ストライクウィッチーズ World End Sky   作:Xn-i

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*キャラクター紹介1及び2を更新しました。


『Fly High in the Sky(この遥か高い空で)』

 

『ブリタニア放送協会より、ニュースをお伝えいたします。9月13日午前より、ネウロイの世界的な攻撃が各地で相次ぎ、現在も深刻な被害状況が次々と飛び込んでくるばかりです…』

 ラジオから聞こえてくるブリタニアのラジオ放送のアナウンサーは、平静に進行を務めようとするが、それでも動揺を隠しきる事が出来なかった。

『ガリア各地に降下した大型ネウロイの数は五十にも及び、陸軍を中心に応戦中。しかし、その数は更に増えていくものと見られており、戦況の悪化が予想されています。13日の攻撃で千六百人以上の尊い命が失われたここロンドンでも、市民の間に不安が広がり、疎開の準備をする人もいます』

 ネウロイの攻撃によって、大きな犠牲が出る事はこれまでもあった。

 だが、1945年になって、戦況が良くなってきたと多くの人が思い込んでいた矢先に、これだった。

『ベルギカ・ネーデルラントへ至る幹線道路も途絶しており、孤立した前線部隊への補給が心配されています。連合軍は空輸作戦を計画しておりますが、航空ネウロイの増加が確認されている通り、困難が伴うものと…』

「広報にここまでベラベラ喋っていいと言った阿呆は誰だ?」

 ロンドンの連合軍司令部地下の、防空壕に集まった将軍たちは出入り口付近にアンテナを限界まで伸ばしておかれたラジオにそう悪態をついた。

「ブリタニア放送協会からの質問じゃ、官庁街で背広を着た連中が勝手に答えるしかないだろう。たとえ、考えてない事だろうと、悪いニュースだろうと」

 ブリタニア陸軍の将軍は肩を竦めながらそう呟き、そして近くの木箱の上に置かれた、すっかり冷たくなったマグカップを一息に飲み干して。

「これコーヒーだ」

「そのマグはわしのだよ」

 バツの悪そうなブリタニアの将軍がマグを木箱に置き直し、その奥に置いてあった紅茶入りのマグカップを持つ、が。

 

 そっちのマグカップは既に空であった。飲み干したのを忘れているほどに。

 

「完全に後手後手に回っている…40年以来か」

 そう呟くと、将軍たちの多くは肩を落とす。

「3年もの間、ブリタニアやヒスパニアで息を潜め、耐えて耐えてやっと解放し始めた欧州だというのに、な」

 思う様に援軍も物資も送れないまま、悲鳴に満ちた前線からの報告が上がってくる。

 戦争後のイニシアチブを握る政争という戦況にはそんなに寄与しない事に精を出していた罰か。

「戦力を運ぶ輸送機が足りん。ガリア国内の制空権が奪われつつある以上、下手に飛ばしても落とされるだけだ」

「だが、物資も増援も来なくては、前線の部隊は壊滅だ! 主力が戦えなくなれば、打つ手もなくなる!」

「わかってる! だが、逆転の為の一手が足りないんだ!」

 言い争い出した将軍たちの間に、一人の士官が割って入った。

「恐れながら、拙策を申し上げる許可を…ベルギカ・ネーデルラントへ向かう通路の確保だけはしなければなりません」

 

 そして、彼らは是が非でもなく、その一手に賭ける準備をするのだ。

 

 

 

 

 

 オラーシャ帝国 北西部

 アルハンゲリスク北方八キロ上空

 C-47輸送機

 

 

「夜間飛行は注意しろというけど、風がさらに強くなってきたぞナタリー」

 ひどく揺れるC-47輸送機のコックピット内。操縦桿から手を離さずにそう呟くと、操縦席のもう片側にいた妹のナタリーは「うん」と呟く。

 一つ年下の妹は積極的に操縦桿を握ろうとはしない分、積み下ろしの際の荷下ろしや確認といった作業には機敏に動く。そういった作業が面倒くさい私よりも働いてくれる。

 だからカルラも私たちを常に二人セットにしておきたいのだろう、と内心懐かしく思う。

 家族一同、使用人としてカルラ・ローゼン伯爵に仕えてきたが、彼女はどうも使用人というより歳の近い友人としてみようとしている―――――私としては気楽でいいが妹のナタリーはそうではなくて歳をとるにつれてきっちり線引きをしたがる。

 お陰でこうして主であるカルラと離れて欧州の北の方で輸送機を飛ばす仕事も、実はナタリーは気が乗らないんじゃないかとも勘ぐってしまうが、これもまた主の命だ。

 

 カルラ本人もガリアと地中海方面を輸送機で飛び回っている辺り、連合軍は物資不足でどこの戦場も喘いでいるに違いないだろう。

 今日だってそうだ。

 不足しがちな弾薬を届けに行こうとしたらついでに二人ほど魔女を相乗りさせてくれ、だそうだ。

 

 二人とも今はよく眠っている。まだ夜明け前だからだろうが。

 

 魔女とは、難儀な仕事だと思う。

 私やナタリーも同じ。魔力適性があったが、とても戦闘できる程の才能も魔力も無かった。陸戦に行けばいいという言葉もあったが、泥臭く戦うより輸送機を飛ばしている方が性に合った。

 たまたまそういう環境だった、というのもあるかも知れない。

 

 だからこそ、猶更思う。

 魔女とは、とても難儀な仕事だ。時に一瞬で落ちていく。

 

