月夜に誓う想い
-目覚め-
静かな部屋。
窓から差し込む夕陽が、
ゆっくりと部屋を赤く染めていた。
ベッドの上で眠っていたレイカの指先が、
小さく動く。
ダイフクーがそれに気づく。
「……レイカ?」
「……ここは、ハウスか?」
「…ああ!そうだ!」
「おーい!レイカが目を覚ましたぞー!!」
やがて瞼がゆっくり開いた。
「……っ。」
身体を起こそうとした瞬間。
勢いよく誰かが飛び込んできた。
「レイカ!!」
ユリだった。
そのまま強く抱きつく。
「……つっ。」
「流石に痛いぞ。」
苦笑するレイカ。
しかしユリは離れない。
肩を震わせながら呟いた。
「……馬鹿。」
「嫌い。」
「本当に、心配した。」
レイカは静かに頭へ手を置く。
「……お前を置いてはいかない。」
「大丈夫だ。」
少し間を置いて、
「……けど、すまなかった。」
「みんなもすまん。」
「心配かけた。」
その言葉に部屋の空気が和らぐ。
ダイフクーは腕を組み、
「ったく、無茶ばっかしやがって。」
シャーベットも安堵したように息を吐いた。
「君が素直のも珍しいな。」
ブリトーも微笑む。
「…本当に良かった。」
レイカは周囲を見渡した。
「……ウインナーはまだ起きないか。」
ブリトーが首を横に振る。
「あれからだいぶ経つ。」
「呼吸は整ってるけど……。」
ドロップが静かに呟く。
「精神的なダメージもあるから……。」
ダイフクーが立ち上がる。
「とりあえず寝かせてやろう。」
「ゆっくり休んでもらおうぜ。」
ラクガンも優しく笑う。
「傷が癒えるまで、ゆっくりしていってください。」
「ここは皆さんの家でもありますから。」
誰もが静かに頷いた。
-静かな夜-
夜。
みんな仲良しランドは静かな眠りに包まれていた。
コクトーとカクザトーが子供たちを見守る。
安心した寝息だけが部屋に響いている。
一方、食堂では、
レイカ、ユリ、ブリトー、ダイフクー、
シャーベット、ラクガンが集まっていた。
重い空気の中、
ラクガンがぽつりと呟く。
「……スパム先生が。」
レイカは煙草へ火をつける。
「あいつは昔からそういう事をしていた。」
静かな声だった。
「ウインナーが起きて、大丈夫そうなら全部話す。」
「多分、一番きついのはあいつだ。」
ラクガンは俯く。
「そういえば、仕事を教えていただいてから。」
「あまり帰ってこなくなっていた。」
「勝手に忙しいんだと思っていたが……。」
ダイフクーが拳を握る。
「子供を売るなんて最低な野郎だ。」
ユリも小さく呟く。
「……酷い。」
ブリトーも歯を食いしばる。
「そこにメザンとポタージュまで。」
「くそっ……。」
「本当にすまない。」
レイカは首を横に振る。
「……ブリトーは悪くない。」
シャーベットも静かに言う。
「あいつらは世界征服を狙っているのか。」
「いったい何のために…。」
ラクガンは静かに空を見た。
「……ウインナー。」
「早く目を覚ましてくれ。」
静かな夜だけが流れていった。
-待ち続ける人-
月明かりが部屋を照らす。
眠り続けるウインナーの隣に、
ドロップは座っていた。
「……目を覚ましたら。」
「なんて言えばいいのかな。」
「おはよう?」
「お疲れ様?」
「大丈夫?」
返事はない。
手を優しく握る。
「子供たちは無事よ。」
「安心して。」
「だから…。」
涙が落ちた。
「悩みも。」
「苦しさも。」
「深い傷も。」
「全部、一緒に抱えるから。」
「お願い。」
「目を覚まして……。」
コンコン。
扉が鳴る。
「ドロップ。」
ユリだった。
「何か食べないと、あなたも倒れるわ。」
ドロップは首を横に振る。
「分かってる。」
「でも、離れたくなくて。」
ユリは優しく抱き寄せた。
「ウインナーなら大丈夫。」
「強い子だもの。」
ドロップは涙を流す。
「……うん。」
「でも……!」
ユリは静かに背中を撫でる。
「不安だよね。」
「大丈夫。」
「……大丈夫だからね。」
ドロップは小さく頷いた。
-風の目覚め-
翌朝。
暖かな光が差し込む。
窓の隙間から優しい風が吹き抜けた。
「……ここ…は?」
「っ……いてて…。」
ウインナーが目を覚ました。
「ん?」
「ドロップ?」
目が合う。
その瞬間、
ドロップは勢いよく抱きついた。
「うわっ!!……あいたたたっ……。」
「起きたっ……!」
「やっと起きたっ……!」
泣き崩れる。
「本当に良かった……。」
「生きてた……。」
ウインナーは優しく頭を撫でる。
「……ごめんね。」
「心配かけたね。」
⸻
皆が部屋へ集まってくる。
レイカが静かに尋ねた。
「……大丈夫か。」
「……大丈夫だよ。」
そう笑うが、
その笑顔に元気はなかった。
ドロップだけが、その違和感に気付いていた。
レイカは続ける。
「後でみんなに話がある。」
「スパムのことだ。」
「ウインナーも聞いてくれ。」
「……うん。」
静かに頷いた。
-隠されていた真実-
食堂。
レイカが静かに語り始める。
「……スパムは元々、人身売買をしていた。」
誰も言葉を発せない。
「その商品として買われたのが俺だ。」
「不老不死が珍しかったんだろう。」
人を知らず、
ただ生きていた。
そこへウインナーが来た。
そして子供たちは入れ替わっていった。
レイカは違和感を覚えていた。
