聞こえる音楽は彼女を楽しませているのか、彼女はラジオの音量やアンテナを調整しつつも嬉しそうだ。

 浅黒い肌に、短めに切り揃えた黒い髪。ロマーニャ人の血が混じったそのウィッチは、舐めていたキャンディを噛み砕いた。

 豊満な胸が小さく揺れた後、同じく大きな尻を覆うズボンの位置を少しだけ調整。

 それから新しいキャンディを胸のポケットから取り出すと、それを眺めていた眼鏡のウィッチが口を開いた。

「メラニー、それ何個目?」

「まだ4個目ー」

「それでも多い。糖分の取りすぎ」

 しかしメラニーは同僚の言う事など聞く筈もなく、その4個目だと言い張るキャンディを口の中に放り込んだ。

『お嬢さんたち、お待たせしたな。まもなく作戦空域に着くぞ』

 同時にコックピットの操縦士からそんな声。

『ネウロイ共が堂々と歩いてやがる。陸の奴らをきちんとフォローしてやってくれよ!』

「んあ。了解。みんな、そろそろ準備!」

 メラニーは一瞬でただの少女から、隊長の顔へと変わる。

 そう、彼女は3人の部下を持つ小隊長。戦闘では小さいながらも一部隊を指揮しなくてはならないのだから。

 

 輸送機にいた四人のウィッチが準備を終えると、窓の外では同型の輸送機が何機も横に並んでいた。

 

 そして、それぞれの無線機に一斉に指示が出る。

『降下開始!』

 機体後部が開き、音と共に外気が中にいるウィッチ達へと襲い掛かる。

 しかし、恐れてはいけない。進まなければならない。それが、魔女達の戦いなのだから。

「よし、行くぞー!」

 魔女達は、空を舞う戦士になる。

 

 

 ”Persona non Grata(歓迎されざるもの)”

 1945年6月3日

 メラニー・ジャクソン大尉

 リベリオン海兵隊弟4海兵航空団第3飛行中隊

 ベルギカ王国 ルーヴェン

 

 

 ルーヴェン上空へと飛び出したメラニーは、飛び降りてから数秒後にストライカーのエンジンを動かす。

 リベリオン製の、ノースリベリオンP-51D。そこの片側には、緑地に斧を携えたウサギの横顔。第4海兵航空団の部隊章だ。

 入念なチェックのお陰か整備兵の努力の賜物か、メラニーも含めて全員のストライカーが問題なく起動したようだ。

『ゴールドリーダーより全機。無事に出たようだね』

 飛行隊の隊長は通信の先でそう口を開くと、全員に前方に視線を向けるように告げる。

『敵は主に陸戦型だけど…空を飛んでる奴らもいる。でも、小型ばかり。各機、地上の掃討をお願い。ただ、空の敵にも気をつけて』

『了解』『了解』『了解!』『了解』

 各小隊は一斉に市街の各方面へと飛んでいく。メラニーの小隊も仕事の出番だ。

「よし、あたしらは市街西側の担当だ! ブリジット遅れないように」

「心配ないよジャクソン大尉!」

「イーニッドとタバサは周囲の警戒をお忘れなく」

「了解」

「はい、大尉」

 イーニッドは副官、ブリジットは僚機、タバサは部下。三人の命に加えて、自分自身も気にしなければならない。

 戦場とは過酷。いつ落とされるか解らない。

 メラニーはM1919A6をしっかりと抱え、地上を歩く陸戦型ネウロイへと向ける。今日一匹目の獲物は、アイツだ。

 

「行くぜッ!」

 

 急降下しながらマシンガンを向けると、ネウロイの方もそれに気付いたのか、上部をこちら側に少し傾ける。ビームでも放とうというのか。

 ブリジットに手で右側に避けるように指示し、自分は直後に左へ身体を傾けると、今までメラニーがいた場所にビームが一筋走った。

 しかし既に遅い!

 

 マシンガンが火を噴く。

 放たれた弾丸が陸戦型ネウロイに次々と吸い込まれ、続けてブリジットも後ろから援護してくる。

 二人の急降下からの銃撃に弱ったネウロイはそれでもなお、数歩前進する。最後の悪あがきのようだ。

 再び上空へと急上昇したメラニーはネウロイの様子を見て再びマシンガンを構える。

「こいつは、おまけッ!」

 急降下しながらトリガーを一瞬だけ引いて、一発だけ放たれた弾丸は、ネウロイの上部に見事に命中!