 夜明け前の、まだ太陽の光が出てくる前の世界に思いを馳せて居る時だった。

 無線機がノイズを立てて動き出した。誰かコンタクトを試みているようだ。

「あー。こちらスカイトレイン510号。感度が悪いが、聞こえている。どこの誰さん?」

『…ちら…アルハン…』

「アルハンゲリスク駐屯地か?」

 私の問いかけに、遂に向こうが雑音の中を突き破るように叫んだ。

『ああ! アルハンゲリスクだ! どこでもいい! 敵襲だ!』

「敵襲!? そんなバカな!」

『地上のレーダーにも殆ど映ってない…だが、いるぞ! 航空だ!』

 無線機から漏れる言葉の重要さに、ナタリーも気づいたのだろう。懸命に窓から目を凝らして、周囲を窺っている。

「嘘…本当に、飛んでる!」

「冗談キツイよ」

 思わずそう呟きつつ、振り切るべく大きく旋回をかける。

 貨物室で盛大に荷物同士がぶつかる音と、二人分の悲鳴。

「悪いね、お客さんだよ!」

「ネウロイ?」

 明かりのほとんどない貨物室より、そんな声。

「ああ! ちょいと派手に揺れるぞ!」

「……ストライカーを探そう」

「銃もいるね」

 積み荷の二人のウィッチは足場の悪い貨物室の中で家探しを始める。その間に喰らわないようにどうにか逃げ切れればいいが。

「とにかく踏ん張っては見るから早めに探しなよ! それと、スィクティフカル! こちらスカイトレイン510号。救援を要請、アルハンゲリスク近くで接敵! 繰り返す、アルハンゲリスク近くで接敵! アルハンゲリスクが攻撃を受けている!」

 コックピットからも見える、暗い夜明け前の空を赤い光が駆け抜けていく。

 こんなものを喰らえばひとたまりもない。

「ストライカーと銃は見つかった!?」

「どうにかね!」

 やや幼い魔女の返事。いい声だ、こういう奴ほど生き残るぞと思いつつ、どうにか機体を立て直したい。

「ナタリー、ドアを開けてやれ。二人を外に出すんだ」

「わかった」

 だが、ここは上空だ。気温差は相当なもの、更に飛行機から飛び降りてのストライカー機動はちょっとやそっと出来るものではない。

 やってもらうしかない。それだけは、わかっていた。

 

 冷たい空気と耳を切り裂く轟音が、ドアを開く音と共に吸い込まれてくる。

 

「飛ばされるなよ!」

 生身で飛ばされるな、とナタリーに叫ぶ。

「生き残ってこい!」

 

 

 

 

「ロンドン」

 

 壁に張られた欧州地図、西部方面軍司令部と走り書きされた字ごと、赤鉛筆で丸。

 

「パリ、リヨン、トゥーロン、ブリュッセル、ロッテルダム」

 

 更に赤鉛筆の丸が、欧州各地の都市に追加されていく。

 

 夜明け前の薄暗い作戦室に、小さな声と赤鉛筆を動かす音だけが響く。

「マドリード、ジブラルタル、フィレンツェ、ファドーツ、メッシーナ」

 ブラントの手で次々に追加されていく赤丸を眺めながら、永倉はため息をつく。

「前線、後方、区別なしに大型ネウロイ…西も地中海も大わらわだ。だが、東部戦線から部隊を送ろうにも……」

「連中が大型ネウロイを送り込んでるのはこちら側から、しかも東側にも容赦なく下ろしてくる」

 ブラントはそう続ける。

「……今日、増員が到着するとさっき連絡が入った。ただ、一人は任官仕立てだってさ」

「任官仕立ての魔女か。まあ、統合戦闘航空団としてみれば、前例がない訳ではないだろう」

「その前例、確かどっちも扶桑の魔女だったよね?」

 ブラントは永倉の返事に軽く肩を竦めて苦笑して。

「今度はカールスラントだってさ。けど……」

 作戦室の壁に手をついて、ブラントは呟く。

「嫌なタイミングにネウロイも攻めて来るよ……オラーシャの大地に、すぐ冬将軍はやってくる」

 北半球の九月。多くの国は秋が訪れるが、厳冬の地オラーシャでは短い夏はとうに過ぎ、冬将軍の足音が近づいてきていた。

 ガリア第一帝政をはじめとする数多くの征服者を白い大地へと葬って来た、冬将軍が。

 

 薄暗い夜明け前の空が、作戦室から見える。まだ、光は殆ど届かない。

 

 

 だが、音は届いた。

 基地中に突如鳴り響くアラート。作戦室の電話に飛びついたブラントに、報告がすぐに上がって来た。

 

『緊急です。アルハンゲリスク上空にネウロイが出現。スィクティフカルに物資輸送中のスカイトレイン510号及びアルハンゲリスク駐屯地が攻撃を受けています。直ちに救援を』

「了解。永倉大尉、皆を叩き起こして。新人を迎えに行かないとね」

 

 

 

 

 ”Fly High in the Sky(この遥か高い空で)”

 1945年9月15日

 ティアナ・レーブマン中尉

 連合軍第510統合戦闘航空団”ネメシスウィッチーズ”

 オラーシャ帝国北西部 アルハンゲリスク

 

 

 

 朝食より前に飛び立つ空は、まだ太陽が半分も顔を出していない――――殆ど夜のような空だ。

 だがそれでも、滅茶苦茶に壊された世界の中で、壊される前と変わらぬ美しさは保っている。少なくとも、見かけだけはそうなのだ。音まではそうではない。

 

 砲撃の音と銃声だけは、壊される前の世界より遥かに増えているんだ。

 

『いいか全機。よく聞け』

 六機の魔女で先陣を飛ぶ永倉がゆっくりと口を開いた。

『アルハンゲリスクは北部方面軍全域に物資を送る為の、中継地点だ。ここが落とされれば、北極海を越えての海路や空路での輸送になる。それだけリスクは増える』

『過酷な環境ですしね。遭難した部隊を救助しに行った部隊も遭難なんてことになりかねません』

 内海の呟きに永倉は『ああ』と肯定。

『それに、今回は我々への増援が積み荷だという輸送機もいるようだ。せめてアルハンゲリスクで無事、着陸できるまでは援護しなくてはならない』

「それまでに生き残っていられれば、だが」

『安心しろ、ティアナ。まだ通信はあるそうだ。だが、長くはもたないだろう』

「了解。最優先で援護しよう。ベルタ、行くぞ」

『ベルタ、了解!』

 ベルタの返事を受け、ティアナは永倉に代わって編隊の先頭へ移動し、やがてアルハンゲリスク市街地が見えてきたところで大きく上へと上昇する。

 ひどく風が強く、目が痛い程だ。

「大尉、上空は気流が激しい。他の奴らにも伝えてくれ」

『了解』

「ベルタ、流されるな。出力をうまく調整しろ」

 風に負けないように飛行を続けていると、雲の間から黒い影が見えている。

 

