-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第九章

 

 

―静かな夜に吹く風―

 

 

 

-勝者の宴-

 

 

 

ドリ禁大会は、

 

カマメシ王国の優勝で幕を閉じた。

 

授与式では、ドリーム禁貨が厳重な箱へ収められ、

 

デンガクが代表として受け取る。

 

観客席からは大歓声。

 

デンガクは深々と頭を下げた。

 

「皆様のお力添えのおかげでございます。」

 

「心より感謝いたします。」

 

そして大会終了後。

 

ウインナーたちは王城の客室へ案内された。

 

 

-夕食会場-

 

 

 

長いテーブルには豪華な料理が並んでいる。

 

ブリトーは目を丸くした。

 

「知らない料理ばかりだ……。」

 

ダイフクーは既に肉料理へ手を伸ばしている。

 

「食える時に食っとけ!」

 

「旅じゃこんなの滅多にねぇぞ!」

 

シャーベットは料理を見ながら呟いた。

 

「こんなものまで材料に使うのか…。」

 

「そして、地域ごとに味付けが違う。」

 

「これは保存方法の違いから――」

 

「ストップ!」

 

ドロップが慌てて止める。

 

「もう!早く食べなさいよ!」

 

そのやり取りに笑いが起こった。

 

 

一方。

 

 

レイカは窓際で煙草を吸っていた。

 

ユリはその隣で静かに食事をしている。

 

「これ、美味しい。」

 

「そうか。」

 

「食べる?」

 

「…吸い終わったらな。」

 

短い会話。

 

それだけで十分だった。

 

ダイフク―達がお皿の食べ物を全て

 

平らげてしまったため、

 

ウインナーとドロップで、

 

みんなの食べたいものを取りに行く。

 

「あいつら、自分で行きなさいよね…。」

 

「食べることに夢中だからね。」

 

「僕らの分まで食べちゃって。」

 

「まったく。さあ、好きなの食べましょ!」

 

「ドロップ、どれが食べたい?取るよ?」

 

「ありがとう!えっとね、じゃあ……。」

 

ドロップがふと顔を上げる。

 

向かい側にはウインナーが居る。

 

偶然。

 

目が合う。

 

一瞬だけ。

 

ほんの一瞬だけ。

 

ドロップの胸が妙にざわついた。

 

「あ……。」

 

思わず視線を逸らす。

 

頬が少し熱い。

 

自分でも理由が分からない。

 

ウインナーは首を傾げる。

 

不思議そうな顔をしている。

 

「あ、ごめんごめん!」

 

「そこのパンを取ってくれる?」

その様子を、

 

レイカとユリは同時に見ていた。

 

ユリは小さく微笑む。

 

その視線に気付いたレイカも、

 

ふっと口元を緩めた。

 

言葉はない。

 

けれど何を思ったかは、お互いに分かっていた。

 

 

-女の子同士の秘密-

 

 

 

女子の寝室。

 

他のみんなが眠り始めた頃。

 

ドロップは布団へ潜り込みながら呟いた。

 

「ねぇ、ユリさん。」

「ん?」

 

「相談してもいい?」

 

ユリは本を閉じる。

 

「もちろん。」

 

ドロップは少し迷ったあと、

 

ぽつりと口を開いた。

 

「最近ね……。」

 

「ウインナーが、輝いて見えるの。」

 

 

「……かっこいいなって。」

 

 

静かな部屋にその言葉が落ちる。

 

ユリは何も言わず続きを待った。

 

ドロップは布団をぎゅっと握る。

 

「でも……。」

 

「私、まだ忘れられてないんだ。」

 

その声は少し弱かった。

 

「結婚しちゃったあの人のこと。」

 

以前の失恋。

 

ずっと想っていた人。

 

もう届かない人。

 

頭では分かっている。

 

けれど気持ちは簡単に消えない。

 

「なのに。」

 

「最近ウインナーを見ると変なんだ。」

 

「一緒にいると楽しいし。」

 

「強くなってる姿を見ると嬉しいし。」

 

「今日なんて……。」

 

「目が合って、離せなくて…。」

 

夕食で目が合った瞬間を思い出す。

 

胸が少しだけ苦しくなる。

 

ドロップは顔を布団へ埋めた。

 

「これって恋なのかな。」

 

「それとも違うのかな。」

 

「失恋をウインナーで埋めようとしてるのかな?」

 

ユリは優しく微笑む。

 

そして静かに答えた。

 

「答えを急がなくてもいいと思う。」

 

ドロップが顔を上げる。

 

「え?」

 

「気持ちは、急いで決めるものじゃないから。」

 

