-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第二十四章

 

 

 

月夜に誓う想い

 

 

 

-目覚め-

 

 

 

静かな部屋。

 

窓から差し込む夕陽が、

 

ゆっくりと部屋を赤く染めていた。

 

ベッドの上で眠っていたレイカの指先が、

 

小さく動く。

 

ダイフクーがそれに気づく。

 

「……レイカ?」

 

「……ここは、ハウスか?」

 

「…ああ!そうだ!」

 

「おーい!レイカが目を覚ましたぞー!!」

 

 

やがて瞼がゆっくり開いた。

 

「……っ。」

 

身体を起こそうとした瞬間。

 

勢いよく誰かが飛び込んできた。

 

「レイカ!!」

 

ユリだった。

 

そのまま強く抱きつく。

 

「……つっ。」

 

「流石に痛いぞ。」

 

苦笑するレイカ。

 

しかしユリは離れない。

 

肩を震わせながら呟いた。

 

「……馬鹿。」

 

「嫌い。」

 

「本当に、心配した。」

 

レイカは静かに頭へ手を置く。

 

「……お前を置いてはいかない。」

 

「大丈夫だ。」

 

少し間を置いて、

 

「……けど、すまなかった。」

 

「みんなもすまん。」

 

「心配かけた。」

 

その言葉に部屋の空気が和らぐ。

 

ダイフクーは腕を組み、

 

「ったく、無茶ばっかしやがって。」

 

シャーベットも安堵したように息を吐いた。

 

「君が素直のも珍しいな。」

 

ブリトーも微笑む。

 

「…本当に良かった。」

 

レイカは周囲を見渡した。

 

「……ウインナーはまだ起きないか。」

 

ブリトーが首を横に振る。

 

「あれからだいぶ経つ。」

 

「呼吸は整ってるけど……。」

 

ドロップが静かに呟く。

 

「精神的なダメージもあるから……。」

 

ダイフクーが立ち上がる。

 

「とりあえず寝かせてやろう。」

 

「ゆっくり休んでもらおうぜ。」

 

ラクガンも優しく笑う。

 

「傷が癒えるまで、ゆっくりしていってください。」

 

「ここは皆さんの家でもありますから。」

 

誰もが静かに頷いた。

 

 

 

-静かな夜-

 

 

 

夜。

 

みんな仲良しランドは静かな眠りに包まれていた。

 

コクトーとカクザトーが子供たちを見守る。

 

安心した寝息だけが部屋に響いている。

 

 

一方、食堂では、

 

レイカ、ユリ、ブリトー、ダイフクー、

 

シャーベット、ラクガンが集まっていた。

 

重い空気の中、

 

ラクガンがぽつりと呟く。

 

「……スパム先生が。」

 

レイカは煙草へ火をつける。

 

「あいつは昔からそういう事をしていた。」

 

静かな声だった。

 

「ウインナーが起きて、大丈夫そうなら全部話す。」

 

「多分、一番きついのはあいつだ。」

 

ラクガンは俯く。

 

「そういえば、仕事を教えていただいてから。」

 

「あまり帰ってこなくなっていた。」

 

「勝手に忙しいんだと思っていたが……。」

 

ダイフクーが拳を握る。

 

「子供を売るなんて最低な野郎だ。」

 

ユリも小さく呟く。

 

「……酷い。」

 

ブリトーも歯を食いしばる。

 

「そこにメザンとポタージュまで。」

 

「くそっ……。」

 

「本当にすまない。」

 

レイカは首を横に振る。

 

「……ブリトーは悪くない。」

 

シャーベットも静かに言う。

 

「あいつらは世界征服を狙っているのか。」

 

「いったい何のために…。」

 

ラクガンは静かに空を見た。

 

「……ウインナー。」

 

「早く目を覚ましてくれ。」

 

静かな夜だけが流れていった。

 

 

 

-待ち続ける人-

 

 

 

月明かりが部屋を照らす。

 

眠り続けるウインナーの隣に、

 

ドロップは座っていた。

 

「……目を覚ましたら。」

 

「なんて言えばいいのかな。」

 

「おはよう?」

 

「お疲れ様?」

 

「大丈夫?」

 

返事はない。

 

手を優しく握る。

 

「子供たちは無事よ。」

 

「安心して。」

 

「だから…。」

 

涙が落ちた。

 

「悩みも。」

 

「苦しさも。」

 

「深い傷も。」

 

「全部、一緒に抱えるから。」

 

「お願い。」

 