 ネウロイだ。

 

「航空ネウロイを目視で確認。数は……小型が八機だ」

 大した数でもない、さっさと追い散らせばすぐ終わるほどだ。少なくともティアナたちが着いたなら、十分ほどで片もつくだろう。

『ティアナ、どうやらあそこ以外にもお客さんがいる。飛行場に何機か張り付いた、と駐屯地から来ている。護衛と飛行場の奪還、両方をやらないといけない』

「わかった。護衛は任せろ。ベルタ、雲の中に突っ込むぞ!」

 一気にストライカーを加速させて前進。雲の中から輸送機にちょっかいを出す小型を黙らすには、追い散らしてやるのがい一番いい。

 夜明け前の薄暗い雲の中ではさらに視界が悪くなる。ネウロイと衝突するような間抜けな事態は避けたいので、目を凝らして雲の中を見つめ、慎重にハーネルStG44をポイントし続ける。

 いつでも撃てるように。そして外さぬように。

 輸送機のエンジン音も近づきつつある、それならば近いはず。

「永倉大尉、輸送機と連絡は?」

『待ってろ、あー、スカイトレイン510号。聞こえるか? こちら連合軍第510統合戦闘航空団。救援に来た』

『おおっと、よく来てくれたよ! こちらスカイトレイン510号、飛行場周辺のうるさい奴らを早く始末してくれないと避難出来ない! 飛んでる間なら可能な限りは回避できるんだけどね! それと、積み荷のお二人さん! 救援が来たよ!』

「新人は二人、か」

 ティアナがそう呟いた時だった。

 

 雲の合間から銃撃がネウロイに向かって飛び、航空ネウロイを一機貫く。その合間を縫って、輸送機が雲の合間から太陽が昇りつつあるオレンジの空に飛び出した。

「へへっ、大当たり!」

 軽い声と続く軽快な口笛、だがネウロイは他にもいるだろう。

「気を抜くな、まだいる」

 そんな軽口の主を窘める鋭い声。なるほど、新人はいいコンビのようだ。

「残り何機だ?」

 その二人にティアナがそう声をかけると、まだ姿が見えない新人二人は少しの静寂の後。

「五機ぐらいかなって思います」

「報告は正確にしろ」

「…六機です」

 ティアナの注意の後、鋭い声の方の報告。

「確かか?」

「固有魔法の夜間視で見ました。他に飛行場近くに六機、少し離れた所に八機」

 そう続けながら、雲の中から出てきたのは頭の両脇にフクロウの羽根を持つ、茶髪の魔女。

 フクロウが使い魔の夜間視持ちとはナイトウィッチになる運命を義務付けられたものだな、とティアナは内心感心してしまう。希少なナイトウィッチ、その適性を持つものは少ない。近い適性のものを引っ張り出してる程だ。

