-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

10 / 90
第八章ー第二試合ー

 

 

 

第二試合

 

 

 

―氷華、舞い散る―

 

 

 

「続いて第二試合!」

 

「カマメシ王国代表――ユリ選手!!」

 

司会の声と共に、ユリが静かに闘技場へ歩き出す。

 

その姿を見送るウインナーは、ふと違和感を覚えた。

 

「……。」

 

「ユリさん、雰囲気が違う。」

 

ドロップも小さく頷く。

 

「さっきまでと顔が違う……。」

 

ブリトーも腕を組む。

 

「まるで別人だ。」

 

レイカだけは煙草をくわえたまま静かに答えた。

 

「戦う時だけだ。」

 

「昔からああいうやつだからな。」

 

その声は、どこか優しかった。

 

 

-闘技場の反対側-

 

 

 

ゆっくりと姿を現したのは、一人の女性。

 

黄金色のドレス。

 

頭には王冠のような飾り。

 

背中では無数の羽音が鳴っている。

 

その姿はまるで――

 

女王蜂。

 

「私はパウンド。」

 

「美しく気高き女王。」

 

その背後から、

 

数百匹もの働き蜂が飛び立つ。

 

空を覆うほどの群れ。

 

観客席から驚きの声が上がった。

 

「すごい数だ!」

 

「全部操ってるのか!?」

 

パウンドは優雅に笑う。

 

「さあ。」

 

「私の子供たちに遊んでもらいなさい。」

 

次の瞬間。

 

蜂の群れが一斉にユリへ襲い掛かった。

ユリは微動だにしない。

 

静かに空を見上げる。

 

そして、小さく呟いた。

 

 

「氷華流――」

 

 

「雪桜華終。」

 

 

その瞬間。

 

空中へ無数の氷の花びらが現れた。

 

一枚。

 

二枚。

 

十枚。

 

百枚。

 

やがて、

 

働き蜂の数を遥かに超える氷片が空を埋め尽くす。

 

「なっ……!?」

 

パウンドが目を見開く。

 

次の瞬間。

 

氷の花びらが雨のように降り注いだ。

 

蜂。

 

蜂。

 

蜂。

 

次々と凍り付き、

 

砕け散る。

 

わずか数秒で、

 

群れは全滅していた。

 

そのまま氷の花びらは勢いを落とさず、パウンドへ襲い掛かる。

 

パウンドは咄嗟に新たな働き蜂を呼び出した。

 

蜂たちは身を盾にして主を護る。

 

氷と蜂が激しくぶつかり合い、

 

闘技場へ白い霧が立ち込めた。

霧が晴れる。

 

パウンドは立っていた。

 

しかし、

 

その頬には細く赤い切り傷が走っている。

 

血が一滴だけ流れ落ちた。

 

パウンドは震える指でその傷へ触れる。

 

「私の……顔に……。」

 

 

「「傷がぁぁぁぁぁぁあ!?!?」」

 

 

怒りで表情が歪む。

「この、役立たず!!下僕共が!!」

叫びながら、

自ら働き蜂を握り潰した。

次々と潰される蜂たち。

命乞いをするように羽を震わせても、

容赦なく握り潰されていく。

 

あまりの惨状に、

観客席が静まり返り、

 

時たま悲鳴も上がった。

その光景を見たユリの瞳から、

完全に感情が消えた。

氷のように冷たい目。

 

「……最低。」

 

 

その一言だけだった。

 

ユリは静かに息を吸う。

周囲の空気が凍り始める。

床。

壁。

空気。

白い霜が一気に広がっていく。

「な……何よこれ!?」

レイカが煙草をくわえ直した。

「…来るぞ。」

ユリは目を閉じ、小さく呟く。

 

 

「氷華流・奥義――」

 

 

「絶対零度。」

 

 

瞬間。

フィールド全体が白く染まった。

空気さえ凍り付き、

世界から音が消える。

パウンドも、

新たな働き蜂たちも、

その場で完全な氷像となった。

静寂が闘技場を包む。

誰一人、声を発することができない。

そのつかの間――

ユリは静かに右手を上げ、

 

パチン。

 

小さく指を鳴らした。

 

 

次の瞬間、

闘技場中に張り巡らされていた氷が一斉に砕け散る。

パウンドを覆っていた氷も、

無数の働き蜂も、

陽の光を受けて煌めきながら細かな氷片となって宙を舞った。

まるで雪の結晶が風に乗って舞い散るような、美しくも恐ろしい光景。

観客席は静まり返ったまま、その景色に見入っていた。

 

「……ふぅ。」

 

数秒後、

司会者が震える声で叫ぶ。

「し……勝者!」

「ユリ選手ーーー!!」

歓声が闘技場を揺らす。

しかしユリは振り返ることなく、

冷たい表情を纏ったまま、

静かに控室への通路を歩いていった。

 

 

 

控室。

 

扉が閉まる。

 

その瞬間、

 

ユリの鋭い表情がゆっくりと和らいだ。

 

ふぅ、と小さく息を吐く。

 

「やりすぎたかな……。」

 

いつもの穏やかなユリへ戻っていた。

 

レイカは煙草を吸いながら近づく。

 

「お疲れ。」

 

短い一言。

 

それだけでユリは安心したように微笑む。

 

「うん。」

 

その笑顔を見て、

 

ウインナーはほっと胸を撫で下ろした。

 

ダイフクーは口を開けたまま呆然とする。

 

「いや……。」

 

「強すぎるだろ。」

 

「どうなってんだお前ら。」

 

ブリトーも言葉を失っていた。

 

「レイカだけじゃないのか……。」

 

ドロップは目を輝かせる。

 

「ユリさん、すごい……!」

 

シャーベットは静かに眼鏡を押し上げた。

 

「とんでもない人たちが仲間になったんだな……。」

 

控室には静かな空気が流れる。

 

その中心で、

 

レイカとユリだけは、いつものように穏やかな表情を浮かべていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。