「目を覚まして……。」

 

 

コンコン。

 

扉が鳴る。

 

 

「ドロップ。」

 

 

ユリだった。

 

「何か食べないと、あなたも倒れるわ。」

 

ドロップは首を横に振る。

 

「分かってる。」

 

「でも、離れたくなくて。」

 

ユリは優しく抱き寄せた。

 

「ウインナーなら大丈夫。」

 

「強い子だもの。」

 

ドロップは涙を流す。

 

「……うん。」

 

「でも……!」

 

ユリは静かに背中を撫でる。

 

「不安だよね。」

 

「大丈夫。」

 

「……大丈夫だからね。」

 

ドロップは小さく頷いた。

 

 

 

-風の目覚め-

 

 

 

翌朝。

 

暖かな光が差し込む。

 

窓の隙間から優しい風が吹き抜けた。

 

 

「……ここ…は?」

 

「っ……いてて…。」

 

ウインナーが目を覚ました。

 

「ん?」

 

「ドロップ?」

 

目が合う。

 

その瞬間、

 

ドロップは勢いよく抱きついた。

 

「うわっ!!……あいたたたっ……。」

 

 

「起きたっ……!」

 

「やっと起きたっ……!」

 

 

泣き崩れる。

 

 

「本当に良かった……。」

 

「生きてた……。」

 

 

ウインナーは優しく頭を撫でる。

 

 

「……ごめんね。」

 

「心配かけたね。」

 

 

 

 

皆が部屋へ集まってくる。

 

レイカが静かに尋ねた。

 

「……大丈夫か。」

 

「……大丈夫だよ。」

 

そう笑うが、

 

その笑顔に元気はなかった。

 

ドロップだけが、その違和感に気付いていた。

 

レイカは続ける。

 

「後でみんなに話がある。」

 

「スパムのことだ。」

 

「ウインナーも聞いてくれ。」

 

「……うん。」

 

静かに頷いた。

 

 

 

-隠されていた真実-

 

 

 

食堂。

 

レイカが静かに語り始める。

 

 

「……スパムは元々、人身売買をしていた。」

 

 

誰も言葉を発せない。

 

 

「その商品として買われたのが俺だ。」

 

「不老不死が珍しかったんだろう。」

 

 

人を知らず、

 

ただ生きていた。

 

そこへウインナーが来た。

 

そして子供たちは入れ替わっていった。

 

レイカは違和感を覚えていた。

 

落とし物を探してと言われた日。

 

ウインナーが飛び出していき、

 

心配でついて行くことにした。

 

そして崖。

 

落とされた瞬間に見えた、

 

スパムのブローチ。

 

風が二人を救った。

 

問い詰めた時、

 

スパムは言った。

 

「黙っててくれないか。」

 

「ウインナーのためだ。」

 

「君は長年、生きてきて知恵はあるだろうけど。」

 

「でも何も出来ない。」

 

「僕をどうにかしたら、この子たちはどうなる?」

 

「話しても誰も信じない。」

 

レイカは静かに目を閉じる。

 

「その頃の俺は誰も信じられなかった。」

 

「だから何も言えなかった。」

 

「そして里親に無理やり入れられたが逃げた。」

 

「里親も人身売買の人間だったんだ。」

 

 

ウインナーは静かに呟く。

 

「……そっか。」

 

「僕のためだったんだ……。」

 

ユリがため息をつく。

 

「私には話してくれても良かったのに。」

 

「すまん……。」

 

ダイフクーが手を挙げる。

 

「……普通に流してたけど、不老不死なのか?」

 

レイカは頭を掻く。

 

「あー……。」

 

ユリは笑う。

 

「…ドロップには話してあるから。」

 

「お願いしてもいい?ドロップ。」

 

「え!?」

 

ドロップが慌てて説明する。

 

シャーベットは腕を組む。

 

「興味深い。」

 

ブリトーは髪を触る。

 

「僕も成長してるのかな。」

 

ウインナーが笑う。

 

「髪は伸びてるからね。」

 

ラクガンも笑う。

 

「気になるなら切りますよ。」

 

「…元通りで頼む。」

 

「誰に会っても僕って分かるように。」

 

 

 

ラクガンは提案する。

 

「良かったら、ゆっくりしていきませんか?」

 

「特訓施設もあります。」

 

シャーベットも頷く。

 

「休息も必要だ。」

 

ウインナーは静かに微笑んだ。

 

「……言葉に甘えるよ。」

 

 

その瞬間。

 

 

「わああああ!!」

 

