ストライクウィッチーズ World End Sky 作:Xn-i
「ルーヴェンの奪還に成功しましたが、ベルギカ内部でのネウロイの勢力はまだ大きいままです」
ベルギカから遠く離れたロンドンの西部方面軍司令部で、そんな報告が取り交わされていた。
「カールスラントで一番近いネウロイの巣からはまだ離れている筈だ。連中、かなりの勢力を遠征させているのか」
「いいや、そんなはずは無い。どこからか部隊を送り込んでいる筈だ。どこかに巣があるんだ」
将軍達の会話を突き破るかのように、新たな報告が入ってきた。
「巣の場所がわかりました! ブリュッセルです!」
「なんだと!? 先月には無かったはずだ!」
「わかりません…ですが、ブリュッセルに小規模ながらネウロイの巣を確認。ガリア北部及びベルギカ南部へネウロイを送り込んでいるのはこいつです!」
ダム、と盛大な音を立てて机が叩かれる。
「ブリュッセルを取り戻さねばならん……失敗すれば、ガリア北部を再失陥する羽目にもなる。そうなれば、ダンケルクの再来だ!」
ダンケルクの撤退は、連合軍にとって忘れることが出来ない撤退戦だ。
成功とされているが、それでも多くの軍人・市民・ウィッチが犠牲になったのだ。
「作戦は早いほうがいい。ガリア国境が破られる前にだ」
ルーヴェン奪還から一日の間に、新たな作戦が練られる事となる。
それが、人類の大きな一歩だと信じて。
”Night Flight(夜間飛行)”
1945年6月5日
メラニー・ジャクソン大尉
リベリオン海兵隊弟4海兵航空団第3飛行中隊
ベルギカ王国 ブリュッセル
ルーヴェンに構築された前線基地から飛び立った第4海兵航空団の各機は、夜の空をブリュッセル目指して飛んでいた。
「カールスラントの連中がサン・トロン基地からも飛んでくるらしいよ? あそこはナイトウィッチが有名なところだしね」
「へぇ、そりゃ初めて聞いたなー。メラニー、今日あたしらが一緒に仕事するナイトウィッチってそっから来るんですかね?」
「そこまではあたしが知るかっての」
レッド隊とゴールド隊の無駄話から突然話題を振られたメラニーがそう返すと、一斉に笑いが起きる。
そんな笑い話はおいておき、メラニーは視線を前方に向ける。
果たしてこっちの方向で正しいのか?
「ゴールドリーダー。方角はあってるの?」
「多分ね。こっちに飛べって言われてるから間違ってない筈だよ」
隊長の返事にメラニーは内心本当かよ、と思いつつ口には出さずに飛行を続ける。
遠くの方に、薄暗い町並みが見えてきて、その上に巨大なすり鉢のような何か。
ネウロイの巣だ。
「何度も見てるけど、あれだけは見慣れないな」
「奇遇だねメラニー。あたしもなんだよ」
メラニーの軽い呟きに、いつもなら嗜めるであろうゴールドリーダー、バーンズはそう返した。
戦争を続ければネウロイの巣という存在が如何に厄介で難敵であるかは嫌でも知り尽くす。
一般にリベリオン本土が攻撃を受けた事は無い、とされているが扶桑海事変の頃、扶桑列島の北部に来たネウロイがそのままアリューシャンを経由してアラスカを襲撃したという事件もあった。
世界ではまったく知られていないが、リベリオン本土も攻撃を受けている。
やらなければならない。
彼女たちが戦わなくては、人間とネウロイの戦争は終わらない。
たとえ、終わりがまったく見えなくても。
メラニーはポケットからキャンディを取り出すと、口の中へと放り込む。高速で飛行する中でそんな事が出来るのは器用なものである。
「ゴールドリーダー、お客さんは?」
キャンディを噛み砕きながらメラニーが問いかけると、バーンズは首を左右に振る。
「まだ見えてない。代わりに――――」
インカムを指差す仕草の直後、その場にいたリベリオン機全機へ、ノイズ交じりの通信が聞こえてきた。
『こちらはカールスラント空軍第1夜間戦闘航空団第3飛行隊所属、ブラウンです。リベリオン海兵隊弟4海兵航空団どうぞ』
「あー、こちらリベリオン海兵隊弟4海兵航空団、第3飛行中隊のバーンズ。よく聞こえる」
『編隊を確認しました。ただいまより、管制を開始します』
「あたしらは夜目は利かないんでね。しっかり仕事を頼むよー?」
