-炎の島 ヒナベ島-
-海を越えて-
カマメシ王国を出発した翌朝。
港には、一隻の大型旅客船が停泊していた。
目的地は南方に浮かぶ火山島――ヒナベ島。
周辺の空域は火山灰と上昇気流が渦巻き、
上空から近づくことは危険とされている。
そのため、一行は一泊二日の船旅を選んだ。
汽笛が鳴り響き、船はゆっくりと港を離れていく。
青く広がる大海原。
どこまでも続く水平線。
船首へ立ったブリトーは、その景色に目を奪われていた。
「……これが、海。」
その言葉には驚きと感動が入り混じっていた。
ダイフクーが豪快に笑う。
「初めて見たのか?」
ブリトーは小さく頷く。
「記憶にないだけかもしれない。」
「でも……綺麗だ。」
風が吹き抜け、潮の香りが鼻をくすぐる。
その横でシャーベットが静かに呟いた。
「世界は広い。」
ブリトーは何も返さず、ただ海を見つめ続けていた。
-昼食-
船内の食堂は旅人たちで賑わっていた。
自然と隣同士に座るウインナーとドロップ。
以前なら少し距離を空けていた二人だったが、
今は肩が触れそうなほど近い。
ドロップが料理を一口食べる。
「美味しい!」
「船のご飯ってもっと質素だと思ってた。」
ウインナーも笑う。
「本当に美味しい。」
「海の旅も楽しいね。」
「うん!」
「……こうして二人で食べるのもね。」
「…もうっ。」
その言葉に二人とも少し照れ、同時に笑った。
少し離れた席では、ダイフクーが料理を山盛りにしている。
「船飯最高だぜ!」
シャーベットは呆れたように眼鏡を押し上げた。
「食べ過ぎると酔うよ。」
「そんなヤワじゃねぇ!」
その様子を見てブリトーは思わず笑った。
気づけば、自分も自然と笑っていた。
「……仲間、か。」
小さな呟きは波音に消えていった。
一方その頃。
甲板ではレイカが煙草をくゆらせていた。
風に黒髪が揺れる。
その視線は景色ではなく、
船内を行き交う客たちへ向いていた。
「……平和だな。」
隣ではユリが海を眺めている。
長い銀髪が潮風になびいた。
「……こういう時間も好き。」
レイカは煙を空へ吐き出す。
「ああ。」
二人は静かな海を眺め続けていた。
-ナンパ事件-
昼食を終えたあと。
ユリとドロップは甲板へ出て、
海風を浴びながら水平線を眺めていた。
「海って広いわね。」
「うん。」
「ずっと見てても飽きない。」
ドロップは柵にもたれ、小さく笑う。
「ねぇ、ユリさん。」
「恋人って不思議ね。」
「昨日までと何も変わらないのにさ。」
「全部が少しだけ特別に見えるの。」
ユリは穏やかに微笑んだ。
「それだけ、大切な人ができたってことよ。」
ドロップは少し照れながら左手のブレスレットを見つめる。
その時だった。
「お姉さんたち。」
「俺たちと遊ばない?」
五人ほどの大柄な男たちが近づいてくる。
酒臭い息を吐きながら、二人を囲んだ。
ドロップは表情を変えずに答える。
「……遠慮するわ。」
ユリも優しく微笑む。
「間に合ってる。」
しかし男たちは引き下がらない。
「そんな冷たいこと言うなよ。」
そのまま二人の腕へ手を伸ばした。
だが。
その腕は途中で止まった。
掴んでいたのはレイカだった。
煙草をくわえたまま、静かに男を見つめる。
「……触るな。」
その隣にはウインナー。
穏やかな笑みを浮かべながら立っていた。
「嫌がってるんで。」
男たちは顔をしかめる。
「なんだお前ら。」
「邪魔すんな。」
「お前らの彼女か~?」
ドロップは恐る恐る男たちに言った。
「あんたたち、逃げたほうがいいわよ。」
「はぁ~?こんなヒョロヒョロに何ができんだ?」
「むしろ教えてくれよ!」
ガハハと汚い笑い声が響き渡る。
レイカはゆっくりと煙を吐いた。
「……うるさい。」
その瞬間。
空気が変わる。
圧倒的な殺気が船上を包み込み、
周囲の乗客までもが息を呑んだ。
男たちの顔色がみるみる青ざめる。
「えっ……?」
さらにウインナーが、
