-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第三十二章

 

 

 

-三つの扉-

 

 

 

-風の紋章-

 

 

 

暗闇の中を、三人はゆっくりと降りていった。

 

ウインナーとブリトーの風が重なり合い、

 

落下の勢いを殺していく。

 

その中心で、シャーベットは壁を見上げていた。

 

「……すごい。」

 

「今、それ言う?」

 

ウインナーが苦笑する。

 

ブリトーも風を操りながら眉をひそめた。

 

「落ちている最中だよ。」

 

しかしシャーベットの目は輝いていた。

 

「この縦穴、ただの落とし穴じゃない。」

 

「壁一面が記録だ。」

 

三人の周囲を流れていく壁には、

 

びっしりと古代文字が刻まれていた。

 

まるで、遺跡の深部へ落ちる者へ、

 

何かを語りかけているように。

 

ウインナーは風を操りながら、その文字を追う。

 

「……風、炎、氷。」

 

「三つの加護?」

 

ブリトーが腕輪を握る。

 

「三柱の加護……か。」

 

やがて三人の身体は、広い石床の上へふわりと降り立った。

 

「助かった……。」

 

ウインナーが息を吐く。

 

シャーベットはすぐに壁へ近づいた。

 

「ここから先は、風の紋章の道らしい。」

 

目の前には、大きな石扉。

 

中央には渦を巻く風の紋章が刻まれていた。

 

ブリトーが扉へ手を伸ばす。

 

「僕たちの道、ということか。」

 

ウインナーも頷く。

 

「開けよう。」

 

二人が風を流し込むと、扉の紋章が淡く光る。

 

重い音を立てて、石扉が開いた。

 

その先には、細い通路が続いていた。

 

壁にはまた古代文字。

 

そして奥から、低い音が響く。

 

ゴゴゴゴ……。

 

石でできたゴーレムが、ゆっくりと姿を現した。

 

胸元には、風の紋章。

 

シャーベットが叫ぶ。

 

「おそらく紋章が核になっているはずだ!」

 

ブリトーが一歩前へ出る。

 

「分かった。」

 

ウインナーも構える。

 

「風で体制を崩す。」

 

二人の風が走る。

 

ウインナーが正面からゴーレムの動きを止め、

 

ブリトーが横へ回り込む。

 

「ウィンディ・ターミネーション!」

 

風が掌に集まり、胸の紋章へ叩き込まれた。

 

ゴーレムは大きく揺れ、石の身体を崩して沈黙する。

 

シャーベットは崩れた石片を見つめながら呟いた。

 

「この遺跡、ただ守っているわけじゃない。」

 

ブリトーは静かに腕輪へ触れた。

 

「進もう。」

 

「きっと、奥に答えがある。」

 

三人は風の道を進んでいった。

 

 

 

-焦げた炎の扉-

 

 

 

一方、レイカとダイフクーは、

 

別の場所へ降り立っていた。

 

落下の寸前、レイカの風の加護が、

 

二人を包み込んだおかげで、

 

衝撃はほとんどなかった。

 

ダイフクーはレイカの腕を掴んだまま、

 

目を丸くしていた。

 

「助かったぜ……。」

 

レイカは眉を寄せる。

 

「いつまで掴んでる。」

 

「あ、悪い。」

 

ダイフクーが慌てて手を離す。

 

周囲は暗く、湿った空気が漂っていた。

 

少し進むと、二人の前に巨大な扉が現れる。

 

そこには炎の紋章が刻まれていた。

 

だが、その扉は異様だった。

 

紋章の周囲が黒く焦げ、

 

ところどころ腐敗したように崩れている。

 

まるで、長い年月をかけて燃え尽きたというより、

 

何かに蝕まれたような姿だった。

 

ダイフクーが眉をひそめる。

 

「なんだこれ。」

 

「炎の扉って感じじゃねぇな。」

 

レイカは黙って扉へ近づく。

 

胸の奥が、嫌な熱を持つ。

 

「……焦げてる。」

 

「けど、俺の炎じゃない。」

 

「わかるのか?」

 

「ああ。」

 

「俺の炎はここまで卑屈じゃない。」

 