ユリは穏やかな声で続けた。

 

「忘れられない人がいてもいい。」

 

「新しく大切になる人がいてもいい。」

 

「人の心って、そんなに単純じゃないから。」

 

ドロップは目を瞬かせた。

 

「そっか……。」

 

ユリは小さく頷く。

 

「うん。」

 

少しだけ遠くを見る。

 

まるで昔の自分を思い出すように。

 

「気付いたら。」

 

「答えは見つかるものだよ。」

 

「今のうちにたくさん悩んでみて。」

 

ドロップはゆっくり息を吐いた。

 

「ありがとう。」

 

その顔は少しだけ軽くなっていた。

 

 

-男同士の夜-

 

 

 

一方その頃。

 

 

王城のバルコニー。

 

夜風が静かに吹いていた。

 

ウインナーとダイフクーは

 

夜景を眺めながら話していた。

 

ダイフクーが笑う。

 

「いい風だなあ。」

 

「気持ちいいね。」

 

「……なぁ。」

 

「ドロップにはいつ想いを伝えるんだ?」

 

ウインナーは飲み物を吹き出しそうになった。

 

「えぇっ!?」

 

「な、なんで…!?」

 

ダイフクーは大笑いする。

 

「やっぱりな。」

 

「お前分かりやすいな!!」

 

ウインナーは照れ笑いを浮かべた。

 

「……そんなに分かりやすいかな。」

 

「ずっと目で追っかけてるぞお前。」

 

「あんなの誰でも分かる。」

 

「レイカにも言われたよ……。」

 

しばらく沈黙。

 

夜風が二人の間を吹き抜ける。

 

ウインナーは星空を見上げた。

 

「……もっと強くなってから。」

 

「それに、この気持ちに自信が持てたら。」

 

「その時にちゃんと伝えたい。」

 

ダイフクーは静かに笑った。

 

「ウインナーらしいな。」

 

「応援してるぜ。」

 

ウインナーも照れくさそうに笑った。

 

「ありがとう。」

 

 

-悪癖-

 

 

 

深夜。

 

王城の奥。

 

ドリーム禁貨が保管された宝物庫。

 

数十人の黒装束が静かに侵入していた。

 

誰にも気付かれず、

 

宝箱へ手を伸ばす。

 

その瞬間。

 

暗闇から声が響いた。

 

 

「こんばんは…。」

 

「こんな遅くに、ご苦労さんだな。」

 

 

赤く灯る煙草の火。

 

レイカが奥から歩いてくる。

 

「……やれ。」

 

侵入者たちは一斉に襲いかかる。

 

しかし。

 

次の瞬間、

 

侵入者の一部が地面へ倒れていた。

 

「…は?」

 

拳。

 

蹴り。

 

柄打ち。

 

一切の無駄がない。

 

「は…早すぎるっ!!!」

 

静かに。

 

音もなく。

 

数十人を瞬く間に制圧していく。

 

最後の一人。

 

「う…や、やめてくれ…。」

 

久しぶりの悪党に昔の記憶が蘇る。

 

「……灰にしてやる。」

 

「全部。」

 

レイカは炎飛へ手を掛けた。

 

静かな殺気が辺りを包む。

 

刀を抜こうとした、その時。

 

 

 

「レイカ。」

 

 

 

聞き慣れた声が響く。

 

「……!」

 

ユリだった。

 

レイカの動きが止まる。

 

しばらく沈黙が流れる。

 

「ふぅ…。」

 

刀から手を離した。

 

侵入者たちは縄で縛られ、

 

 

駆け付けた警備兵へ引き渡される。

 

全てが終わった後。

 

静かな廊下を二人で歩く。

 

「よくわかったな。」

 

「大会の結果で納得するとは思わなくて。」

 

「来るなら、深夜と思ってきてみたら。」

 

「先越されて、終わってた。」

 

「でもやりすぎ。」

 

ユリは少し頬を膨らませる。

 

「…すまん。」

 

「同じことしちゃったら。」

 

「またレイカが、しんどくなってしまう。」

「それは、もう、見たくないかな。」

 

レイカは立ち止まり、

 

月を見上げる。

 

「……すまない。」

 

「助かった。」

 

ユリは優しく微笑んだ。

 

 

「……どういたしまして。」

 

 

夜風が二人の間を吹き抜ける。

 

レイカは煙草へ火をつける。

 

煙を静かに吐き出しながら、

 

苦笑を浮かべていた。

 

(しんどい思いをしたのは、ユリなのにな。)

 

月明かりだけが、

 

二人の背中を静かに照らしていた。

 

 

 

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