 そしてもう一人の軽口の方は、と思うとこちらも雲の中から顔を出し、そして何が楽しいのか笑顔でこちらに接近だ。

「よっと! あー……お会いできて光栄です、レーブマン中尉! ヴィオラ・クローゼ少尉です!」

 笑顔のまま敬礼を決めたカールスラント空軍の黒服を纏った、長い金髪に蒼い瞳の魔女。ティアナがもう少し年下ならばこんな感じだったかも知れない。

「510にようこそ、少尉。まだ戦場だ、敬礼は後にしろ。それと…」

「ザシャです。ザシャ・グリムパルツァー准尉」

 茶髪のナイトウィッチはそう返事をする。

「よし、二機とも。聞け。まずは周辺の六機を追い散らす。続いて輸送機を無事に着陸させる。行くぞ」

「了解、中尉! あなたの指揮下に入ります、いつでもご命令を!」

 元気に答えるヴィオラにはとりあえず手で落ち着けと示しつつ、ティアナは永倉たちを探す。

「永倉大尉。新人二機と合流した。周辺を蹴散らした後は飛行場に着陸させる。それまでに飛行場の掃除を頼みたい」

『わかった。内海、トゥーリ、カティ。飛行場の掃除をするぞ』

『輸送機の周囲を片付けたら援護よろしく。こっちが楽になるからね』

 永倉大尉に続いてトゥーリ・パブロフ少尉がそんな言葉を続けてきて、ティアナは肩を竦めた。まったく、ふざけた事を言う魔女だ。前々から思っていた事だが。

「おいおい、レーブマン中尉がそっち行ったら全部落としちゃうよー?」

「クローゼ少尉」

「は、はい中尉!」

「行くのは先にこっちを落としてからだ」

「了解」

「グリムパルツァー准尉はクローゼ少尉につけ…と、言いたいが」

 ティアナは太陽が完全が上り切ってない空を見て、呟く。

「お前は上から頼む。他にもネウロイが来ないとは限らない。狙われたら私に言え。それと、永倉大尉たちの方にも注意を向けろ。雲の中にネウロイがいないとは言い切れない」

「お任せを」

「ベルタ、クローゼ少尉。ケッテを使う。ついてこい!」

 二機を引き連れてまずは輸送機の護衛を続行しなくてはいけない。

 小規模とはいえ、アルハンゲリスクにネウロイが襲撃してくるとは。北部方面軍の生命線ともいえるこの地を明け渡すわけにはいかないのだ。

『中尉、右側に二機』

「ああ、こちらも見えた」

 ハーネルStG44を掴み、一気に弾倉一つを撃ち切るつもりで連射していく――――――二機の小型ネウロイはそれぞれ方向転換をしたのか、撃墜する前に逃げていく。

 クローゼ少尉がその二機を追おうと向きを変えるのが見え、声をかけるより先に。

「クローゼ少尉! 単独での深追いは危険です!」

「むぅっ…中尉、追撃許可を」

「今は輸送機の護衛が先だ。手負いだ、そう長くは逃げれないだろう」

 数発は当たっているので、撃墜には至らなくても速度は落ちている。

 放っておいても永倉たちが撃墜するかも知れない、と思った直後、別の銃声。

『さっきの二機は仕留めました、護衛に集中して大丈夫です』

「すまんな、准尉」

『中尉のお陰で簡単でしたよ』

 グリムパルツァー准尉がさくっと始末してくれたので良しとしよう。クローゼ少尉が不満げに頬を膨らませるのはまだまだ幼さの証拠か、とティアナは内心肩を竦める。

「危なっかしいですよ、少尉」

 そんなティアナの内心を感じ取ったのか、ベルタがそう口を開いた。

「そっちこそ銃を構える事すら出来てないじゃん、へっぽこ魔女」

「んなっ!?」

 売り言葉に買い言葉とやらクローゼはそう返答し、ベルタも怒りをむき出しにする。

「……二人まとめて部隊から叩き出されたいか?」

 こういう時は火が付く前に鎮火してしまうのが良いのだ。

「し、失礼しました」

「…すいません」

「クローゼ少尉、ベルタ。前方の三機だ。やってみろ。准尉、もう一機いないか?」

『残り一機は飛行場の方に合流してます。で、飛行場の奴は上にいた八機を呼び寄せて格納庫にビームを撃ちまくってるようです』

 二人に三機は任せるとしても、残りの行方を尋ねると、准尉からは思わしくない返答だ。

「永倉大尉たちは?」

『件の連中と交戦してますが、数が多いようです…援護に行く許可を願えますか?』

「わかった。永倉大尉、そっちに新人を一人回す。信頼できる奴だ、問題ない」

『了解した。まだ時間がかかりそうなんでな、もう少し輸送機を飛ばしておいてくれ』

「…私も手伝いますか?」

『輸送機はベルタともう一人になるが大丈夫か?』

 確かに、それもそうかとティアナは思う。だが、輸送機は本来スィクティフカルまで飛ぶ予定だったのだが、アルハンゲリスクで余計に飛び続けている。燃料の余裕がある訳でもないだろう。

 かといってティアナが飛んでいけば飛行場はさっくり片付くだろうが、ベルタはともかくクローゼ少尉に関しては不安だらけだ。どうにも放っておけない。

「ベルタ」

『はい、中尉』

「輸送機は任せた」

『ベルタ、了解!』

 だが、ティアナもベルタも510JFW。連合軍から集められた精鋭ならば、それだけの働きをすれば良いのである。

「スカイトレイン510。滑走路の掃除をしてくる。もう少しだけ踏ん張ってほしいが、燃料はあるか?」

『まだ三十分ぐらいは飛べそうだよ。よろしく頼む』

 インカムの向こうからは良い声が聞こえる。それなら心配ないと言いたいが、ネウロイに追われて数時間、疲労もあるだろう。

「了解。十分で終わらせる! 准尉、行くぞ!」

 ティアナはそう声をかけると、ハーネルStG44の弾倉を替えて一気に向かう。

 上空に飛んでいたグリムパルツァー准尉もすぐに追いついてきた。急いでいるティアナについていける辺り、腕前は充分過ぎる程だ。良い新人である。

 

 一方、滑走路周辺では永倉・内海のロッテが防衛に、トゥーリとカティの二機が積極的に攻撃しているが、うまく集ったネウロイ共は四人の網をすり抜けては滑走路や対空火砲に攻撃を仕掛けている。

 さっさと滑走路を開ける為には、少し強引にリズムを崩す必要があるようだ。

「准尉は永倉大尉につけ」

「中尉はどうしますか?」

「連中を貫いて崩す。今度は連中が私を深追いする時間だ」

 ティアナの返事に、准尉は少し顔をしかめた。

「…大尉に指示を仰ぐべきでは?」

『…ああ、聞こえた。准尉はティアナの後方を守ってくれ』

「だ、そうです」

 見事な連携である。連携が優れた軍人は生き残りやすい、とは言うけれどここまでうまくいくのも困りものだ。

 ティアナはその言葉は飲み込む事にし、准尉を後ろに連れたまま突入する事に決める。

「落ちるなよ、准尉」

『ええい、しつこいなこいつめ! 曹長、後ろを!』

『むしろ少尉こそふらふらしすぎです! 訓練学校で何やってたんですか!』

「新人なら現地の先輩の言う事ぐらい聞いたらどうだ、少尉? ベルタ、上官相手だ」

 あっちの二人とは本当にだいぶ違うようであった。

 ティアナは銃を構え、ネウロイの群れの中へと飛び込んでいく。

 

 

 

 きっかり十分後。あいた滑走路にC-47輸送機が滑り込んでいき、その後ろから八機のウィッチが着陸していく。

『本当に十分で着陸できたぞナタリー。機体の様子をチェックして燃料補給だ』

『うん』

 そんな会話が漏れ聞こえる間、ティアナは降りてくる間も言い争いをしているクローゼ少尉とベルタをちらりと見る。

 さて、今度はどんな風に叱るか。もしくは永倉に一つ雷でも落としてもらうべきか。

「永倉大尉、新人の片割れですがご覧の通りで」

「わかった。准尉、挨拶を少しだけ待ってくれ」

 後は永倉に任せておけば少しマシになるか、とティアナが思っていると、先に着陸してストライカーを脱いだ内海がつかつかとやってきて。

 

 ごいん。

 

