-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第三十四章

 

 

 

-未来予測-

 

 

 

-未来を見続けた男-

 

 

 

深淵の研究室に、青い炎の残滓が揺れていた。

 

広間の中央には、眠るように倒れた少年。

 

そのそばに立つレイカは、満身創痍だった。

 

右半身には痺れが残り、

 

肩からは血が流れている。

 

それでも、藍色の瞳は、

 

父親――マゼンタを睨み据えていた。

 

マゼンタは、静かに拍手をした。

 

「素晴らしい。」

 

「やはり、お前は私の最高傑作だ。」

 

レイカは刀を握り直す。

 

「黙れ。」

 

マゼンタは愉快そうに笑う。

 

「お前は私を殺れると思うのか?」

 

その一言に、空気が変わった。

 

「何故、ここに三柱の加護の扉があると思う?」

 

シャーベットが息を呑む。

 

「……まさか。」

 

「全部の加護を取り込んでいるのか!?」

 

マゼンタは満足げに頷いた。

 

「正解だ。」

 

「研究とは積み重ねだよ。」

 

「長い時間をかければ、不可能も少しずつ可能になる。」

 

「完全とは言えないが。」

 

「満身創痍のお前には十分だ。」

 

レイカの殺気が濃くなる。

 

マゼンタは倒れている少年へ視線を向けた。

 

「少年には、すこーし期待していたがな。」

 

 

「…失敗作だった。」

 

 

その瞬間。

 

二つの声が重なった。

 

 

「「取り消せ!!」」

 

 

レイカとウインナーが同時に踏み込む。

 

感情のままに。

 

怒りのままに。

 

拳がマゼンタへ届く直前。

 

マゼンタの姿が消えた。

 

次の瞬間、彼は奥の広間に立っていた。

 

「気が多いな。」

 

「まあいい。」

 

「親子喧嘩だ。」

 

「みんなでまとめてかかっておいで。」

 

マゼンタが微笑む。

 

その直後、

 

空間全体を押し潰すような殺気が広がった。

 

 

「この殺気に耐えられるならね。」

 

 

全員の身体が重くなる。

 

呼吸が浅くなる。

 

レイカは血を流しながらも、

 

マゼンタから目を逸らさない。

 

「……ぐっ。」

 

膝が揺れる。

 

その背中を、ユリが支えた。

 

「レイカ。」

 

「落ち着きなさい。」

 

「一旦、怪我を治す。」

 

レイカは歯を食いしばる。

 

「そんな暇はない!!……っ!」

 

「静かに。」

 

ユリの声は、いつもより強かった。

 

「……後で聞きたいことがあるから。」

 

「絶対、みんなで帰ろう。」

 

レイカは何も言えなかった。

 

 

 

-全員VSマゼンタ-

 

 

 

「命を弄ぶなんて。」

 

「絶対に許せない。」

 

最初に動いたのは、

 

ウインナーとブリトーだった。

 

「ブリトー!」

 

「分かってる!」

 

二人の風が重なる。

 

左右から挟み込むように疾走し、

 

マゼンタへ迫る。

 

ウインナーは風を纏い、

 

足元を滑るように加速する。

 

ブリトーは腕を掲げ、

 

風の刃を散らした。

 

「風のエチュード!」

 

「ウィンディ・コンビネーション!」

 

二つの風が交差する。

 

だが、マゼンタは軽く手を振っただけだった。

 

風が、歪む。

 

まるで道を変えられたように、

 

二人の攻撃は横へ逸らされた。

 

「良い風だ。」

 

「だが、使い方が素直すぎる。」

 

そこへダイフクーが突っ込む。

 

「だったら力押しだ!!」

 

拳が唸る。

 

マゼンタの顔面へ迫る。

 

しかし、拳は空を切った。

 

「遅い。」

 

次の瞬間、ダイフクーの腹部へ衝撃が走る。

 

「ぐっ……!」

 

それでも踏みとどまる。

 

「へっ……効いてねぇよ!」

 

背後からシャーベットが飛び込んだ。

 

「ラクトアウト!!」

 

修行で磨いた体術。

 

無駄のない蹴りが、マゼンタの足元を狙う。

 

氷が足元にまとわりつく。

 

マゼンタはわずかに眉を上げる。

 

「君は頭脳型だと思っていたが。」

 

シャーベットは冷静に返す。

 

「思い込みは危険だ。」

 

ダイフクーとシャーベットの連携。

 

そこへウインナーとブリトーの風が重なる。

 

確かに、以前より強くなっている。

 

それでも。

 

マゼンタは溜息をついた。

 

「時間の無駄だな。」

 

「君たちじゃ話にならない。」

 

右手を軽く上げる。

 

 

「吹き飛べ。」

 

 

瞬間。

 

凄まじい風が発生した。

 

ウインナーの風とは違う。

 

優しさも、意思もない。

 

ただ押し潰し、排除するためだけの風。

 

全員が壁へ叩きつけられた。

 

「がはっ!」

 

「くっ……!」

 

「うわあっ!」

 

石壁が砕け、床に砂煙が舞う。

 

マゼンタは、その中を何事もなかったように歩いていく。

 

向かう先は、ユリに治療されているレイカ。

 

治療はまだ終わっていない。

 

レイカは立とうとするが、右半身が思うように動かない。

 

