―賑やかな街と、それぞれの想い―
翌朝。
朝日を浴びた気球船は、
ゆっくりと街へ降り立った。
石畳の道。
並ぶ露店。
行き交う人々の笑い声。
旅人や商人で賑わうその街を見た瞬間、
ドロップは目を輝かせた。
「わぁーーっ!!」
「街だぁ!!」
「久しぶりだぁー!!」
勢いよく走り出そうとするドロップを、
ウインナーが慌てて止める。
「待って待って!」
「迷子になるよ!」
その様子を少し離れた場所で見ていたユリが、小さく呟いた。
「……街は、久しぶり。」
本当に小さな声だった。
しかし、その言葉は隣にいたレイカには届いていた。
レイカは煙草をくわえながら横目で見る。
「……歩いてみるか?」
ユリは少し驚き、そして穏やかに微笑んだ。
「うん。」
その笑顔を見たレイカも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「せっかくだし、三手に分かれて買い物しよう!」
ウインナーが地図を広げながら提案する。
「その方が早いしね。」
ダイフクーが腕を組む。
「いいな!」
シャーベットも頷いた。
「効率的だ。」
こうして、
ウインナーとドロップ。
レイカとユリ。
ダイフクーとシャーベット。
三組に分かれて街を歩き始めた。
ーウインナーとドロップー
「あっ!」
「これ可愛い!」
「あれも美味しそう!」
「あっちも見たい!」
ドロップは露店を見つけるたびに走っていく。
ウインナーは苦笑しながら後を追う。
「ドロップ!」
「そんなに買えないって!」
「えぇー!」
口を尖らせるドロップ。
それでも次の店を見つけると、
すぐ笑顔になってしまう。
それを見て困りつつ微笑むウインナー。
そんな中。
アクセサリー屋の前で、ドロップの足が止まった。
綺麗な髪飾り。
淡い水色の宝石が付いた、小さな花の飾りだった。
「……。」
ドロップはじっと見つめる。
でも。
何も言わず、そのまま歩き出した。
ウインナーはその横顔を見ていた。
そして何も言わずに店へ戻る。
「……これ、一つください。」
店主は笑顔で包んでくれた。
小さな袋をポケットへしまい、
何事もなかったように歩き出した。
ーレイカとユリー
市場を静かに歩く二人。
周りは賑やかなのに、
二人だけ別の時間が流れているようだった。
ユリは店先の小物や果物を見て、小さく笑う。
その姿を見たレイカが尋ねる。
「そんなに嬉しいか?」
ユリはゆっくり頷いた。
「……平和な街は、何十年ぶりだから。」
その言葉に、レイカは黙る。
何十年。
普通の人間なら生きていない年月。
けれど二人にとっては、
過ぎ去った時間に過ぎない。
レイカは静かに笑った。
「そうか。」
「みんなが好きそうな物でも探すか。」
「うん。」
ユリは嬉しそうに微笑んだ。
レイカも微笑み返す。
二人は露店を巡っていった。
ーダイフクーとシャーベットー
「おっ!」
「変な形の宝箱があるぞ。」
「買おうぜ!」
「待て。」
シャーベットは冷静に首を振る。
「必要ないだろう。」
「禁貨があるかもしれねえぞ?」
「うむ…。」
二人は謎の木彫り。
変な仮面。
用途不明の置物。
気付けば大量に抱えていた。
「ダイフク―。買いすぎだ。」
「お前も買ったじゃねぇか!」
「購買意欲には勝てん。」
二人は満足そうに帰っていった。
ー夕暮れの帰り道ー
西日が街並みを橙色に染めていた。
買い物を終えたウインナーとドロップは、
気球船へ向かってゆっくり歩いていた。
両手いっぱいの荷物を抱えたドロップは、
満足そうに笑っている。
「今日は楽しかったね!」
「街ってやっぱりいいなぁ。」
ウインナーも笑って頷いた。
「そうだね。」
「みんなも喜びそう。」
しばらく歩いたあと、
ウインナーは少しだけ足を止めた。
ポケットに手を入れる。
小さな包みを取り出し、ドロップへ差し出した。
