-ツインブラッド-
-影の来訪-
夕暮れ。
ハウスへ戻ろうとしていたレイカとユリ。
その帰り道だった。
ふわり、と黒い霞が漂う。
煙のように集まり、一つの人影を形作る。
「……。」
レイカの目が細くなる。
その姿を見た瞬間、静かに刀へ手を添えた。
「……お前、何しに来た。」
影は薄く笑う。
スパムだった。
だが身体は霞のように揺らいでいる。
実体ではない。
「ふふ。」
「レイカ。」
「君は過去を隠したまま、みんなといるのかい?」
レイカは煙草を取り出すこともなく答える。
「……まさか一人で再戦というわけではないだろう?」
「君も意外と冷静だね。」
スパムは肩をすくめた。
「でも、後ろの二人は驚いているよ。」
レイカとユリが振り返る。
そこには、
ウインナーとドロップが立っていた。
ウインナーは困惑した表情で影を見る。
「スパム……先生?」
「影だけ……?」
スパムは微笑む。
「ウインナー。」
「君はレイカの何を知って、一緒にいるんだい?」
ユリは前へ出る。
「……黙って。」
右手を掲げる。
冷気が広がり、
影を氷が包み込んだ。
しかし、
凍った影から声だけが響く。
「レイカはね。」
「そこの雪女さんと殺戮を繰り返していたんだよ。」
空気が止まった。
ドロップが震える声で呟く。
「ユリさんまで……?」
「どういうことなの……?」
レイカは何も言わない。
ユリも俯いたままだった。
スパムだけが笑う。
「古代の力は不思議だね。」
「昔を辿ると君たちの話が出てきた。」
「ツインブラッド。」
「二人が歩けば血が滴る。」
「そんな呼び名だったそうじゃないか。」
レイカは静かに睨む。
「……なんでお前がそれを。」
スパムは答えない。
ただ笑うだけだった。
「君たちをを掻き乱しに来た。」
「頭脳戦ってところだよ。」
「……ポタージュが張り切っていてね。」
「炎の解除が終わったらレイカを潰すと。」
「まあ、君の炎は簡単に消えない。」
「数ヶ月くらいじゃないかな。」
「逃げるなら今のうちだね。」
ウインナーは前へ出た。
「先生……。」
「どうしてそんなことまで話すんですか。」
「何かあるから、そんな情報を──」
「ウインナー。」
スパムが静かに遮る。
「黙ろうか。」
その声には冷たさしかなかった。
「私は私のためだけだよ。」
「……話しすぎたね。」
「また会う日まで。」
影は風に溶け、
跡形もなく消え去った。
その場には、
重苦しい沈黙だけが残った。
-聞かせて-
誰も言葉を発せない。
長い沈黙。
その空気を破ったのは、
ウインナーだった。
パシッ。
自分の頬を強く叩く。
レイカが驚いて顔を上げた。
「……!」
ウインナーは、いてて…と涙を堪えながら笑う。
「大丈夫。」
「話を聞かせて。」
ドロップも勢いよく自分の頬を叩く。
「……よしっ!」
「私も!」
「ね、ユリさん?」
ユリは驚き、
そして少しだけ目を潤ませた。
「……っ。」
「ありがとう。」
レイカは困ったように頭を掻く。
「……長いぞ。」
「大丈夫か。」
ウインナーは静かに頷く。
「大丈夫。」
「あっちの岩に座ろうか。」
四人は並んで腰を下ろした。
夕陽が静かに差し込んでいる。
レイカは遠くを見つめ、
ゆっくり口を開いた。
「俺は実の父親にな。」
「炎の加護の神を研究で混合された身体なんだ。」
「目が覚めて気がついた時には…。」
「もう周りは焼け野原だった。」
「研究員たちはそのまま燃えてしまったらしい。」
「恐らく父親も。」
「その頃はブリトーくらいの背丈だったな。」
「何も分からず彷徨っていた。」
「炎も制御できず。」
「当時、世話になった村まで灰に変えた。」
「その頃には化け物として有名だった。」
「ハンターにも追われた。」
「そいつは、古代武器を持っていてな。」
「俺は逃げるしかなかった。」
「ボロボロだった。」
「その時だ。」
「ユリに出会った。」
ユリも静かに続ける。
「私も未熟だった。」
「足元を凍らせて逃げるだけで精一杯。」
「でも。」
「あの日が全部の始まりだった。」
-回想-
傷だらけの少年。
黒髪のレイカ。
地面へ倒れている。
その前へ、
白銀の少女が立った。
ユリだった。
