-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

29 / 90
第二十六章

 

 

 

-ツインブラッド-

 

 

 

-影の来訪-

 

 

 

夕暮れ。

 

ハウスへ戻ろうとしていたレイカとユリ。

 

その帰り道だった。

 

ふわり、と黒い霞が漂う。

 

煙のように集まり、一つの人影を形作る。

 

「……。」

 

レイカの目が細くなる。

 

その姿を見た瞬間、静かに刀へ手を添えた。

 

「……お前、何しに来た。」

 

影は薄く笑う。

 

スパムだった。

 

だが身体は霞のように揺らいでいる。

 

実体ではない。

 

「ふふ。」

 

「レイカ。」

 

「君は過去を隠したまま、みんなといるのかい?」

 

レイカは煙草を取り出すこともなく答える。

 

「……まさか一人で再戦というわけではないだろう?」

 

「君も意外と冷静だね。」

 

スパムは肩をすくめた。

 

「でも、後ろの二人は驚いているよ。」

 

レイカとユリが振り返る。

 

そこには、

 

ウインナーとドロップが立っていた。

 

ウインナーは困惑した表情で影を見る。

 

「スパム……先生?」

 

「影だけ……?」

 

スパムは微笑む。

 

「ウインナー。」

 

「君はレイカの何を知って、一緒にいるんだい?」

 

ユリは前へ出る。

 

「……黙って。」

 

右手を掲げる。

 

冷気が広がり、

 

影を氷が包み込んだ。

 

しかし、

 

凍った影から声だけが響く。

 

 

「レイカはね。」

 

「そこの雪女さんと殺戮を繰り返していたんだよ。」

 

 

空気が止まった。

 

ドロップが震える声で呟く。

 

「ユリさんまで……?」

 

「どういうことなの……?」

 

レイカは何も言わない。

 

ユリも俯いたままだった。

 

スパムだけが笑う。

 

 

「古代の力は不思議だね。」

 

「昔を辿ると君たちの話が出てきた。」

 

「ツインブラッド。」

 

「二人が歩けば血が滴る。」

 

「そんな呼び名だったそうじゃないか。」

 

 

レイカは静かに睨む。

 

「……なんでお前がそれを。」

 

スパムは答えない。

 

ただ笑うだけだった。

 

 

「君たちをを掻き乱しに来た。」

 

「頭脳戦ってところだよ。」

 

 

 

「……ポタージュが張り切っていてね。」

 

「炎の解除が終わったらレイカを潰すと。」

 

「まあ、君の炎は簡単に消えない。」

 

「数ヶ月くらいじゃないかな。」

 

「逃げるなら今のうちだね。」

 

 

 

ウインナーは前へ出た。

 

「先生……。」

 

「どうしてそんなことまで話すんですか。」

 

「何かあるから、そんな情報を──」

 

「ウインナー。」

 

スパムが静かに遮る。

 

「黙ろうか。」

 

その声には冷たさしかなかった。

 

「私は私のためだけだよ。」

 

「……話しすぎたね。」

 

「また会う日まで。」

 

影は風に溶け、

 

跡形もなく消え去った。

 

その場には、

 

重苦しい沈黙だけが残った。

 

 

 

-聞かせて-

 

 

 

誰も言葉を発せない。

 

長い沈黙。

 

その空気を破ったのは、

 

ウインナーだった。

 

 

パシッ。

 

 

自分の頬を強く叩く。

 

レイカが驚いて顔を上げた。

 

「……!」

 

ウインナーは、いてて…と涙を堪えながら笑う。

 

「大丈夫。」

 

「話を聞かせて。」

 

ドロップも勢いよく自分の頬を叩く。

 

「……よしっ!」

 

「私も!」

 

「ね、ユリさん?」

 

ユリは驚き、

 

そして少しだけ目を潤ませた。

 

「……っ。」

 

「ありがとう。」

 

レイカは困ったように頭を掻く。

 

「……長いぞ。」

 

「大丈夫か。」

 

ウインナーは静かに頷く。

 

「大丈夫。」

 

「あっちの岩に座ろうか。」

 

四人は並んで腰を下ろした。

 

夕陽が静かに差し込んでいる。

 

レイカは遠くを見つめ、

 

ゆっくり口を開いた。

 

 

 

 

「俺は実の父親にな。」

 

「炎の加護の神を研究で混合された身体なんだ。」

 

「目が覚めて気がついた時には…。」

 

「もう周りは焼け野原だった。」

 

「研究員たちはそのまま燃えてしまったらしい。」

 

「恐らく父親も。」

 

「その頃はブリトーくらいの背丈だったな。」

 

「何も分からず彷徨っていた。」

 

「炎も制御できず。」

 

「当時、世話になった村まで灰に変えた。」

 

「その頃には化け物として有名だった。」

 

「ハンターにも追われた。」

 

「そいつは、古代武器を持っていてな。」

 

「俺は逃げるしかなかった。」

 

「ボロボロだった。」

 

「その時だ。」

 

「ユリに出会った。」

 

ユリも静かに続ける。

 

 

「私も未熟だった。」

 

「足元を凍らせて逃げるだけで精一杯。」

 

「でも。」

 

「あの日が全部の始まりだった。」

 

 

 

-回想-

 

 

 

傷だらけの少年。

 

黒髪のレイカ。

 

地面へ倒れている。

 

その前へ、

 

