-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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プロローグ

 

 

 

―風が運ぶ再会―

 

 

 

森は静かだった。

 

木々の隙間から差し込む陽光が地面を照らし、

 

小鳥たちのさえずりだけが響いている。

 

その上空。

 

大きな気球船がゆっくりと浮かんでいた。

 

 

「あー!お腹空いたぁ!」

 

 

元気な声を上げたのはドロップだった。

 

荷物袋からパンを取り出し、

 

満面の笑みを浮かべる。

 

「ほらほら!早く食べようよ!」

 

「落ち着け。」

 

ダイフクーが苦笑しながら鍋を火にかける。

 

「まだスープ温まってねぇぞ。」

 

シャーベットは本から目を離さず、小さく息をついた。

 

「朝から元気だな、ドロップ。」

 

そのやり取りを見ながら、

 

気球船を操縦していたウインナーは柔らかく笑った。

 

 

 

サラミッドでの激闘から、

 

しばらくの月日が流れた。

 

コロッケたちと別れ、このメンバーで

 

旅を続けている。

 

 

失ったものもある。

 

手に入れたものもある。

 

それでも彼らは旅を続けていた。

 

世界のどこかにある”何か”を探すように。

 

そんな中だった。

 

 

ドロップがふと立ち上がる。

 

「ちょっと散歩してくるね。」

 

「遠く行くなよ。」

 

ダイフクーの言葉に手を振り、

 

森の奥へ歩いていく。

 

その背中を見送りながら、

 

ウインナーは少しだけ胸がざわついた。

 

 

最近、自分でもよく分からない感情がある。

 

ドロップが笑えば嬉しい。

 

落ち込めば胸が痛む。

 

泣いている姿を見ると、

 

どうしようもなく苦しくなる。

 

最近ドロップの故郷から知らせが届いた。

 

ドロップの好きな人が結婚したらしい。

 

話を聞いてから、

 

その涙を見るたび胸が締め付けられていた。

 

 

(なんなんだろう、この気持ち。)

 

 

答えはまだ分からない。

 

風だけが静かに吹いていた。

 

 

 

それから三十分ほど経った頃だった。

 

「遅いな……。」

 

ウインナーが空を見上げる。

 

ドロップが戻ってこない。

 

胸騒ぎがした。

 

「…ちょっと探してくる!」

 

みんなの返事を待たず、森へ飛び出す。

 

木々を駆け抜ける。

 

風が頬を撫でる。

 

嫌な予感だけが大きくなっていった。

 

そして。

 

 

「やめて!」

 

 

悲鳴が響く。

 

ウインナーは一気に飛び込んだ。

 

そこには数人の野盗バンカー。

 

囲まれるドロップ。

 

傷を負いながらも、キャンディを守っている。

 

 

「ドロップ!」

 

 

ウインナーはその前へ飛び込んだ。

 

 

風が唸る。

 

拳が交差する。

 

野盗たちは数で押してくる。

 

一人。

 

二人。

 

倒しても終わらない。

 

ドロップを庇いながら戦うには限界があった。

 

背中へ蹴りが入る。

 

肩を斬られる。

 

血が地面へ落ちる。

 

 

「ウインナー!」

 

 

ドロップの叫び声。

 

それでも立ち上がる。

 

守らなきゃ。

 

その一心だけだった。

 

だが。

 

また一人。

 

また一人。

 

敵は増えていく。

 

膝が揺れる。

 

限界だった。

 

その瞬間。

 

 

 

――ボッ。

 

 

 

空気が燃えた。

 

赤い炎が一直線に走る。

 

野盗たちは何が起きたか理解する前に、

 

吹き飛ばされていた。

 

 

森に静寂が戻る。

 

そこへ二人の人影が歩いてくる。

 

黒いジャケットを羽織った細見の男。

 

その隣を歩く白銀の長髪の女性。

 

男は煙草を口にくわえ、

 

面倒そうに辺りを見回した。

 

 

「面倒ごとに巻き込まれたな。」

 

 

その声は低く、どこか気だるげだった。

 

白髪の女性――ユリは倒れたウインナーを見る。

 

 

「大丈夫?」

 

 

静かな声。

 

だが、その瞳は優しかった。

 

レイカは野盗たちへ目を向ける。

 

ため息をひとつ。

 

 

 

「散れ。」

 

 

 

一瞬。

 

空気が重くなる。

 

一気に殺気が周りに広がる。

 

野盗たちは震え上がり、逃げ出していく。

 

一人も逆らわない。

 

圧倒的な威圧感だった。

 

煙草をひと吸いし、レイカは踵を返そうとする。

 

 

 

その時。

 

 

 

地面に倒れていたウインナーが、

 

ゆっくり顔を上げた。

 

 

視界はぼやけている。

 

それでも。

 

その長い黒髪。

 

低く結われた髪型。

 

どこか懐かしい横顔。

 

忘れるはずがない。

 

幼い頃。

 

みんな仲良しハウスで、

 

自分が初めて風の声を聞いた日。

 

その力を見届けてくれた人。

 

突然旅立ち、会えなくなった人。

 

震える声で、その名を呼ぶ。

 

 

「……レイカ?」

 

 

レイカの足が止まる。

 

ゆっくり振り返る。

 

そして。

 

ウインナーの顔を見つめた。

 

 

「……ん?」

 

 

 

数秒。

 

沈黙。

 

 

 

風だけが二人の間を通り抜ける。

 

やがてレイカは目を細めた。

 

「……ウインナー?」

 

懐かしさと驚きが入り混じった声。

 

ウインナーは小さく笑った。

 

 

 

「……久しぶり。」

 

 

 

その一言で十分だった。

 

長い時を越えて、

 

風は再び二人を巡り合わせた。

 

ここから始まる旅が、

 

誰も知らない運命へ繋がっていくことを、

 

まだ誰も知らなかった――。

 

 

 

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