子供たちが飛び込んできた。

 

「ウインナーお兄ちゃん!!」

 

「大丈夫!?」

 

「心配したよ!!」

 

一気に囲まれる。

 

ダイフクーが笑う。

 

「今日はもう話にならねえ!」

 

「ゆっくり休んで鍛えようぜ!」

 

笑い声が広がった。

 

 

 

-月夜に誓う想い-

 

 

 

夜。

 

岩の上で月を眺めるウインナー。

 

そこへドロップがやって来た。

 

「ウインナー。」

 

「もう動けるの?身体は大丈夫?」

 

「まだ少し痛むけど…。これくらいならね。」

 

「無理しないでね?」

 

「でもこんなところで…。」

 

「……私の真似してるの?」

 

ウインナーは苦笑する。

 

「……どうすればいいんだろうって。」

 

 

静かな夜風が吹く。

 

 

「……先生の言葉も。」

 

「愛情も。」

 

「全部嘘だったのかなって。」

 

「……でも子供たちがいる。」

 

「今、子供たちには僕しかいない。」

 

「だから僕が守らなきゃ。」

 

「弱音なんて吐いてられない。」

 

「ランドも建ったばっかりだし。」

 

「子供たちを不安にさせるわけにはいかない。」

 

「トラウマになっている子もいる。」

 

「いつ、また攫われるかわからない。」

 

「そんな時に悩んでられないんだ。」

 

「僕が──」

 

パシッ。

 

ドロップが頬を軽く叩いた。

 

「…いい加減にしなさい!」

 

「今、一番しんどいのはあなた!」

 

「そんな顔してまで自分を隠さないで!」

 

「その気持ちから目を逸らさないで!」

 

そして抱きしめる。

 

「私だけでいいから抱えさせて。」

 

「私にだけは弱くていい。」

 

「我慢しないで。」

 

その言葉で、

 

「……ごめんっ。」

 

ウインナーは声を殺して泣き崩れた。

 

長い時間泣き続け、

 

ようやく涙が止まる。

 

 

 

「……ありがとう。」

 

「お互い様よ。」

 

「私が苦しい時も助けてくれたでしょ?」

 

ウインナーは笑う。

 

「......僕の恋人はかっこいいね。」

 

「ふふ……でしょ!」

 

目と目が合う。

 

少しの間の後、

 

「ウインナー、目を閉じて。」

 

 

二人は月明かりの下で、

 

静かに口づけを交わした。

 

 

「愛してる。そばにいるからね。」

 

「……僕もだよ。」

 

 

 

-見守る二人-

 

 

 

少し離れた木陰。

 

レイカとユリは二人の背中を見つめていた。

 

レイカは煙草へ火をつけ、小さく息を吐く。

 

「……心配していたが、余計なお世話だったか。」

 

ユリは優しく笑う。

 

「ね?」

 

「ドロップに任せて大丈夫って言ったでしょ。」

 

レイカは肩をすくめた。

 

「まあな。」

 

「しかし、不老不死に頼ってはいけないな。」

 

「……今回は本当に不覚だった。」

 

ユリは少しだけからかうように笑う。

 

「ツインブラッドの名が廃るわね。」

 

レイカは遠くを見つめた。

 

「……懐かしい。」

 

「あの頃には戻らないようにしないとな。」

 

ユリも静かに頷く。

 

「そうね。」

 

レイカはゆっくりと煙を吐く。

 

「お互いに決めたことだからな。」

 

ユリは横顔を見つめ、小さく笑った。

 

「……にしても、意外と人情あるのね。」

 

レイカは鼻で笑う。

 

「……ふっ。」

 

「みんなは怖いって言うけど。」

 

「やっぱり優しい。」

 

「うるさい。」

 

 

そう言ってレイカはそっとユリへ顔を寄せる。

 

静かな月夜。

 

短く唇を重ねた。

 

離れたあと、レイカは少し照れくさそうに呟く。

 

 

「これ以上喋ると口を塞ぐぞ。」

 

ユリは微笑んだ。

 

「……もう塞がった。」

 

レイカは小さく笑い、立ち上がる。

 

「……行こう。」

 

「今日は冷える。」

 

「ええ。」

 

 

 

二人は肩を並べて歩き出す。

 

月明かりに照らされたその背中は、

 

長い時を共に歩んできた者だけが持つ、

 

穏やかさを宿していた。

 

静かな夜は、それぞれの想いを包み込みながら、

 

更けていくのだった――。

 

 

 

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