 その直後にネウロイは砕け散る。小型1機目を撃墜。

「ナイスショットだね、メラニー!」

「ありがと、ブリジット」

 僚機の賞賛も悪い気分じゃない。だけどネウロイはまだまだいるのだ、1機倒したぐらいじゃ物足りない。

 マシンガンに新たな弾丸ベルトをセットしながら旋回していると、小型のネウロイが小さな路地を編隊を組んで歩いている。

「あら。あんなところに黒猫の親子を発見」

 リベリオンと違って欧州の市街は入り組んでいる場所が多い。そのせいでこういう市街戦では狭い場所にネウロイが入り込んで大変なのだ。

 陸戦ウィッチも欧州戦線ではその事を愚痴っているしね。

『グリーン1よりブルー隊、聞こえますか?』

『こちらブルー1。どうしたの?』

『西側の路地で黒猫の親子を発見。全部で8機もいるけど、狭い路地を行進してるから遮蔽物が多すぎよ』

『了解。西側のどの辺り?』

『起点と終点にスモークを投げておく。グリーン1、アウト』

 通信を切り、眼鏡をかけた副官の方に向き直る。

「イーニッド。スモーク二つお願い」

「……始点側の方はやっておくから、終点はあなたで」

「ありがと」

 スモークを受け取り、そのままネウロイが反応しないように少し回りこんで路地の反対側へ。

 大通りに繋がっているのに、大通りに出ないように努力しているようだ。ネウロイめ、頭を使う。だが!

 紐を引っこ抜いて煙を噴出し始めたスモークを落とした直後、爆撃装備をした4機のウィッチ隊が接近してくるのが見えた。ブルー小隊に違いない。

『ブルー1よりグリーン隊! 爆撃行くよ!』

 

 そして4機のウィッチは、一斉に爆弾を撒き散らす。

 自由落下した爆弾は、時にネウロイに直撃し、時に家屋に直撃して吹き飛ばす。

 

 あっという間に狭い路地は広さが二倍ぐらいの瓦礫の山へと変わる。

 

「こいつを待っていたんだ! よーし、皆行くぞー!」

 隠れる場所をなくし、ついでに数を半分に減らしたネウロイ達は参っているようだ。

 そこをメラニー達がいっせいに蜂の巣にする。4機のネウロイ達はたちまちに黒い霧へと変わった。

「やっほーい!」

 本日2機目撃墜である。メラニーは叫びながら上空へと飛行する。

「お?」

 そこへお客さんを再び発見した。ネウロイは水を嫌うが、川のほうは問題ないようであり、しかも対空火砲を揃えているタイプのネウロイが複数並んでいた。

『ゴールドリーダー! 川の近くで、対空火砲を1ダース確認!』

『こっちも見てる。まったく、ネウロイも相当な規模を用意してるようだね。……北側エリアで大型が4機もいるのよ?』

『手伝おうか?』

『他の部隊集めてなんとかするから、そっちは対空火砲に専念してちょうだい。歩兵部隊が来る前に片付けて貰わなきゃルーヴェンを取り戻せないもの』

『だよねー』

 今は西部戦線全体で戦線が滞っている。なんでも上の方がヴェネツィア奪還の為にロマーニャに戦力を集中しているらしい。

 メラニーにそういう難しいことは解らない。今、やるべき事をやるだけだ。

「よーし、次は対空火砲だ。ハデに打ち上げてくるのに注意な!」

 三人の仲間達にそう声をかけてから、大きく旋回して川の近くへ。

 

