-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

17 / 90
第十四章

 

 

 

―隣を歩く理由―

 

 

 

-おかえりー

 

 

 

夜。

 

月明かりに照らされながら、

 

二人は風に乗って王都へ戻ってきた。

 

王城の窓から漏れる灯りが見える。

 

ゆっくりと中へ入ると──

 

広間には全員が揃っていた。

 

ダイフクー。

 

シャーベット。

 

ブリトー。

 

レイカ。

 

ユリ。

 

全員がこちらを見ている。

 

みんなの視線の先が二人の間にある。

 

……二人が手を繋いで帰ってきたからだ。

 

そして。

 

全員、にやにやしていた。

 

 

 

静寂。

 

 

先に口を開いたのはドロップだった。

 

「…………あっ。」

 

顔を真っ赤にすると、

 

「お、お風呂行ってくる!」

 

そのまま走って逃げていった。

 

残されたウインナー。

 

全員の視線が集まる。

 

数秒の沈黙。

 

そしてウインナーは口を開く。

 

 

 

「…お付き合いすることになりました。」

 

 

その瞬間だった。

 

「「うおおおおおお!!」」

 

ダイフクーが飛び上がる。

 

シャーベットも珍しく笑う。

 

「まさか成功するとは。」

 

ブリトーは事情が分からず周囲を見る。

 

「何が起きたんだ?」

 

「付き合ったんだよ!」

 

ダイフクーが肩を組む。

 

「恋人だ!」

 

「恋人…?」

 

「なるほど、番か!」

 

「番て!でもおめでとう!!」

 

広間は拍手に包まれた。

 

その騒ぎから少し離れた場所。

 

ウインナーを避難がてら呼びつけ、

 

レイカは煙草に火をつける。

 

その隣に立ったユリが小さく笑う。

 

「お疲れ様。」

 

レイカも口元を緩めた。

 

「良かったな。」

 

ユリは静かに続ける。

 

「しっかりね。」

 

ウインナーは照れながら頭を下げた。

 

「ありがとう。」

 

王城には久しぶりに、

 

心から穏やかな空気が流れていた。

 

 

-女の子同士の夜更かし-

 

 

 

湯気の立ち込める客室。

 

湯浴みを終えたドロップとユリは、

 

窓際に並んで腰掛けていた。

 

窓の外には静かな夜空。

 

丸い月が王都を優しく照らしている。

 

ドロップは左手首の、

 

青いブレスレットを見つめながら、

 

小さく息をついた。

 

「思い出すだけで恥ずかしい……。」

 

「ウインナーって、言葉に恥じらいが無いのよ。」

 

その言葉にユリはくすっと笑う。

 

「でも、楽しそうだった。」

 

ドロップは照れくさそうに頷いた。

 

「うん。」

 

「すごく楽しかった。」

 

しばらく静かな時間が流れる。

 

やがてドロップがぽつりと口を開いた。

 

「ねぇ、ユリさん。」

 

「服って選ぶの難しいよね。」

 

ユリは首を傾げる。

 

「そう?」

 

「そうよ!」

 

「ワンピースも可愛いけど。」

 

「スカートにシャツを合わせるのも可愛いよね。」

 

「だから、すごく悩むの。」

 

ユリは少し考え、優しく微笑んだ。

 

「わかる。」

 

「でも組み合わせを考えるの、楽しい。」

 

「でしょ!」

 

「今日は鏡の前で何回着替えたか分からないもん。」

 

「ふふっ。」

 

「恋する女の子は忙しいもの。」

 

その一言に、

 

ドロップは耳まで真っ赤になった。

 

「もう!からかわないで!」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

笑い声が部屋に響く。

 

しばらくして、

 

ドロップが何気なく尋ねる。

 

「そういえば、レイカさんって本当に煙草好きよね。」

 

ユリは少し困ったように笑う。

 

「減らないのよ。」

 

「何回言っても。」

 

「気がついたら箱が手元にあるし。」

 

「また吸ってる……って思うことばっかり。」

 

ドロップも苦笑した。

 

「やっぱりそうなんだ。」

 

「でもね。」

 

ユリは窓の外を見つめた。

 

その表情はどこか柔らかい。

 

「私が体調を崩した時だけは。」

 

「一本も吸わないの。」

 

「ずっと隣にいてくれる。」

 

「心配そうな顔して。」

 

「子犬みたいな顔になるの。」

 

「……本当に不器用よね。」

 

 

その言葉には、

 

長い時間を共に歩いてきた人だけが持つ

 