「あだっ」

「もう、ティアナさんまた無茶しましたね!」

 少し離れた所でクローゼ少尉とベルタが内海とは比べ物にならない威力の永倉の鉄拳を喰らっている。

 グリムパルツァー准尉が目を丸くし、ティアナは内海に反論するべく向き直るが、再度内海のごいん、である。

「十機以上! 十機以上の真ん前に真正面からホイホイ出ていくって! しかも低高度に高速で!」

「墜落しなかったからいいだろ。後ろに腕の良い奴がいてくれたお陰で無事だったしな」

 お陰で燃料が切れる前に輸送機は無事に着陸したのだ。結果オーライと言いたげなティアナだが内海はぷんすか顔である。

「まったく……あっと。えーと、新人さん?」

「ザシャです。ザシャ・グリムパルツァー准尉」

「私は内海司。階級は中尉です。こっちは……」

「レーブマン中尉は有名ですよ、510のエースだと」

「エースにしても無茶苦茶すぎるけど」

 准尉の返事に内海が肩を竦めると、准尉は変わらない顔で今は頭を押さえているクローゼ少尉を示した。

「彼女がカウハバからここに来るまでひたすら語り続けてましたから」

「ええっ!?」

 ようやく永倉の拳骨と説教が終わり、向かってくる一行を見ながら内海は驚愕である。

「あのレーブマン中尉に憧れる新人…だって?」

 ほら、口数の多いトゥーリが早くも絡んできた。

 ティアナが頭を抑えるより先に准尉に近づいていく。

「恐ろしくないか、それ。腕前はともかく、機動はやばいだろ」

「…正直、まだ冷汗止まってません」

「ザシャさん、それは正しい反応です。私もです」

 うんうんと勝手に共感を示す三人だ。カティは黙っているが三人に近づいている事には変わりはない。

「どうした、ホルンシュタイン少尉。なにか言うか?」

「なにか」

 これは殴った方が早いのだろうか。たぶんおちょくられているに違いない、とティアナが考えている間に三人はまだまだ会話だ。

「正直、ティアナさんに落とされそうですよ…心臓麻痺で」

「そんな嫌な損害報告書は書きたくないな、内海」

 永倉大尉がようやく戻って来た。

「ティアナ。クローゼ少尉の事だが」

 カールスラント軍の管理について小言を言われるか、或いは即座に別部隊に転属させるか、もしくはベルタについての小言か。ティアナが身構えていると。

「しばらくお前に任せる。ベルタとケッテを組んでくれ」

「……了解」

 それはそれで予想外の返事ではあった。だが、変な話ではあるまい。

 ヴィオラ・クローゼ少尉はまだまだピカピカの新人である。つまり、いつか内海が言っていた雛鳥だ。

 雛鳥が巣立つまで、親鳥の背中を見せなくてはならない。

 既に親鳥のような刷り込みがあればなおさらだ。

「しかし、増員ですか」

「ああ……西部戦線各地に落ちている巨大ネウロイは、東から来ているらしい」

「すると、大本を叩くための戦力強化?」

「それが上手くといいがな」

 ティアナの言葉に、永倉がそう呟いた。

「まるでそれが良い作戦じゃない、と言いたげですね」

「ああ」

 珍しいな、とティアナは思った。輸送機で二人の乗員が積み荷の位置を修正する為か、固定の為のロープを幾らかほどいていた。

 同時に木箱の幾つかを魔女達の方へと押しやった。

「奇襲された場所は後方も含まれている。その混乱はまるで収まるどころか、ますます戦火が広がってる状態だ」

 永倉が輸送機に向かうのと同時に、ティアナもゆっくりと歩き出す。そのまま、話は続いている。

 既に木箱に気付いたトゥーリ達が木箱を開けてそれぞれに合う弾丸を引っ張り出している。

「発生地点がどこかもまだわかっていないし、なにより東部戦線にだって連中は降ってきてる」

「現に、カールスラント方面とシベリア方面の戦線の隙間だったアルハンゲリスクにも奇襲、ですね」

「その通りだ」

 木箱の一つに近づく。

「落ちた場所も守らなければいけない。欧州全土が焼かれる前に、連中を止められればいいが」

「止められればいい、ではないでしょう。永倉大尉」

 永倉が木箱の中身を見て残念そうな顔をしたのとは対照的に、ティアナはその木箱を引っ張り出す。

 ブローニングオート5散弾銃だ。

 散弾銃はネウロイ相手には効果が薄い、とウィッチには避けられがちである。確かに、貫通力の低さと射程の短さは問題だ。

「止めに行くんだ、私たちが」

 しかし、あるものを使って戦うのもまたウィッチだ。使い方次第でなんとやらだ。

「……そうだな」

「ええ。ところで大尉。ちょっと相談が」

「なんだ?」

 ティアナは少し微笑みを浮かべて、言葉を続ける。

「その扶桑刀ですっぱり切ってほしいものがあるんだが」

 

 究極のすっぱり、そしてにっこりである。

 

「私は工兵じゃないんだが」

 雪に落ちたストックと銃身を拾い上げながら、永倉は呟く。

 ティアナはそれには答えずに短くなったオート5を片手で持ち上げ、構える。これで片手で使える。

「まあ、咄嗟に使うには片手で使える方が良いか」

「それでいて拳銃より威力もあり、攻撃範囲も広い。肉薄されたらこっちの方がいい」

「普通は肉薄されないように逃げるんですけどね……」

 内海の言葉にティアナは肩を竦める、だが。

 クローゼ少尉はすっかり目を輝かせて木箱の中から別のオート5を探そうとしていた。

「少尉ー、荷下ろしはスィクティフカルに着いてからだから、あんまり荒らさないでねー」

 乗員にからかい交じりに言われる程だ。なるほど、それは止めた方が良い。

「クローゼ少尉。後で撃たせてやる」

「楽しみにしてます、中尉!」

「……やばい新人が来た」

 トゥーリはそう呟き、グリムパルツァー准尉が同意するように頷くのが見えた。

「必要なのは強さだ」

 ティアナは、仲間たちを見ながらそう呟いた。

 空の上では、弱い奴から落ちていくんだ。

「さて、もうすぐ終わるよ。皆、乗ってくかい?」

 乗員の少女が準備を終えた、とばかりに親指を立てた。

 

