―再会―
森の中を吹き抜ける風が、
焦げた草木の匂いを運んでいく。
野盗たちは、
黒衣の男が放った一撃だけで戦意を失い、
蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていた。
静寂が戻る。
レイカは煙草をくわえ直し、
面倒そうに息を吐いた。
「……なんだあいつら。」
その隣で、ユリはしゃがみ込み、
傷だらけのウインナーを静かに見つめている。
「大丈夫?」
優しい声だった。
ウインナーは苦笑いを浮かべる。
「なんとかね…。」
その笑顔を見て、レイカは腕を組んだ。
「昔から変わらないな。」
その言葉に、ウインナーは照れくさそうに頭を掻いた。
「レイカこそ変わってないね。」
「煙草なんか吸って。」
レイカは肩を竦める。
「長生きすると色々あるんだよ。」
その何気ない一言に、
ユリは一瞬だけ視線を伏せた。
しかし、誰も気づかなかった。
ドロップは二人を交互に見比べる。
「助けてくれて、ありがとう。」
「……ウインナー、この人知り合い?」
ウインナーは嬉しそうに頷いた。
「うん。」
「小さい頃、一緒にいた人なんだ。」
「みんな仲良しハウスで。」
ドロップは目を丸くした。
「えぇっ!?そうだったの!?」
レイカは苦笑する。
「もう十何年も前の話だけどな。」
「こいつは昔、人と話すのが苦手だった。」
「こんなに明るくなっているとはな。」
「まるで人が変わったみたいだ。」
「最初、誰か分からなかった。」
ウインナーは慌てて手を振る。
「そ、それ言わなくていいから!」
レイカは珍しく小さく笑った。
ウインナーも思い出したように笑う。
「あれから、レイカが出ていっちゃってさ。」
「急にいなくなったから、びっくりした。」
レイカは煙草の煙を空へ吐き出した。
「色々あった。」
「それだけだ。」
その言葉以上は語らなかった。
「じっとしてね。」
ユリが静かに手を伸ばす。
淡い白いの光が手のひらを包み込んだ。
「氷華流──雪解。」
ひんやりとした空気が傷口を包む。
裂けた皮膚がゆっくり塞がっていく。
ドロップは目を輝かせた。
「すごーい!」
ウインナーも腕を動かしながら驚く。
「痛くない……。」
ユリは微笑んだ。
「全部は治せないけど。」
「これくらいなら。」
レイカはその様子を見て、
小さく頷くだけだった。
気球船へ戻ると、
ダイフクーとシャーベットが待っていた。
「おっ!帰ってきた!」
ダイフクーはレイカを見るなり目を丸くする。
「なんだこの兄ちゃん!」
「強そうじゃねぇか!」
レイカは煙草をくわえたまま答えた。
「レイカだ。」
「ずっと旅をしている。」
隣でユリも小さく頭を下げる。
「ユリです。」
シャーベットは興味深そうに二人を見る。
「見たところ、かなり腕が立つみたいだな。」
レイカは答えない。
煙だけが空へ消えていく。
「どこの出身なんだ?」
シャーベットが続けて尋ねる。
「何故、旅をしているのか聞いてもいいか?」
沈黙。
レイカは視線を逸らした。
ユリも何も言わない。
コツンッ
その空気を察したダイフクーが,
シャーベットの頭を軽く叩く。
「おい。」
「しつこいぞ。」
シャーベットは少し頬を膨らませる。
「気になるものは気になるんだ……。」
ぶつぶつと呟きながら後ろへ下がる。
その様子に、ドロップが思わず笑う。
空気が少しだけ柔らかくなった。
ウインナーの治療を終えた頃。
ウインナーはレイカの前へ立つ。
「レイカ。」
「もし良かったら、一緒に旅をしないかい?」
その言葉に、一同が静かになる。
レイカは煙草を指先で挟み、空を見上げた。
「断る。」
即答だった。
しかし。
ユリが静かにレイカを見る。
「……私は、いいよ。」
「……え?」
しばしの沈黙。
レイカは困ったように頭を搔く。
「……はあ、ユリが言うなら。」
ドロップが飛び上がる。
「やったぁ!」
「女子が増えた!」
ダイフクーも豪快に笑った。
「旅は賑やかな方がいい!」
こうして、新たな仲間が加わった。
その日の夕方。
ドロップとユリは、
気球船の食堂で楽しそうに話していた。
好きな食べ物。
旅で見た景色。
何気ない話ばかり。
それでも、
ユリは久しぶりに穏やかな笑顔を浮かべていた。
レイカは少し離れた場所から、
その姿を見つめる。
口元がほんの少しだけ緩む。
その優しい表情を見たシャーベットは驚いた。
「……君って、そんな顔もできるんだな。」
レイカはゴホンと咳払いをして立ち上がる。
「煙草吸ってくる。」
そのまま食堂の奥へ歩いていった。
夜。
みんなが寝静まった頃。
レイカは木にもたれ、静かに煙草を吸っていた。
吸い終わると、指先で火を弾く。
煙草は灰となり、風へ溶けて消えた。
その時だった。
「レイカ。」
後ろから声がする。
振り返ると、ウインナーが立っていた。
「寝ないのか。」
「ちょっとね。」
少し沈黙が流れる。
やがてウインナーは真っ直ぐレイカを見る。
「もっと強くなりたい。」
「大切な人達を。」
「ちゃんと守れるようになりたい。」
レイカは目を細めた。
「……なぜ?」
ウインナーは少しだけ俯く。
「守れなかったら、きっと後悔するから。」
その答えに、レイカは静かに煙を吐いた。
「そういうことか。」
「……はあ。」
「仕方がない。」
「修行つけてやる。」
ウインナーの表情が明るくなる。
「……本当!?」
「頼みに来たんだろ?」
「……ただし、厳しいぞ。」
「うん!」
その返事に、レイカは小さく笑った。
そして、ふと思い出したように尋ねる。
「そういや。」
「ドロップのこと、好きなのか?」
ウインナーは固まった。
「えっ!?」
顔が真っ赤になる。
「ち、違うよ!」
「いや、違わないのかな……?」
その様子を見て、レイカは煙草をくわえ直す。
「分かりやすいな。」
「ずっと目で追ってるぞ。」
「ええ……。」
「これが好きの気持ちなのかは…。」
「まだわかんないんだけどね……」
今度はウインナーが聞き返した。
「レイカは?」
「なんでユリさんのこと好きになったの?」
レイカは少しだけ空を見上げた。
月明かりが静かに森を照らしている。
しばらく黙ったあと、小さく笑った。
「……押しに負けた。」
それだけ言うと、再び煙草の煙を夜空へ流した。
ウインナーは思わず吹き出す。
「なんだそれ。」
二人の笑い声は風に乗り、静かな森へ消えていった。
旅は、まだ始まったばかりだった。