落とし物を探してと言われた日。
ウインナーが飛び出していき、
心配でついて行くことにした。
そして崖。
落とされた瞬間に見えた、
スパムのブローチ。
風が二人を救った。
問い詰めた時、
スパムは言った。
「黙っててくれないか。」
「ウインナーのためだ。」
「君は長年、生きてきて知恵はあるだろうけど。」
「でも何も出来ない。」
「僕をどうにかしたら、この子たちはどうなる?」
「話しても誰も信じない。」
レイカは静かに目を閉じる。
「その頃の俺は誰も信じられなかった。」
「だから何も言えなかった。」
「そして里親に無理やり入れられたが逃げた。」
「里親も人身売買の人間だったんだ。」
ウインナーは静かに呟く。
「……そっか。」
「僕のためだったんだ……。」
ユリがため息をつく。
「私には話してくれても良かったのに。」
「すまん……。」
ダイフクーが手を挙げる。
「……普通に流してたけど、不老不死なのか?」
レイカは頭を掻く。
「あー……。」
ユリは笑う。
「…ドロップには話してあるから。」
「お願いしてもいい?ドロップ。」
「え!?」
ドロップが慌てて説明する。
シャーベットは腕を組む。
「興味深い。」
ブリトーは髪を触る。
「僕も成長してるのかな。」
ウインナーが笑う。
「髪は伸びてるからね。」
ラクガンも笑う。
「気になるなら切りますよ。」
「…元通りで頼む。」
「誰に会っても僕って分かるように。」
ラクガンは提案する。
「良かったら、ゆっくりしていきませんか?」
「特訓施設もあります。」
シャーベットも頷く。
「休息も必要だ。」
ウインナーは静かに微笑んだ。
「……言葉に甘えるよ。」
その瞬間。
「わああああ!!」
子供たちが飛び込んできた。
「ウインナーお兄ちゃん!!」
「大丈夫!?」
「心配したよ!!」
一気に囲まれる。
ダイフクーが笑う。
「今日はもう話にならねえ!」
「ゆっくり休んで鍛えようぜ!」
笑い声が広がった。
-月夜に誓う想い-
夜。
岩の上で月を眺めるウインナー。
そこへドロップがやって来た。
「ウインナー。」
「もう動けるの?身体は大丈夫?」
「まだ少し痛むけど…。これくらいならね。」
「無理しないでね?」
「でもこんなところで…。」
「……私の真似してるの?」
ウインナーは苦笑する。
「……どうすればいいんだろうって。」
静かな夜風が吹く。
「……先生の言葉も。」
「愛情も。」
「全部嘘だったのかなって。」
「……でも子供たちがいる。」
「今、子供たちには僕しかいない。」
「だから僕が守らなきゃ。」
「弱音なんて吐いてられない。」
「ランドも建ったばっかりだし。」
「子供たちを不安にさせるわけにはいかない。」
「トラウマになっている子もいる。」
「いつ、また攫われるかわからない。」
「そんな時に悩んでられないんだ。」
「僕が──」
パシッ。
ドロップが頬を軽く叩いた。
「…いい加減にしなさい!」
「今、一番しんどいのはあなた!」
「そんな顔してまで自分を隠さないで!」
「その気持ちから目を逸らさないで!」
そして抱きしめる。
「私だけでいいから抱えさせて。」
「私にだけは弱くていい。」
「我慢しないで。」
その言葉で、
「……ごめんっ。」
ウインナーは声を殺して泣き崩れた。
長い時間泣き続け、
ようやく涙が止まる。
「……ありがとう。」
「お互い様よ。」
「私が苦しい時も助けてくれたでしょ?」
ウインナーは笑う。
「......僕の恋人はかっこいいね。」
「ふふ……でしょ!」
目と目が合う。
少しの間の後、
「ウインナー、目を閉じて。」
二人は月明かりの下で、
静かに口づけを交わした。
「愛してる。そばにいるからね。」
「……僕もだよ。」
-見守る二人-
少し離れた木陰。
レイカとユリは二人の背中を見つめていた。
レイカは煙草へ火をつけ、小さく息を吐く。
「……心配していたが、余計なお世話だったか。」
ユリは優しく笑う。
「ね?」
「ドロップに任せて大丈夫って言ったでしょ。」
レイカは肩をすくめた。
「まあな。」
「しかし、不老不死に頼ってはいけないな。」
「……今回は本当に不覚だった。」
ユリは少しだけからかうように笑う。
「ツインブラッドの名が廃るわね。」
レイカは遠くを見つめた。
「……懐かしい。」
「あの頃には戻らないようにしないとな。」
ユリも静かに頷く。
「そうね。」
レイカはゆっくりと煙を吐く。
「お互いに決めたことだからな。」
ユリは横顔を見つめ、小さく笑った。
「……にしても、意外と人情あるのね。」
レイカは鼻で笑う。
「……ふっ。」
「みんなは怖いって言うけど。」
「やっぱり優しい。」
「うるさい。」
そう言ってレイカはそっとユリへ顔を寄せる。
静かな月夜。
短く唇を重ねた。
離れたあと、レイカは少し照れくさそうに呟く。
「これ以上喋ると口を塞ぐぞ。」
ユリは微笑んだ。
「……もう塞がった。」
レイカは小さく笑い、立ち上がる。
「……行こう。」
「今日は冷える。」
「ええ。」
二人は肩を並べて歩き出す。
月明かりに照らされたその背中は、
長い時を共に歩んできた者だけが持つ、
穏やかさを宿していた。
静かな夜は、それぞれの想いを包み込みながら、
更けていくのだった――。