 ネウロイ達はメラニー達の接近に気付くと、数機ごとに連続しながら射撃を開始した。波状攻撃だ。

「ここで落ちても、拾ってくれる人はまだ来てないからね! 皆、慎重で大胆に!」

「無茶苦茶言うな」

 メラニーの言葉にブリジットが笑いながらメラニーの言葉にそう返し、タバサが少しだけ吹き出す。

 イーニッドだけは笑わずにマガジンを変えながら接近。

「行くぜー!」

 4機のウィッチは端の一体に狙いを定め、左右から急降下、射撃、離脱という一撃離脱を狙う。

 だがネウロイの方もそれを迎撃するべく一気に砲門を向ける、がそれに気付かないメラニーではない。

「ブリジット、タバサはあたしの後ろに入る!」

 メラニーは二人にそう叫び、シールドを展開。

 ビームが何発か当たるが、シールドに防がれてビームは届かない。

「ありがとうメラニー!」

「二人とも気をつけるんだぞ、命の取り返しはつかないからな」

 攻撃のチャンスを一度逃したが、もう一度仕掛ければ問題ない。

「まったく、連中、飽きさせてくれないよ!」

 その悪態は風の中に消えていく。

 

 

 1ダースもの対空火砲を空中からの銃撃だけで破壊するというのは、やはり無理がつきものだ。

 しかしかと言って、これをこのまま放置していれば後からやってくる空挺部隊がサヨナラナイトフィーバーになってしまう。

 

 ならば、今のうちに叩いてしまうしかない。

 メラニーの判断は早い。どうやって叩くか、と考えてみると、例の対空火砲集団だが、12機のうち、1機だけ少しだけ間隔が空いて立っている。

 そいつのすぐ近くには橋がある。あれぐらいの大きさなら、少しぐらいは盾になってくれるかも知れない。

「イーニッド、タバサ。上空より奴らの攻撃をひきつけて。たぶん、あの少し離れた場所にいる奴がコア持ちの筈だからね」

「で、メラニーとブリジットで突撃して叩きにいくと?」

「……ブリジットは橋の反対側の上空で上手く援護をお願い。あたしは橋をくぐってアイツを仕留めてくるよ!」

 やるなら、盛大にぶちかましてやらないと。

 

 メラニーは大きく旋回し、橋の向こう側へと回りこむと高度を思い切り下げる。

 水面ギリギリ。下手に着水すればストライカーごとおしゃかになってしまうので、落ちないように慎重に。だが、ネウロイの攻撃を受けない為には、大胆な機動も必要になる。

 

 だけどメラニーは誇り高きリベリオン海兵隊だ。

 たとえそこがどんな虎口であろうと飛び込み、そして勝利を手にする――――それが、リベリオン海兵隊の誇り。

 

 メラニーは薄暗い橋の真下へと猛スピードで飛び込み、そのまま銃撃を開始する。距離にして数十メートル。

 

 数秒にも満たないトンネルラットはすぐに終わった。

 

 イーニッド達が上手く攻撃をひきつけてくれたという理由もあるが、橋の下をくぐって横から攻撃してくるメラニーにネウロイは成す術無く破壊され、コア持ちの親機の破壊と共に1ダースの対空火砲達がその機能を停止する。

 

「イェーイ!」

 橋の下を抜けて上空のイーニッドと顔を合わせたメラニーはハンズアップ。

「お見事」

 イーニッドの方は少しだけ笑顔を見せると、すぐに手にしているトンプソンを構えなおした。

「対空火砲以外にも、まだ仕事はあるでしょ?」

「ああ、そうだね。やってやるか!」

『ゴールドリーダーよりグリーン1、聞こえる?』

「おっと、通信だ」

 メラニーは慌ててインカムのマイクをON。

『グリーン1よりゴールドリーダー。対空火砲を撃破しました、どうぞ』

『こちらも確認。北エリアの大型は2機撃破で1機撤退、残りの1機がそっちに近づいてる』

『グリーン1了解。昼飯前の最後の狩りをしてくるよ』

 通信を切って、三人の部下達に手で集まるように合図する。

「北エリアのデカ物が一匹、こっちに来るってさ。たぶん、他の皆も来るだろうけど」

 ここで一度言葉を切り、メラニーはとびきりの笑顔で続ける。

「あたし達のところに飛び込んできたからには、あたし達の獲物。昼飯前の、最後の一狩りと行くよ!」

「「イェッサー!」」

「了解」

 ブリジットとタバサの元気な返事と、イーニッドの半ば呆れた返事。

 グリーン隊の日常。メラニーはこれを聞いてもう一度だけサムズアップすると、針路を北に向ける。

 