 消耗しているのだから、スィクティフカルまで乗っていくにはいいかも知れない。

 

「荷物が増えて平気かい?」

「大丈夫、大丈夫。ナタリー! 席はまだ余ってるよな?」

 トゥーリの問いかけに、乗員が輸送機の中に声をかける、が。

「無理よ、姉さん。二人ぐらいしか入れない」

「あれ?」

「二人分のスペースしかない」

 つまり、クローゼ少尉と准尉が乗っていたスペースだけ。

「あちゃー、そりゃ全員は乗れないかー」

「ごめんごめん。けど、その分荷物は持ってきたからさ」

「うんうん。こうして命がけで運んできてくれたんだもの、謝ってもらうことなんて、ないよ」

 トゥーリは気にするな、と乗員の肩を叩き、彼女もまた笑顔で頷いて、二人して「あっはっは」と笑う。

 なんとものんきなものだな、とティアナは思い、輸送機の中にいるであろうもう一人の乗員に視線を向ける。

 

 若いな、とは思ったが乗員二人とも、ウィッチ達と大差ない歳だろうか。

 無理もない。連合軍全体で十代が増えている。人的資源の損害は少なくない為か、後方支援に十代の少年少女が入っているのはおかしくもない。

「12ゲージの散弾はどの箱だ?」

 

 

 

 そう問いかけてきた魔女は、なにか違った。

 少なくともナタリーが見てきた魔女の多くと彼女は、違った。そう、直感で感じた。

「もう木箱にしまってしまったので、スィクティフカルに着いてからでないと」

「そうか。まあ、いいさ」

 ブローニングオート5を担ぐその長い金髪の、そして蒼い瞳の魔女は変わらぬ表情のまま呟いた。

 カールスラント空軍の制服を着ている辺り、その魔女だろう。だけど、その容姿は新聞の写真越しに見る多くの魔女達よりもはるかに綺麗で――――。

「とんだ輸送任務になったな」

「ええ。けど、前に比べれば、だいぶマシですよ。これでも」

 ナタリーは彼女にそう答える。ダニエラはまだ他の魔女と話しながら荷物の固定を続けている。まだ話し込んでいるのは終わりそうにないな、と思う。

「前に比べれば、か」

「バルトランドからブリタニアやスオムスに飛んでは降ろしてを繰り返してる間にも、ネウロイはユトランド半島にわんさかですから」

「………」

「ガリア解放後はだいぶ楽になりました。離陸中にビームが飛んで来るなんて、殆どない」

 飛び立つ直前に死の光線が直撃してそのまま炎に包まれるなんて事はない。

 今まで散々見てきて、それだけ荷物も命も失われていく。

「ああ、そうだな……」

「だから今でも、飛ぶとき怖いんです。命を背負うのが、それだけ、怖い」

「……」

 ナタリーの言葉に、魔女は何も言わない。

「だけど、それでも飛ばなきゃいけない。怖くても、悲鳴を押し殺して飛ばなければ」

「生き残れない」

「空は、過酷な場所だから」

 それだけはお互いに、思っている。

「…なにか欲しいものがあれば、可能な限り調達できますよ」

「ああ、助かる。だが、今はこれだけあれば十分だと思う。その時にまた頼もう」

「お気になさらず。それが任務ですから」

「ありがとう……ティアナだ。ティアナ・レーブマン…中尉だ」

「ナタリーです。ナタリー・ノルデンソン。よろしくお願いしますね、中尉」

「こちらこそ、頼むよ」

 ティアナと握手しようと、ナタリーが手を伸ばし、ティアナも気付いて右手を出そうとした。

 その時、通信機がノイズだらけの音を発した。

『……こちらアルハンゲリスク司令所! スカイトレイン510号、及び510JFW! 聞こえるか?』

「おっと…こちらスカイトレイン510号。どうしたんだい、アルハンゲリスク?」

 ダニエラが慌てて通信機を掴むと、更に嫌な続報が入って来た。

『また小型ネウロイだ! 低空で高速―――――――すぐに退避を!』

「ナタリー、エンジンをかけるぞ! 魔女の皆、悪いけど、またお客さんだ!」

「わかった。大尉! またネウロイが来たぞ!」

 ティアナがそう呼びかけ、上級士官であろう扶桑の魔女も大きく頷く。

「ああ! ティアナ、クローゼ、ベルタ! 先に行ってくれ! これ以上アルハンゲリスクに被害が出るのは不味い! トゥーリ、カティ、ザシャは輸送機の護衛だ! 上がって逃げるまでなんとか持たせろ! 内海、防空陣地の支援に向かうぞ! よし、行け!」

「司令所、聞こえたかい? 魔女たちがまた上がる!」

『急いでくれ! 迫るネウロイは、なかなか高速だ!』

『510の永倉大尉だ! 滑走路はスカイトレインに開ける! ウィッチーズは垂直離陸で行け!』

 貨物室から転がるように飛び出していった魔女たちは再びストライカーを装着する。

 ティアナが同じカールスラント空軍の軍服を来た小さい魔女と共に飛び上がる、だがもう一人、ティアナより一回り小さな、同じ金髪碧眼の魔女が悪戦苦闘しているのも見えた。

『クローゼ少尉! 何をしている!』

『すいません永倉大尉! 緊急時の垂直離陸がどうも苦手で…』

『苦手もクソもあるか! 地面にいる内に撃たれるぞ! さっさと飛べ!』

 通信がウィッチ用インカムの音声も混線してしまうのもあってか、通信機からは魔女たちの返事がよく交じっている。

 滑走路はあいただろうか、それならもう動いても平気だろうか。

「アルハンゲリスク、滑走路の様子は?」

『ああ、どうにかあいた。早めに離陸を!』

「ようし、行くぞナタリー。今度こそスィクティフカルに着陸だ!」

 回るプロペラ越しに、赤い光が空を走り、時に近くの地面に落ちていく。

 頼むぞ、当たってくれるなと願い続けるナタリーだが、対空砲火を浴びせ続けていたオラーシャのデシーカ重機関銃が吹き飛ぶのが見えた。

 

