-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第十六章

 

 

 

-炎より熱きもの-

 

 

 

-最強の炎-

 

 

 

祭りの熱気が島中を包む。

 

巨大な松明の前。

 

レイカとスムージーが向かい合っていた。

 

村人たちは固唾を飲んで見守っている。

 

スムージーは巨大なマッチ棒を肩へ担ぎ、

 

大きく笑った。

 

 

「この島じゃ俺が一番だ!」

 

「…その言葉、後悔するなよ。」

 

 

炎がマッチ棒を包み込み、

 

灼熱の熱気が周囲へ広がる。

 

ブリトーは思わず目を細めた。

 

「すごい炎……。」

 

スムージーは大きく踏み込み、

 

そのまま炎を纏った一撃を振り下ろした。

 

轟音。

 

巨大な炎がレイカへ襲いかかる。

 

だが。

 

レイカはその場から一歩も動かなかった。

 

煙草を口にくわえたまま、小さく呟く。

 

 

「…………ぬるいな。」

 

 

右手を軽く払う。

 

それだけだった。

 

スムージーの炎は一瞬で霧散し、空へ消えていく。

 

祭り会場は静まり返った。

 

スムージーも目を見開く。

 

「……嘘だろ。」

 

レイカはため息をつく。

 

「終わりか?」

 

その一言だけで、

 

絶望的な実力差が伝わっていた。

 

 

 

-我流・炎飛流「円」-

 

 

 

それでもスムージーは笑った。

 

「まだ終わってねぇ!!」

 

巨大なマッチ棒を天へ掲げる。

 

炎はさらに激しく燃え上がり、

 

巨大な火柱となって空へ伸びた。

 

島中が赤く染まる。

 

村人たちは歓声と悲鳴を上げる。

 

スムージーは全力の一撃を放った。

 

 

「これが俺の全力だぁぁぁぁ!!」

 

 

巨大な炎がレイカへ迫る。

 

レイカは静かに煙草を地面へ落とした。

 

そして、目を閉じる。

 

「やれやれ…。」

 

右手に、小さな炎が灯る。

 

派手さはない。

 

静かで、美しい炎。

 

レイカはゆっくり腕を横へ広げた。

 

 

「──我流。」

 

「炎飛流。」

 

 

静寂。

 

次の瞬間。

 

 

 

「──円。」

 

 

 

レイカを中心に、

 

真紅の炎が円を描くように静かに広がっていく。

 

轟音はない。

 

爆発もない。

 

ただ、美しい円環だけが世界を包む。

 

触れた炎はすべて消え去り、

 

スムージーの炎も、

 

巨大なマッチ棒も、

 

一瞬で鎮火した。

 

炎の輪は静かに消えていく。

 

誰も声を出せなかった。

 

 

「この技は。」

 

「俺が燃やしたいものだけを燃やす。」

 

「お前の炎に合わせて相殺させてもらった。」

 

 

静寂だけが残る。

 

スムージーは膝をつき、苦笑した。

 

「……参った。」

 

「俺の負けだ。」

 

レイカは煙草へ火をつけ直す。

 

「最初から勝負になってないがな。」

 

その姿に、誰もが息を呑んでいた。

 

ダイフクーは額に汗を浮かべる。

 

「お、おい……。」

 

シャーベットも眼鏡を押し上げる。

 

「規格外だ。」

 

ブリトーは静かに呟く。

 

「……これが炎の加護。」

 

ウインナーも苦笑した。

 

「やっぱりレイカはすごい。」

 

その瞬間。

 

静まり返っていた村中から、大歓声が巻き起こった。

 

「すげぇぇぇぇ!!」

 

「神様みたいだ!!」

 

「歴代最強だ!!」

 

拍手と歓声が島中へ響き渡る。

 

スムージーも立ち上がり、大笑いした。

 

「完敗だ…!」

 

「こんな強いやつ初めて見た!」

 

レイカは煙を吐きながら、ただ空を見上げていた。

 

 

「……神様、ねえ……。」

 

 

 

-宿の夜-

 

 

 

祭りは大成功に終わり、

 

島中は夜遅くまで歓声に包まれていた。

 

一行はスムージーと同じ宿へ泊まることになる。

 

夕食の席では、ダイフクーが豪快に肉へかぶりつき、

 

シャーベットが静かにため息をつく。

 

ブリトーはスムージーから島の話を聞き、

 

ウインナーとレイカは酒を飲む村人たちを眺めていた。

 

夜風が心地よく吹く縁側。

 

ユリとドロップは並んで座り、月を見上げていた。

 

ドロップは小さく笑う。

 

「昼間のナンパの人たち。」

 

「顔真っ青だったね。」

 

ユリも笑う。

 

「あの二人に睨まれたら仕方ないわ。」

 

ドロップは少し照れながら続けた。

 

「ウインナー、頼もしかったなぁ。」

 

「レイカも格好良かった。」

 

ユリは静かに頷く。

 

「そうね。」

 

「二人とも優しいから。」

 

ドロップは今日の戦いを思い返す。

 

「あんなに強い人、初めて見た。」

 

「レイカって、一体どれくらい強いの?」

 

ユリは月を見上げたまま、小さく微笑んだ。

 

「……この時代で彼に勝てる人は、そうそういないと思う。」

 

ドロップは驚いたように目を丸くした。

 

「そんな人が旅してるなんて、不思議。」

 

ユリは静かに笑うだけだった。

 

「でもやっぱり気になる!」

 

「…ユリさんもだけどなんであんなに強いの?」

 

ドロップはぽつりと同じことを呟く。

 

ユリは少しだけ目を細める。

 

「……強くなりすぎたのよ。」

 

ドロップは首を傾げた。

 

「強くなりすぎた?」

 

ユリは遠くの火山を眺めながら続ける。

 

「生きているとね。」

 

「嫌なものが嫌というほど目につくし、経験する。」

 

「守れなかったもの。」

 

「失ったもの。」

 

「後悔。」

 

「色んな感情が積み重なる。」

 

静かな声だった。

 

「それを全部、消し去るかのように。」

 

「彼は実力を付けていった。」

 

「時には方法を間違えながら。」

 

「色んなことを経験して、今の強さがあるの。」

 

ドロップは黙って聞いていた。

 

そしてふと、小さく首を傾げる。

 

「……ユリさんとレイカって。」

 

「一体、何歳なの?」

 

一瞬だけ。

 

ユリの表情が止まった。

 

しかし次の瞬間には、いつもの優しい笑顔へ戻る。

 

「女の人に年齢を聞くものじゃないわ。」

 

くすっと笑う。

 

ドロップも慌てて笑った。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ふふっ。」

 

二人の笑い声が夜空へ溶けていく。

 

だがその胸には、小さな違和感だけが残っていた。

 

──この二人は、どれほど長い時を生きてきたのだろう。

 

その答えは、まだ誰も知らない。

 

 

 

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