 瓦礫と灰に汚れた町を飛んでいくと、遠くの方に、メラニーの実家の厩舎よりも巨大なネウロイの姿が見えてきた。

 四本の足を持つそいつは、のしのしと足早に、こちらの方へ向かってくる。

「うへぇ、デカ物」

 ブリジットが呟く。ブリジットは時々、ああいう大型ネウロイとの戦闘を嫌がることがある。何か嫌な思いでもあったのかは知らないが、戦ってもらわなきゃ困るのだ。

「ブリジット。逃げたら自室謹慎だけじゃ済まないぞ?」

「逃げませんよ、大尉。落ちたら拾ってください」

「落ちるのも許可しないぞ、あたしは」

 ネウロイとの距離を詰めながら、メラニーはポケットからキャンディを取り出して一つ口の中に放り込み、もう一つをブリジットへと投げた。

 見事にキャッチした。

「つまり、ぶっ潰せって事ですね。このキャンディみたいに」

「そういうこと」

 ブリジットはキャンディをキャッチするなり口に放り込み、そのまま大きな音を立てて噛み砕いた。

 

「回避!」

 

 イーニッドが顔を上げつつそう叫び、四人はそれぞれ一斉に散開。

 直後、四人のいた場所を一筋のビームが薙ぎ払った。

「イーニッド、タバサは右! あたしとブリジットは左から行くよ!」

 メラニーは指示をするなり、大きく迂回しつつ加速。真正面から当たれば蜂の巣は確実だ。

 

 大型ネウロイであるが故に、ビームも太め。そして攻撃速度も遅い。

 だが、それは一発でも喰らえば死を意味することになる。

 落ちて拾っても、片足だけどか片腕だけとか、或いはそれすら残らない肉片の何かになるって事だ。

 

 ごくっと唾を飲み込みながら、引き金を引く。

 

 銃撃はネウロイの装甲へと吸い込まれたが、コアは見えない。

 やはりマシンガンの一つや二つじゃ、あれを倒しきるのは困難か。

『グリーン1よりゴールドリーダー、あのデカイの始末するのに火力どれだけ使った?』

 メラニーはためらう事なく、無線通信を入れると、隊長はあっさりと口を開いた。

『M1バズーカの一発撃ちこんで、後はコアをぶち抜いた。恐ろしく簡単な作業だったよ。アンタなら出来るだろ? 城壁壊し』

『無茶苦茶いうなよ、ゴールドリーダー。うちらはM1バズーカ持ってないよ?』

『なら、友軍が着くまで待機をお願い』

『了解、グリーン1、アウト』

 とりあえず通信は切ったが、それでもM1バズーカを含む重火器を持っているウィッチの到着なんて待っている暇は無い。

 待っている間に落とされてはたまらない。

「イーニッド。なんか使えそうなもの落ちてない? TNT火薬とか」

「落ちてる訳無いでしょ。ここが放棄されたの何年前だと思ってんの」

「うーん、それなら…ウミガメ作戦で行くしかないか」

「大尉ー、ウミガメ作戦ってなんですか?」

 ブリジットの問に、メラニーは笑顔で答える。

「ジュール・ヴェルヌの二年間の休暇」

「は?」

「読んでたらブリアン少年がウミガメを倒すのに使った作戦。つまりそういうこと」

 確か扶桑では十五少年漂流記とかいういかにも冒険物語みたいな訳がつけられたらしいけど。

「つまり下から腹に一撃浴びせろということ?」

「イーニッド正解」

 メラニーの返答に、イーニッドは弾倉を変えつつ、ゆっくりと呟く。

「なるほど。そりゃあ、いいですね」

「でしょ? なんで、攻撃のひきつけよろしく」

「でしょうね。じゃあ、突撃よろしく」

「任せなさい」

 大きく軌道を変えて、ネウロイの横へ回り込む為に高度を下げる。

 町の大半が瓦礫と化しているとはいえ、それでもまだ形をとどめている建物はある。そういった建物の影に隠れながら、慎重且つ大胆に。

 

 そう、下から貫け。下から横を貫くのだ!

 

 高度をギリギリまで下げ、地面ギリギリの場所を一気に駆け抜けろ、奴の横に回れ!