 本当に、それに気を取られ過ぎてる場合ではなかった。

 

「ようし、上がるぞ!」

 姉の言葉に、ナタリーも意識を引き戻す。

 操縦桿を握る姉の表情は真剣だ。そう、かつてユトランド半島からブリタニアやスオムスに幾度となく往復した頃と同じ。

 あの時のように、命を懸けているのに変わりはない。

 

『永倉大尉。敵を見つけた…五機。ウィッチ型だ』

『X-11型だな?』

 通信機から、ティアナの声も聞こえてくる。

『いや、資料で見たそれとは少し違うようだ。なにか持っている…高速だぞ。うまく誘い出してやれるか』

 そんな通信の声をバックに、輸送機は緩やかに上昇していく。

 太陽が顔を出した直後の青空に、まだ赤い光が走る中を。

『私たちがエスコートするよ。なんとかここを離れないとね!』

「よろしく頼むよ、ウィッチーズ」

「お願いします」

「ナタリー、お喋りなんて珍しい」

「たまにはある」

 直後だった。

『三機抜けた! トゥーリ、カティ、准尉、止めろ!』

『早い! くそ、止まってくれよ!』

『スカイトレイン、上に逃げろ!』

「ああ! 上だな! ナタリー、掴まれ!」

 ダニエラが操縦桿を掴んで、機首を上げて更に上昇しようとした時―――――――――。

 

 赤い光が、ナタリーの頬をかすめて、そして操縦桿を握るダニエラの首を通り抜けて、コックピットのガラスを突き破った。

 

 後ろから撃たれた、と気づいた時にはもう遅かった。

「姉さんッ!!!!!!!!」

 首から溢れる赤い鮮血が、既に座席を濡らして、ダニエラが握っていた操縦桿からも、手が離れる。

「は、はは……」

 そんな時でも、いつも明るい姉から漏れる声は同じように、ダニエラは、笑ったような声をあげた。

 ナタリーは座席から操縦桿を掴む。

 冷たい風が頬を打つ。エンジンはやられていない。だが、貨物室の真後ろに小さな穴が開いている。それでも充分にバランスを奪う。

「ナタリー……」

 弱弱しく、ごふという咳と共に漏れる声。

「喋らないで、姉さん! アルハンゲリスク、緊急着陸を!」

「戻るな…進め……」

『ネガティブ、ネウロイ一機が滑走路から離れない! スィクティフカルまで持ちそうか?』

「一人やられた! 一発撃たれたけどまだ飛行可能!」

『なんとか持たせてくれ! 対空火砲が次々にやられていく!』

 通信機からは絶望的な声しか聞こえない。

 

 あのネウロイはどこにいる。ナタリーが再び目を凝らすと、冷たい空の中で、ウィッチを模したネウロイが見えた。

 

 あいつが撃ったのか、と思った直後に。

 すぐ近くで、オート5を構えるティアナの姿が見えた。

 

『食らえ!』

 怒りを込めたのか、或いは任務を果たす為の勇気か。

 それは判らないが、ティアナが片手でぶっ放した散弾はそのネウロイに真正面からダメージを与え、そして2発目、3発目も叩き込まれていく。

 そして散弾銃をStG44に持ち替え、連射で残りのネウロイも追い落としていく。

『中尉、一機下に逃げてます!』

『ベルタ、援護』

『ベルタ、了解!』

「戻るな…高度を保て…」

「姉さん! しっかり! 中尉が敵を蹴散らせば着陸できる! だから!」

「そのままだ…そのまま…怖がるなよ、同じなんだ…」

「姉さん!」

 操縦桿からナタリーは手を離せない。

 手を離せば、止血が出来るのに。それを状況が許さない。操縦桿を握ってなければ、二人とも落ちていくし物資も失われる。

『ナタリー。生きてるか?』

「私は無事です。けど、姉さんが…!」

『アルハンゲリスク、緊急着陸だ』

『ネガティブ、ネウロイがまだ…』

『それがどうした、蹴散らすまでだ。ナタリー、聞こえるか』

「はい」

『三分だ!』

 先ほどと同じように、ティアナは力強く答えた。

 

 そういう奴ほど、早く死んでいくんだとダニエラは言うかも知れない。だけど。

 今のティアナ程頼もしく聞こえる声はなかった。

 

 

 

 力強く叫んだティアナは、残り三機になったウィッチ型ネウロイを追って滑走路の上へと向かう。

「トゥーリ、カティ。輸送機の様子はどうだ?」

『エンジンに被害はなさそうだよ…けど、コックピットに血が飛び散ってる』

『医療パック、誰かない?』

 トゥーリの呟きに続き、カティが問いかけるが誰からも返事はない。

『その状況で乗り込むのも危険だ。空中だぞ……』

 永倉の言葉は悔しさを噛み殺そうとして、出来ていない。

 それならば、早急にアルハンゲリスクに着陸させるしかない。

「ベルタ、クローゼ少尉。左右に分かれろ。一機ずつうまく追ってひとまとめにする」

『了解、中尉! お任せを!』

『ベルタ、了解!』

 まとまっても、散らばっても。一つずつ撃ちぬけば、やがて落ちる。

 そう、撃ちぬけば落とせる。

 撃ちぬかれれば、落ちていく。

 

 この遥か高い空の中で、それはネウロイだろうと魔女だろうと飛行機だろうと鳥だって変わらない。

 

 クローゼが射撃を始め、追われるウィッチ型がティアナの追いかけるウィッチ型と位置を交換するように移動。

 そこで反転しようとしたのか、大きく上昇して向きを変えようとする、けれど。

 そうやって、大きく上昇しての宙返りでは半径が大きすぎる。

 

