-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

24 / 90
第二十一章

 

 

 

-霧の招待状-

 

 

 

-霞の使者-

 

 

 

霧がゆっくりと晴れていく。

 

しかし、そこにいたはずの子供たちの姿はなかった。

 

広場には、ただ二人の人影だけが立っていた。

 

一人は、スパム先生。

 

もう一人は、その背後に浮かぶ白い影。

 

まるで幽霊のような姿。

 

その顔を見た瞬間。

 

ブリトーが目を見開いた。

 

 

「ポタージュ……!?」

 

「なにしてるんだ!」

 

 

白い影は、くすくすと笑う。

 

「ふふふ。」

 

「貴様に話す必要はないし、知る必要もない。」

 

「信じなさい!」

 

その声は、どこか狂気を帯びていた。

 

ダイフクーが拳を握る。

 

「子供たちをどこへやった!!」

 

スパム先生は静かに微笑む。

 

「子供たちはこれから幸せになる。」

 

「いいことだろう?ウインナー。」

 

その穏やかな口調に、ウインナーは震える。

 

「……嘘だ。」

 

スパム先生はレイカへ目を向けた。

 

「…おっと。」

 

「厄介者がいるね。」

 

その瞬間。

 

レイカの姿が消える。

 

一歩。

 

いや、一瞬。

 

炎を纏った斬撃がスパム先生を切り裂く。

 

しかし。

 

斬った感触はなかった。

 

霞。

 

ただの虚像。

 

霧となって散っていく。

 

レイカは静かに刀を納めた。

 

「……ちっ。」

 

 

 

-呼び声-

 

 

 

霧の中から、スパム先生の声だけが響く。

 

「探しにおいで。」

 

「ウインナー。」

 

「君の知っている場所だよ。」

 

ウインナーは歯を食いしばる。

 

「どこだ。」

 

「ウインナー。」

 

「レイカ。」

 

「大勢で来ようと思わないことだ。」

 

「子どもたちがどうなってもいいなら別だがね。」

 

 

静寂。

 

 

そして、

 

「後は言わなくても分かるだろう?」

 

「二人とも、いい子だから。」

 

その言葉だけを残し、

 

姿はさらに薄れていく。

 

その横でポタージュも笑った。

 

「ブリトー!」

 

「貴様もメザン様が呼んでいる!」

 

「信じなさい!」

 

ブリトーが叫ぶ。

 

「待て!!」

 

しかし。

 

白い影は霧へ溶け込むように消えていった。

 

ランドには静寂だけが残る。

 

 

 

-風の崖へ-

 

 

 

重苦しい空気が漂っている。

 

沈黙の最中、

 

レイカは静かに歩き始めた。

 

「……行くぞ。」

 

ウインナー、ブリトーも頷く。

 

「うん。」

 

三人がランドを出ようとした、その時だった。

 

「待って。」

 

振り返る。

 

ユリとドロップが立っていた。

 

ドロップは真っ直ぐウインナーを見つめる。

 

「私達も行く。」

 

レイカは短く答える。

 

「駄目だ。」

 

「大人しく待ってろ。」

 

ユリも一歩前へ出る。

 

「嫌。」

 

その一言だけだった。

 

レイカはため息をつく。

 

「…相手は俺たちを指名してる。」

 

「増えれば子供たちが危険になる。」

 

ウインナーも優しく説得する。

 

「危険だからこそ、待っていてほしいんだ。」

 

しかしドロップは首を横に振った。

 

瞳には涙が浮かんでいる。

 

「大切な人が辛いのに黙ってるなんて。」

 

「何が恋人よ。」

 

その言葉にウインナーは黙ってしまう。

 

しばらく沈黙が続く。

 

その空気を破ったのはユリだった。

 

 

「私たちは後ろから付いていく。」

 

「邪魔はしない。」

 

「でも、離れない。」

 

「ドロップは、私が守る。」

 

 

レイカは煙草へ火をつける。

 

煙を吐きながら、諦めた表情で、

 

「……ダメって言ってもだろ。」

 

「ただし、俺から離れるな。」

 

ユリとドロップの表情が少しだけ和らぐ。

 

「うん。」

 

五人は静かに歩き始めた。

 

 

 

「風が、呼んでる。」

 

 

 

向かう先は、

 

ウインナーが初めて風と出会った崖。

 

ランドを後にした五人は、山道を静かに歩いていた。

 

目指す先は、ウインナーが幼い頃によく訪れていた崖。

 

夕焼けが木々を赤く染めている。

 

