-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第十五章

 

 

 

-炎の島 ヒナベ島-

 

 

 

-海を越えて-

 

 

 

カマメシ王国を出発した翌朝。

 

港には、一隻の大型旅客船が停泊していた。

 

目的地は南方に浮かぶ火山島――ヒナベ島。

 

周辺の空域は火山灰と上昇気流が渦巻き、

 

上空から近づくことは危険とされている。

 

そのため、一行は一泊二日の船旅を選んだ。

 

汽笛が鳴り響き、船はゆっくりと港を離れていく。

 

青く広がる大海原。

 

どこまでも続く水平線。

 

船首へ立ったブリトーは、その景色に目を奪われていた。

 

「……これが、海。」

 

その言葉には驚きと感動が入り混じっていた。

 

ダイフクーが豪快に笑う。

 

「初めて見たのか?」

 

ブリトーは小さく頷く。

 

「記憶にないだけかもしれない。」

 

「でも……綺麗だ。」

 

風が吹き抜け、潮の香りが鼻をくすぐる。

 

その横でシャーベットが静かに呟いた。

 

「世界は広い。」

 

ブリトーは何も返さず、ただ海を見つめ続けていた。

 

 

 

-昼食-

 

 

 

船内の食堂は旅人たちで賑わっていた。

 

自然と隣同士に座るウインナーとドロップ。

 

以前なら少し距離を空けていた二人だったが、

 

今は肩が触れそうなほど近い。

 

ドロップが料理を一口食べる。

 

「美味しい!」

 

「船のご飯ってもっと質素だと思ってた。」

 

ウインナーも笑う。

 

「本当に美味しい。」

 

「海の旅も楽しいね。」

 

「うん!」

 

「……こうして二人で食べるのもね。」

 

「…もうっ。」

 

その言葉に二人とも少し照れ、同時に笑った。

 

 

少し離れた席では、ダイフクーが料理を山盛りにしている。

 

「船飯最高だぜ!」

 

シャーベットは呆れたように眼鏡を押し上げた。

 

「食べ過ぎると酔うよ。」

 

「そんなヤワじゃねぇ!」

 

その様子を見てブリトーは思わず笑った。

 

気づけば、自分も自然と笑っていた。

 

「……仲間、か。」

 

小さな呟きは波音に消えていった。

 

一方その頃。

 

甲板ではレイカが煙草をくゆらせていた。

 

風に黒髪が揺れる。

 

その視線は景色ではなく、

 

船内を行き交う客たちへ向いていた。

 

「……平和だな。」

 

隣ではユリが海を眺めている。

 

長い銀髪が潮風になびいた。

 

「……こういう時間も好き。」

 

レイカは煙を空へ吐き出す。

 

「ああ。」

 

二人は静かな海を眺め続けていた。

 

 

 

-ナンパ事件-

 

 

 

昼食を終えたあと。

 

ユリとドロップは甲板へ出て、

 

海風を浴びながら水平線を眺めていた。

 

「海って広いわね。」

 

「うん。」

 

「ずっと見てても飽きない。」

 

ドロップは柵にもたれ、小さく笑う。

 

「ねぇ、ユリさん。」

 

「恋人って不思議ね。」

 

「昨日までと何も変わらないのにさ。」

 

「全部が少しだけ特別に見えるの。」

 

ユリは穏やかに微笑んだ。

 

「それだけ、大切な人ができたってことよ。」

 

ドロップは少し照れながら左手のブレスレットを見つめる。

 

 

その時だった。

 

 

「お姉さんたち。」

 

「俺たちと遊ばない?」

 

五人ほどの大柄な男たちが近づいてくる。

 

酒臭い息を吐きながら、二人を囲んだ。

 

ドロップは表情を変えずに答える。

 

「……遠慮するわ。」

 

ユリも優しく微笑む。

 

「間に合ってる。」

 

しかし男たちは引き下がらない。

 

「そんな冷たいこと言うなよ。」

 

そのまま二人の腕へ手を伸ばした。

 

だが。

 

その腕は途中で止まった。

 

掴んでいたのはレイカだった。

 

煙草をくわえたまま、静かに男を見つめる。

 

「……触るな。」

 

その隣にはウインナー。

 

穏やかな笑みを浮かべながら立っていた。

 

「嫌がってるんで。」

 

 

 

男たちは顔をしかめる。

 

「なんだお前ら。」

 

「邪魔すんな。」

 

「お前らの彼女か~?」

 

ドロップは恐る恐る男たちに言った。

 

「あんたたち、逃げたほうがいいわよ。」

 

「はぁ~?こんなヒョロヒョロに何ができんだ?」

 

「むしろ教えてくれよ!」

 

ガハハと汚い笑い声が響き渡る。

 

レイカはゆっくりと煙を吐いた。

 

 

「……うるさい。」

 

 

その瞬間。

 

空気が変わる。

 

圧倒的な殺気が船上を包み込み、

 

周囲の乗客までもが息を呑んだ。

 

男たちの顔色がみるみる青ざめる。

 