優しさが滲んでいた。

 

ドロップは少し微笑む。

 

「レイカらしい。」

 

「言葉より行動、って感じ。」

 

ユリも静かに頷く。

 

「そうね。」

 

「だから私は、あの人の優しさを知ってる。」

 

「私だけが知ってるからいいの。」

 

「今ならユリさんの気持ちわかるわ。」

 

「ウインナー、みんなに優しいから、余計。」

 

「すごく尊敬出来るところなんだけど。」

 

「私だけしか知らない顔を見たいの。」

 

「そうよね。自分だけのあなた。がいいよね。」

 

「そうそう……でも、今からよね!」

 

「……ドロップとみんなとでは、だいぶ違うけどね。」

 

「え!?」

 

「私が気づいてないだけ……?」

 

「うん、みんな気づいてたよ。」

 

「えぇ…。」

 

部屋に穏やかな空気が流れる。

 

話題はまた変わり、

 

髪型やアクセサリーの話、

 

街で見つけた雑貨の話へと移っていった。

 

他愛もない会話。

 

だけど、とても幸せな時間だった。

 

やがて夜も更け、

 

ドロップは真剣な表情になる。

 

「ユリさん。」

 

「お願いがあるの。」

 

「何?」

 

ドロップは左手首のブレスレットをそっと握った。

 

「修行してほしい。」

 

ユリは少し驚いたように目を瞬かせる。

 

「どうして?」

 

ドロップは静かに答える。

 

「彼は確かに護るって言ってくれた。」

 

「けど、私だけ護られるのは嫌。」

 

「隣に立てるくらい強くなりたい。」

 

その言葉に迷いはなかった。

 

ユリはゆっくり微笑む。

 

「いいよ。」

 

「でも。」

 

「しばらくは二人だけの秘密。」

 

「みんなには内緒でね。」

 

ドロップは嬉しそうに笑う。

 

「うん!」

 

「ありがとう!」

 

その夜、月明かりの下で交わした約束は、

 

新しい一歩を踏み出す、小さな決意となった。

 

 

-新しい朝-

 

 

 

翌朝。

 

城の外。

 

ウインナー、ブリトーが修行をしていた。

 

それを近くでレイカが見守っている。

 

風が舞う。

 

体術の音が響く。

 

その少し離れた場所。

 

ユリとドロップもいた。

 

「まずは姿勢。」

 

「はい!」

 

「力を入れすぎない。」

 

「はい!」

 

「もっと呼吸を意識して。」

 

「はい!」

 

何度転んでも立ち上がる。

 

汗を流しながら必死についていく。

 

その姿をレイカにだけ見つかる。

 

「珍しいな、ユリ。」

 

ユリがあっとした顔でレイカを見て、

 

「……感化されたのかもしれないね。」

 

「みんなには秘密ね。」

 

「あいよ。」

 

 

-新たな旅路へ-

 

 

 

数日後。

 

旅立ちの日。

 

デンガクたちが見送りに来ていた。

 

「皆様。」

 

「カマメシ王国を救っていただき。」

 

「本当にありがとうございました。」

 

深く頭を下げる。

 

「あの黒装束たちはやはり。」

 

「スキヤキ王国から依頼された者でした。」

 

レイカが、煙草の煙を吐き出す。

 

「だろうな。」

 

「あいつら会場にもたくさんいたぞ。」

 

「だから、レイカはわかってたんだね。」

 

「気付くのもすごいけどな。」

 

「二度も助けていただいて。」

 

「本当にありがとうございました。」

 

ウインナーも礼を返す。

 

「こちらこそ、お世話になりました。」

 

ブリトーは腕輪を見る。

 

新たに集まった禁貨。

 

まだ旅は終わらない。

 

ダイフクーが笑う。

 

「次はヒナベ島だな!」

 

シャーベットが地図を広げる。

 

「遺跡の位置はここだ。」

 

レイカは荷物を肩に担ぐ。

 

「行くか。」

 

ユリも静かに頷く。

 

その横で、

 

ドロップはウインナーの左手を見る。

 

青いブレスレット。

 

自分の左手首にも同じものがある。

 

目が合う。

 

二人は少し照れながら笑った。

 

「行こう。」

 

「うん。」

 

気球船がゆっくり空へ浮かび上がる。

 

王都が小さくなっていく。

 

新たな仲間。

 

新たな禁貨。

 

そして、新たな想いを胸に。

 

彼らは次なる目的地――

 

ヒナベ島へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。