-霧の招待状-
-霞の使者-
霧がゆっくりと晴れていく。
しかし、そこにいたはずの子供たちの姿はなかった。
広場には、ただ二人の人影だけが立っていた。
一人は、スパム先生。
もう一人は、その背後に浮かぶ白い影。
まるで幽霊のような姿。
その顔を見た瞬間。
ブリトーが目を見開いた。
「ポタージュ……!?」
「なにしてるんだ!」
白い影は、くすくすと笑う。
「ふふふ。」
「貴様に話す必要はないし、知る必要もない。」
「信じなさい!」
その声は、どこか狂気を帯びていた。
ダイフクーが拳を握る。
「子供たちをどこへやった!!」
スパム先生は静かに微笑む。
「子供たちはこれから幸せになる。」
「いいことだろう?ウインナー。」
その穏やかな口調に、ウインナーは震える。
「……嘘だ。」
スパム先生はレイカへ目を向けた。
「…おっと。」
「厄介者がいるね。」
その瞬間。
レイカの姿が消える。
一歩。
いや、一瞬。
炎を纏った斬撃がスパム先生を切り裂く。
しかし。
斬った感触はなかった。
霞。
ただの虚像。
霧となって散っていく。
レイカは静かに刀を納めた。
「……ちっ。」
-呼び声-
霧の中から、スパム先生の声だけが響く。
「探しにおいで。」
「ウインナー。」
「君の知っている場所だよ。」
ウインナーは歯を食いしばる。
「どこだ。」
「ウインナー。」
「レイカ。」
「大勢で来ようと思わないことだ。」
「子どもたちがどうなってもいいなら別だがね。」
静寂。
そして、
「後は言わなくても分かるだろう?」
「二人とも、いい子だから。」
その言葉だけを残し、
姿はさらに薄れていく。
その横でポタージュも笑った。
「ブリトー!」
「貴様もメザン様が呼んでいる!」
「信じなさい!」
ブリトーが叫ぶ。
「待て!!」
しかし。
白い影は霧へ溶け込むように消えていった。
ランドには静寂だけが残る。
-風の崖へ-
重苦しい空気が漂っている。
沈黙の最中、
レイカは静かに歩き始めた。
「……行くぞ。」
ウインナー、ブリトーも頷く。
「うん。」
三人がランドを出ようとした、その時だった。
「待って。」
振り返る。
ユリとドロップが立っていた。
ドロップは真っ直ぐウインナーを見つめる。
「私達も行く。」
レイカは短く答える。
「駄目だ。」
「大人しく待ってろ。」
ユリも一歩前へ出る。
「嫌。」
その一言だけだった。
レイカはため息をつく。
「…相手は俺たちを指名してる。」
「増えれば子供たちが危険になる。」
ウインナーも優しく説得する。
「危険だからこそ、待っていてほしいんだ。」
しかしドロップは首を横に振った。
瞳には涙が浮かんでいる。
「大切な人が辛いのに黙ってるなんて。」
「何が恋人よ。」
その言葉にウインナーは黙ってしまう。
しばらく沈黙が続く。
その空気を破ったのはユリだった。
「私たちは後ろから付いていく。」
「邪魔はしない。」
「でも、離れない。」
「ドロップは、私が守る。」
レイカは煙草へ火をつける。
煙を吐きながら、諦めた表情で、
「……ダメって言ってもだろ。」
「ただし、俺から離れるな。」
ユリとドロップの表情が少しだけ和らぐ。
「うん。」
五人は静かに歩き始めた。
「風が、呼んでる。」
向かう先は、
ウインナーが初めて風と出会った崖。
ランドを後にした五人は、山道を静かに歩いていた。
目指す先は、ウインナーが幼い頃によく訪れていた崖。
夕焼けが木々を赤く染めている。
しばらく歩いたところで、ウインナーが足を止めた。
「……ここだよ。」
目の前には、深い谷。
崖下からは絶えず風が吹き上がっていた。
ドロップがその景色に息を呑む。
「綺麗……。」
ブリトーは身体全身で風を浴びる。
「ここの風は今までで一番心地いい。」
しかし、レイカだけは静かに崖を見つめていた。
その表情には懐かしさと苦さが混じっている。
ユリが隣へ立つ。
「ここで何があったの?」
レイカは煙草に火をつけ、小さく煙を吐いた。
「……昔話だ。」
「ウインナーに聞いてくれ。」
ウインナーも崖を見つめながら口を開く。
「昔の僕はね。」
「全然喋らなくて、誰とも話さなかった。」
「みんなと遊ぶのも苦手だった。」
「いつもここで風を見てた。」
その隣に、ある日レイカが近寄ってきた。
レイカが先にいるお兄ちゃんなんだけどね。
ぶっきらぼうで無口。
それでも、不思議と気が合った。
二人は少しずつ打ち解けていった。
ある日のこと。
スパム先生が困ったように笑っていた。
「落とし物をしちゃったんだ。」
「探してきてくれるかな?」
二人は森へ入った。
木漏れ日の中を歩き回り、
落とし物を探していた、その時。
突然。
背後から強い衝撃。
「え──?」
「っ!!」
誰かに突き飛ばされた。
足元が崩れる。
二人の身体は、そのまま崖下へ落ちていった。
必死にもがく。
しかし届かない。
その時だった。
『危ないっ!!!』
谷底から風が吹き上がる。
まるで二人を包み込むように。
優しく。
暖かく。
身体がふわりと浮いた。
その瞬間。
『大丈夫?』
ウインナーは初めて風の声を聞いた。
あの日。
二人は風の加護と出会った。
そして。
運命もまた、大きく動き始めたのだった。
「だから、風の声が聞こえるのね。」
「俺はあの時以来、聞こえないがな。」
「突き落としてきた犯人は?」
「それが分からないんだ。」
「不思議ね……。」
「……。」
「レイカ……?」
「なんでもない。行くぞ。」
-崖の底-
「行こう。」
ウインナーが風に頼む。
「みんなを降ろして。」
穏やかで心地よい風が全体を纏い、降りていく。
そして、五人は崖の底へ降り立つ。
その瞬間。
洞窟の奥から無数の光が灯った。
赤い瞳。
黒い身体。
狐のような影が何十体も姿を現す。
「キシャァァァァ!!」
一斉に飛びかかってくる。
ウインナーが構えるより早く、
ドロップが前へ出た。
「任せて!」
左手のブレスレットが輝く。
身体を優雅に回転させる。
まるで舞台で踊るバレリーナのように。
「レインボーパールグラビティ!!」
重力の奔流となって周囲へ広がる。
狐の影たちは次々と押し潰され、
地面へ叩きつけられていく。
轟音。
土煙。
数秒後。
静寂だけが残った。
敵は一体残らず消えていた。
ドロップは振り返り、
少し得意げに笑う。
「ね!」
「やるでしょ、私も!」
ウインナーは驚きながら笑った。
「すごい…。」
ユリも優しく微笑む。
「立派になったわね。」
ドロップは少し照れながら笑った。
「えへへ。」
五人はさらに奥へ歩き始める。
風は強くなり、
空気も冷たくなる。
ブリトーが少し震え出した。
「大丈夫?ブリトー。」
「きっとあいつがいる。苦手なんだ。」
そして。
巨大な空洞へ辿り着いた。
暗闇の奥。
三つの人影が静かに立っている。
その姿だけが、
ぼんやりと浮かび上がっていた。
誰なのか。
敵なのか。
味方なのか。
まだ誰にも分からない。
ただ、不気味な静寂だけが五人を包み込んでいた――。