ダイフクーは息を呑む。

 

「……炎にも色々あるんだな。」

 

レイカは答えなかった。

 

ただ扉へ手を触れる。

 

瞬間、炎の紋章が鈍く光った。

 

重い音と共に、扉が開く。

 

中へ入ると、そこは巨大な石造りの通路だった。

 

左右の壁には、朽ちた武器。

 

折れた槍。

 

錆びた剣。

 

そして、退魔の紋章が刻まれた古代武器が並んでいた。

 

レイカの表情がわずかに変わる。

 

「……趣味が悪いな。」

 

ダイフクーは隣を見る。

 

「嫌なもんなのか?」

 

「俺にはな。」

 

「この手の武器は、よく刺さる。」

 

軽く言うその声に、冗談の色はなかった。

 

その時、奥から数体のゴーレムが現れた。

 

炎の紋章を背負った石像。

 

だが、その身体も黒く腐敗している。

 

「敵か!」

 

ダイフクーが拳を構える。

 

レイカは刀を抜かない。

 

「身体を動かすにはちょうどいい。」

 

二人は同時に踏み込んだ。

 

ダイフクーの拳がゴーレムの腕を砕き、

 

レイカの蹴りが膝を折る。

 

レイカは炎を使わず、

 

体術だけでゴーレムの核を正確に砕いていく。

 

ダイフクーも笑った。

 

「やっぱりお前、化け物みたいに強いな!」

 

「騒がしい。」

 

「褒めてるんだぜ?」

 

「知ってる。」

 

二人は互いに背中を預けながら、

 

次々とゴーレムを倒していった。

 

最後の一体が崩れ落ちる。

 

レイカは奥へ続く道を見つめた。

 

「この先に、何かある。」

 

ダイフクーは拳を鳴らす。

 

「行こうぜ。」

 

「ああ。」

 

二人は焦げた炎の道を進んだ。

 

 

 

-雪の紋章-

 

 

 

ユリとドロップは、

 

滑り台のような長い斜面を落ちていた。

 

「きゃあああ!」

 

「ドロップ、掴まって!」

 

「ユリさん!」

 

二人は転がるように滑り落ち、

 

やがて柔らかい苔の上へ投げ出された。

 

ぽすん。

 

「いたた……。」

 

ドロップが身体を起こす。

 

ユリも周囲を確認した。

 

「怪我は?」

 

「ないみたい。」

 

「良かった。」

 

二人が顔を上げると、そこには白い石でできた扉があった。

 

中央には、雪の結晶のような紋章。

 

ユリの表情が固まる。

 

「……。」

 

ドロップがそれに気づく。

 

「ユリさん?」

 

ユリは静かに扉へ近づいた。

 

「これは。」

 

「雪女の一族の紋章。」

 

「…氷の加護の紋章だったのね。」

 

ドロップは息を呑む。

 

「ユリさんの……?」

 

ユリは頷く。

 

「ええ。」

 

「私の故郷にあったものと同じ。」

 

その手が扉へ触れる。

 

冷たい光が走り、扉が音もなく開いた。

 

中は、他の通路とは全く違っていた。

 

そこは遺跡というより、研究施設だった。

 

 

石の机。

 

古びた書物。

 

割れた試験管。

 

壁に貼られた図面。

 

そして、雪女の村について書かれた記録。

 

ユリは一冊の資料を手に取った。

 

文字を追ううちに、顔色が変わっていく。

 

「……これは。」

 

ドロップが近づく。

 

「何が書いてあるの?」

 

ユリは震える声で呟いた。

 

「私が住んでいた村のこと。」

 

「雪女の血を持つ者たちの集落。」

 

「高い再生能力と、雪の加護を持つ一族。」

 

さらに読み進める。

 

その次の一文を見た瞬間、

 

ユリの呼吸が止まった。

 

『実験体へ改造した炎の加護を植え付けた少年により。」

 

「雪女の村は壊滅。』

 

ユリの手が震える。

 

「……え。」

 

「改造した炎の加護を植え付けた少年……?」

 

脳裏に浮かぶ。

 

黒髪の少年。

 

制御できない炎。

 