ナイトウィッチとて、別に闇の中でも見える目がついている訳ではないのだが、夜間戦闘の訓練を受けている(或いは夜間でもネウロイを感知できる)ナイトウィッチたちは夜間戦闘の要だ。
彼女達無くしてはネウロイの位置を把握する事すらままならず、やられてしまうだろう。
『了解しました。それと……左手に見えますのは、カールスラント空軍です』
左の方を振り向くと、二十機ばかりのウィッチが徐々に近づいてくる。
近づいてきたカールスラント軍達は、それぞれ手を揚げたり手にした銃を掲げたりして、お互いに挨拶を交わす。
『このまま、両軍共に前進、市街地上空で左右に分かれて挟撃を。ブリタニア空軍とは市街地で合流します』
ナイトウィッチの言葉に、随分と大規模な部隊が集結したな、と思う。
リベリオン、カールスラント、ブリタニアは欧州・アフリカという二つの戦線で多くの戦力をつぎ込んでいる。まあ、祖国を失ったカールスラントはともかく欧州を失えば完全に孤立してしまうブリタニアも本気で戦わねばならないというのは解るが。
だが、それでも三軍が同じ作戦を共同で行うというのは、それだけ重要だということだ。
その場所が大事な場所かどうかは、司令部で椅子にふんぞり返るお偉いさんが決めることだけど、とメラニーは心の中で付け足す。
『……ネウロイを確認。正面です。その数、約50!』
「皆聞いたな! 全機、散開! 右側から市街地上空まで、敵を殲滅しつつ、一気に抜けるぞ!」
ナイトウィッチの交信後、バーンズの指令が飛ぶ。
「グリーン隊了解!」「ブルー隊了解」「レッド隊了解!」「ブラック隊、了解!」
メラニーも含め、各チームが一斉にばらけると同時にカールスラント空軍の方も各小隊に散開したようだ。
40対50。まあ、勝てない相手ではない。ひとりあたま2機ほど、という事か。
「イーニッド、ブリジット、タバサ。油断禁物」
「何を今更」
二個目のキャンディを放り込みつつそう呟くと、副官からのそんな返答。
頼りになるな、と思いつつばりり、と口の中でキャンディを噛み砕いた。
暗闇の中を、小型ネウロイが次々と姿を現した。思った程距離が近い。
「突入、突入!」
そんな叫びと共に、ウィッチ達の銃撃が一斉に火を噴いた。
ネウロイ側もあっという間に散開、素早く飛び込んでくるものや、少しずつ距離をとって離れようとするものなど、様々な動きを見せてくる。
『後ろに回りこまれた! 援護して、お願い!』
『敵の姿が見えない! どっちから来てるの!』
あっという間に乱戦になり、そこら中で通信と銃撃、そしてビームが飛び交う。
だが、普段ならば逃げ切れても、夜闇に包まれた今では、敵の攻撃はおろか味方の銃撃すらも判別し辛い。
シールド無しでは確実に何機か落ちていたであろう、そんな状況だ。
『敵の増援を確認! どうやらネウロイも本気のようですね!』
『本気じゃないネウロイがどこにいるんだよ! あたしらとおんなじで!』
ブラウンの言葉に、バーンズの罵声が響く。
『本当なの? あんたらリベリオンはろくに攻撃受けてないでしょ?』
『喧嘩売ってんのかキャベツ頭。こちとら扶桑海事変のとばっちりでアラスカに攻撃喰らって以来何十回も戦闘してるってーの!』
『ふーん、で国土を何キロなくしたのさ?』
『なんだとこら! 国土よりも何百人も死んでんだよ!』
「落ち着けバーンズ。あんたがアラスカ生まれなのはあたしだって知ってるよ」
『だけどメラニー、こいつら今』
「はいはい落ち着く落ち着く。カールスラントが落ちてから何年経っても、その時の恐怖は拭えない」
『……わかったよ、メラニー』
バーンズはしぶしぶと言った口調で黙る。
「マズイね、メラニー」
「ああ」
イーニッドが囁くように呟き、メラニーもそれに答える。
悪い状況なのは解ってる。その状態で仲たがいしてしまえば戦線丸ごと崩壊も考えられる。
そして何より、軽口は簡単に火種になりうるという事だ。
カールスラント人はリベリオン本土も攻撃を受けた事があるのを知らないし、リベリオン人は国を失ったカールスラント人の心理をわかっていない。
マズイ状況だ。
どうにかして、この状況を打開するには。