 ティアナがStG44で撃ち落とすのに十分な時間があるぐらいには。

 

『レーブマン中尉が一機撃墜!』

「クローゼ少尉、気を抜くな。奴はどうした?」

『まだ逃げてます…けど、こっちの方が早いですよ!』

 直後、クローゼ少尉の追いかけるネウロイがオーバーシュートの要領で急ブレーキをかけ、その脇をクローゼが抜けていく。

 たまに小型ネウロイ相手にウィッチが仕掛けるテクニックだが、自分がやられてどうする。

『あれ?』

「後ろだ、少尉」

 ネウロイを見失いつつも左右に身体を振るクローゼに狙いを付けようとするネウロイだが、急停止から時間がかかっている上に、ティアナは既に上を取っている。

 オート5散弾銃の残りの二発が連続で叩き込まれた。

「二機目。後一機」

 残り一機を探そう、と弾丸の切れたオート5を背中に回し、StG44の弾倉を替えようとマグポーチを探る。

「ベルタ、残り一機どこに消えた?」

『煙の中に…消失。見失ってます』

「…気を付けろ。奴は煙の中から出て来るぞ!」

 ネウロイめ、地上を相当荒らしたか、煙で見えない程撃ちまくるとは。

 内心ティアナが悪態をついていると、別のストライカーのエンジン音が響いた。

『ティアナさん、ネウロイは!?』

「すまない、内海。二機落としたが残り一機見失った。煙で見づらい。そっちはどうだ?」

『煙から飛び出しては…いた!』

「見つけたか、内海!?」

『ええ!』

 ティアナは思い切って、煙の中を突っ切っていく―――――再び青空に飛び出した時、真正面に、奴はいた。

 

 ウィッチ型ネウロイはティアナを見つけて、手にしたライフル状の黒い物体を構える。

 ティアナもまたStG44を構えようとして。

 

 銃声が響き、目の前のネウロイが砕け散った。

 

「ティアナさん、当たってないですか!?」

「ああ」

 

 煙の中から飛び出してきたティアナを信じられないとばかりに見ながら、内海が口を開いた。

「全部ネウロイに命中。流石だ、中尉」

 

 

 

 

 

 ネウロイを全部蹴散らす頃になって、スカイトレイン510号は再びアルハンゲリスクの滑走路に滑り込んできた。

 それでも対空火砲の大半は沈黙していたし、滑走路も穴だらけになっていた。

 

 そして、コックピットを撃ちぬかれたC-47輸送機はゆっくりとそんな滑走路に着陸した。

 

「ナタリー!」

 ティアナは傍により、そう声をかける。

 血塗れのコックピットに、彼女はいた。

 

 似たような顔をした機長の首を抑えて、小さく首を振る。

 

 ああ、とティアナは言葉を失う。

 名前を知っても知らなくても、顔を合わせた人間が死ぬ事はあまり気分の良いモノではない。

 そしてそれが自身を助けてくれたなら、なおさらだ。

「あの時と、同じです」

 ナタリーが、震えながら呟いた。

「飛び立つ前に撃ち落とされた輸送機のように。それが今日は、私たちのだった」

 今を否定するわけでもない、受け入れる為に、淡々と呟くナタリー。

 あふれ出す悲しみや苦しさを抑えるために。

「……高い空では、全部同じだ。撃ちぬかれれば、落ちていくしかない……」

「はい……」

 そう答えたナタリーの横を通り、機長の席へと向かう。

 もう、青白くなった少女の顔に触れて、べったりとまだ体温が残っていた血に触れた。

 

 構わずに、腰を落としながら、そっと抱き上げた。

 

「……行こう。死者を弔ったら、また行かなきゃいけない」

「ええ…姉さんも、行ってました。最後に」

 

「戻るな、進め、と」

 

 ティアナはそう言われて、もう一度機長の顔を見る。

 死の際にも、そう言っていたぐらいには、残された彼女を励ましていたのか。或いは残された彼女に、足を止めるなという呪いか。

 自身の姉とは違って、前者であってほしいとティアナは思った。

 

 冷たい筈のその身体にも、暖かなものが触れている。

 隣から。

 

 

 

 スィクティフカルに到着した永倉は、執務室に戻って来た。

 ブラントがせんべいをつまみながら、待っており、入って来た永倉を見て顔を上げる。

「…積み荷は無事だった。だが、乗員が死んだ」

 永倉の言葉に、ブラントは次のせんべいをつまむ。

「うん」

 ばりばり、というせんべいを噛み砕く音。

「ヴィオラ・クローゼ少尉についてだがティアナにつけた。似たような気質だが、ティアナの方が大人だから問題ないだろう。それと、ザシャ・グリムパルツァー准尉に夜間視の能力があった。今の私たちにはありがたい」

「ん?」

 ブラントが何故だい、とばかりに永倉を見る。

「スィクティフカルでも夜間哨戒を行うべきだ。夜明け前とはいえ、奴らはアルハンゲリスクにまで飛んできた。安全圏なんて、ない」

「そうだね。安全圏なんて、ない。だからこそ、夜間哨戒は周辺に任せる。専門家もそっちの方が多いし」

「だが!」

「わかるよ。でもね、ナイトウィッチが来たから、といっても一人しかいないんだよ? それをわざわざ夜間シフトまで作って哨戒させるにはリスクが大きいんだよ」

 ブラントは永倉に、更に言葉を続ける。

「いくら他の統合戦闘航空団がやってるから。周囲の部隊の負担もあるから。それも解る。でも、だからこそ、守りに入らなきゃいけない事もあるんだ。統合戦闘航空団はただでさえ少数精鋭。リスクを減らしたい」

「………わかった」

 

「ただ、夜間待機は考えるべきかもね」

 

 そう言い残して、その話題は終わった。

 窓の向こうで、冷たい風が吹く音が聞こえる。

 

 駐屯地の庭で、静かな弔いの火がたっていた。

 

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