燃える村。

 

出会ったばかりの、傷だらけのレイカ。

 

「レイカ……なの?」

 

「え……?」

 

ドロップが不安そうに声をかける。

 

「ユリさん?」

 

ユリは資料を閉じた。

 

息を整える。

 

今ここで崩れてはいけない。

 

今は脱出が先。

 

この遺跡から出て、確かめなければならない。

 

「なんでもない。」

 

「奥の扉へ向かおう。」

 

ドロップは納得していない顔をしていた。

 

けれど、ユリの声が少し震えていることに気づき、

 

それ以上は聞かなかった。

 

「……うん。」

 

二人は研究施設の奥へ進んだ。

 

ユリの胸の中で、長く凍っていた過去が、

 

静かに音を立て始めていた。

 

 

 

-三柱の道-

 

 

 

風の紋章の道。

 

炎の紋章の道。

 

雪の紋章の道。

 

三つの道を、それぞれのチームが進んでいく。

 

ウインナー、ブリトー、シャーベットは、

 

風の扉を抜けた先で古代文字の解読を続けていた。

 

 

『風は導き。失われし魂を運ぶもの。』

 

 

シャーベットが眉を寄せる。

 

「風は移動や救済の象徴として扱われている。」

 

「ブリトーの腕輪とも関係があるかもしれない。」

 

ブリトーは腕輪を見る。

 

「失われし魂……。」

 

ウインナーは静かに風へ耳を澄ませる。

 

「この先から、風が呼んでる。」

 

 

 

レイカとダイフクーは、

 

炎の道を進んでいた。

 

壁に刻まれた古代文字は、

 

ところどころ焼け落ちている。

 

だが、残った文字だけでも意味は読み取れた。

 

 

『炎は破壊。されど再生の始まり。』

 

 

ダイフクーが首を傾げる。

 

「破壊と再生か。」

 

「なんか重いな。」

 

レイカは焦げた壁を見つめる。

 

「炎は使い方次第だ。」

 

「全部燃やすこともできる。」

 

「暖めることもできる。」

 

ダイフクーは笑う。

 

「今のお前は後者だな。」

 

レイカは少しだけ黙る。

 

「……そうありたいとは思ってる。」

 

 

 

ユリとドロップは、

 

雪の道を進んでいた。

 

研究施設を抜けた先には、

 

長い白い回廊が続いている。

 

壁には雪の紋章。

 

そして古代文字。

 

 

『雪は鎮めるもの。暴走せし力を眠らせるもの。』

 

 

ドロップはそっとユリを見る。

 

「ユリさん、大丈夫?」

 

ユリは少しだけ笑った。

 

「大丈夫。」

 

「今はね。」

 

ドロップは黙って隣を歩いた。

 

聞かない優しさもある。

 

今のドロップには、それが分かっていた。

 

 

 

やがて。

 

三つの道は、同じ場所へ繋がっていく。

 

「おお!やっと会えたぜ!」

 

「みんな無事だったのね!」

 

「……ユリ?どうした?」

 

「なんでもない。先へ行こう。」

 

深淵。

 

巨大な地下空間。

 

中央には、古代の研究装置のようなものが並んでいた。

 

青白い光を放つ水晶。

 

巨大な器具。

 

壁一面に刻まれた記録。

 

そして。

 

その中央に、一人の男が立っていた。

 

白衣のような衣をまとい、長い髪を後ろで束ねている。

 

その背中を見た瞬間。

 

レイカの身体が硬直した。

 

ありえない。

 

いるはずがない。

 

死んだはずの男。

 

自分をこの身体にした男。

 

レイカの声が、震えた。

 

「……は?」

 

男がゆっくり振り返る。

 

その顔を見た瞬間、レイカの瞳が見開かれる。

 

「なんで……。」

 

「お前が、生きて……?」

 

その言葉に、男は静かに微笑んだ。

 

まるで、ずっとこの時を待っていたかのように。

 

深淵の空気が凍りつく。

 

古代の研究施設。

 

三柱の加護。

 

そして、レイカの父親。

 

全ての因縁が、今、ひとつの場所で交わろうとしていた。

 

 

 

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