「とにかくブラウン大尉。一旦後退して戦線を整えるべきだと思うけど、どうかな?」
メラニーの呟きに、バーンズがあっさり遮った。
『戻ってもいいけどまたルーヴェンまでネウロイが戻ってきたらなんとかできんのメラニー?』
『その時は戦線をサン・トロンまでさげりゃいいだけの話さ』
バーンズの返事にカールスラント軍ウィッチからの応答。『この前あたしらがどうしたと思ってんだこら!』と再びバーンズを筆頭にリベリオン海兵隊が文句の声をあげ始める。
「ダメだこりゃ。こいつら一回まとめて撃墜するべきか?」
「味方への誤射は自室謹慎」
メラニーは思わずそう呟くと、イーニッドはばっさり切り替えした。
作戦失敗。
『とにかく、もう少し前進! カールスラントの連中より先にアレを破壊だよ!』
さっきのやり取りで余計にヒートアップしたのか、バーンズは叫ぶように通信を切ると、一気に加速し始めた。
リベリオン海兵隊は次々とそれに続く。
「まったく、困った連中だよ!」
それでも編隊からはぐれるのは得策ではない。
メラニーはタメ息をつきつつ、他の三機を連れて加速しはじめる。
リベリオン軍が突出し、その後からカールスラント軍が追う。
完全に、陣形が伸びきっていた。
もしここでネウロイが包囲攻撃を仕掛けてきたら、ひとたまりも無い。誰かが気付く事だった。
彼女達は気付いていた。
既に市街地上空に達し、ネウロイの巣まで数キロに満たない。
明りは月明かりだけで、町の様子すら見えない。だから、たとえそこにネウロイが潜んでいても、殆ど見えないだろう。
『全機に警告! 市街にネウロイが潜んでいます、高度を上げてシールド用意!』
その報告の直後、市街地から対空砲火の如く、陸戦ネウロイが放ったであろうビームが次々と放たれた。
警告のお陰か、シールドで受けたウィッチが殆ど、被撃墜はいないようだ。
「助かったよ! でも、明りがなくて市街地の陸戦が見えない! 照明弾は無いかい?」
メラニーは即座に通信に返すと、通信相手は困ったように返答した。
『ごめんなさい、照明弾は無いです』
「そっか」
『少しなら明りを灯せるかも知れません。メリッサ、少しお願いできるかしら?』
『了解。どの辺り?』
「目標物は見えないけど…市街地に入ってすぐのところにいる」
メラニーの返答に、通信の向こうで『了解』の返事。
『あらよっと!』
一機のエンジン音の直後、盛大に輝いた。
それは夜に太陽が空を飛んでいるが如く、昼間のような明るい光が市街地を照らす。
『ま、私の固有魔法。一度は3分ぐらいしか持たないけど、その間に位置確認』
「ありがとう、助かったよ! どこの隊?」
メラニーがそう声をかけると、最初に警告を発したウィッチが口を開いた。
『こちらはブリタニア空軍第22戦闘飛行隊です。ただいまより、合流します』
ひゅー、とメラニーは口笛を吹く。
「あのブリタニアの精鋭が来るとはね。てっきり、ロマーニャに行ってるのかと思ったよ」
『色々とあるものですよ。リベリオン海兵隊?』
通信の向こうで隊長であろう魔女は笑う。
『エリー、海兵隊の援護をお願い』
『了解しました』
声の後、メラニー達先行する海兵隊の方へ、数機のウィッチが接近してきた。
先ほどの魔女に照らされた明かりの中で浮かび上がったのは、淡いブロンドに、眼鏡をかけた魔女。
そして、軍服の胸元に、一輪の白い薔薇があった。戦場にまで花を持ち込むとは、よほど好きなのか、或いは気取り屋か。もしくは――――彼女なりのお守りか何かか。
「お守りかい、それ?」
「癖みたいなものなんです。実家と、基地で育ててて」
彼女はそう返すと、視線を前方に戻す。
「ネウロイの巣まで、距離5キロってとこですね」
先ほどの魔女の固有魔法はもうすぐ消えそうだ。だが、それでもこの月明かりの中だけでネウロイの巣はぼんやりと浮かんでいる。
「ああ、そうだね。ところで、名前は?」
「私ですか?」
少女はメラニーの方を見て、少しだけ微笑んだ。
「エリザベス。エリザベス・メイソン」
「今、その薔薇の理由がわかったよ。あたしはメラニー。メラニー・ジャクソン」
そしてメラニーは背後からついてくる同僚達に声をかけた。