白銀の少女が立った。

 

ユリだった。

 

 

「何故助ける。」

 

「死んでも生きても変わらない。」

 

 

ユリは静かに笑う。

 

 

「……私もよ。」

 

 

レイカは目を丸くした。

 

「え?」

 

「故郷を失って私も一人。」

 

「生きてても楽しくない。」

 

「でも。」

 

「勝手に身体が動いてあなたを助けた。」

 

「……何か意味があると思わない?」

 

レイカは首を振る。

 

「……わからない。」

 

その瞬間。

 

草むらが揺れた。

 

「いたぞ!!」

 

巨大な斧を持った男。

 

化け物ハンターだった。

 

「黒髪のガキからだ!!」

 

「死ねぇ!!」

 

ユリは氷を放つ。

 

しかし、

 

一瞬で切り裂かれた。

 

 

「危ない!」

 

 

ザシュッ。

 

 

鮮血が舞う。

 

ユリがレイカを庇っていた。

 

レイカは呆然とする。

 

「……は?」

 

「お前……?」

 

ハンターは再び斧を振り上げる。

 

「邪魔するなぁ!!」

 

その瞬間。

 

レイカの感情が弾けた。

 

「やめろおおおおお!!!!」

 

轟音。

 

赤い炎が世界を飲み込む。

 

 

次の瞬間。

 

ハンターは跡形もなく消えていた。

 

静寂。

 

ユリだけが笑う。

 

「……すごい。」

 

「綺麗ね。」

 

レイカは息を切らす。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

「ん?」

 

「傷が。」

 

ユリは自分の腕を見る。

 

傷は消えていた。

 

「そう。」

 

「私、多分不老不死なの。」

 

「あと。」

 

「あなたもでしょ?」

 

レイカは苦笑した。

 

「……わかるもんなんだな。」

 

ユリは小さく笑う。

 

 

「あなたも私も。」

 

「死にたくても死ねない。」

 

「生き地獄。」

 

「だったら。」

 

「一人より二人がいいじゃない?」

 

 

レイカは目を閉じる。

 

「……そんな風に言われたら。」

 

「断れない。」

 

ユリは手を差し出した。

 

「私はユリ。」

 

「あなたは?」

 

「……レイカ。」

 

「末永くよろしくね?」

 

「……おう。」

 

二人は初めて笑った。

 

 

 

-血塗られた旅-

 

 

 

レイカは静かに話を続ける。

 

「そこからの旅は苦しいものばかりだった。」

 

「力が制御できるようになるまでは。」

 

「どこへ行っても化け物扱い。」

 

「怪物を倒しても。」

 

「最後は俺たちへ武器を向けられた。」

 

「感情が爆発して。」

 

「炎が村を焼き払ったこともある。」

 

ユリも苦笑する。

 

「私の力じゃ止められなかった。」

 

「声をかけ続けて。」

 

「やっと止まる。」

 

「その繰り返し。」

 

「私も燃やされそうになったしね。」

 

「怖かった。」

 

レイカは肩をすくめる。

 

「その頃についた通り名が。」

 

「ツインブラッド。」

 

「二人がいる場所には血が滴る。」

 

「そんな意味らしい。」

 

「恥ずかしい話だ。」

 

「感情なんて、とっくに死んでた。」

 

ユリは続ける。

 

「このままじゃ駄目。」

 

「そう思って。」

 

「一度別々に旅をしたの。」

 

「どうしたいか考えようって。」

 

「何十年後でも。」

 

「最初に出会った場所で待ち合わせ。」

 

 

レイカは静かに笑う。

 

「偶然。」

 

「同じ日に戻った。」

 

「そこからまた旅を始めた。」

 

「その前にな。」

 

「数百人のハンターに囲まれていた時。」

 

「スパムに拾われた。」

 

「だから最初から信用なんてしてない。」

 

「いつ抜け出すか考えてた。」

 

「その時。」

 

「ウインナー。」

 

「お前に出会った。」

 

「人といる心地良さを知った。」

 

「だから。」

 

「逃げた後は人と向き合う旅をした。」

 

ユリは微笑む。

 

「……結果。」

 

「無愛想だけど優しい人の完成。」

 

レイカは即座に返す。

 

「無愛想は余計だ。」

 

ユリは笑った。

 

「私は私で旅をして。」

 

「また待ち合わせ場所へ向かった。」

 

「そしたら。」

 

「同じタイミングでレイカが来た。」

 

「そこから今までずっと一緒。」

 

「そんな感じかな。」

 

 

 

レイカ達が話し終え、

 

二人を見る。

 

そして思わず苦笑した。

 

「……って、おいおい。」

 

ウインナーとドロップは、

 

涙を止めることができなかった。

 

ウインナーは震える声で言う。

 

 

「絶対。」

 

「絶対しんどかった。」

 

 

ドロップも涙を拭いながら頷く。

 

 

「苦しかったよね。」

 

「生きてて。」

 

「出会えて良かった。」

 

 

ウインナーはレイカを真っ直ぐ見る。

 

 

「怖くなんかない。」

 

「レイカは。」

 

「昔から、とっても優しい人だ。」

 

 

ユリも静かに笑う。

 

レイカは照れ隠しのように空を見上げた。

 

何百年ぶりだろうか。

 

こんなにも温かい言葉を向けられたのは。

 

夕暮れの風が四人の間を静かに通り抜ける。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。