「何故助ける。」
「死んでも生きても変わらない。」
ユリは静かに笑う。
「……私もよ。」
レイカは目を丸くした。
「え?」
「故郷を失って私も一人。」
「生きてても楽しくない。」
「でも。」
「勝手に身体が動いてあなたを助けた。」
「……何か意味があると思わない?」
レイカは首を振る。
「……わからない。」
その瞬間。
草むらが揺れた。
「いたぞ!!」
巨大な斧を持った男。
化け物ハンターだった。
「黒髪のガキからだ!!」
「死ねぇ!!」
ユリは氷を放つ。
しかし、
一瞬で切り裂かれた。
「危ない!」
ザシュッ。
鮮血が舞う。
ユリがレイカを庇っていた。
レイカは呆然とする。
「……は?」
「お前……?」
ハンターは再び斧を振り上げる。
「邪魔するなぁ!!」
その瞬間。
レイカの感情が弾けた。
「やめろおおおおお!!!!」
轟音。
赤い炎が世界を飲み込む。
次の瞬間。
ハンターは跡形もなく消えていた。
静寂。
ユリだけが笑う。
「……すごい。」
「綺麗ね。」
レイカは息を切らす。
「はぁ……はぁ……。」
「ん?」
「傷が。」
ユリは自分の腕を見る。
傷は消えていた。
「そう。」
「私、多分不老不死なの。」
「あと。」
「あなたもでしょ?」
レイカは苦笑した。
「……わかるもんなんだな。」
ユリは小さく笑う。
「あなたも私も。」
「死にたくても死ねない。」
「生き地獄。」
「だったら。」
「一人より二人がいいじゃない?」
レイカは目を閉じる。
「……そんな風に言われたら。」
「断れない。」
ユリは手を差し出した。
「私はユリ。」
「あなたは?」
「……レイカ。」
「末永くよろしくね?」
「……おう。」
二人は初めて笑った。
-血塗られた旅-
レイカは静かに話を続ける。
「そこからの旅は苦しいものばかりだった。」
「力が制御できるようになるまでは。」
「どこへ行っても化け物扱い。」
「怪物を倒しても。」
「最後は俺たちへ武器を向けられた。」
「感情が爆発して。」
「炎が村を焼き払ったこともある。」
ユリも苦笑する。
「私の力じゃ止められなかった。」
「声をかけ続けて。」
「やっと止まる。」
「その繰り返し。」
「私も燃やされそうになったしね。」
「怖かった。」
レイカは肩をすくめる。
「その頃についた通り名が。」
「ツインブラッド。」
「二人がいる場所には血が滴る。」
「そんな意味らしい。」
「恥ずかしい話だ。」
「感情なんて、とっくに死んでた。」
ユリは続ける。
「このままじゃ駄目。」
「そう思って。」
「一度別々に旅をしたの。」
「どうしたいか考えようって。」
「何十年後でも。」
「最初に出会った場所で待ち合わせ。」
レイカは静かに笑う。
「偶然。」
「同じ日に戻った。」
「そこからまた旅を始めた。」
「その前にな。」
「数百人のハンターに囲まれていた時。」
「スパムに拾われた。」
「だから最初から信用なんてしてない。」
「いつ抜け出すか考えてた。」
「その時。」
「ウインナー。」
「お前に出会った。」
「人といる心地良さを知った。」
「だから。」
「逃げた後は人と向き合う旅をした。」
ユリは微笑む。
「……結果。」
「無愛想だけど優しい人の完成。」
レイカは即座に返す。
「無愛想は余計だ。」
ユリは笑った。
「私は私で旅をして。」
「また待ち合わせ場所へ向かった。」
「そしたら。」
「同じタイミングでレイカが来た。」
「そこから今までずっと一緒。」
「そんな感じかな。」
レイカ達が話し終え、
二人を見る。
そして思わず苦笑した。
「……って、おいおい。」
ウインナーとドロップは、
涙を止めることができなかった。
ウインナーは震える声で言う。
「絶対。」
「絶対しんどかった。」
ドロップも涙を拭いながら頷く。
「苦しかったよね。」
「生きてて。」
「出会えて良かった。」
ウインナーはレイカを真っ直ぐ見る。
「怖くなんかない。」
「レイカは。」
「昔から、とっても優しい人だ。」
ユリも静かに笑う。
レイカは照れ隠しのように空を見上げた。
何百年ぶりだろうか。
こんなにも温かい言葉を向けられたのは。
夕暮れの風が四人の間を静かに通り抜ける。