「ゴールドリーダー、いいニュースが来てる。あの”白薔薇のエリー”が来てるよ」
『そりゃあの22戦闘飛行隊がいるからな。でも、西部戦線の英雄がいるとなると、だいぶ楽だね』
通信の向こうでバーンズがそう返し、メラニーも笑う。
そんなやり取りを聞きながらも、エリーは恥ずかしそうにしていた。
エリザベス”エリー”メイソン中尉。通称”白薔薇のエリー”。
ガリア解放後に構築された第二戦線の緒戦で活躍した、ブリタニア空軍きってのエースだ。
少なくともメラニー達リベリオン海兵隊だけでなく、少し離れたところを飛んでいるカールスラント空軍達にもその名前は知られているのか、通信に驚きの声が混じっている。
「ま、今は英雄と戦えることを喜んでる暇は無さそうだな。行こうか、中尉」
「了解」
メラニーとエリーはまるで何年も前から親友であったかのように頷くと、お互いに加速を開始する。
「ゴールドリーダー、グリーン隊はブリタニア軍と共同で巣の周辺の掃討を開始する」
『ゴールドリーダー了解。ブラック隊とレッド隊は突入準備。ゴールド隊とブルー隊はルートの確保!』
M1919A6を抱えなおし、メラニーは叫ぶ。
「さぁ、始めるよ!」
『ブルー1より、各部隊員へ。巣の周辺の陸戦を叩く! 爆撃行くよ! 援護よろしく!」
『とりあえず1マガジン撃ちきるつもりで掃射! 掃射!』
リベリオン海兵隊各機による一斉掃射が始まり、見えないながらも下の陸戦ネウロイに直撃したのか、当たったという反応である発光とビームによる応戦。だが、しかし。
『ファイヤー!』
ブルー隊の強烈な爆撃。何体かのネウロイが沈黙した直後、例のブリタニアウィッチが再度固有魔法を使ったのか、明かりが煌々と点った。
『今よ! 前線をこちらからも押し上げて!』
続いて後ろから続くカールスラント空軍の掃射。明かりの中で、爆撃と一度の掃射を喰らったネウロイはいい的だ。
その間にメラニーは弾薬ベルトを交換。復活したM1919A6をひとなでして、一度反転して高度を高く取り、巣周辺を確保。
『航空はいないようですね』
「そうだね、イーニッド。用心にこしたことはないけど」
「突入部隊はリベリオン海兵隊ですか?」
隣りへとやってきて、反対側を警戒しつつエリーがそう呟いた。
「そう言いたいけど、ただいまジャガイモ軍団とは盛大に喧嘩中でね。主にウチの指揮官が」
通信の向こうでバーンズが「うっさいメラニー! 集中しろ!」と怒鳴り、エリーは困ったように口を開く。
「違う国同士とはいえ、同じ戦場での友軍の齟齬があるのは…」
「マズいんだよなあ。だけど」
頭を軽く掻く。
「私達はカールスラントを知らなすぎる。彼女達がリベリオンを知らなすぎるように」
イーニッドが口を挟む。その通りだ、とメラニーも言葉に出さずに同意。
その間にカールスラント軍が到着…やはり揉め始めた。
『巣周辺の警戒をよろしくね! こちらはパンツァーシュレックを担いできたので、壁に穴は開けられるわ!』
『ああん? んな事はどうでもいい、こっちも突入準備はしている』
『戦力を等分しても構わないがまとめてやられたら残りで抑え切れないわよ』
『そりゃそっちの都合だ。部隊を編成しなおして来い。パンツァーシュレックは寄越せ。バズーカ忘れたし』
『爆装部隊を使い切っているんだから戦力の低下はそっちの方が多いでしょ!』
『うるせージャガイモ軍団! 酸っぱいキャベツみたいに頭丸めて来い!』
『ケチャップが野菜扱いの味オンチ大国に言われたくない! ピザでも食ってなさいよ豚!』
「ダメだこりゃ」
バーンズとカールスラント軍の隊長の盛大な口げんかは途中からただの罵りあいになり、メラニーは頭を抱えた。
だが、それに異を唱えるものがいた。
『両軍とも落ち着いて下さい!』
エリーの凛とした声は、しっかりと暗い夜空に響き渡った。
『ここは戦場です! どんな事でも命取りになります。言いたい事があるのは解ります――――私達にもありますから。でも、今は協力してネウロイと戦う事に集中してください! ネウロイと戦う気持ちは、同じでしょう!』
最後にそう締めくくった直後、リベリオン・カールスラント双方が黙った。
そして、通信。