「ドロップ。」
「これ。」
「え?」
ドロップは首を傾げる。
「さっき見てたでしょ?」
「髪飾り。」
その言葉に、ドロップは目を丸くした。
「えっ……。」
「何で、欲しいってわかったの?」
ウインナーは少し照れくさそうに笑う。
「……なんとなく。」
「似合うと思って。」
その一言だけだった。
ドロップは包みをゆっくり開ける。
中には、水色の花を模した小さな髪飾りが入っていた。
夕日に照らされて、きらりと輝く。
「……かわいい。」
その声は、とても小さかった。
ドロップは嬉しそうに胸へ抱きしめる。
「ありがとう!」
満面の笑み。
その笑顔を見たウインナーは、
少しだけ顔を赤くして視線を逸らした。
「どういたしまして。」
照れ隠しのように前を歩き出す。
その背中を見ながら、
ドロップはそっと髪飾りを髪につけた。
風が優しく吹く。
リボンと髪飾りが揺れた。
ウインナーは振り返る。
その姿を見て、小さく笑った。
「うん。」
「やっぱり似合ってる。」
ドロップも照れくさそうに笑う。
「ふふっ。ありがと!」
夕焼け空の下。
二人の間を、優しい風が吹き抜けていった。
ー夕暮れー
気球船へ戻ると、ドロップが悲鳴を上げた。
「ちょっとー!!」
「何買ってきたの!?」
ダイフクーが笑う。
「すごいだろ!この壺!この柄!」
シャーベットも真顔で頷く。
「価値は不明だ。」
ドロップは頭を抱えた。
「もう!いらないわよ!しかもたくさん!」
気球船に笑い声が響いた。
夕食はウインナーとダイフクーが担当。
鍋からいい匂いが立ち上る。
その横では、ユリとドロップが並んで座っていた。
「あのね、ユリさん。」
「最近ね。」
ドロップが少し俯く。
「子供の頃から好きだった人が、結婚しちゃったんだ。」
「ふと、後悔するの。」
「あの時に気持ちを伝えればって。」
「大人になるって夢を待たずにね……。」
「これからが、不安ではあるの。」
「私が好きだなって思える人。」
「私のそばに居てくれる人とか居るのかなって。」
ユリは静かに聞いていた。
そして優しく微笑む。
「案外ね。」
「想ってくれる人って、近くにいるものよ。」
「気付かないだけでね。」
ドロップは目を丸くした。
「そうなのかな?」
「うん。」
「きっと。」
その穏やかな笑顔を、
少し離れた場所からレイカが見ていた。
ふっと表情が柔らかくなる。
そして聞こえないの声で、
「……そうだな。」
煙草の煙が、上空に紛れていった。
ー夜ー
街外れの草原。
月明かりだけが二人を照らしていた。
ウインナーとレイカが向かい合う。
「来い。」
レイカの声と同時に、
ウインナーが風を纏う。
しかし。
一歩。
二歩。
踏み込んだ瞬間には、レイカの姿は消えていた。
「後ろ。」
「!」
振り返る。
もう遅い。
軽く肩を叩かれ、体勢を崩す。
「風に頼りすぎだ。」
レイカは煙草を吸いながら言う。
「お前、風を友達って言ってたよな。」
ウインナーは頷く。
「うん。」
「なら、ずっと頼るな。」
「友達なら。」
「必要な時だけ背中を押してもらうといい。」
「見てろ。」
レイカの周りに風が吹き抜けるように、
足元に集まっていく。
瞬間。
ウインナーがいる所より、
はるか遠くへ移動していた。
「…すごい。」
「レイカも風がそばにいるんだね。」
「あの時以来な。」
「といっても、多少しか使えん。」
「…そうなんだね。」
「ずっと一緒を意識しすぎるな。」
「ここだ。」
「そう思った瞬間だけ風を乗せる。」
「やってみろ。」
ウインナーは目を閉じる。
風を感じる。
そして。
踏み込む。
その瞬間だけ風が背中を押した。
今までより速い。
「……!」
自分でも驚く。
レイカは小さく笑った。
「その感覚だ。」
「忘れるな。」
夜風が二人の間を通り抜ける。
その風はどこか嬉しそうに、
静かに空へ舞い上がっていった。