『一撃かます!』

 ブリジットの叫びと共に、ネウロイ目掛けて正面からの銃撃。ネウロイがそちらに意識を向けている間に、ガンガン進む。

 地面すれすれ。

 だが、奴はもう目の前だ。

「うおりゃああああああああああああああああああ!!!!」

 絶叫と共に、引いた引き金。

 

 弾丸ベルトに残っていた弾丸全てを出し切り、反対側へと抜けると、背後でネウロイが崩れ落ちていくのが見えた。

 やはり、メラニーの予想通り、腹の装甲は弱かった。

 

『グリーン1よりゴールドリーダー。デカ物の始末完了』

『ゴールドリーダー了解。まったく、大したもんだよ、メラニー』

『褒めても何も出ないよ、バーンズ?』

 通信の向こうの中隊長で、付き合いの長い同僚にそう声をかけると、同僚はため息をついた。

『わかってる。せいぜい配給のチョコレートを分けてやるぐらいだね』

『最高のプレゼントだよ』

 メラニーはそう答えると、無事に生き残った三人の仲間達を振り向いた。

「じゃあ、皆。本日のお仕事完了。あたし達が確保した町でゆっくりと休みますかね! それまで哨戒!」

「「おー!」」

「了解」

 まったく、愉快な仲間達である。

 

「メラニー。ついでに一つ言うけど、ブリアン少年がウミガメをやっつけたやり方は丸太をてこにしてひっくり返してから斧で一撃だった筈だけど」

 

 細かい事はいいんだよ!

 

 

 

 ルーヴェンに迫るネウロイを撃退したウィッチ達は後からやってきた陸上部隊の到着の後、彼らによる前線基地の構築の間、思い思いの場所で休息を取っていた。

 

 もちろん、メラニー達もバックパックのレーションを広げてランチタイムである。

 

 全部食べても満腹にはならないくせに栄養バランスとカロリーだけはしっかり摂れる、見た目とか味とかそんなものは丸めて遠くに捨ててしまい、生産性と合理性だけが考慮された。それがリベリオンクオリティ。

 つまりリベリオン軍のレーションは果てしなくマズイ事で有名である。

 少なくとも味にうるさいウィッチはともかく、前線で生身で戦うマッチョな男達も口を揃えて言うものだからどうしようもない。

 

 もっとも、それでも喰えるので少しは楽しみでもあるのだけれど。

 