『バーンズより全機。すまなかった』
『……非礼を詫びます』
お互いにそう告げた後、再び任務へと戻る。
「やるねぇ、あの子」
「英雄は伊達じゃないんだね」
メラニーの言葉にブリジットがそう続けていると、戻ってきたエリーは巣の方向を指差す。
「さ、掃討を続けましょう」
「ああ」
頷き、マシンガンを片手に飛び出してきたネウロイへと銃撃を向ける。
一機、二機と細切れになって落ちていくネウロイ。
が、次の瞬間、巣の中心部が割れた―――かと思うと、一斉に航空ネウロイが飛び出してきた。
その数は数十機。ウィッチ達とほぼ同じ数だ。
『猛攻を受けている! メイデイメイデイ! サン・トロンベース! こちら第9戦闘航空団! 猛攻を受けている!』
「くそ、シールドが切れたらマズいぞ!」
なにせ、視界の全てをネウロイが埋め尽くしていると言っても過言ではないのだ。
『全機、後退! このままだと叩かれる!』
バーンズの通信が響くが、メラニーはそれでもどうにか支えていた。
隣りにエリーがいたからだろうか。彼女が後退していないのに、こちらも引き下がる訳には行かない。
しかしネウロイの数は多い。
一機や二機落としても足りない。なにせ数十機もいるのだ。
「中尉! 後退しないと!」
いいや、エリーの僚機が後退を促し、イーニッドも「メラニー、後退しないと無理よ!」と叫んだ。
だが。
「パティ、あなたは下がって。私はまだここで」
「ですが!」
「オーケィ、エリー。イーニッド、ブリジット、タバサ、後退しろ!」
「メラニーは?」
だって、メラニーとエリーの二人には見えていた。
開いたネウロイの巣の穴。
その奥に、赤いコアの光。
攻撃をシールドで凌ぎながら、メラニーとエリーは視線を合わせる。
やるべき事は解っている。無言で解る。
そこに言葉なんて要らない。同じ敵と戦う友なのだから。
「行くぞ!」「行きます!」
急加速し、内部へと飛び込む。
「こちらグリーン1。ゴールドリーダー、ただいまより内部から巣を攻撃する! ゴールドリーダー? 通信は使えないか」
「巣の中ですからね。視界も悪いし、狭い!」
そこはまるでトンネルの中のようだった。
暗くてまるで視界が確保できず、更にトンネルのような狭さだ。1キロほどの大きさはある、と思っていたが中はかなり狭いようで、二人がいる場所は数メートルほどの幅と高さしかない。
無数のネウロイが詰まっていたとは思えないほど、暗く、静かだ。
だが、その奥に、赤い光が煌々と灯っている。
前進開始する。左右をカバーしあいながら、進む。
「油断するなよ、エリー」
「それはお互い様です」
そんな声を叩きながらも、奥の赤い光へ。
トンネルは少しずつ広がっていき、低速でなくても動けそうな広さになった頃、コアへと辿りついた。
「こいつがコアか」
「相当な大きさですね」
コアの周囲は広間のようだった。ウィッチが飛び回るのに、充分な広さがある。
赤い光を放つコアは、どこか宝玉のように美しく見える。これがネウロイの巣の中心部だなんて。
だが、そこへ守護者のように――――四つ足の小型砲台型ネウロイが、壁中に姿を現した。
ぼこぼこ、ぼこぼこ、と円形の広さの壁の防衛機構のように。数十体もだ。
「!」
メラニーとエリーがすぐに散開しなければ、二人はビームで穴だらけになっていたに違いない。
「行くよ!」
「ええ!」
2機の戦いが始まった。
光の雨、或いは花火のように打ち上げてくるビームをかいくぐろうにも、あまりにも数が多すぎる。
コアに近づくにしても、その無数の防御砲台が守りを固めてた。
だが、ここで落ちる分けには行かない。
「くそったれ!」
メラニーは悪態をつきつつ、ポケットからもう一つキャンディを口へと放り込む。
ばりり、と噛み砕いて、マシンガンを片方の壁に向けて射撃開始。
「ナイスです!」
意図に気付いたのか、エリーもそこへと射撃を集中。二機ほど撃破してスペースを作り、二人はシールドを展開。
とりあえず避難する場所は出来たが、このままではキツイ。
シールドを展開している今ですらも、嵐のように射撃が突き刺さる。
「このままじゃやられるな」
「ええ。近づこうにも、ご覧の布陣ですね」