ドロップの腕を掴んでいた男の腕を、
ゆっくり外して問いかける。
「……どうしますか?」
笑顔のまま。
しかし、その瞳には一切の迷いがなかった。
男たちは悲鳴を上げるように走り去っていく。
「あ、あいつらヤバい!」
「逃げろ!」
あっという間に姿は見えなくなった。
静寂が戻る。
ドロップはほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとう。」
ウインナーは照れくさそうに笑う。
「当然だよ。」
ユリはレイカを見る。
「助かったわ。」
レイカは煙草を吸い直しながら肩をすくめた。
「……凍らせるよりましだろ。」
その横顔を見て、ユリは小さく笑った。
-炎の島-
翌日の昼過ぎ。
旅客船はヒナベ島へ到着した。
巨大な火山を中心に築かれた島。
赤黒い岩肌。
立ち上る噴煙。
熱気を帯びた風。
まるで島全体が炎を宿しているようだった。
「暑いな!」
ダイフクーが額の汗を拭う。
シャーベットも苦笑する。
「火山島だから当然だね。」
ウインナーは火山を指差した。
「あの麓に遺跡がある。」
「今回の目的地だよ。」
ブリトーは静かに頷いた。
その時。
一人の老人が近づいてきた。
村長だった。
「ようこそ旅人さん。」
「今日は炎祭りの日なんじゃ。」
村の中央には巨大な松明がそびえ立っていた。
天を突くほど高く積み上げられた薪。
周囲では村人たちが踊り、太鼓が鳴り響いている。
村長は松明を見上げる。
「あの炎が高く燃え上がる時。」
「この村は大いに栄えると言われておる。」
「炎の加護を持つ者が触れると、炎は天高く昇る。」
ブリトーが尋ねる。
「炎の加護?」
村長は微笑んだ。
「松明の根元へ触れてみたらいい。」
「その者に加護が備わっているかわかる。」
祭りはいよいよ最高潮を迎えようとしていた。
-炎の挑戦者-
「見てろよ!」
祭りの中央へ、機械的な人物が現れる。
身体は大きくはないが、貫禄がある。
自信に満ちた笑み。
男は堂々と松明へ歩み寄った。
「俺が一番だ。」
そのまま松明へ手を触れる。
轟音。
巨大な炎柱が空へ突き抜けた。
村人たちが歓声を上げる。
「今年一番だ!」
「すごい!」
青年は腕を組み、満足そうに笑う。
その姿を見た瞬間。
ブリトーの目が大きく開いた。
「……スムージー?」
青年も振り返る。
「ん?」
「ブリトー!?」
再会の驚きが広場に広がる。
感動する二人に安堵するみんなであったが、
その空気を変えたのは村長だった。
「そこの黒髪の青年。」
「お主……炎の加護を受けておるな?」
視線はレイカへ向く。
レイカは小さくため息をついた。
「……なんのことだか。」
村長は深く頭を下げる。
「どうか。」
「一度だけ松明へ触れてくれぬか。」
ユリがレイカを見て静かに頷く。
「やってあげたら?」
「……はあ、乗り気じゃない。」
レイカは煙草を消し、松明へ歩いた。
そして静かに手を置く。
次の瞬間。
轟ォォォォォッ!!
歴代最高とも言える炎柱が空を貫いた。
雲を赤く染めるほどの炎。
誰もが言葉を失う。
スムージーだけが笑っていた。
「いいねぇ。」
「アンタ、熱いな。」
レイカは背を向ける。
「……やめとけ。」
だがスムージーは炎を右手に灯した。
「どっちの炎が熱いか。」
「勝負しようぜ。」
すかさず、ブリト―が止める。
「スムージー!やめるんだ!」
「いや、やめないね!かかってこい!」
「……さっさと終わらせる。」
村長が慌てる。
「村が燃えるぞ!!」
しかし別の老人が笑った。
「この島は炎の加護に守られておる。」
「炎では焼けぬ。」
その言葉を聞いたレイカは静かに振り返る。
「……そうか。」
「なら、少しくらい本気を出してもいい。」
スムージーの口元が大きく吊り上がる。
祭りの喧騒は静まり返り、
島中の視線が二人へ集まった。
炎と炎。
二人の炎使いが向かい合う。
その勝負の行方は―