その前へ、ユリが立った。

 

「待ちなさい。」

 

マゼンタは足を止める。

 

「君がガールフレンドかい?」

 

「なんて複雑なんだ。」

 

「興味深い。」

 

ユリは黙って睨む。

 

マゼンタは笑みを深めた。

 

 

「愛する彼が。」

 

「君の故郷を滅ぼし、家族を殺した。」

 

「それを知っている上での行動かい?」

 

 

倒れていた仲間たちが、息を呑む。

 

ドロップの表情が青ざめる。

 

ウインナーも目を見開いた。

 

レイカの瞳から、力が抜ける。

 

 

「……は?」

 

「…………俺が。」

 

 

声が震える。

 

 

「俺が、大切なものを壊していたのか。」

 

 

ゆっくりと、ユリを見る。

 

「ユリ。」

 

「知っていたのか?」

 

ユリは静かに答えた。

 

「……私も、さっき知ったの。」

 

「話したかったのは、そのこと。」

 

レイカの顔が歪む。

 

「……すまない。」

 

「……すまないっ。」

 

刀を握る手から力が抜ける。

 

青い炎が揺らぎ、消えかけた。

 

 

 

-雪女の真実-

 

 

 

ユリはマゼンタを睨みつけた。

 

「父親のくせに、そんな弱いところを突くのね。」

 

「最低。」

 

マゼンタは悪びれもしない。

 

「これも戦略だよ?」

 

「だが、君には効き目がないみたいだ。」

 

「何故だ?」

 

ユリは迷わず答えた。

 

「私が知っているのは、出会ってからの彼。」

 

「私が知るレイカは、とても優しい。」

 

「不器用だけどね。」

 

レイカは俯いたまま動けない。

 

ユリは続ける。

 

「あなたが意図的に仕組んだことでしょう。」

 

「レイカは悪くない。」

 

マゼンタは小さく首を傾げた。

 

「ふむ。」

 

「それは本当にそう思っているのかい?」

 

「ええ。」

 

「のわりには、動揺が隠せていないね?」

 

「……っ!」

 

「そういうところだよ。」

 

「氷よ、貫け。」

 

 

次の瞬間。

 

ユリの腹部に、穴が空いた。

 

先からは氷の一角が見える。

 

音もなかった。

 

予兆もなかった。

 

ただ、そこに結果だけがあった。

 

「……っ!」

 

ユリの身体が揺れる。

 

血が足元へ落ちる。

 

レイカの時間が止まった。

 

「…………ユリ。」

 

次の瞬間、叫びが深淵を裂いた。

 

 

「ユリィ!!!!」

 

 

ユリはその場に崩れ落ちる。

 

「ガハッ……!」

 

ドロップが悲鳴を上げる。

 

「ユリさん!!」

 

ウインナーが立ち上がろうとする。

 

ダイフクーも壁を押して体を起こす。

 

だが、誰も間に合わない。

 

マゼンタは恍惚とした表情で、

 

周囲を見渡した。

 

「素晴らしい。」

 

「炎の実験体。」

 

「雪女の血。」

 

「風の加護。」

 

「異なる時代から来た者。」

 

「色んな素材が集まった。」

 

「これらを全部含めたら。」

 

「もっと偉大な存在に近づけるはずだ!」

 

「全員実験体になってもらうぞ。」

 

 

 

その時。

 

低く震える声が響いた。

 

「……人を。」

 

ブリトーだった。

 

壁に叩きつけられ、

 

額から血を流しながらも立ち上がっていた。

 

その瞳には、怒りがあった。

 

けれど、それ以上に強い意志があった。

 

「人を、舐めるな!!!」

 

風が爆ぜる。

 

ブリトーは一直線にユリへ向かった。

 

マゼンタが振り向く。

 

「何を――」

 

腕輪が灰色に輝いた。

 

「ウィンディ・ポタージュ!!!」

 

ブリトーの手が、ユリへ触れる。

 

 

瞬間。

 

ブリトーとユリの身体が霞に包まれた。

 

輪郭が揺らぎ、空間から消える。

 

マゼンタの目がわずかに細まった。

 

「……転移か!」

 

 

 

次の瞬間。

 

二人は、花畑の広間。

 

ガレットの前へ現れていた。

 

「うわあ!?」

 

ガレットが飛び上がる。

 

「ブリトー!?」

 

「何故!?」

 

ブリトーは息を荒げながら叫んだ。

 

「後で説明する!!」

 

「ウィンディ・ラビィオリ!!」

 

腕輪が水色に輝く。

 

大量の水がユリを包み込んだ。

 

癒しの水。

 

けれど、傷は深い。

 

腹部を貫かれた致命傷。

 

ブリトーは震える手で力を込めた。

 

 

「……間に合え。」

 

「間に合ってくれ!!」

 

 

水が光を帯びる。

 

ガレットは状況を理解できないまま、

 

それでもすぐに蔦と花で簡易の寝台を作った。

 

「ここに寝かせて!」

 

ブリトーは頷く。

 

「頼む!」

 

ユリの顔は白い。

 

呼吸は浅い。

 

ブリトーは奥歯を噛み締めた。

 

「頼む……。」

 

「助かってくれ……。」

 

 

 

深淵では、ユリの消えた空間を見つめ、

 

マゼンタが静かに笑っていた。

 

 

 

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