ずらり、と砲台のように並ぶ陸戦ネウロイの数々。
「だけど飛べる相手がいない」
「狭すぎるからでしょうか?」
「たぶんね」
航空ネウロイは小型に分類されてもウィッチよりも大きいのだ。こんな狭い空間では、サイズのせいで自由に飛びまわれない。小回りが利かないのだ。
だが、こっちは違う。ある程度の小回りが利く。
「…飛び込みます」
「…援護する」
お互いの役目は一瞬で決まった。
ブレンを片手で構えたエリーが力強く壁から離れると同時に、メラニーはシールドを解除し、弾丸ベルトをありったけ掴んで射撃態勢へと入る。
「うおりゃあああああああ!!!!」
跳ね上がる銃口。あえて銃身をホールドしない、安定しない射撃、バラける射撃でいることで。
無数に存在するネウロイの攻撃を牽制、そしてその間に――――その道を通って、エリーがコアへと急接近する。
「あああああああああっ!!!!」
片手で構えたブレンから放たれる、30発もの弾丸がコアへと突き刺さり―――打ち砕いた。
コアの破壊は、ネウロイの崩壊を意味する。
次々とはじけた光が、壁を破壊し―――そして、二人は夜空の世界へと戻ってきた。
『…メラニー? メラニー!?』
同時にメラニーの耳へ、ゴールドリーダーからの通信が届く。通信が使えない間、ずっと呼びかけ続けていたのだろう。
「あー…こちらグリーン1。ゴールドリーダーへ。作戦成功。繰り返す、作戦成功。白薔薇のエリーがコアを仕留めた」
『心配させんなバカヤロウ! 無茶しやがって!』
更に続けて、三機のウィッチが急接近してくる。
イーニッドを先頭にブリジットとタバサもすっとんできて、そして、メラニーは三人からの拳骨を受けた。
「バカ」
「あほんだら」
「オタンコナス!」
「あ痛っ! 君達、もう少し隊長への敬意を出しなさい!」
しかし三人は心配させるな、とばかりにガンガンにメラニーを叩き始める。エリーはそれを見て少し笑った。
「いい仲間達ですね」
「うるさいけどね。おまけに遠慮しないし」
肩を竦めてからメラニーはエリーへと向き直る。
「さすが英雄」
「買い被りですよ」
「そうでもないさ。聞こえてるだろ?」
そう、二人が耳を澄ますまでもなく。コアを破壊し、崩壊していった巣の周りでリベリオン・カールスラント・ブリタニアのウィッチ達全てが歓声をあげていた。
この大きな戦果を得て。
そしてその戦果を得たのが、エリーなのだ。
「アンタは大したモンだよ。英雄ってのは、自分がそう思って無くても、周りがそう思うものなんだから」
「私には、少し重いかも知れません」
「そうかも知れない。でも、その存在だけで嬉しいって奴もいるのさ」
エリーにメラニーはそう笑いかけてから、更に言葉を続ける。
「でもそれよりも、アンタが英雄である白薔薇のエリーである以前に、ウィッチのエリーである事は誰だって知ってる。アタシも知ってる」
「……そういうあなたも。私にとっては、あなたはジャクソン大尉ですよ。ウィッチの」
「よしてくれよ、アンタにくらべりゃまだまだだ」
そうしてお互いに笑いあい、大きく旋回する。
『ブリュッセル奪還は、この戦線の大きな一歩になるぞ。ベルギカを解放すれば、カールスラントも近い』
カールスラント空軍のウィッチ達は故郷への大きな道が開けた、と嬉しさを込めているようだ。
そうだとも、これは大きな一歩なのだ。
「近いうちに、ベルギカは解放される。カールスラントの魔女が家に帰れるその日まで、アタシらも戦いは続く」
「ええ。まだまだ長い道のりですね」
「大丈夫さ」
メラニーは笑いかけた。
「どんな道でも、いずれ終わりはあるのさ。あたしらに出来るのは、終わりに向かって進むだけだ」
その言葉は、夜空の風となって、いずれ消えて行った。
1945年6月6日未明。ベルギカの首都、ブリュッセル解放。
西部戦線に於ける一つのターニングポイントとなり、連合軍はこれを足がかりに、カールスラント領へと駒を進め始める。
同時にベネチア奪還作戦も始まり、西部戦線は文字通り佳境を迎えようとしていた。
長い道のりの第一歩。長い道のりの第一歩だった。
何故なら、本当の戦いの前の……一休みにしかならない一石だったのだから。