しばらく歩いたところで、ウインナーが足を止めた。

 

「……ここだよ。」

 

目の前には、深い谷。

 

崖下からは絶えず風が吹き上がっていた。

 

ドロップがその景色に息を呑む。

 

「綺麗……。」

 

ブリトーは身体全身で風を浴びる。

 

「ここの風は今までで一番心地いい。」

 

しかし、レイカだけは静かに崖を見つめていた。

 

その表情には懐かしさと苦さが混じっている。

 

ユリが隣へ立つ。

 

「ここで何があったの?」

 

レイカは煙草に火をつけ、小さく煙を吐いた。

 

「……昔話だ。」

 

「ウインナーに聞いてくれ。」

 

ウインナーも崖を見つめながら口を開く。

 

 

「昔の僕はね。」

 

「全然喋らなくて、誰とも話さなかった。」

 

「みんなと遊ぶのも苦手だった。」

 

「いつもここで風を見てた。」

 

 

その隣に、ある日レイカが近寄ってきた。

 

レイカが先にいるお兄ちゃんなんだけどね。

 

ぶっきらぼうで無口。

 

それでも、不思議と気が合った。

 

二人は少しずつ打ち解けていった。

 

ある日のこと。

 

スパム先生が困ったように笑っていた。

 

 

「落とし物をしちゃったんだ。」

 

「探してきてくれるかな?」

 

 

二人は森へ入った。

 

木漏れ日の中を歩き回り、

 

落とし物を探していた、その時。

 

突然。

 

背後から強い衝撃。

 

 

「え──?」

 

「っ!!」

 

 

誰かに突き飛ばされた。

 

足元が崩れる。

 

二人の身体は、そのまま崖下へ落ちていった。

 

必死にもがく。

 

しかし届かない。

 

その時だった。

 

 

『危ないっ!!!』

 

 

谷底から風が吹き上がる。

 

まるで二人を包み込むように。

 

優しく。

 

暖かく。

 

身体がふわりと浮いた。

 

その瞬間。

 

 

『大丈夫?』

 

 

ウインナーは初めて風の声を聞いた。

 

あの日。

 

二人は風の加護と出会った。

 

そして。

 

運命もまた、大きく動き始めたのだった。

 

 

 

「だから、風の声が聞こえるのね。」

 

「俺はあの時以来、聞こえないがな。」

 

「突き落としてきた犯人は?」

 

「それが分からないんだ。」

 

「不思議ね……。」

 

「……。」

 

「レイカ……?」

 

「なんでもない。行くぞ。」

 

 

 

-崖の底-

 

 

 

「行こう。」

 

ウインナーが風に頼む。

 

「みんなを降ろして。」

 

穏やかで心地よい風が全体を纏い、降りていく。

 

そして、五人は崖の底へ降り立つ。

 

その瞬間。

 

洞窟の奥から無数の光が灯った。

 

赤い瞳。

 

黒い身体。

 

狐のような影が何十体も姿を現す。

 

「キシャァァァァ!!」

 

一斉に飛びかかってくる。

 

ウインナーが構えるより早く、

 

ドロップが前へ出た。

 

「任せて!」

 

左手のブレスレットが輝く。

 

身体を優雅に回転させる。

 

まるで舞台で踊るバレリーナのように。

 

 

「レインボーパールグラビティ!!」

 

 

重力の奔流となって周囲へ広がる。

 

狐の影たちは次々と押し潰され、

 

地面へ叩きつけられていく。

 

轟音。

 

土煙。

 

数秒後。

 

静寂だけが残った。

 

敵は一体残らず消えていた。

 

ドロップは振り返り、

 

少し得意げに笑う。

 

「ね!」

 

「やるでしょ、私も!」

 

ウインナーは驚きながら笑った。

 

「すごい…。」

 

ユリも優しく微笑む。

 

「立派になったわね。」

 

ドロップは少し照れながら笑った。

 

「えへへ。」

 

 

五人はさらに奥へ歩き始める。

 

風は強くなり、

 

空気も冷たくなる。

 

ブリトーが少し震え出した。

 

「大丈夫?ブリトー。」

 

「きっとあいつがいる。苦手なんだ。」

 

そして。

 

巨大な空洞へ辿り着いた。

 

暗闇の奥。

 

三つの人影が静かに立っている。

 

その姿だけが、

 

ぼんやりと浮かび上がっていた。

 

誰なのか。

 

敵なのか。

 

味方なのか。

 

まだ誰にも分からない。

 

ただ、不気味な静寂だけが五人を包み込んでいた――。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。