第二試合
―氷華、舞い散る―
「続いて第二試合!」
「カマメシ王国代表――ユリ選手!!」
司会の声と共に、ユリが静かに闘技場へ歩き出す。
その姿を見送るウインナーは、ふと違和感を覚えた。
「……。」
「ユリさん、雰囲気が違う。」
ドロップも小さく頷く。
「さっきまでと顔が違う……。」
ブリトーも腕を組む。
「まるで別人だ。」
レイカだけは煙草をくわえたまま静かに答えた。
「戦う時だけだ。」
「昔からああいうやつだからな。」
その声は、どこか優しかった。
-闘技場の反対側-
ゆっくりと姿を現したのは、一人の女性。
黄金色のドレス。
頭には王冠のような飾り。
背中では無数の羽音が鳴っている。
その姿はまるで――
女王蜂。
「私はパウンド。」
「美しく気高き女王。」
その背後から、
数百匹もの働き蜂が飛び立つ。
空を覆うほどの群れ。
観客席から驚きの声が上がった。
「すごい数だ!」
「全部操ってるのか!?」
パウンドは優雅に笑う。
「さあ。」
「私の子供たちに遊んでもらいなさい。」
次の瞬間。
蜂の群れが一斉にユリへ襲い掛かった。
ユリは微動だにしない。
静かに空を見上げる。
そして、小さく呟いた。
「氷華流――」
「雪桜華終。」
その瞬間。
空中へ無数の氷の花びらが現れた。
一枚。
二枚。
十枚。
百枚。
やがて、
働き蜂の数を遥かに超える氷片が空を埋め尽くす。
「なっ……!?」
パウンドが目を見開く。
次の瞬間。
氷の花びらが雨のように降り注いだ。
蜂。
蜂。
蜂。
次々と凍り付き、
砕け散る。
わずか数秒で、
群れは全滅していた。
そのまま氷の花びらは勢いを落とさず、パウンドへ襲い掛かる。
パウンドは咄嗟に新たな働き蜂を呼び出した。
蜂たちは身を盾にして主を護る。
氷と蜂が激しくぶつかり合い、
闘技場へ白い霧が立ち込めた。
霧が晴れる。
パウンドは立っていた。
しかし、
その頬には細く赤い切り傷が走っている。
血が一滴だけ流れ落ちた。
パウンドは震える指でその傷へ触れる。
「私の……顔に……。」
「「傷がぁぁぁぁぁぁあ!?!?」」
怒りで表情が歪む。
「この、役立たず!!下僕共が!!」
叫びながら、
自ら働き蜂を握り潰した。
次々と潰される蜂たち。
命乞いをするように羽を震わせても、
容赦なく握り潰されていく。
あまりの惨状に、
観客席が静まり返り、
時たま悲鳴も上がった。
その光景を見たユリの瞳から、
完全に感情が消えた。
氷のように冷たい目。
「……最低。」
その一言だけだった。
ユリは静かに息を吸う。
周囲の空気が凍り始める。
床。
壁。
空気。
白い霜が一気に広がっていく。
「な……何よこれ!?」
レイカが煙草をくわえ直した。
「…来るぞ。」
ユリは目を閉じ、小さく呟く。
「氷華流・奥義――」
「絶対零度。」
瞬間。
フィールド全体が白く染まった。
空気さえ凍り付き、
世界から音が消える。
パウンドも、
新たな働き蜂たちも、
その場で完全な氷像となった。
静寂が闘技場を包む。
誰一人、声を発することができない。
そのつかの間――
ユリは静かに右手を上げ、
パチン。
小さく指を鳴らした。
次の瞬間、
闘技場中に張り巡らされていた氷が一斉に砕け散る。
パウンドを覆っていた氷も、
無数の働き蜂も、
陽の光を受けて煌めきながら細かな氷片となって宙を舞った。
まるで雪の結晶が風に乗って舞い散るような、美しくも恐ろしい光景。
観客席は静まり返ったまま、その景色に見入っていた。
「……ふぅ。」
数秒後、
司会者が震える声で叫ぶ。
「し……勝者!」
「ユリ選手ーーー!!」
歓声が闘技場を揺らす。
しかしユリは振り返ることなく、
冷たい表情を纏ったまま、
静かに控室への通路を歩いていった。
控室。
扉が閉まる。
その瞬間、
ユリの鋭い表情がゆっくりと和らいだ。
ふぅ、と小さく息を吐く。
「やりすぎたかな……。」
いつもの穏やかなユリへ戻っていた。
レイカは煙草を吸いながら近づく。
「お疲れ。」
短い一言。
それだけでユリは安心したように微笑む。
「うん。」
その笑顔を見て、
ウインナーはほっと胸を撫で下ろした。
ダイフクーは口を開けたまま呆然とする。
「いや……。」
「強すぎるだろ。」
「どうなってんだお前ら。」
ブリトーも言葉を失っていた。
「レイカだけじゃないのか……。」
ドロップは目を輝かせる。
「ユリさん、すごい……!」
シャーベットは静かに眼鏡を押し上げた。
「とんでもない人たちが仲間になったんだな……。」
控室には静かな空気が流れる。
その中心で、
レイカとユリだけは、いつものように穏やかな表情を浮かべていた。