「ちょっとタバサ、あたしのチーズ缶取るなよ」

 ほぼ瓦礫と化し、陸上部隊が前線基地を構築しているすぐ脇で、かつて店だったであろう、まだ屋根のある小さな建物でメラニー達四人はレーションを広げていた。

「いいじゃん少しぐらい分けてよ」

 ブリジットとタバサがチーズ缶を巡って言い争いを始めたので、メラニーは呆れ顔で割ってはいる。

「二人とも喧嘩しない。つまらん事で言い争ってんならクラッカーを隊長に寄越せ」

「うわ、大尉酷! だってタバサがあたしのチーズ缶」

「今朝ハム半分あげたからいいじゃないの」

「そりゃタバサが朝に肉は食えないとか言うからでしょうが! チーズ缶なしのクラッカーなんて鳥のえさ以下だよ!」

「だったら角砂糖でも粉末ジュースでもかけて食べなさいなっと。いつだって創意工夫が大事だよ」

 タバサの手元からクラッカーを奪い取りつつ、メラニーがそう告げるとブリジットはすまし顔で答えた。

「ああ、確かに。大尉の作るチョコレートブラウニーもどきは最高に酷い味ですしね」

「喧嘩売ってんのかブリジット。現地軍式チョコレートブラウニーは素材さえ良ければ美味いんだよ、素材さえ良ければ!」

 ちなみにメラニーの作る現地軍式チョコレートブラウニーは配給のチョコレートに配給で余った甘味を適当に投げ込んで作る代物である。

 当たり前だが、配給のチョコレート自体がゆでたじゃがいもよりややマシな味の代物なので、まずい。

「残念だけど、それが美味い時を私は知らないから信じろって方が無理」

「イーニッド…」

 副官の冷たい返答にメラニーがやや落ち込むと、割れてから何年も経ったガラスを踏みつける音と共にぬっと一人姿を現した。

「お疲れ、グリーン隊」

「やあ、リー中尉」

 アジアの方からの移民だったという、ブルー隊のリー中尉が軽く手を上げて挨拶をしつつ、抱えていたものを四人の前に投げ出した。

「差し入れ。陸軍兵士からもらった」

「なに? スパム?」

「そう、スパム」

 恐らく陸軍兵士としては食べ飽きたスパムをウィッチにプレゼントしてウィッチ達の心証を良くするのと同時にスパムを厄介払いしたかったのだろう。

 ただし、問題はリベリオン軍である以上、ウィッチ達もスパムを死ぬ程喰っているということだが。つまりメニューがスパムとスパムとスパム。

 だが、クラッカーとチーズ缶オンリーのレーションにスパムいえども新たな味が加わるのはありがたい。

「ブリジット、あけてよ」

「了解! でっかく頂き~♪」

「メラニーの分も残しなさい」

「わかってるよ、イーニッド」

 スパム缶をあけて切り分けている三人を脇に置きつつ、メラニーはリーに視線を向ける。

「そっちは今日どうだった?」

「3往復して10機少々。どいつもこいつも小型オンリーだけどね」

「そりゃー、お疲れさん」

「そっちは?」

「全部で4機。うち、デカ物いっぴき」

「お疲れー。……怪我とかはないよね?」

「ああ」

 ウィッチにはシールドがあるとはいえ、それでも一回の被弾が命取りになる。

 そういった面では、飛行機という鉄の塊に守られている戦闘機パイロットが羨ましくなるが、彼らはネウロイに有効打を与えられない。ついでに落ちてもシールドが無い。

「ねぇ、メラニー」

「なんだい、リー」

「あたしらが生きてる間に、欧州を取り戻せるのかな?」

「なんだよ、急に」

「いや、真面目な話」

 リーは実に真面目な顔をしつつ、メラニーの水筒を勝手に掴んであけて一口飲み、少し喉を鳴らしてから言葉を続ける。

「カールスラントのウィッチがよく言うんだよね。10キロ取られたら20キロ取りに行けばいいってさ。だけどネウロイの版図は10キロ20キロじゃ語れない。何千、下手すりゃ何万だ」

「おまけに戦場は欧州だけじゃない。アフリカに極東、アラスカも戦場」

「その通り」

 リーは大きく伸びをする。

「今日一日だって、魔力が切れる寸前まで爆弾運んで、命かけて弾丸ばら撒いて、それで町一つ解放できる。それが一日で出来ればいいほう。ひどけりゃ、逆に戦線を押し返されることもある。ヴェネツィアだって3ヵ月ぐらい前に落とされたしね」

「そうだね。アホみたいな戦費つぎ込んで、男も女も若い命を散らして、それでも戦争は、まだまだ続く」

 メラニーはそう言った後で、更に言葉を続ける。

「だからといって、諦めたところで何も変わらない。諦めて家に帰るのはいつでも出来る。リベリオンに帰れば優しいパパとママがあたしらには待ってる。でもカールスラント人は違う。…で、仮にあたしら全員が帰っちまえば瞬く間に欧州はネウロイの巣窟、次は海を越えてリベリオンだよ」

「……」

 そう、連合軍全てが力を合わせなければ、欧州なんてあっさり落ちる。

 リベリオンはまだ蹂躙されてないだけで、ネウロイが襲撃してきてないだけで。

 

 決してこの世界は平和じゃない。

 

「それにさ。あたしらがこうやって戦ってるから、生きていける人間がいるって事を忘れない事だね。正義の味方気取りじゃないけど、自分の手で拾える命を拾ってやるのも、悪い事じゃないよ」

「…そうだね」

 リーはそう呟くと、メラニーに笑いかける。

「悪いね。愚痴って。じゃあ、また後で。……チョコ頂いてく」

「あ! 待て、それはあたしんだリー! 待てってーの!」

「知らない知らない知ぃ~らなぁい。早いもの勝ちですよーだ!」

 外に出て行くリーを追いかけ、メラニーは盛大に怒鳴りつつ、外の世界へと飛び出していった。

 

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