「えっ……?」

 

さらにウインナーが、

 

ドロップの腕を掴んでいた男の腕を、

 

ゆっくり外して問いかける。

 

「……どうしますか?」

 

笑顔のまま。

 

しかし、その瞳には一切の迷いがなかった。

 

男たちは悲鳴を上げるように走り去っていく。

 

「あ、あいつらヤバい!」

 

「逃げろ!」

 

あっという間に姿は見えなくなった。

 

静寂が戻る。

 

ドロップはほっと胸を撫で下ろした。

 

「ありがとう。」

 

ウインナーは照れくさそうに笑う。

 

「当然だよ。」

 

ユリはレイカを見る。

 

「助かったわ。」

 

レイカは煙草を吸い直しながら肩をすくめた。

 

「……凍らせるよりましだろ。」

 

その横顔を見て、ユリは小さく笑った。

 

 

 

-炎の島-

 

 

 

翌日の昼過ぎ。

 

旅客船はヒナベ島へ到着した。

 

巨大な火山を中心に築かれた島。

 

赤黒い岩肌。

 

立ち上る噴煙。

 

熱気を帯びた風。

 

まるで島全体が炎を宿しているようだった。

 

「暑いな!」

 

ダイフクーが額の汗を拭う。

 

シャーベットも苦笑する。

 

「火山島だから当然だね。」

 

ウインナーは火山を指差した。

 

「あの麓に遺跡がある。」

 

「今回の目的地だよ。」

 

ブリトーは静かに頷いた。

 

その時。

 

一人の老人が近づいてきた。

 

村長だった。

 

「ようこそ旅人さん。」

 

「今日は炎祭りの日なんじゃ。」

 

村の中央には巨大な松明がそびえ立っていた。

 

天を突くほど高く積み上げられた薪。

 

周囲では村人たちが踊り、太鼓が鳴り響いている。

 

村長は松明を見上げる。

 

「あの炎が高く燃え上がる時。」

 

「この村は大いに栄えると言われておる。」

 

「炎の加護を持つ者が触れると、炎は天高く昇る。」

 

ブリトーが尋ねる。

 

「炎の加護?」

 

村長は微笑んだ。

 

「松明の根元へ触れてみたらいい。」

 

「その者に加護が備わっているかわかる。」

 

祭りはいよいよ最高潮を迎えようとしていた。

 

 

 

-炎の挑戦者-

 

 

 

「見てろよ!」

 

祭りの中央へ、機械的な人物が現れる。

 

身体は大きくはないが、貫禄がある。

 

自信に満ちた笑み。

 

男は堂々と松明へ歩み寄った。

 

「俺が一番だ。」

 

そのまま松明へ手を触れる。

 

轟音。

 

巨大な炎柱が空へ突き抜けた。

 

村人たちが歓声を上げる。

 

「今年一番だ!」

 

「すごい!」

 

青年は腕を組み、満足そうに笑う。

 

その姿を見た瞬間。

 

ブリトーの目が大きく開いた。

 

「……スムージー?」

 

青年も振り返る。

 

「ん?」

 

「ブリトー!?」

 

再会の驚きが広場に広がる。

 

感動する二人に安堵するみんなであったが、

 

その空気を変えたのは村長だった。

 

 

「そこの黒髪の青年。」

 

「お主……炎の加護を受けておるな?」

 

 

視線はレイカへ向く。

 

レイカは小さくため息をついた。

 

「……なんのことだか。」

 

村長は深く頭を下げる。

 

「どうか。」

 

「一度だけ松明へ触れてくれぬか。」

 

ユリがレイカを見て静かに頷く。

 

「やってあげたら?」

 

「……はあ、乗り気じゃない。」

 

レイカは煙草を消し、松明へ歩いた。

 

そして静かに手を置く。

 

次の瞬間。

 

 

 

轟ォォォォォッ!!

 

 

 

歴代最高とも言える炎柱が空を貫いた。

 

雲を赤く染めるほどの炎。

 

誰もが言葉を失う。

 

スムージーだけが笑っていた。

 

「いいねぇ。」

 

「アンタ、熱いな。」

 

レイカは背を向ける。

 

「……やめとけ。」

 

だがスムージーは炎を右手に灯した。

 

「どっちの炎が熱いか。」

 

「勝負しようぜ。」

 

すかさず、ブリト―が止める。

 

「スムージー!やめるんだ!」

 

「いや、やめないね!かかってこい!」

 

「……さっさと終わらせる。」

 

村長が慌てる。

 

「村が燃えるぞ!!」

 

しかし別の老人が笑った。

 

「この島は炎の加護に守られておる。」

 

「炎では焼けぬ。」

 

その言葉を聞いたレイカは静かに振り返る。

 

「……そうか。」

 

「なら、少しくらい本気を出してもいい。」

 

スムージーの口元が大きく吊り上がる。

 

祭りの喧騒は静まり返り、

 

島中の視線が二人へ集まった。

 

炎と炎。

 

二人の炎使いが向かい合う。

 

その勝負の行方は―

 

 

 

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